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第3章:エルフの国と優しい女王編
第4話:角兎の肉クエスト
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翌日――。
リズのクロスボウができるまで宿に籠っているわけにもいかないので、今日も今日とてギルドに向かう。
いつものように掲示板に貼られているクエストを確認しようと中に入るが、掲示板の前は人でごった返していた。
「おい、お前。持ってねえのかよ?」
「あるわけねえだろ、こんな多くの備蓄……」
「くそぉ! せっかくあの美女とお近づきになれるチャンスなのによぉ……」
「なあ、俺たち全員で出し合って、みんなでクエスト達成っていうのはどうだ?」
「てめえ、それ一人でいいところ横取りする気だろう?」
冒険者たちがガヤガヤと騒ぎながら話している。
「何があったんだろうね?」
「見に行くか」
人混みをかき分けて掲示板の前まで行き、依頼を確認する。
「急募の納入クエスト……?」
掲示板のど真ん中にそれは貼られていた。
依頼内容:角兎の肉百五十個の納品
期日:三日後まで
報酬:5万G
備考:納品は酒場「ビーナスビア」のミレーユまで直接納入を求む。また、本件の依頼主はロースシュタイン家の三男カブラ様からの依頼、引き渡しの際、同行願う。
「ミレーユ……って、前にラズベリーと一緒に飲んだ酒場の女店主か」
「ああ! あたしが酔いつぶれた店ね! 兎肉百五十個なら……あるよね?」
「ああ、今持ってる」
リズの問いかけに答える。
森を中心に活動し始めたとはいえ、平原を通らなければ森には行けないわけで。
途中に現れる魔物の中によくホーンラビットは入っている。
また、森でも低確率で出現することもあり、角兎の肉は有り余るほど持っている。
加えて、今は丸豚の肉とローテーションで食事に使っているため、数もあまり減っていない。
「この依頼、受けるか。三日後までって期日も書いてあるし、急ぎなんだろう」
俺は、まごついている冒険者たちの前で、依頼の紙を引っぺがす。
冒険者たちは「あ゛っ!?」という何とも言い難い叫び声を上げていたが、構わずラズベリーの元に依頼用紙を提出する。
「これを、受けてくださるんですね……レオさん」
表情こそ崩していないものの、キラキラした瞳で俺を見てくるラズベリー。
「ああ。幸い、角兎の肉は余っているからな」
「ありがとうございます。私情をはさむのは受付嬢としてはダメですが、ミレーユは私にとって大切な友人の一人でして、助けてあげたいと思っていたのです」
「ラズベリーにとって大事な人なら、俺にとっても大事な人だ。助けになるなら力を貸す」
「レオさん……」
「コホン……!」
良い雰囲気になっているところで、隣のリズさんが軽く咳ばらいをする。
いかんいかん、話がそれるところだった。
「それで、依頼の品は直接持っていったらいいんだよな?」
「はい。ミレーユも、なるべく早くいつでもいいと言っていました。持って行ってあげてください」
「分かった。今から持って行こう」
「お願いします」
俺たちは依頼を正式に受けた後、ギルドを出て、すぐにミレーユの酒場に向かった。
まだ午前中なのもあって、酒場は「準備中」の札が立てられていた。
「すいません! ギルドの依頼品を納入に来ました」
ノックをして扉の前で言うと、褐色肌の女店主ミレーユが姿を現した。
「こ、こんなに早く!? って、レオくん? と、リズちゃんだったわね。依頼を受けてくれたの?」
「はい、急ぎということだったので、早速来ました」
「ありがとー!! 本当に助かったわ!!」
「うおうっ!?」
ミレーユが俺に抱きついてくる。
サマンサよりも、たわわなものが押し付けられ、顔が沸騰したように赤くなる。
「コホン……!」
「ご主人様……ジゴロ……」
仲間二人に白い目で見られた。
とりあえず落ち着いてもらい、店の中に入る。
指定された貯蔵庫にて、角兎の肉を百五十個きちんと納品する。
数の確認などのためミレーユにももちろん立ち会ってもらったが、俺が魔法の袋から肉をバンバン出す度に、何度も感嘆の息を漏らし感激していた。
全ての納品作業が終わり、店のカウンターで軽いおもてなしを受ける。
「しかし、角兎の肉百五十個なんてどうして急に必要になったんですか?」
リズが尋ねる。
「ちょっと込み入った事情があってね……」
ミレーユは困ったように眉を曲げて答える。
「ルクシア地方の貴族ロースシュタイン家の晩餐会の料理をうちの酒場が取り持つことになったことがあってね。そこで、三男のカブラ様に私が見初められちゃったみたいで」
