スキル「共感覚」のおかげで最強の魔法使いになったので魔人を集めて魔王になることにしました 〜最恐魔王の手さぐり建国ライフ!〜

熊乃げん骨

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第七章 憤怒の果てに

第1話 変わる世界

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 俺の運命が変わったその日。
 その日の朝はとても穏やかなものだった。

 いつものように目覚めた俺はコーヒーを淹れ、資料を読みながら朝食をとる。
 目を通す資料にはここ最近魔王国で起きた事件などが書かれており、場合によっては俺が直接解決に赴くこともある。

 手短に朝食をとり終えた俺は魔王城に向かう。
 政治関係に関しては本体の俺に任せているので、俺はもっぱら異世界の研究に精を出している。

 異世界から来た者達、「来訪者《ビジター》」からはこの世界には無い特殊な波長を出ていることが最近分かった。
 その波長を辿り異世界と繋がる門を探そうとしているのだ。

 その研究のため俺は共に研究をしている賀々山の元へ向かった。

「よう賀ヶ山。進んでるか?」

「……おはようございます、ジーク様。研究は順調です」

 賀ヶ山は機械をいじる手を止め俺に向き直る。
 なんかいつもより暗いな。嫌なことでもあったのだろうか。

「どうした? 元気ないじゃ無いか」

「い、いえ。なんでもありません。それより例の件ですが……」

 賀ヶ山は取り繕うようにして誤魔化すと話を研究にスライドする。
 まあ話したく無いなら無理には聞かないが、研究狂のこいつが悩みなんて珍しいな。
 少し気になるがまあいいか。

「……でこの波長が色濃く検知できたのはこの海域であり……」

 研究結果を発表している姿にもやはりいつものような熱気がない。
 どこか上の空。そんな風に感じる。

「であるからして……いや、こんなの私らしくないですね」

 賀ヶ山は何か決心したような表情をすると話を打ち切る。

「よく聞いて下さいジーク様。ここにいては危険です。すぐに逃げてください」

 真剣な顔で賀ヶ山は意味のわからない事を言う。
 逃げる? 俺が? ここから?
 いったい何故?

「おいそれってどういう……」

「詳しい事は私にも分かりません。しかし今朝魔王城の各員に通達が来たのです。あなたに裏切りの疑いが有り捕縛せよとの通達が」

 裏切り? 俺が?
 意味わからん。なんで俺が魔王国を裏切らなければいけないのだ。
 自分の作った国だぞ。

「この件には魔王様も関わっているでしょう。ゆえに戦闘力皆無の私ではお力になれません。幹部の方達もどれだけあなたの力になってくれるか……」

 仮初めの体である俺と本物の肉体であるもう一人の俺。
 どっちの命令を聞くかなんて火を見るより明らかだ。なんて厄介な……

「すでにこの部屋は囲まれているでしょう。出て行ったところを捕まえる、私はそういう作戦だと伝えられました」

 なんてこった。すでに袋の鼠ってわけか。
 こうなったらなんでこんな風になったのかもう一人の俺を問い詰めなきゃ事態は解決しないだろう。
 しかし捕まった状態で会っても無駄だろう。会うなら対等な状態じゃないとダメだ。
 最悪捕まったら会う間も無く処分される可能性すらある。

「まずは囲まれてるこの状況を脱しないとな……」

「でしたらこの抜け道をお使いください。魔王城の城外まで繋がっております」
 賀ヶ山が机に置かれているスイッチを押すと本棚の一つがスライドし小さな抜け穴のようなものが現れる。
 ……こいついつの間にこんな改築してやがったんだ。

「恩に着る。それにしてもなんで俺の味方をしてくれたんだ?」

 俺に力を貸したことがバレれば何かしらの処罰を受けることにはなるだろう。
 それなのになぜリスクを侵してまで逃がしてくれたのか。こいつとは研究仲間ではあるが別にプライベートの付き合いはないというのに。

