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指南前半戦 身体を鍛え、足固めをせよ
第11話 弟子の可能性を信じて
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メイリンを標高5,000メートルの広場に連れて7日目。
戦乙女の旅立ちを明日に控えたこの日、俺ことシンは信じられない光景を見た。
「フゥ、フゥ」
俺の後ろには、鎖を腰に巻いていないメイリンがゆっくりと歩いていた。
「本当に天才かもしれないな」
普通、この吹き荒れる広場を歩けるようになるまで最低でも1ヶ月はかかる。
俺でさえ、この広場を歩けるようになるまで6カ月は費やした。
そんな領域にメイリンは、たったの一週間で到達していたのだ。
最初は不可能を前提にこの特訓をつけていた。
視覚以外の感覚を意識させる癖をここでつけさせ、冒険者活動のなかで『諷』をメイリン自身で身につけさせる予定だった。
そしてこの特訓をメイリンに課す決め手となったのは、リーゼロッテが認めるほどの成長性に異常なまでの向上心だった。
つまりは、メイリンが俺をどこまで裏切らせてくれるかに興味が湧いたのだ。
「どうだ、メイリン? 今の空気の変動が読めたか?」
「ああ。読める。読めるぞ。世界が変わったみたいだ。リーゼロッテや先生は、こんな世界を歩いていたのか!」
メイリンは目を輝かせながら、歩くスピードを上げていた。
今こうして他愛もない雑談をしている間にも、メイリンはさらに成長している。
戦乙女の副リーダーとして、メイリン以上に相応しい人物はこの先現われないだろう……。
「無理するなよ!」
「分かっている!」
そしてメイリンはこの日の日没、風速20メートルの猛風の広場を鎖なしで1周した。
「出来た。出来たぞ、先生」
「ああ。本当によく頑張った。その不屈な精神を称賛し、これを褒美とする!」
俺は剣を抜き、空に一閃した。それは、キングミノタウロスを仕留めたあの一太刀。
空気の流れを感じ取る力をさらに極め、完成させたもの。
「これ、リーゼロッテがワイバーンを切り落したやつか!」
「空気とはそもそも高気圧から低気圧へと流れるもの。そして諷を極めれば、その気圧すら感じ取ることが出来る。その気圧差を突けば、このようにA級をソロで討伐出来る武器となる!」
そもそもメイリンは強くなるために、この特訓に自主的に参加した。その理由は単純にリーゼロッテだ。
彼女に近づく。
メイリンの向上心には常にそれがあった。
だからこそ、リーゼロッテの最大のライバルになってほしいという願いを込めて、俺はこの『颯』を褒美とした。
「これで……リーゼロッテの隣に並ぶ道筋は見えてきただろう?」
「最高。最高だ、先生。この特訓に参加してよかったぜ」
「さあ、急いで降りよう! 夕食をつくらないと!」
俺は弟子4人の未来に思いを馳せ、メイリンとともに道場へと下りた。
◇ ◇ ◇
夜は明日の旅立ちを祝し、いつもとは違う肉を取り出した。
それをゴロッと使い、麺汁をつくった。
「ジッー」
既にアンはスタンバっていた。詳しく言えば、俺が肉を取り出す時からずっとキッチンをのぞいていた。
手にはコップが握られている。
「飲むか」
「え、いいの?」
俺は肉を避け、汁のみをコップに入れた。すっごい不満そうな顔をしている。
「アン。先生の手を煩わせるな。大人しく席につけ」
「ぐびぃ、リーゼロッテさん。分かった。分かったよぅ……」
いつの間にか背後にいたリーゼロッテは、アンを連行していった。
「手伝いますか?」
アンと入れ替わる形で、ロロが入ってきた。彼女は21日目の時から、こうして料理を手伝ってくれている。
「じゃあ、鍋の方を頼もうか。俺はこれから蕎麦を打つから」
「分かりました。それにしても、すき焼きのうどんもですが、先生はどうして手打ちにこだわるのですか?」
「ジパングで手打ちそばをはじめて食べた時、衝撃を受けたんだ。それから俺はすぐ職人に弟子入りをしたよ。人の手でどうやってこんなに美味しいものをつくれるんだろうってな」
