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第六章 戦乱の京

閑話1 バラン

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 陰陽京住宅地。
 大蛇が暴れ狂ったその地は家屋が全て倒壊し瓦礫の山となっていた。

 今現在そこには人は一切おらずゴーストタウンとなっている。陰陽師や住民たちはまず被害の少ない地の復興から始めているため誰もいないのだ。

 しかしそんな中でただ一人だけ動く姿があった。
 その人物は瓦礫の山の中で何かを探しているようだった。瓦礫を持ち上げ遠くに投げ捨てるを繰り返して瓦礫の山を掘り進んでいる。
 そこだけ聞けば普通にことかもしれないが持ち上げる瓦礫の大きさが普通ではなかった。なんとその人物は自分より大きな瓦礫を片手でひょいと持ち上げ、数十メートル後方へ投げ捨てていたのだ。
 明らかに普通ではないその人物だがそれに気づく者はいない……かと思われていたがその人物に近いてく男がいた。
 鋭く伸びたボサボサの茶髪。獣のように獰猛な眼光と狼のような鋭い牙。体躯はそれほど大きくないが硬く引き締まっており戦闘能力の高さがうかがい知れる。

 その人物はかったるそうに瓦礫をあさる人物の元へ行くと足を止め話しかける。

「おいアルデバラン、いや今の名前は芭蘭だっけか? こんなとこで何やってんだ招集がかかってんのによう」

「おやおやわざわざこんなとこまで来てもらって悪いねプロキオン。もうちょっと待ってくれるかい? ちょっと探し物があってね。それと呼び名は元に戻していいよ。もう芭蘭は死んだからね」

 そう言って芭蘭、もといアルデバランは瓦礫を掘り返す作業に戻る。
 一つ一つ瓦礫をどける作業にイライラしたのかそれを見るプロキオンは貧乏ゆすりを始める。

「なあ、俺も手伝おうか? こんな瓦礫一瞬で更地にしてやるぜ」

「君がやる気になったらここら一帯吹き飛んでしまうよ。もうすぐ終わるから大人しく待っててくれるかい?」

「チッ! わーったよ」

 プロキオンは渋々納得し近くの瓦礫に腰を下ろしアルデバランの作業を見守る。

「それにしてもお前がしくじるとはな。魔王様も思ったよりやるみたいだな」

「ふふ、僕たちの計画が順調な証拠さ。確かに僕の分身体がやられたのは痛手だけどそれ以上の収穫はあったよ」

 話をしながら作業を続けるアルデバランはやがて目当ての物を見つけその手を止める。

「お、ようやく見つけたよ。うん、状態もいいね」

「いったい何をそんな必死になって探していたんだ?」

 それに気づいたプロキオンも近づいてソレを確認する。
 そこにいたのは人間。それも老人だった。

 その老人は一切衣服を身にまとっておらず、いわゆる全裸なのだが問題はそこではない。
 その老人の皮膚の8割近くは醜く焼けただれており、ところどころは炭化してしまっている。
 胸がすこし上下運動をしているため奇跡的に生きてはいるのだろうがそれももう長くはもたないだろう。

「こんな死にかけの人間どうするつもりなんだよ」

「ふふ、彼はこの京での実験の集大成なのさ。ほら、ここを見てごらん」

 アルデバランの指差す方を見てみると老人の臀部から3本目の足のようなものが生えていた。

「これは……尻尾か?」

 その尻尾と思わしき部位にはまるで爬虫類のような鱗がびっしりと生えていた。
 いや尻尾だけではない。よく見れば焼け焦げた体のあちこちに鱗が生えていた。

「そう、普通の人間だと体の急激な変化に耐えきれないんだけど彼だけは耐え抜いたみたいだね。よほど永遠の命が欲しかったんだね」

「は、永遠の命なんざ別にそんないいもんじゃねえのにな。愚かな奴だ」

「そこが可愛いんじゃないか。愚かで救い難い、だから彼らは面白いんだよ」

「まったく理解できねえわ。とにかく目当ての物が見つかったならさっさと行くぞ。俺まで怒られちまう」

「ああ」

 アルデバランは返事をするとその老人を担ぎプロキオンの元へ向かう。

「そうそう俺も最近面白い女を見つけたんだぜ。俺の因子にも耐えられてるし良い感じだ」

「それは楽しみだね。早く会いたいよ」

 こうして二人の謎の人物は誰にも気づかれることなく陰陽京を去って行ったのだった……
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