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第9章:風神の谷と宿の看板娘編
閑話:二人の果実
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『風神の谷』攻略後の休暇期間中。
俺は、チェリーを誘うためにエルゼリア冒険者ギルドにいた。
今夜は彼女と過ごそうと思ったからだ。
併設された酒場で『モール貝』と呼ばれる貝の酒蒸しと軽い酒をつまんで、チェリーの仕事が終わるのを待っている。
『モール貝』は、地球でいうムール貝のような味だ。
酒とよく合い、実に美味い。
チェリーはチラチラとこちらを見ながら、テキパキと仕事をこなしている。
目線が合う度に、にっこりと笑ってくれる。
うむ。可愛い。
仕事ができる、のほほん彼女に見惚れていた。
その時、冒険者ギルドの入り口の扉が開かれる。
「……え、え!?」
入ってきた人物に驚いてしまった。
ルクシアの冒険者ギルド副団長ウルスとラズベリーだ。
「な、なんでここに!?」
思わず声を上げると、ラズベリーがこちらに気づく。
——そして。
「レオさーん!!」
ラズベリーが俺の胸の中にダイブしてくる。
「ど、どうして、ここに?」
「ギルドの会合終わりで、エルゼリアの冒険者ギルドの団長にご挨拶に来ました」
なるほど。ゼルフィアさんに用があったのか。
「会合自体はもう終わって、明後日帰る予定なんです」
「そうか」
ラズベリーはずいっと俺の隣に座って、俺の肩に猫のように頬を擦り付けている。
「レオ君、久しぶりだね。ははは、相変わらずラズベリーは君の前では幸せそうだね」
「お久しぶりです。ウルス副団長」
「む……私は普通です」
ウルス副団長が困り顔で見ている。
ラズベリーはぷりぷりと頬を膨らます。
だが、俺にしがみついている腕は離さない。
——その時。
「レオさぁん! 仕事終わりました……よぉ……」
ラズベリーにしがみつかれている俺を見たチェリーが、ピクリとその笑顔を震わせる。
「ら、ラズベリー……!?」
「あら、チェリー。お久しぶりですね」
彼女同士の挨拶。あたりがお通夜のように静まり返る。
「なんで、あなたがレオさんにしがみついているんですかぁ!! というか、なんでここにいるんですかぁ!!」
「会合があったから、エルゼリアに来ていただけです。それと、レオさんは私の彼氏です。しがみつくのは当然でしょう」
「わ、わたしもぉ! 彼女なんですよぉ!!」
普段の、のほほんした影はどこへやら。
チェリーがムキになっている。
「ほう。あなたも彼女に……って、ええええーーーー!?」
ラズベリーが驚いている。
「昔から、あなたとは結びたくもない腐れ縁でよく一緒になりましたが、まさか恋愛相手すら一緒とは……なんと面倒な……」
「それは、私のセリフですぅ!!」
なんだか、二人とも罵り合っている。
ため息をつくラズベリーに、押され気味のチェリー。
なんだか、新鮮である。
「二人は知り合いなのか?」
俺が聞くと、ラズベリーは首を縦に振る。
「チェリーは冒険者ギルド専門学校の同期です。成績は、私が首席で、この子が2位。いつも張り合ってくる厄介な同級生です」
「それはこちらのセリフですぅ。いつもいつも、上に立ちふさがって、厄介な人でしたぁ!」
なるほど。女同士のライバルといった感じか。
「レオさんをぉ、返してくださいぃ~」
「離すのはあなたの方です。久しぶりの私に譲りなさい」
空いている腕に絡みついてくるチェリー。
そんな彼女に負けず、俺のもう一方の腕を引っ張るラズベリー。
実に居心地が悪い。虎と狼の間の兎のような気分だ。
「ら、ラズベリー。では、私はゼルフィア団長に挨拶に行くから、か、帰っていいぞ。レオ君、後は頼む」
ウルス副団長は、困惑の表情でギルドの奥に行ってしまった。
待ってくれ、俺をこの修羅場に置いていかないでくれ、ウルス副団長。
「でわぁ、こうしましょお! レオさんをぉ、満足させた方が勝ちですぅ」
「いいですよ。私の方が付き合いは長いですから余裕です。何で勝負しますか?」
バチバチと張り合うラズベリーとチェリー。
お互い、引く気はないようだ。
「こほん。それではぁ……セックスなんてどうでしょうかぁ! より、レオさんをぉ、気持ちよくさせられた方が勝ちですぅ」
チェリーはビシッと指を立てて言う。
いつも、のほほんとしている彼女が、ここまでムキになっているのは珍しいな。
「せ、セックスって……!? チェリーの得意分野じゃないですか!!」
「得意分野って何ですかぁ!? 私は、好きな人には一途ですぅ!! 張り型や野菜で練習しているだけですぅ!!」
抗議するラズベリーに反論する。
——しかし。
その瞬間、チェリーが悪戯な笑みを浮かべている。
「あれあれぇ、ラズベリー……もしかして、自信ないのですかぁ? レオさんを満足させられるぅ」
「む、むむ……そんなことないです! いいでしょう、やってやりますよ! どちらがレオさんを満足させられるか、勝負です!」
チェリーの挑発に、ラズベリーが乗る。
あのー、俺の気持ちは?