「意外ですね。先生でも弟子だった時ってあるんですね」
「探究心が存在する限り、常に『教え』がつきまとうものだ。『教え』を放棄すれば、人は育たなくなる。人が育たなくなれば、国は滅びるものだ」
俺は実際、何度もこの目で見てきた。いくら繁栄した国でも、『教え』を放棄すれば時代に取り残され、滅んでいく様を。
結局、人は死ぬまで未完のままなのだ……。
「……先生は不思議な人です。私たちより年下に見えて、その内は誰よりも大人びているんですから。先生は実際、いくつなんですか?」
「秘密だ。教えられるのは、先生は君たちに説けるくらいには生を経験しているということだけだ。それに、ミステリアスな男子というのも魅力的とは思わないか?」
「私はいいと思いますよ。……先生しかミステリアスさは似合わないですけど」
「貴重な意見ありがとう。さあ、蕎麦を茹でるからお皿を準備して! 今日はたくさん食っていけよ!」
この後、戦乙女たちは全員蕎麦をすすった。ただ、麺汁に入っている肉が実は古竜――S級の魔物――とネタばらしした時は、リーゼロッテとキューを除いた3人が吹き出していたが。
「ちょっ。そういうことを軽々しく言わないでくれ」
おいおい、3人とも。ここを旅立ったら、君たちで古竜のようなS級を討伐していくんだぞ。こんな所で怯えてどうする!
その後、アン、ロロ、メイリンは麺汁の古竜肉を遠慮がちに食べていた。一度食べたことのあるリーゼロッテやキューはパクパク食べていた。
俺はいつも、旅立つ弟子には蕎麦を振る舞うようにしている。
何故なら、弟子たちには長く生きて、内に秘めている可能性を限界までのばして欲しいからだ。
――弟子には、きちんと生を全うして欲しいのだ。
ーーー
[補足説明]
・颯
極めた諷で高気圧と低気圧の境を捉え、さらにその境に鋭くかつ疾い一太刀を入れることで、真空の刃を飛ばす。その威力は自然の力そのものを利用しているため、風属性の魔法を上回る。
この技が出来てはじめて、シンから極意を伝授される。
現時点ではリーゼロッテとシンが使用し、リーゼロッテはA休魔物のワイバーンを、シンは同じくA級魔物のキングミノタウロスを一撃で斬り伏せている。
戦乙女の旅立ちを明日に控えたこの日、俺ことシンは信じられない光景を見た。
「フゥ、フゥ」
俺の後ろには、鎖を腰に巻いていないメイリンがゆっくりと歩いていた。
「本当に天才かもしれないな」
普通、この吹き荒れる広場を歩けるようになるまで最低でも1ヶ月はかかる。
俺でさえ、この広場を歩けるようになるまで6カ月は費やした。
そんな領域にメイリンは、たったの一週間で到達していたのだ。
最初は不可能を前提にこの特訓をつけていた。
視覚以外の感覚を意識させる癖をここでつけさせ、冒険者活動のなかで『諷』をメイリン自身で身につけさせる予定だった。
そしてこの特訓をメイリンに課す決め手となったのは、リーゼロッテが認めるほどの成長性に異常なまでの向上心だった。
つまりは、メイリンが俺をどこまで裏切らせてくれるかに興味が湧いたのだ。
「どうだ、メイリン? 今の空気の変動が読めたか?」
「ああ。読める。読めるぞ。世界が変わったみたいだ。リーゼロッテや先生は、こんな世界を歩いていたのか!」
メイリンは目を輝かせながら、歩くスピードを上げていた。
今こうして他愛もない雑談をしている間にも、メイリンはさらに成長している。
戦乙女の副リーダーとして、メイリン以上に相応しい人物はこの先現われないだろう……。
「無理するなよ!」
「分かっている!」
そしてメイリンはこの日の日没、風速20メートルの猛風の広場を鎖なしで1周した。
「出来た。出来たぞ、先生」
「ああ。本当によく頑張った。その不屈な精神を称賛し、これを褒美とする!」
俺は剣を抜き、空に一閃した。それは、キングミノタウロスを仕留めたあの一太刀。
空気の流れを感じ取る力をさらに極め、完成させたもの。
「これ、リーゼロッテがワイバーンを切り落したやつか!」
「空気とはそもそも高気圧から低気圧へと流れるもの。そして諷を極めれば、その気圧すら感じ取ることが出来る。その気圧差を突けば、このようにA級をソロで討伐出来る武器となる!」
