ヤバい剣術師範、少女たちを指南しながらのんびりと生活する

Ryu

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指南後半戦 天の剣を示し、伝えよ

第17話 シンの道と教え ――大帝国『アシリア』の崩壊およびSSS級冒険者の誕生

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 厄神『ハスタリスク』が消えて100年、俺たちは星の管理に努めていた。

 クピトは魔素の循環を管理するため、高生命力体ステラ・アニマの墓守を担うようになった。

 そんなクピトに対し、俺はジパングの職人たちに頼んで建てて貰った道場にて剣術を教えるようになっていた。

 クピトと話し合い、役割分担を決めた結果、この形に落ち着いたのだ。

 穏やかな日々だった。

 穏やかで、自分が何者であるかを忘れさせてくれるような日々だった。

 けれど、それはすぐに終わった。

「シンよ。アシリアが魔族領に戦争を仕掛けたようだぞ」

「……うそだ。うそに決まっている!」

 俺は耳を疑いたくなった。

 今や魔族領以外の国を一まとめにした大帝国『アシリア』。

 その国は、共に魔王と戦ったカグラがかつて統治していた国だった。

 脳裏に浮かぶのは、いつも俺に愚痴ぐちっていたカグラの姿だった。

 ――どうして戦わなきゃならないの。

 ――勇者になんで選ばれたの。

 ――私は普通の女の子で恋をしたかった。

 カグラは誰よりも平和を願っていた。

 ハワードが討伐され、支えを失った魔族たち。

 そんな彼らに女帝カグラは俺とともに真剣に向き合い、魔族領に蔓延した問題の解決に助力を尽くしていた。

 俺は『純陽尸解じゅんようしかい』をとり、アシリアへとおもむこうとしたが、クピトに止められる。

「そこをどけ!」

「……忘れたか、シン。主は創造神の神使しんしだ。星の管理をする者がむやみやたらに生命を斬り捨てるなど、創造神が黙っておらぬぞ!」

「斬り捨てはしねぇ! アシリアの現皇帝の面を拝みに行くだけだ!」

「そんな殺気を放っておいて何を言う! 頭を冷やさんか!」

 俺は今、困惑と怒りでごちゃ混ぜだ。

 クピトはそんな俺を落ち着かせようとしている。

 そんなことは分かっている。だったら、この気持ちはどこにぶつければ……。

「先生。私に任せてください」

 俺にそう話しかけてくれたのはリンネ。

 8代目勇者で、道場を開いて以来の天才娘だった。

 彼女の燃えるような赤髪は、かつてのカグラを彷彿ほうふつとさせた。

「ほれ。リンネもそう言っておる。彼女に行かせてやれ」

「……頼んだぞ、リンネ」

「はい。先生」

 リンネは自信満々に胸を叩き、颯爽さっそうと戦場に向かった。

 俺はリンネ、そして、魔王初の弟子である3代目魔王ビータに託し、殺気を引っ込めた。

 数日後、俺はリンネの手紙を見て衝撃を受けた。

 ――アシリアの現皇帝が大陸統一をたばかり、魔族領に軍を送ったこと。

 ――攻撃を受けた魔族領は、防衛戦を仕掛け、アシリアと衝突したこと。

 ――リンネは戦争の発端がアシリアと知り、魔族側に味方したこと。

 ――戦争を終わらせ、リンネは現皇帝から帝位を奪取し、魔王と協力してアシリアの癌を一掃するつもりであること。

 俺は『時の移り変わり』という残酷さを理解させられた。永く生きたせいで、時に対する感覚が麻痺まひしていた。

 俺が改めて、自分は人ではないことを思い知らされた時、強大な力を感じ取った。その方向は大帝国『アシリア』からだった。

「シン。今すぐ向かうぞ!」

「当たり前だ! この気配、厄神と似たナニカ! リンネたちでは手に負えねぇぞ!」

 俺はクピトの背に乗り、超特急でアシリアと向かった。

 遠くに見える戦場は地獄絵図だった。

 アシリアは炎に包まれ、悲鳴が木霊していた。

 そして、戦禍の根源は禍々しい笑顔でわらっていた。

「ほう。この魔神『ナイラトホテップ』に反抗するゴミがまだいたか」

 やめろ。

 やめてくれ、リンネ、ビータ。

 俺が到着するまで立ち向かうな。

 頼む。

 頼む。

 逃げてくれぇぇぇぇ!!!

 しかし俺の言葉は弟子に届かず、リンネとビータはナイラトホテップに立ち向かい、奴の放った業火に焼かれていった。

 ――黒焦げになった2体の死体を残して。

「フハハハハ。無駄な足搔きをするから、こうなるのだ。さて、同胞をほふった奴らは……いた。いたぞ。よくもワタクシの同胞を倒してくれたな。ワタクシは貴様らに復讐ふくしゅうするため――」

