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第9章:風神の谷と宿の看板娘編
第10話:風神の谷底
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くっ!? どうする!? どうする!?
谷底に落ちていく最中、俺は頭をフル回転させて考える。
魔法を使って何か出来ないか考えるも、先ほどの『ルーンブレード』でMPはほぼ尽きてしまった。
どんどん、谷底の地面が見えてくる。
……万事休すか!!
死をも覚悟したその瞬間、突然、ふわりと身体が浮き上がる。
頬を撫でる優しい風。
「なんだ……? これ……?」
浮き上がった体は、そのままゆっくりと地面に降りていく。
そうして、まるで狐につままれた気分になりながら、俺は静かに地面に着地した。
「……ここは……風神の谷の底か?」
降りた場所は、鬱蒼とした高い木々に囲まれている。
太陽の光はほとんど届いていないようで、薄暗い。
近くには、先ほど俺が仕留めたガルーダの死骸が転がっている。
俺は手早く素材を回収し、辺りを見回す。
前方を見ると、何やら石碑のようなものが置いてある。
ダンジョンの中だというのに、ここだけ妙に瘴気が少ない。
神聖な雰囲気すら感じるほどだ。
俺は、ゆっくりと石碑に近づく。
——これは。
「……『風神ゼファーの眠る地』……?」
石碑には確かにそう書いてある。
……そうか。チェリーが言っていたな。
風神の谷は、昔、邪竜からエルゼリアを守った神様が眠る場所だと。
荘厳な雰囲気に押され、俺は手を合わせる。
地面に激突する瞬間に俺を包んだ優しい風。
俺が無傷でいられたのも、風神様の力のお陰なのかもしれない。
「助けていただいて、ありがとうございました」
作法は分からないが、お礼を言った。
——その時。
「ようやく見つけたぞ!! 『風神の墓』!!」
声がする方に振り向くと、見知った顔が立っていた。
あいつは確か、冒険者ギルドで喚いていたクレーマーのレアードだったか。
「む!? お、おおお、お前は!?」
「……ああ、久しぶりだな。えーっと、レアードさん……?」
なんと返答すればいいか分からず、とりあえずふんわり答える。
「お、お前!? こ、ここで何している!?」
相変わらずの喧嘩腰だな。
「実は、細道から谷底に落ちてしまってな。まあ、奇跡的に無傷だったんだが……。たまたま風神の墓を見つけたから、参拝していたところだ」
「き、貴様! 風神を信仰しているのか!?」
「ん? えっと……よく分からんが、良い神様だとは思っているかな……」
「ぐぬぬ! 儂の邪魔をする気だな!?」
何を言っているんだ?
先ほどから、話が微妙に噛み合ってない気がする。
まあ、ギルドでの口ぶりを見るに、まともに話し合いが通じる相手ではなさそうだが。
「一体、何の話だ? 俺は別にお前の邪魔などする気は——」
「ええい!! 黙れ、黙れ!! その墓を壊せば、奴らへの借りもチャラになるんじゃ!! そうしないと、奴らにどんな目に遭わされるか……!!」
レアードの目が血走っている。
恐怖心のようなものも混じっているようで、軽く飛んでしまっているといってもいい。
「おい。待て、話を聞け。奴らへの借りって、何を言って——」
「うるさい! うるさい! こうなれば、貴様も死んでもらうぞ!! 墓はその後で壊せばいい!! 出でよ!!」
レアードが取り出したのは黒い結晶。
それを地面に叩きつけると、瘴気が噴き出て、どんどんと形作られていく。
「ゴオオオオオオオッ!!」
現れたのは、牛の頭の巨大な怪物。
二本足で立ち、大きな斧を持っている。
全身が、深く茶色い毛で覆われており、こちらに向かって威嚇している。
「あれは……魔物か!?」
鑑定を行う。
名前:ミノタウロス
危険度:B+
説明:二本足で歩く牛頭の魔物。性格は凶暴で、他者への攻撃性が高い。大きな斧を持っており、動きは遅い。
素材:『牛頭魔人の毛皮』
レア素材:『牛頭魔人の大角』
「そぉれ、やってしまえ!! ミノタウロス!! あの冒険者ごと、墓を叩き壊せ!!」
「ちっ! 本気でやる気かよ!!」
危険度B+なら、一人でも倒せないことはないだろう。
だが、それは体力や魔力に余裕があればの話だ。
三時間に渡る冒険で体力が削られているのに加え、先ほどガルーダに放った『ルーンブレード』で俺の魔力は枯渇していた。
「どうすればいい……!?」
ミノタウロスの大斧を避けながら、必死に考える。
せっかく、滑落から生きながらえたというのに、こんなところで死ぬのは御免だ。
だが、手立てがない。
このまま、魔力が回復するまで避け続けるとしても、体力が続かないだろう。
「クソ……!!」
歯噛みする。
——と、その時。
『我が力を与えよう』
頭の中に、声が聞こえる……。
「な、なんだ……? この声……?」
この感覚……まるで、女神と交信している時のようだ。
だが、今はそんなこと関係ない。なんでもいい。
生きられるなら、縋るだけだ。
「頼む……! 力を貸してくれ……!」
俺が声を上げると、再び声が脳内に広がる。
『心得た』
その時、急に身体が軽くなる。
まるで、宿でぐっすり休んだ後のようだ。
それだけではない。
魔力の方も、すっかり回復している。
「いける! これなら、戦える!」
俺は静かに呟く。
風霊の剣を抜き、牛頭魔人と対峙する。
「悪かったな、逃げ回って。お遊びはここまでだ。全力で相手をしよう」
「グオオオオオオ!!」
俺の剣と、ミノタウロスの大斧が、凄まじい勢いでぶつかり合った。
谷底に落ちていく最中、俺は頭をフル回転させて考える。
魔法を使って何か出来ないか考えるも、先ほどの『ルーンブレード』でMPはほぼ尽きてしまった。
どんどん、谷底の地面が見えてくる。
……万事休すか!!
