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第1章:病弱青年とある女冒険者編
第4話:平原の王女様
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しばらくすると、震えの収まったリズが我に返ったように飛びのいて、俺に言い放つ。
「ち、違うから!! い、今のは、ホントにただのお礼っていうか……誰にでもこんな事しないっていうか、何とも思ってない……とは言えなくもないけど、とにかく違うから!! そ、その……ぶつぶつ」
「分かってるって。ありがたく貰っておくよ、助けたお礼」
言い訳するようにまくし立てるリズを宥めながら、俺は着ていた上着を脱いで彼女に羽織らせた。
「え?」
「それじゃあ、その……服、破れちゃっただろ? これで隠しな。俺のだからデカいかもだけど、無いよりマシだろ」
「う、うん……」
リズは俺の上着をぎゅっと握り、照れ隠しなのか、後ろを向いて咳払いした。
「さてと、モンスターからは素材だったな。ゴブリンからは何が取れるんだ?」
気持ちを切り替えるために話しかけると、リズは少し調子を取り戻したように話し出す。
「簡素な防具なら簡単に引き裂く『ゴブリンの爪』と、たまにゴブリン独自の製法で作った『ゴブリンの布』を持ってることがあるわね」
「なるほど」
俺とリズは倒れたゴブリンから爪を引き剥がした。
「『ゴブリンの布』っていうのはコレか?」
俺はゴブリンがナニを隠している粗末な腰蓑を指差す。
「違うわ!!」
リズは力強く否定した。
「おっ……持ってた♪ ラッキーね……レオ、コレよ、コレ」
ゴブリンが腰に下げていた小袋の中から真っ白な布を取り出し、見せてくれる。
細かい網目状の布で、ちょうどハンドタオルくらいの大きさだろうか。
丁寧な作りが見て取れる。
「ゴブリンのくせに、結構綺麗な布だな」
「製法はよく分かってないみたいなの。ゴブリンは細かい作業が得意だとは聞いているけど、誰もコレが作られている所を見たことがないのよ」
リズが怪談でも話すように、ニタリとした笑みを浮かべて教えてくれた。
「さて、じゃあ、今度こそ町に帰りましょうか。と言っても、すぐ近くだけどね」
「ああ、案内頼む」
俺とリズは町に向かって歩き出す。
そうして五分ほど歩いていると、大きな壁が見えてきた。
町の周りは堀になっていて、さっき俺が顔を確認した小川が繋がっているようだ。
「見えたわ。あれが田舎町『ルクシア』よ」
正門に繋がる橋には様々な格好の人々が行き交っている。
商人、農夫、剣士に騎士、獣人、エルフ、侍みたいな甲冑を着けた人もいた。
幅は広いものの、行き交う人々に共通して言えるのは、いかにもファンタジー世界という恰好だ。
橋を渡り、門をくぐった先の街並みは、木材やレンガ造りのヨーロッパのような建物が並んでいる。
物珍しさにキョロキョロしながら橋を渡っていると、リズが悪戯っぽい笑みで囁いてきた。
「にひひ、異界人には珍しいものばかりかな? そうだ、町に出る前に、私が泊まっている宿に行って着替えてもいいかな? ……服、ボロボロで色々見えちゃってるから♪」
「ど、どどど、どうぞどうぞ」
さっき鼻の下を伸ばしていたことで、女の子にあまり免疫が無いのはバレているらしい。
仕方ないじゃん。前いた世界では病弱で、恋人はもちろん友達とも遊びになんて行ったことなかったんだし。
大通りを少し行くと、宿屋が見える。
木造で、ある程度建ってから年月が経っているであろう味のある見た目だ。
「おばちゃーん、ただいまー!」
リズが元気よく中に入っていく。
俺も続いて、扉をくぐった。
「おや、リズちゃん。早いご帰宅だね……あれ? どうしたんだい? その恰好。ぶかぶかの羽織なんて着て」
「魔物に服破られちゃって、この人に助けられて上着を貸してもらってるの」
リズの言葉を聞いて、隣で立っている俺に目をやる恰幅の良い女将さん。
「あらま、そうだったのかい。旅人さんかね? ウチのお得意様を助けて頂いてありがとうねえ!」
「いや、俺……実は異界人で、なんにも分からないところを助けてもらってるのは俺の方で……」
「そうだったのかい! あんた、異界人かい!! はっはっは、そりゃあ大変だね。困ったことがあれば何でも言いなね」