「黙れよ……」

 俺は気づけば、緋色に輝く力――鬼力きりょく――を全開放していた。

 轟轟ごうごうたる音を響かす鬼力は気流を巻き込みながら天へと上昇し、

「はっ!? 正気か!? 、生きていられるわけがなかろう!」

「……しゃべるな、砂利じゃりが」

 生物たちはクピトがなんとかしてくれるだろう。

 だから俺は……。

 俺は……。

 すべてを0にする……。

「よせ、シン! 聞こえておらぬのか!? くそっ、どうなっても知らぬぞ!? ワールド・テレポート!」

 リンネやビータ俺の弟子たちを殺し、否定する魔神砂利も……。

 カグラ・アシリア俺のパートナーの威光を空想に追いやり、踏みにじる腐敗した大帝国裏切り者どもも……。

 ごめんな……カグラ……。

 後でここに……を……もう1度つくるから。

仙鬼天果流せんきてんかりゅう九大境界くだいきょうかい天劫渡劫てんごうとこう!!!」

 雷雨を纏った天災の剣。

 俺はそれを無慈悲に振るった。

「ば、馬鹿なぁぁぁ!」

 この日、世界で未曽有の大規模風水害が起こった。

 これにより、魔神『ナイラトホテップ』は跡形もなく消し飛び、大陸の7割を占めていたアシリアは滅亡した……。

 ――声を殺して涙を流す1人の少年によって。

 それから200年、アシリアだった土地に新たな3国が建国された。

 王国『ペルシーア』、魔法国『ティツール』、聖国『ライオス』。

 特に王国『ペルシーア』は、カグラがいた時の帝国を再現させたものにした。

 これからは、俺たちの意志を継いだ勇者と剣聖が、かつてカグラのいた輝かしい国を守るだろう。

 ――『ペルシーア』を失くさないために。

 それぞれの3国の王、および新たな魔王は俺に頭を下げ、俺とトップらとの間で決まり事をつけた。

 魔族領、王国、魔法国、聖国の間で不可侵条約を締結すること。

 俺を国では手に余る存在としてSSS級冒険者にすることで、恐慌状態および軋轢を防ぐこと。

 俺と国は互いに干渉しないという中立盟約を締結すること。

 これらが実現してようやく、俺はかつてののんびりとした日々へと戻っていった。

 ――国を滅ぼした大罪を背負いながら。

 ――弟子をこれ以上、戦いなどの理不尽で死なせないよう指南するという決意を抱きながら。

 ◇ ◇ ◇

「以上が、俺の歩んできた道だ。俺は国を滅ぼし、歴史に畏怖を刻み込んだ大罪人だ。俺は本来……この世界で生きることを許されない存在……なんだ。だから……」

 今を生きている者たちに託すことしか、俺にはできない。

 弟子に天寿を全うすることを願うことでさえ、今の俺には贅沢ぜいたくな願望だ。

 沈黙が続き、時間が少し経過した。

 弟子たちは涙を流しながら俺に近づき、ただそっと抱きしめた……。

「今まで……ご苦労様です。先生。自身を卑下ひげしないで下さい。少なくとも、ここにいる私たちは先生の味方です」

「もう許されてもいいはずです。世界が許さなかったら、お姉ちゃんが許してあげるから」

「魔法は、先人たちがいてはじめて可能な力。そのきっかけをつくったのは、先生。むしろ、立派な功労者」

「ボクは、どこかで今の戦いを甘く見ていた。その時点で、勇者失格だった。先生に託されたペルシーアでさえ、今は昔のアシリアに成り下がって……。大罪人なのはむしろ、ボクたちの方だよ」

 リーゼロッテ、テレジア、マリン、クレアは自分の気持ちを吐露する。

 俺の話を聞き、彼女たちがどう生かしていくかは彼女たち次第だ。

 俺は今でもルルーリエ馬鹿弟子を含めた弟子たちを信じている。

 そんな弟子たち4人は俺から離れると、口を揃えて頼み込んだ。

「もう1度稽古をつけてください」

 俺の勝手な生き様を耳にしても、弟子たちは俺を信じてくれた。

 もし俺にわがままを許してくれるのならば、俺はもう大切な者たちを下手な理由で失いたくない。

 俺のしてやれることは全部、やっておきたい。

 稽古をつけて欲しいならば、いくらでもつけよう。

 弟子の頼みなら、叶えられる範囲で聞いてあげよう。

 愚かな繰り返しを、終わらせるために。

ーーー

[要約]

①500年前
・大帝国『アシリア』が大陸統一を謀り、当時の魔王ビータが治める魔族領に戦争を仕掛ける。
→魔族と大帝国で戦争が勃発。
・シンはカグラの意志を貶す現皇帝を殺そうとするも、クピトに止められる。
→当時の勇者リンネが先生を宥め、シンはリンネに託す。
・リンネは戦争を終わらせようと、魔族側の味方をした。
・魔神『ナイラトホテップ』が突如出現し、戦禍を拡大。さらに、シンの目の前でリンネとビータを焼き殺す。
・シンが怒り、雷雨を操った一撃で魔神を討伐するとともに、腐っていた大帝国『アシリア』を滅亡させる。

②300年前
・王国『ペルシーア』、魔法国『ティツール』、聖国『ライオス』が建国される。
・二度と戦争を起こさぬよう、シンと国のトップらの間で様々な取り決めを定めた。
→国どうしにおける不可侵条約の締結、シンのSSS級冒険者昇格、シンと国における中立盟約の締結。

[補足説明]

1.リンネ

500年前の8代目勇者。その容姿はカグラと瓜二つ。

リンネという名前は、シンに『創造神の神使になった理由』を思い起こさせる。

2.ビータ

500年前の3代目魔王。ルル―リエの祖先にあたる。

ビータはラテン語で『生命』という意があり、シンに『創造神から受けた使命』を思い起こさせる。
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