「ならぁ、舞台は『愛の宿』にしましょう! あそこは環境が整ってますからぁ」
「ええ、ええ! いいでしょう。それではレオさん、行きますよ!! チェリーに分からせてやりますとも。あなたをより愛しているのは、私の方だと」
俺を置いて、話がポンポン進んでいく。
そうして、両腕を彼女たちに引きずられて、歓楽街にある『愛の宿』に向かうのだった。
俺は、チェリーを誘うためにエルゼリア冒険者ギルドにいた。
今夜は彼女と過ごそうと思ったからだ。
併設された酒場で『モール貝』と呼ばれる貝の酒蒸しと軽い酒をつまんで、チェリーの仕事が終わるのを待っている。
『モール貝』は、地球でいうムール貝のような味だ。
酒とよく合い、実に美味い。
チェリーはチラチラとこちらを見ながら、テキパキと仕事をこなしている。
目線が合う度に、にっこりと笑ってくれる。
うむ。可愛い。
仕事ができる、のほほん彼女に見惚れていた。
その時、冒険者ギルドの入り口の扉が開かれる。
「……え、え!?」
入ってきた人物に驚いてしまった。
ルクシアの冒険者ギルド副団長ウルスとラズベリーだ。
「な、なんでここに!?」
思わず声を上げると、ラズベリーがこちらに気づく。
——そして。
「レオさーん!!」
ラズベリーが俺の胸の中にダイブしてくる。
「ど、どうして、ここに?」
「ギルドの会合終わりで、エルゼリアの冒険者ギルドの団長にご挨拶に来ました」
なるほど。ゼルフィアさんに用があったのか。
「会合自体はもう終わって、明後日帰る予定なんです」
「そうか」
ラズベリーはずいっと俺の隣に座って、俺の肩に猫のように頬を擦り付けている。
「レオ君、久しぶりだね。ははは、相変わらずラズベリーは君の前では幸せそうだね」
「お久しぶりです。ウルス副団長」
「む……私は普通です」
ウルス副団長が困り顔で見ている。
ラズベリーはぷりぷりと頬を膨らます。
だが、俺にしがみついている腕は離さない。
——その時。
「レオさぁん! 仕事終わりました……よぉ……」
ラズベリーにしがみつかれている俺を見たチェリーが、ピクリとその笑顔を震わせる。
「ら、ラズベリー……!?」
「あら、チェリー。お久しぶりですね」
彼女同士の挨拶。あたりがお通夜のように静まり返る。
「なんで、あなたがレオさんにしがみついているんですかぁ!! というか、なんでここにいるんですかぁ!!」
「会合があったから、エルゼリアに来ていただけです。それと、レオさんは私の彼氏です。しがみつくのは当然でしょう」
「わ、わたしもぉ! 彼女なんですよぉ!!」
普段の、のほほんした影はどこへやら。
チェリーがムキになっている。
「ほう。あなたも彼女に……って、ええええーーーー!?」
ラズベリーが驚いている。
「昔から、あなたとは結びたくもない腐れ縁でよく一緒になりましたが、まさか恋愛相手すら一緒とは……なんと面倒な……」
「それは、私のセリフですぅ!!」
なんだか、二人とも罵り合っている。
ため息をつくラズベリーに、押され気味のチェリー。
なんだか、新鮮である。
「二人は知り合いなのか?」
俺が聞くと、ラズベリーは首を縦に振る。
「チェリーは冒険者ギルド専門学校の同期です。成績は、私が首席で、この子が2位。いつも張り合ってくる厄介な同級生です」
「それはこちらのセリフですぅ。いつもいつも、上に立ちふさがって、厄介な人でしたぁ!」
なるほど。女同士のライバルといった感じか。
「レオさんをぉ、返してくださいぃ~」
「離すのはあなたの方です。久しぶりの私に譲りなさい」
空いている腕に絡みついてくるチェリー。
そんな彼女に負けず、俺のもう一方の腕を引っ張るラズベリー。
実に居心地が悪い。虎と狼の間の兎のような気分だ。
「ら、ラズベリー。では、私はゼルフィア団長に挨拶に行くから、か、帰っていいぞ。レオ君、後は頼む」
ウルス副団長は、困惑の表情でギルドの奥に行ってしまった。
待ってくれ、俺をこの修羅場に置いていかないでくれ、ウルス副団長。
「でわぁ、こうしましょお! レオさんをぉ、満足させた方が勝ちですぅ」
「いいですよ。私の方が付き合いは長いですから余裕です。何で勝負しますか?」
バチバチと張り合うラズベリーとチェリー。
お互い、引く気はないようだ。
「こほん。それではぁ……セックスなんてどうでしょうかぁ! より、レオさんをぉ、気持ちよくさせられた方が勝ちですぅ」
チェリーはビシッと指を立てて言う。
いつも、のほほんとしている彼女が、ここまでムキになっているのは珍しいな。
「せ、セックスって……!? チェリーの得意分野じゃないですか!!」
「得意分野って何ですかぁ!? 私は、好きな人には一途ですぅ!! 張り型や野菜で練習しているだけですぅ!!」
抗議するラズベリーに反論する。
——しかし。
その瞬間、チェリーが悪戯な笑みを浮かべている。
「あれあれぇ、ラズベリー……もしかして、自信ないのですかぁ? レオさんを満足させられるぅ」
「む、むむ……そんなことないです! いいでしょう、やってやりますよ! どちらがレオさんを満足させられるか、勝負です!」
チェリーの挑発に、ラズベリーが乗る。
あのー、俺の気持ちは?
「ならぁ、舞台は『愛の宿』にしましょう! あそこは環境が整ってますからぁ」
「ええ、ええ! いいでしょう。それではレオさん、行きますよ!! チェリーに分からせてやりますとも。あなたをより愛しているのは、私の方だと」
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