裏の無さそうな元気で明るい女将さん。
なるほど。他にも良さそうな宿がチラホラあった中で、リズがここを選んでいる理由が分かった気がした。
「着替えてきたわよ! さあ、素材換金とギルド登録に行きましょ! 宿はここに泊まるわよね?」
新しい服に着替えて、元気を取り戻したリズが、上目遣いで俺に尋ねてくる。
「お、おう。といってもお金が無いから、換金額次第だな」
「はっはっは、大丈夫よ。ウチは安宿だから、きっと泊まれるさ。早く行っておいで」
「うん、行こ! レオ!」
女将さんが笑いながら背中を押してくれる。
リズに手を引かれながら、町に繰りだした。
「あ、あの、り、リズさん。手、何で繋いでるの?」
「は、はぐれたらダメでしょ? ルクシアの町、広いし……」
どうもさっきから、リズの距離感が近い。
仲間になって、ゴブリンから助けて、上着を貸しただけ……なんだが。
手を離す気は無いようなので、そのまま大通りを歩く。
そうこうしていると、町の中心部に来たようだ。
大きな噴水のそばに『冒険者ギルド』の看板を見つける。
「あそこがギルドか?」
「そうよ! 早くさっき倒した魔物の素材を換金してもらおう! あたしもフィールドで採集したアイテムを換金したいし、依頼完了報告もしなきゃいけないし!」
俺の手をグイグイ引っ張って、ギルドに入る。
すると、ギルドに併設されていた酒場にいた屈強な冒険者が、リズを見て声をかける。
「お! 『平原の王女様』じゃねえの。どうだい? めぼしいお宝はあったかい?」
「うっさい! 酔っ払いじじい!」
リズは、プリプリしながら言い返す。
「へえ、見たことない男を連れてんな。知り合いか?」
「彼、異界人なのよ。たまたま出逢って……ちょ、ちょっとゴブリンとも戦ってね!」
『ゴブリンと戦って』の部分を少し嬉しそうに強調するリズ。
「異界人か……最近、ちょくちょく噂を聞くなぁ。女神様も何を考えられてるのか……」
「はえー『平原の王女様』がゴブリンと戦って帰ってくるとは……それより、平原にゴブリンが……森で縄張り争いでもして負けたのか? なんにせよ、そりゃあ珍しいのぉ」
別のテーブルのしわくちゃの顔をした魔法使いが感慨深げにリズを見つめる。
「もう、うるさーい!! 行こ、レオ!!」
リズは俺の手を強く引いて、受付カウンターに向かった。
「ち、違うから!! い、今のは、ホントにただのお礼っていうか……誰にでもこんな事しないっていうか、何とも思ってない……とは言えなくもないけど、とにかく違うから!! そ、その……ぶつぶつ」
「分かってるって。ありがたく貰っておくよ、助けたお礼」
言い訳するようにまくし立てるリズを宥めながら、俺は着ていた上着を脱いで彼女に羽織らせた。
「え?」
「それじゃあ、その……服、破れちゃっただろ? これで隠しな。俺のだからデカいかもだけど、無いよりマシだろ」
「う、うん……」
リズは俺の上着をぎゅっと握り、照れ隠しなのか、後ろを向いて咳払いした。
「さてと、モンスターからは素材だったな。ゴブリンからは何が取れるんだ?」
気持ちを切り替えるために話しかけると、リズは少し調子を取り戻したように話し出す。
「簡素な防具なら簡単に引き裂く『ゴブリンの爪』と、たまにゴブリン独自の製法で作った『ゴブリンの布』を持ってることがあるわね」
「なるほど」
俺とリズは倒れたゴブリンから爪を引き剥がした。
「『ゴブリンの布』っていうのはコレか?」
俺はゴブリンがナニを隠している粗末な腰蓑を指差す。
「違うわ!!」
リズは力強く否定した。
「おっ……持ってた♪ ラッキーね……レオ、コレよ、コレ」
ゴブリンが腰に下げていた小袋の中から真っ白な布を取り出し、見せてくれる。
細かい網目状の布で、ちょうどハンドタオルくらいの大きさだろうか。
丁寧な作りが見て取れる。
「ゴブリンのくせに、結構綺麗な布だな」
「製法はよく分かってないみたいなの。ゴブリンは細かい作業が得意だとは聞いているけど、誰もコレが作られている所を見たことがないのよ」
リズが怪談でも話すように、ニタリとした笑みを浮かべて教えてくれた。
「さて、じゃあ、今度こそ町に帰りましょうか。と言っても、すぐ近くだけどね」
「ああ、案内頼む」
俺とリズは町に向かって歩き出す。