「ええ!? すごいじゃないですか!! 貴族に見初められるって!!」
リズが興奮したように言う。
シレイドは黙々と小さな旗の立ったオムライスを頬張り続けている。
「でもねえ……全然、私の好みじゃなかったのよね……なんというか執事やメイドに対して横柄で、傲慢な態度がすごく伝わってきて。おまけに私への第一声が『お前をワシの第七夫人にしてやる』だったものだから」
「あー、ははは……それはきついですね……。いくら家柄が良くても、性格が最悪じゃあね……」
ミレーユの話にリズが苦笑いする。
「それで、今まで何度もお誘いを上手く断ってきてたんだけど、業を煮やしたみたいで。『ロースシュタイン家として命令する。晩餐会用に角兎の肉を百五十個用意しろ。達成できなければ罰としてワシの妾になってもらう』って言われちゃって」
「うえー、さいてー」
「ミレーユ……おかわり……シレイド、これもう一個食べる」
ミレーユとリズの話を俺は隣でレモン水を飲みながら聞いていた。
シレイドは話自体、聞いていない。
新しく出されたオムライスに、再び食いついている。
「だから、もう本当に助かったわ。危うく、妾にされるところだった」
「良かったですね、ミレーユさん! でも、そんなに簡単にその男が諦めるかしら?」
「そうなの。一応、契約書を交わしたんだけど、無理矢理連れて行かれそうになるとも限らないから、引き渡しの時は一緒にいて護ってくれるかしら?」
「もちろんですよ! レオがちゃんと護りますから!」
「シレイドもミレーユ守る……オムライス、また食べたいから」
「ありがとう。シレイドちゃん」
なんか動機が不純だが、シレイドもやる気だ。
ミレーユに頭を撫でられて「むふー……♪」と気持ちよさそうにしている。
「それで、引き渡しはいつなんだ?」
「四日後よ。当日は店を朝から開けておくわ。引き渡しは昼頃だから、その時に店にいてくれるだけでいいわ」
「分かった。リズとシレイドと一緒に客の振りをして座っていよう」
「ごめんなさいね。面倒なこと頼んじゃって……お願いするわ。じゃあ、とりあえず一緒にギルドに向かいましょうか。クエスト完了の報告と報酬金をお渡しするわ」
「ああ、頼む」
俺たちは、シレイドがオムライスを食べ終わるのを待って、ミレーユと共にギルドに向かい報酬金を受け取ったのだった。
リズのクロスボウができるまで宿に籠っているわけにもいかないので、今日も今日とてギルドに向かう。
いつものように掲示板に貼られているクエストを確認しようと中に入るが、掲示板の前は人でごった返していた。
「おい、お前。持ってねえのかよ?」
「あるわけねえだろ、こんな多くの備蓄……」
「くそぉ! せっかくあの美女とお近づきになれるチャンスなのによぉ……」
「なあ、俺たち全員で出し合って、みんなでクエスト達成っていうのはどうだ?」
「てめえ、それ一人でいいところ横取りする気だろう?」
冒険者たちがガヤガヤと騒ぎながら話している。
「何があったんだろうね?」
「見に行くか」
人混みをかき分けて掲示板の前まで行き、依頼を確認する。
「急募の納入クエスト……?」
掲示板のど真ん中にそれは貼られていた。
依頼内容:角兎の肉百五十個の納品
期日:三日後まで
報酬:5万G
備考:納品は酒場「ビーナスビア」のミレーユまで直接納入を求む。また、本件の依頼主はロースシュタイン家の三男カブラ様からの依頼、引き渡しの際、同行願う。
「ミレーユ……って、前にラズベリーと一緒に飲んだ酒場の女店主か」
「ああ! あたしが酔いつぶれた店ね! 兎肉百五十個なら……あるよね?」
「ああ、今持ってる」
リズの問いかけに答える。
森を中心に活動し始めたとはいえ、平原を通らなければ森には行けないわけで。
途中に現れる魔物の中によくホーンラビットは入っている。
また、森でも低確率で出現することもあり、角兎の肉は有り余るほど持っている。
加えて、今は丸豚の肉とローテーションで食事に使っているため、数もあまり減っていない。
「この依頼、受けるか。三日後までって期日も書いてあるし、急ぎなんだろう」
俺は、まごついている冒険者たちの前で、依頼の紙を引っぺがす。
冒険者たちは「あ゛っ!?」という何とも言い難い叫び声を上げていたが、構わずラズベリーの元に依頼用紙を提出する。
「これを、受けてくださるんですね……レオさん」
表情こそ崩していないものの、キラキラした瞳で俺を見てくるラズベリー。
「ああ。幸い、角兎の肉は余っているからな」