そもそもメイリンは強くなるために、この特訓に自主的に参加した。その理由は単純にリーゼロッテだ。
彼女に近づく。
メイリンの向上心には常にそれがあった。
だからこそ、リーゼロッテの最大のライバルになってほしいという願いを込めて、俺はこの『颯』を褒美とした。
「これで……リーゼロッテの隣に並ぶ道筋は見えてきただろう?」
「最高。最高だ、先生。この特訓に参加してよかったぜ」
「さあ、急いで降りよう! 夕食をつくらないと!」
俺は弟子4人の未来に思いを馳せ、メイリンとともに道場へと下りた。
◇ ◇ ◇
夜は明日の旅立ちを祝し、いつもとは違う肉を取り出した。
それをゴロッと使い、麺汁をつくった。
「ジッー」
既にアンはスタンバっていた。詳しく言えば、俺が肉を取り出す時からずっとキッチンをのぞいていた。
手にはコップが握られている。
「飲むか」
「え、いいの?」
俺は肉を避け、汁のみをコップに入れた。すっごい不満そうな顔をしている。
「アン。先生の手を煩わせるな。大人しく席につけ」
「ぐびぃ、リーゼロッテさん。分かった。分かったよぅ……」
いつの間にか背後にいたリーゼロッテは、アンを連行していった。
「手伝いますか?」
アンと入れ替わる形で、ロロが入ってきた。彼女は21日目の時から、こうして料理を手伝ってくれている。
「じゃあ、鍋の方を頼もうか。俺はこれから蕎麦を打つから」
「分かりました。それにしても、すき焼きのうどんもですが、先生はどうして手打ちにこだわるのですか?」
「ジパングで手打ちそばをはじめて食べた時、衝撃を受けたんだ。それから俺はすぐ職人に弟子入りをしたよ。人の手でどうやってこんなに美味しいものをつくれるんだろうってな」
「意外ですね。先生でも弟子だった時ってあるんですね」
「探究心が存在する限り、常に『教え』がつきまとうものだ。『教え』を放棄すれば、人は育たなくなる。人が育たなくなれば、国は滅びるものだ」
俺は実際、何度もこの目で見てきた。いくら繁栄した国でも、『教え』を放棄すれば時代に取り残され、滅んでいく様を。
結局、人は死ぬまで未完のままなのだ……。
「……先生は不思議な人です。私たちより年下に見えて、その内は誰よりも大人びているんですから。先生は実際、いくつなんですか?」
「秘密だ。教えられるのは、先生は君たちに説けるくらいには生を経験しているということだけだ。それに、ミステリアスな男子というのも魅力的とは思わないか?」
「私はいいと思いますよ。……先生しかミステリアスさは似合わないですけど」
「貴重な意見ありがとう。さあ、蕎麦を茹でるからお皿を準備して! 今日はたくさん食っていけよ!」
この後、戦乙女たちは全員蕎麦をすすった。ただ、麺汁に入っている肉が実は古竜――S級の魔物――とネタばらしした時は、リーゼロッテとキューを除いた3人が吹き出していたが。
「ちょっ。そういうことを軽々しく言わないでくれ」
おいおい、3人とも。ここを旅立ったら、君たちで古竜のようなS級を討伐していくんだぞ。こんな所で怯えてどうする!
その後、アン、ロロ、メイリンは麺汁の古竜肉を遠慮がちに食べていた。一度食べたことのあるリーゼロッテやキューはパクパク食べていた。
俺はいつも、旅立つ弟子には蕎麦を振る舞うようにしている。
何故なら、弟子たちには長く生きて、内に秘めている可能性を限界までのばして欲しいからだ。
――弟子には、きちんと生を全うして欲しいのだ。
ーーー
[補足説明]
・颯
極めた諷で高気圧と低気圧の境を捉え、さらにその境に鋭くかつ疾い一太刀を入れることで、真空の刃を飛ばす。その威力は自然の力そのものを利用しているため、風属性の魔法を上回る。
この技が出来てはじめて、シンから極意を伝授される。
現時点ではリーゼロッテとシンが使用し、リーゼロッテはA休魔物のワイバーンを、シンは同じくA級魔物のキングミノタウロスを一撃で斬り伏せている。
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