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第10章:ルクシアの町と女を忘れたギルド団長編
第19話:各々の行く先
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そして、そこから二週間。
ルクシアとガラテアの民の移住のための期間が設けられた。
ひとまず俺たちの冒険は中断し、ギルドを通じて移住のための手伝いをすることになった。
まずはサマンサのところを訪れる。
彼女は祖父の代から続いた牧場を離れて、ハクオウ山の麓の『コボの村』に身を寄せることになった。
エルゼリアも候補には挙がっていたが、どうしても牧場を開くのに適さないということで話が流れた。
コボの村なら緑が多く、同業者である牧場関連の住民も多いため、家畜にとって住みよい環境だからだそうだ。
「いやいやー、手伝ってもらっちゃって悪いねー!」
明るい声色で俺に言ってくるが、悲しげな気持ちが透けてくるようだ。
当然だろう。
幼いころから慣れ親しんでいた牧場を理不尽な理由で離れなければならないのだから。
故郷を離れるのは、いつだって怖いし寂しいものである。
かと言って、このままここに居れば瘴気に当てられ家畜たちがいつ魔物化してしまうか分からない。
第一に、卸売り先であるルクシアの町が無くなってしまうのだから、ここに居ながらの商売はできないのだ。
躊躇いはあるものの、生きるために移住しなければいけないのである。
幸い、家畜たちは今のところ無事で、問題なく移住先に連れていくことができそうだ。
牧場を開く土地と建物は国が用意してくれたようで、俺はワープを使って彼女の家にある必要な農具や家畜たちを残らずコボの村へと移送した。
「いやー、助かったよ! 愛しの彼氏さんのお陰で、移動は楽だったね!」
新たな牧場を前にしてニッコリと微笑むサマンサ。
ただ、表情には一抹の不安と寂しさが見て取れた。
ぎゅっと彼女を抱きしめると、サマンサは表情を見せないように俺の胸に顔を埋めてきた。
「サマンサが寂しくないように、たくさん会いに来るからな」
「……約束だよ? 破ったらヤだよ?」
俺の言葉に、少し不安げな声で言うサマンサ。
知らない土地でいきなり一人の生活。
不安にならない方がおかしい。
そんな彼女にしっかりと「約束だ。俺が君を支える」と肯定して答えてやった。
次はラズベリー。
ルクシアのギルドが解散になった彼女は、俺がいるエルゼリアの冒険者ギルドに勤務することになった。
ウルス副団長も同じくエルゼリアギルドに身を置くことになったようだ。
俺の担当受付嬢を願い出た結果、チェリーと被るとなっていたが状況が状況だったため、チェリーが折れて俺たちのパーティの受付嬢はラズベリーとチェリー二人が合同で受け持つことになった。
ラズベリー自身、ルクシアを離れる寂しさはあるものの、論理的思考の彼女らしく『仕方の無いことだ』というのは理解しきっているようである。
「故郷を追われるのは悲しいですが、レオさんに毎日会えるので」とポジティブな言動も見て取れた。
ありがたいことに、俺の存在が彼女の心の負担を減らす材料になってくれているようである。
半面、チェリーは俺と接する時間が減るという感じで危機感を持っているようだった。
ともあれ、こちらも丸く収まったのだった。
ミレーユもエルゼリアに移住して酒場を開くようだ。
理由はもちろん「愛しの彼氏クンがいるから♪」と、ウィンクをしながら言っていた。
当然、母から受け継いだ店を手放すことにショックがなかったかといえば噓になるみたいだが、あれだけ大きな戦いで命があっただけでもマシだと思っているようだった。
やはり、数々の経験を味わってきた夜の女性は逞しい。
サマンサのように大きなショックや、ラズベリーのような合理的に考えたのではなく、あくまでも俯瞰的に物事を見るのは、大人の彼女ならではの考え方なのかもしれない。
酒場の物と彼女の私物一式を、これまた俺のワープを使いエルゼリアの新『ビーナスビア』に手際よく運んであげた。