「ありがとうございます。私情をはさむのは受付嬢としてはダメですが、ミレーユは私にとって大切な友人の一人でして、助けてあげたいと思っていたのです」
「ラズベリーにとって大事な人なら、俺にとっても大事な人だ。助けになるなら力を貸す」
「レオさん……」
「コホン……!」
良い雰囲気になっているところで、隣のリズさんが軽く咳ばらいをする。
いかんいかん、話がそれるところだった。
「それで、依頼の品は直接持っていったらいいんだよな?」
「はい。ミレーユも、なるべく早くいつでもいいと言っていました。持って行ってあげてください」
「分かった。今から持って行こう」
「お願いします」
俺たちは依頼を正式に受けた後、ギルドを出て、すぐにミレーユの酒場に向かった。
まだ午前中なのもあって、酒場は「準備中」の札が立てられていた。
「すいません! ギルドの依頼品を納入に来ました」
ノックをして扉の前で言うと、褐色肌の女店主ミレーユが姿を現した。
「こ、こんなに早く!? って、レオくん? と、リズちゃんだったわね。依頼を受けてくれたの?」
「はい、急ぎということだったので、早速来ました」
「ありがとー!! 本当に助かったわ!!」
「うおうっ!?」
ミレーユが俺に抱きついてくる。
サマンサよりも、たわわなものが押し付けられ、顔が沸騰したように赤くなる。
「コホン……!」
「ご主人様……ジゴロ……」
仲間二人に白い目で見られた。
とりあえず落ち着いてもらい、店の中に入る。
指定された貯蔵庫にて、角兎の肉を百五十個きちんと納品する。
数の確認などのためミレーユにももちろん立ち会ってもらったが、俺が魔法の袋から肉をバンバン出す度に、何度も感嘆の息を漏らし感激していた。
全ての納品作業が終わり、店のカウンターで軽いおもてなしを受ける。
「しかし、角兎の肉百五十個なんてどうして急に必要になったんですか?」
リズが尋ねる。
「ちょっと込み入った事情があってね……」
ミレーユは困ったように眉を曲げて答える。
「ルクシア地方の貴族ロースシュタイン家の晩餐会の料理をうちの酒場が取り持つことになったことがあってね。そこで、三男のカブラ様に私が見初められちゃったみたいで」
「ええ!? すごいじゃないですか!! 貴族に見初められるって!!」
リズが興奮したように言う。
シレイドは黙々と小さな旗の立ったオムライスを頬張り続けている。
「でもねえ……全然、私の好みじゃなかったのよね……なんというか執事やメイドに対して横柄で、傲慢な態度がすごく伝わってきて。おまけに私への第一声が『お前をワシの第七夫人にしてやる』だったものだから」
「あー、ははは……それはきついですね……。いくら家柄が良くても、性格が最悪じゃあね……」
ミレーユの話にリズが苦笑いする。
「それで、今まで何度もお誘いを上手く断ってきてたんだけど、業を煮やしたみたいで。『ロースシュタイン家として命令する。晩餐会用に角兎の肉を百五十個用意しろ。達成できなければ罰としてワシの妾になってもらう』って言われちゃって」
「うえー、さいてー」
「ミレーユ……おかわり……シレイド、これもう一個食べる」
ミレーユとリズの話を俺は隣でレモン水を飲みながら聞いていた。
シレイドは話自体、聞いていない。
新しく出されたオムライスに、再び食いついている。
「だから、もう本当に助かったわ。危うく、妾にされるところだった」
「良かったですね、ミレーユさん! でも、そんなに簡単にその男が諦めるかしら?」
「そうなの。一応、契約書を交わしたんだけど、無理矢理連れて行かれそうになるとも限らないから、引き渡しの時は一緒にいて護ってくれるかしら?」
「もちろんですよ! レオがちゃんと護りますから!」
「シレイドもミレーユ守る……オムライス、また食べたいから」
「ありがとう。シレイドちゃん」
なんか動機が不純だが、シレイドもやる気だ。
ミレーユに頭を撫でられて「むふー……♪」と気持ちよさそうにしている。
「それで、引き渡しはいつなんだ?」
「四日後よ。当日は店を朝から開けておくわ。引き渡しは昼頃だから、その時に店にいてくれるだけでいいわ」
「分かった。リズとシレイドと一緒に客の振りをして座っていよう」
「ごめんなさいね。面倒なこと頼んじゃって……お願いするわ。じゃあ、とりあえず一緒にギルドに向かいましょうか。クエスト完了の報告と報酬金をお渡しするわ」
「ああ、頼む」
俺たちは、シレイドがオムライスを食べ終わるのを待って、ミレーユと共にギルドに向かい報酬金を受け取ったのだった。
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