上 下
3 / 15

恋する王太子

しおりを挟む
俺はエドヴァルド・オスカリウス
オスカリウス王国の王太子だ。
遡ること10年前、俺は1人の少女と出会った。
隣国ヴァルドネルの王宮に招かれたときのことだ。
可愛らしいと噂の双子姫のお披露目のため、夜会に招かれ出席することになった。
さして興味もなかったが、将来的にどちらかを妃に迎える可能性もあると父上に伺っていたので、顔くらいは見てやろうという軽い気持ちで出席したのだ。
お披露目もされてないのに可愛らしいと噂されるなど、不自然ではないか。
誰が見たんだ?
どう考えても嘘だろうと思っていた。

俺は貴賓として招かれているため、城内をあまり制限されることなく散策することができた。
夜会までの間暇を持て余していたので、庭苑を散策していたときのことだ。
薄汚い子供が2人目の端に映った。
王宮に貧民がいたのだ。
1人の騎士が話を聞いているようなのだが、何故追い出さないのか妙に気になった。
「おい、何故こんな所に薄汚い子供がいるんだ?」
「これはエドヴァルド様、申し訳ございません。
気になるようでしたらこの先にある庭苑を散策なさってください。」
カチンときた。
子供を移動させるのではなく、俺に移動しろと言ったのだ。
一介の騎士が王太子の俺より、薄汚い子供を優先するとは何事だと思った。
「貴様、どういうつもりだ?
この国では騎士の教育もまともにしていないのか?」
蔑ろにされたように感じて、つい棘のある言葉が出た。
王太子として甘やかされて育ったため、こんな扱いを受けたことなどなかったのだ。
「で、ですが……。」
「エドヴァルド様、大変失礼いたしました。
ですがこの国では弱き者を何より優先します。
王太子である貴方様より、国王よりです。」
少女の声が割って入ってきた。
騎士はあからさまにホッとした表情を浮かべている。
少女は医者を数名引き連れてきており、薄汚い子供を城内に運ばせるよう指示を出していた。
「何故そんな薄汚い子供が、俺より優先されなければならないんだ?」
言い訳にしかならないが、このとき俺はまだ10歳くらいの子供で、幼さゆえ世界を知らなさすぎたのだ。
少女はそれすら見透かしており、こう言ったのだ。
「彼らは戦地から生き延びてきた孤児です。
命からがら逃げてきたのでしょう。
助けを求めて城までたどり着きはしましたが、飢えで身体も限界だったのです。
貴方様は食事も充分取って体力もあり、しっかり歩けるではありませんか。」
「だ、だが俺は王族だぞ!」
同じ年頃の少女に言い負かされるのが悔しくて言い返したのだが、その瞬間少女の表情が冷え切ったのが分かった。
「身分が上の者に敬意を払い優遇するのは当然ですが、時と場合によります。
民を守るのが王族の務めです。
飢えて今にも死にそうな民より、自分を優先しろと仰る貴方様の一体何が偉いんですか?」
頭をガツンと殴られたような気持ちになった。
「王族は民のためにあれ」というのが父上の口癖だ。
父上は民のために政を日々頑張っておられるから偉いのだ。
少女が言っていることは正論だと思った。

後で知った話なのだがヴァルドネル王国に隣接している国では内乱で国中が荒れており、よくああいった亡命者が助けを求めにやってくるのだとか。
条約のために闘争にこそ手を貸すことはできないが、あの少女の願いを王が叶え、国境を超えて逃げてきた者を極秘に匿って助けているのだという。
彼女は民のために心を砕ける、心優しい少女なのだと思った。

少女は双子姫の片割れだった。
同じような金の髪で翠の瞳だったが、俺が会ったのは少し体型は細めで目のクリクリした愛らしい少女だ。
もう1人も可愛らしいが、ちょっとポッチャリめな切れ長の目の少女だった。
双子でもあまり似ていないんだな。
夜会で遠目に確認し、父上に話しかける。
「父上、双子姫のあの可愛らしい姫はなんという名前なのですか?」
間違いがないよう、指を指して尋ねる。
「ん?
確かマーシャだったかな?
気に入ったのか?」
「はい、父上。
今より沢山勉強をし立派な王族になったら、あの姫を妃に迎えたいです。」
外見も可愛らしいが、なにより民を思い遣るまっすぐな美しい心に魅かれた。
まずはあの瞬間地に堕ちた、俺の好感度を回復せねばならないだろう。
立派な王になるべく沢山勉強しよう。
そしてきっと彼女を妃にしてみせると、このとき俺は硬く心に誓ったのだった。


そして現在、俺なりに必死に努力をし、やっと父上に認めてもらえるようになった。
満を持してヴァルドネル国に結婚の申し入れをしたのだが、我が国に来たのはどんな行き違いがあったのかサーシャ姫だという。
サーシャ姫には大変申し訳ないが、俺が妃にしたいのはマーシャ姫だ。
どうしたものかと三日三晩悩みに悩んだ結果、政務を全て片付けて自ら彼女を迎えに行くことにした。
もう間違いなどあってはならない。
サーシャ姫は当面の間、幼馴染みであり臣下のアレクシスが丁重にもてなしてもらい、不足がないよう対応してもらうことになっている。
ともあれ、人違いであったことを詫びにいかねばなるまいな……。


その後エドヴァルドは、動揺のあまり3日もサーシャを放置してしまったことを、心の底から後悔することになるのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら乙ゲーのモブでした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,381

虹の瞳を継ぐ娘

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:864

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:281

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,039pt お気に入り:3,568

処理中です...