帰り際に「これからはレオくんも、もっと気軽に飲みに来れるわね♪」
と、少し強い圧で言われたのだった。
うーむ。どうやらエルゼリアで俺がいつも飲んでいる酒場に並々ならぬ対抗心があるらしい。
そして、ルーティア。
彼女含めガラテア王国の民たちは、アイスウッドの森の一角でガラテア王国を作ることになったそうだ。
とはいえ、国を移動するのは一苦労なようで、反対する国の民をなだめ、総動員で移住の手筈を整えて実行していた。
当然、移動自体はエルフに伝わるワープの魔法があるために苦ではないが、親しみのある森を離れるのはなかなか精神的に参るらしい。
キアラも「ドタバタが収まるまでは、パーティを離れてガラテアの手伝いをしたい」とのことで、一時的にパーティを離脱し、しばらくガラテア王国の再建に尽力している。
俺も、度々顔を出し、負担が大きいルーティア女王をたっぷり甘やかして癒してやる。
俺の胸に顔をうずめながら「レオ様……♡」と愛おしげに呼んでくる彼女をいつまでも抱きしめてやるのだった。
ルーティアとソフィア女王は旧知の仲らしく、ソフィア女王は「これでいつでも茶会が気兼ねなくできるの」とルーティアに微笑んでいたそうだ。
ガラテア王国とアイスウッド王国はお互いに助け合いながら、これからそれぞれの国を動かしていくようだ。
余談だが、冒険者グレゴ、そして魔道具屋『紫煙の白猫』のシャロンもエルゼリアに移住するらしい。
シャロンはスタンピードが起こった時、遠征して素材集めをしていたようで、帰ってきたら店が燃えて無くなっており、廃墟になったそれを見つめながら紫煙をくゆらせ、平然な顔で「……あらあら」と呟いたのだとか。
相変わらずの肝のでかさだ。
ローガンは奴隷たちを連れて、早々にルクシアを後にしていたようで、消息は分かっていない。
聞いた話では、王都近くに本店があるので、そこに移住したのではということだった。
ともかくこうして、ルクシア地方の住民たちは国中に散らばっていった。
始まりの町がこうした形で終わってしまったことは寂しいが、結果的に遠距離彼女たちとの距離が縮まり、悪いことばかりではなくなったのだった。
ルクシアとガラテアの民の移住のための期間が設けられた。
ひとまず俺たちの冒険は中断し、ギルドを通じて移住のための手伝いをすることになった。
まずはサマンサのところを訪れる。
彼女は祖父の代から続いた牧場を離れて、ハクオウ山の麓の『コボの村』に身を寄せることになった。
エルゼリアも候補には挙がっていたが、どうしても牧場を開くのに適さないということで話が流れた。
コボの村なら緑が多く、同業者である牧場関連の住民も多いため、家畜にとって住みよい環境だからだそうだ。
「いやいやー、手伝ってもらっちゃって悪いねー!」
明るい声色で俺に言ってくるが、悲しげな気持ちが透けてくるようだ。
当然だろう。
幼いころから慣れ親しんでいた牧場を理不尽な理由で離れなければならないのだから。
故郷を離れるのは、いつだって怖いし寂しいものである。
かと言って、このままここに居れば瘴気に当てられ家畜たちがいつ魔物化してしまうか分からない。
第一に、卸売り先であるルクシアの町が無くなってしまうのだから、ここに居ながらの商売はできないのだ。
躊躇いはあるものの、生きるために移住しなければいけないのである。
幸い、家畜たちは今のところ無事で、問題なく移住先に連れていくことができそうだ。
牧場を開く土地と建物は国が用意してくれたようで、俺はワープを使って彼女の家にある必要な農具や家畜たちを残らずコボの村へと移送した。
「いやー、助かったよ! 愛しの彼氏さんのお陰で、移動は楽だったね!」
新たな牧場を前にしてニッコリと微笑むサマンサ。
ただ、表情には一抹の不安と寂しさが見て取れた。
ぎゅっと彼女を抱きしめると、サマンサは表情を見せないように俺の胸に顔を埋めてきた。
「サマンサが寂しくないように、たくさん会いに来るからな」
「……約束だよ? 破ったらヤだよ?」
俺の言葉に、少し不安げな声で言うサマンサ。
知らない土地でいきなり一人の生活。