「……簡単な話です。最近の魔王様は私の研究にあまり興味を示してくれないんです。そんな中あなたまで失ったら私は誰に研究結果を発表すればいいんでしょうか?」

「……ぷっ。お前はやっぱり根っからの研究バカだな。いいぜ、この件が片付いたらお前の話にいくらでも付き合ってやるよ」

「それは素晴らしい。楽しみに待ってますよ」

「ああ。気をつけろよ、今のあいつは何するか俺でも分からねえからな」

「ジーク様こそお気をつけて。ご武運をお祈りしております」

 俺と賀ヶ山は力強く頷き会い、別れるのだった。




 ◇



 ジークが賀ヶ山と別れて数分後。
 研究室に魔道具で身を固めた戦闘員たちがドタドタドタ! と入ってくる。

「目標確認できません! 至急城外及び城内の捜索を要請します!」

 部屋に突入した戦闘員が通信用魔道具で目標、つまりジークが消えたことを他のチームに報告する。
 そんな中、突入部隊のリーダーを任されたフーゴが優雅にコーヒーを飲む賀ヶ山に詰め寄る。

「賀ヶ山、目標の姿が見えないが」

「ああ、そうだな。不思議だな」

「……無意味な問答はやめたまえ。いったいどこへ逃がしたんだい?」

 二人の間の空気がピリつく。
 気まずい沈黙を先に破ったのは賀ヶ山だった。

「もし私が逃がしたとしたらどうすると言うんだ? 粛清でもしてみるかね?」

「その判断は魔王様のみぞ知る。魔王様がそう判断したなら従うまでだ」

「はっ、味方を匿ったら粛清とは生きにくい国になったものだ」

「それ以上は……やめた方がいい。私も仲間に剣を向けたくはない」

「はいはい。大人しく捕まりますよ」

 立ち上がり両の手を差し出す賀ヶ山。
 その動きに迷いはない。

「賢明な判断感謝するよ。その調子でどこに逃がしたか教えてくれると助かるのだが」

「くくく、せいぜい頑張って喋らせてみたまえ」

 連行されながら賀ヶ山はジークが逃げた隠し通路を見ながら祈る。

「私に出来るのはここまで。後はお願いします」




 ◇




「……ったく、一体どうなってんだ」

 賀ヶ山に教えてもらった抜け道を歩きながらぼやく。
 確かに国から離れがちだったが裏切りを疑われるような一切してないはずだ。

 だとしたら考えられる理由は一つ。

「俺の存在が邪魔になったのか……?」

 それなら合点がいく。
 何かしらの理由で俺が邪魔になったので俺が裏切ったことにして処分しようってことだ。

 しかし邪魔になった理由が分からん。
 これでも結構成果は出しているつもりなのだが。

 それに相談してくれれば元の体に戻ってもいいというのになんでこんな強硬手段に出たのだろうか。

 まあいくら考えても分からんもんは分からん。どうにかして俺に直談判するとしよう。

「お、出口が見えてきた」

 薄暗い通路の突き当たりに扉が現れる。
 慎重にその扉を開けてみると魔王城の裏手に出た。なるほどここなら逃げるのに最適だな。

「待っておったぞ。主人どの」

 扉を開けた先で待ち受けるかのようにそこにいた人物。それは俺もよく知っている人物だった。
 燃えるような赤い髪にルビーのような瞳。
 少女のような幼さを残しながらも妖艶さを併せ持つ不思議な女性。
 その名はテレサ。魔王軍幹部の一人だ。

「……こうして顔を合わせるのも久しぶりだな」

「そうじゃな。もう一人の主人どのにはちょくちょく会っとるのじゃがの」

 俺は臨戦態勢を取りながら様子を伺う。
 敵か味方か。まずはそれを見極めなくては。
 しかし事態はそれを許してはくれなかった。

「いたぞ! あそこだ!」

 魔王国兵士の一人が俺を見つけたらしく声をあげたのだ。
 まずい。今背を向ければテレサに隙を晒すことになる。

「はあ、こんなんじゃろくに話も出来んの。紅玉の雨ルビーレイン

 テレサが魔法を唱えると兵士達目掛け無数の小さな赤い宝石の雨が降り注ぐ。

「……へ?」

「ほれ、早く逃げるぞ主人どの。こっちじゃ」

 呆けてる俺の手を掴みテレサは逃げるように促す。

「お、お前は俺の味方なのか?」

 俺がそう聞くとテレサは「かかっ」と笑うと悪戯好きそうな笑みを浮かべ言った。

「当たり前じゃ、わしが敵になるわけないじゃろ?」

 その言葉は、疑心暗鬼になっていた俺の心を優しく温めてくれたのだった。
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