そうして五分ほど歩いていると、大きな壁が見えてきた。
町の周りは堀になっていて、さっき俺が顔を確認した小川が繋がっているようだ。
「見えたわ。あれが田舎町『ルクシア』よ」
正門に繋がる橋には様々な格好の人々が行き交っている。
商人、農夫、剣士に騎士、獣人、エルフ、侍みたいな甲冑を着けた人もいた。
幅は広いものの、行き交う人々に共通して言えるのは、いかにもファンタジー世界という恰好だ。
橋を渡り、門をくぐった先の街並みは、木材やレンガ造りのヨーロッパのような建物が並んでいる。
物珍しさにキョロキョロしながら橋を渡っていると、リズが悪戯っぽい笑みで囁いてきた。
「にひひ、異界人には珍しいものばかりかな? そうだ、町に出る前に、私が泊まっている宿に行って着替えてもいいかな? ……服、ボロボロで色々見えちゃってるから♪」
「ど、どどど、どうぞどうぞ」
さっき鼻の下を伸ばしていたことで、女の子にあまり免疫が無いのはバレているらしい。
仕方ないじゃん。前いた世界では病弱で、恋人はもちろん友達とも遊びになんて行ったことなかったんだし。
大通りを少し行くと、宿屋が見える。
木造で、ある程度建ってから年月が経っているであろう味のある見た目だ。
「おばちゃーん、ただいまー!」
リズが元気よく中に入っていく。
俺も続いて、扉をくぐった。
「おや、リズちゃん。早いご帰宅だね……あれ? どうしたんだい? その恰好。ぶかぶかの羽織なんて着て」
「魔物に服破られちゃって、この人に助けられて上着を貸してもらってるの」
リズの言葉を聞いて、隣で立っている俺に目をやる恰幅の良い女将さん。
「あらま、そうだったのかい。旅人さんかね? ウチのお得意様を助けて頂いてありがとうねえ!」
「いや、俺……実は異界人で、なんにも分からないところを助けてもらってるのは俺の方で……」
「そうだったのかい! あんた、異界人かい!! はっはっは、そりゃあ大変だね。困ったことがあれば何でも言いなね」
裏の無さそうな元気で明るい女将さん。
なるほど。他にも良さそうな宿がチラホラあった中で、リズがここを選んでいる理由が分かった気がした。
「着替えてきたわよ! さあ、素材換金とギルド登録に行きましょ! 宿はここに泊まるわよね?」
新しい服に着替えて、元気を取り戻したリズが、上目遣いで俺に尋ねてくる。
「お、おう。といってもお金が無いから、換金額次第だな」
「はっはっは、大丈夫よ。ウチは安宿だから、きっと泊まれるさ。早く行っておいで」
「うん、行こ! レオ!」
女将さんが笑いながら背中を押してくれる。
リズに手を引かれながら、町に繰りだした。
「あ、あの、り、リズさん。手、何で繋いでるの?」
「は、はぐれたらダメでしょ? ルクシアの町、広いし……」
どうもさっきから、リズの距離感が近い。
仲間になって、ゴブリンから助けて、上着を貸しただけ……なんだが。
手を離す気は無いようなので、そのまま大通りを歩く。
そうこうしていると、町の中心部に来たようだ。
大きな噴水のそばに『冒険者ギルド』の看板を見つける。
「あそこがギルドか?」
「そうよ! 早くさっき倒した魔物の素材を換金してもらおう! あたしもフィールドで採集したアイテムを換金したいし、依頼完了報告もしなきゃいけないし!」
俺の手をグイグイ引っ張って、ギルドに入る。
すると、ギルドに併設されていた酒場にいた屈強な冒険者が、リズを見て声をかける。
「お! 『平原の王女様』じゃねえの。どうだい? めぼしいお宝はあったかい?」
「うっさい! 酔っ払いじじい!」
リズは、プリプリしながら言い返す。
「へえ、見たことない男を連れてんな。知り合いか?」
「彼、異界人なのよ。たまたま出逢って……ちょ、ちょっとゴブリンとも戦ってね!」
『ゴブリンと戦って』の部分を少し嬉しそうに強調するリズ。
「異界人か……最近、ちょくちょく噂を聞くなぁ。女神様も何を考えられてるのか……」
「はえー『平原の王女様』がゴブリンと戦って帰ってくるとは……それより、平原にゴブリンが……森で縄張り争いでもして負けたのか? なんにせよ、そりゃあ珍しいのぉ」
別のテーブルのしわくちゃの顔をした魔法使いが感慨深げにリズを見つめる。
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