死をも覚悟したその瞬間、突然、ふわりと身体が浮き上がる。
頬を撫でる優しい風。
「なんだ……? これ……?」
浮き上がった体は、そのままゆっくりと地面に降りていく。
そうして、まるで狐につままれた気分になりながら、俺は静かに地面に着地した。
「……ここは……風神の谷の底か?」
降りた場所は、鬱蒼とした高い木々に囲まれている。
太陽の光はほとんど届いていないようで、薄暗い。
近くには、先ほど俺が仕留めたガルーダの死骸が転がっている。
俺は手早く素材を回収し、辺りを見回す。
前方を見ると、何やら石碑のようなものが置いてある。
ダンジョンの中だというのに、ここだけ妙に瘴気が少ない。
神聖な雰囲気すら感じるほどだ。
俺は、ゆっくりと石碑に近づく。
——これは。
「……『風神ゼファーの眠る地』……?」
石碑には確かにそう書いてある。
……そうか。チェリーが言っていたな。
風神の谷は、昔、邪竜からエルゼリアを守った神様が眠る場所だと。
荘厳な雰囲気に押され、俺は手を合わせる。
地面に激突する瞬間に俺を包んだ優しい風。
俺が無傷でいられたのも、風神様の力のお陰なのかもしれない。
「助けていただいて、ありがとうございました」
作法は分からないが、お礼を言った。
——その時。
「ようやく見つけたぞ!! 『風神の墓』!!」
声がする方に振り向くと、見知った顔が立っていた。
あいつは確か、冒険者ギルドで喚いていたクレーマーのレアードだったか。
「む!? お、おおお、お前は!?」
「……ああ、久しぶりだな。えーっと、レアードさん……?」
なんと返答すればいいか分からず、とりあえずふんわり答える。
「お、お前!? こ、ここで何している!?」
相変わらずの喧嘩腰だな。
「実は、細道から谷底に落ちてしまってな。まあ、奇跡的に無傷だったんだが……。たまたま風神の墓を見つけたから、参拝していたところだ」
「き、貴様! 風神を信仰しているのか!?」
「ん? えっと……よく分からんが、良い神様だとは思っているかな……」
「ぐぬぬ! 儂の邪魔をする気だな!?」
何を言っているんだ?
先ほどから、話が微妙に噛み合ってない気がする。
まあ、ギルドでの口ぶりを見るに、まともに話し合いが通じる相手ではなさそうだが。
「一体、何の話だ? 俺は別にお前の邪魔などする気は——」
「ええい!! 黙れ、黙れ!! その墓を壊せば、奴らへの借りもチャラになるんじゃ!! そうしないと、奴らにどんな目に遭わされるか……!!」
レアードの目が血走っている。
恐怖心のようなものも混じっているようで、軽く飛んでしまっているといってもいい。
「おい。待て、話を聞け。奴らへの借りって、何を言って——」
「うるさい! うるさい! こうなれば、貴様も死んでもらうぞ!! 墓はその後で壊せばいい!! 出でよ!!」
レアードが取り出したのは黒い結晶。
それを地面に叩きつけると、瘴気が噴き出て、どんどんと形作られていく。
「ゴオオオオオオオッ!!」
現れたのは、牛の頭の巨大な怪物。
二本足で立ち、大きな斧を持っている。
全身が、深く茶色い毛で覆われており、こちらに向かって威嚇している。
「あれは……魔物か!?」
鑑定を行う。
名前:ミノタウロス
危険度:B+
説明:二本足で歩く牛頭の魔物。性格は凶暴で、他者への攻撃性が高い。大きな斧を持っており、動きは遅い。
素材:『牛頭魔人の毛皮』
レア素材:『牛頭魔人の大角』
「そぉれ、やってしまえ!! ミノタウロス!! あの冒険者ごと、墓を叩き壊せ!!」
「ちっ! 本気でやる気かよ!!」
危険度B+なら、一人でも倒せないことはないだろう。
だが、それは体力や魔力に余裕があればの話だ。
三時間に渡る冒険で体力が削られているのに加え、先ほどガルーダに放った『ルーンブレード』で俺の魔力は枯渇していた。
「どうすればいい……!?」
ミノタウロスの大斧を避けながら、必死に考える。
せっかく、滑落から生きながらえたというのに、こんなところで死ぬのは御免だ。
だが、手立てがない。
このまま、魔力が回復するまで避け続けるとしても、体力が続かないだろう。
「クソ……!!」
歯噛みする。
——と、その時。
『我が力を与えよう』
頭の中に、声が聞こえる……。
「な、なんだ……? この声……?」
この感覚……まるで、女神と交信している時のようだ。
だが、今はそんなこと関係ない。なんでもいい。
生きられるなら、縋るだけだ。
「頼む……! 力を貸してくれ……!」
俺が声を上げると、再び声が脳内に広がる。
『心得た』
その時、急に身体が軽くなる。
まるで、宿でぐっすり休んだ後のようだ。
それだけではない。
魔力の方も、すっかり回復している。
「いける! これなら、戦える!」
俺は静かに呟く。
風霊の剣を抜き、牛頭魔人と対峙する。
「悪かったな、逃げ回って。お遊びはここまでだ。全力で相手をしよう」
「グオオオオオオ!!」
俺の剣と、ミノタウロスの大斧が、凄まじい勢いでぶつかり合った。
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