不安にならない方がおかしい。
そんな彼女にしっかりと「約束だ。俺が君を支える」と肯定して答えてやった。
次はラズベリー。
ルクシアのギルドが解散になった彼女は、俺がいるエルゼリアの冒険者ギルドに勤務することになった。
ウルス副団長も同じくエルゼリアギルドに身を置くことになったようだ。
俺の担当受付嬢を願い出た結果、チェリーと被るとなっていたが状況が状況だったため、チェリーが折れて俺たちのパーティの受付嬢はラズベリーとチェリー二人が合同で受け持つことになった。
ラズベリー自身、ルクシアを離れる寂しさはあるものの、論理的思考の彼女らしく『仕方の無いことだ』というのは理解しきっているようである。
「故郷を追われるのは悲しいですが、レオさんに毎日会えるので」とポジティブな言動も見て取れた。
ありがたいことに、俺の存在が彼女の心の負担を減らす材料になってくれているようである。
半面、チェリーは俺と接する時間が減るという感じで危機感を持っているようだった。
ともあれ、こちらも丸く収まったのだった。
ミレーユもエルゼリアに移住して酒場を開くようだ。
理由はもちろん「愛しの彼氏クンがいるから♪」と、ウィンクをしながら言っていた。
当然、母から受け継いだ店を手放すことにショックがなかったかといえば噓になるみたいだが、あれだけ大きな戦いで命があっただけでもマシだと思っているようだった。
やはり、数々の経験を味わってきた夜の女性は逞しい。
サマンサのように大きなショックや、ラズベリーのような合理的に考えたのではなく、あくまでも俯瞰的に物事を見るのは、大人の彼女ならではの考え方なのかもしれない。
酒場の物と彼女の私物一式を、これまた俺のワープを使いエルゼリアの新『ビーナスビア』に手際よく運んであげた。
帰り際に「これからはレオくんも、もっと気軽に飲みに来れるわね♪」
と、少し強い圧で言われたのだった。
うーむ。どうやらエルゼリアで俺がいつも飲んでいる酒場に並々ならぬ対抗心があるらしい。
そして、ルーティア。
彼女含めガラテア王国の民たちは、アイスウッドの森の一角でガラテア王国を作ることになったそうだ。
とはいえ、国を移動するのは一苦労なようで、反対する国の民をなだめ、総動員で移住の手筈を整えて実行していた。
当然、移動自体はエルフに伝わるワープの魔法があるために苦ではないが、親しみのある森を離れるのはなかなか精神的に参るらしい。
キアラも「ドタバタが収まるまでは、パーティを離れてガラテアの手伝いをしたい」とのことで、一時的にパーティを離脱し、しばらくガラテア王国の再建に尽力している。
俺も、度々顔を出し、負担が大きいルーティア女王をたっぷり甘やかして癒してやる。
俺の胸に顔をうずめながら「レオ様……♡」と愛おしげに呼んでくる彼女をいつまでも抱きしめてやるのだった。
ルーティアとソフィア女王は旧知の仲らしく、ソフィア女王は「これでいつでも茶会が気兼ねなくできるの」とルーティアに微笑んでいたそうだ。
ガラテア王国とアイスウッド王国はお互いに助け合いながら、これからそれぞれの国を動かしていくようだ。
余談だが、冒険者グレゴ、そして魔道具屋『紫煙の白猫』のシャロンもエルゼリアに移住するらしい。
シャロンはスタンピードが起こった時、遠征して素材集めをしていたようで、帰ってきたら店が燃えて無くなっており、廃墟になったそれを見つめながら紫煙をくゆらせ、平然な顔で「……あらあら」と呟いたのだとか。
相変わらずの肝のでかさだ。
ローガンは奴隷たちを連れて、早々にルクシアを後にしていたようで、消息は分かっていない。
聞いた話では、王都近くに本店があるので、そこに移住したのではということだった。
ともかくこうして、ルクシア地方の住民たちは国中に散らばっていった。
始まりの町がこうした形で終わってしまったことは寂しいが、結果的に遠距離彼女たちとの距離が縮まり、悪いことばかりではなくなったのだった。
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