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第十章 ルノールの混乱
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しおりを挟むふたりが真剣にこれからの課題について話し合っている頃、綾都は夢を見ていた。
どことも知れない場所でふわふわと漂っている。
『あれはなにかなあ? 神殿?』
とても大きい石造りの建築物がある。
ルクソールとか。
地球のそういう神殿が思い出された。
綾都は何故か、そういう歴史的建造物が好きで、特に神殿が好きだった。
だから、そういう系統の特集の番組がやっていれば、欠かさず観ていたし、歴史を題材にしたドラマや映画も頻繁に観ていた。
朝斗も綾都の好みは知っているので、綾都が寝込んでいるときなど、自ら進んでレンタルしてきてくれた。
綾都はスマホを持っていないし、家にはネット環境がなかったので尚更レンタルショップに頼ったのだ。
それは両親がひとり寝込みがちな綾都が、ネット環境が整うことで溺れて、眼まで悪くしたら忍びないという親心だったと聞いている。
それに付き合わされていた朝斗だが、文句も言わず綾都がまだ観たことのないドラマや映画を借りてきてくれた。
歴史物なら国籍関係なく。
兄の気遣いには感謝していたが、実は綾都は日本の時代劇より、海外の歴史物の方が好きだった。
何故かはわからないが、しっくりくるのだ。
日本の時代劇も嫌いではなかったし、特別忌避することもなかったが、それでも好むのは洋画だった。
一番好きだったのはクレオパトラとかの、紀元前とかがつきそうな古い時代の外国の映画だった。
エジプト、ローマ、バビロニア、ヒッタイト。
そういう古い時代を誇る国の映画を観ていると何故か落ち着けた。
後は神話関連。
特に兄には知らないフリしていたが、中国の神話とか宗教関連も好きだった。
だから、四神も当然知っている。
ただ兄は綾都が、そういう宗教関連に興味を持つのを嫌っていたから、堂々と勉強はできなかった。
その割に自分だけ勉強していたらしいと、四神の説明を受けたときに、内心で膨れていたが。
勉強が嫌いな綾都が唯一進んでやりたがった勉強。
それこそが歴史と宗教学だった。
目の前の威風堂々とした大建築物は、そんな綾都の興味をそそるには十分過ぎた。
ふわふわと漂ったまま中に入ろうとして、綾都は壁を通り抜けてしまった。
『ああ。そうか。幽体離脱。またやったんだ、ぼく』
綾都は自身が壁を通り抜けたことから、これは夢ではなく幽体離脱しているのだと理解した。
幽体になって魂だけが飛翔するのは、綾都には珍しい現象てはない。
またかと納得するほどには慣れていた。
兄に言えば心配するから言ったことはないが。
ただ離脱した状態を長く続けると、肉体の方が弱ってしまうので、なるべく早く戻らなければならない。
『取り敢えず先に進んでみようかな。目覚めるまでに出来るだけ内部を見ておきたいし。それにしても凄いなあ。こんなに大きな建築物初めてだよ』
興奮気味に呟きつつ、綾都はふわふわと漂っていく。
中にいる人々の格好は、やはり神官を思わせた。
ただ。
『もしかしてここルノール? なんかレスターが着ていた服と系統が似てる』
日本なら和装といった感じで、国や民族が違えば服装も変わってくる。
神官なので多少は違うが、服の系統はレスターの着ていた衣服によく似ていた。
どのくらい進んだだろう?
とても大きい広場らしき場所に出た。
祈祷場というのだろうか。
おそらく祈りを捧げるための場所だろう。
東西南北に火が灯されている。
おそらく聖火。
綾都は何気なく一番近い東の聖火を覗き込んだ。
誰かが寝ているような気がしたからだ。
そっと聖火を覗き込むと小人と言いたいほど、精霊よりも小さな誰かが寝ていた。
『火の中で寝てるなんて器用』
綾都の呟きに惹かれるように、聖火の中で寝ていた誰かが目を開けた。
『誰だ? 我の眠りを邪魔する者は』
『あ。ごめんなさい。起こした? そんなつもりはなかったんだけど』
開かれた青い瞳が、真っ直ぐに綾都を捉える。
そうしてその眼が驚愕に見開かれた。
『主神‼︎』
小さな小人が綾都に抱き付いてくる。
小人が飛び出しそうになったとき、聖火も消えそうになり、神官たちが騒いでいるのが見えた。
慌てて再び小人を聖火に戻す。
すると聖火は再び燃え出した。
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