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第12話:真犯人。

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俺はひとつ気になっていたことがあった。

それは柏原が言っていた、大光商事の闇金の話だ。
向田のえげつない取り立てで逆恨みしてるやつがいるんじゃないかって話・・・。

下町の町工場なんかは最近の不景気で業績が落ちて、工場を存続できずに
やめてしまう会社も増えている。

一部の会社は設備投資して、なんとか仕事にありつこうとがんっばってる
会社もある。
その設備投資にはとうぜん金が掛かるわけで、そこで登場するのが闇金。

この不景気で銀行はなかなか融資はしない。
設備投資ったって一台機械を導入する費用に何千万かはかかるだろう。
自治体の援助金なんか屁のつっぱりにしかならない。
だから、闇金で金を借る。

そこで俺は最近、潰れた会社がないか調べてみることにした。
スズはパソコンで情報を収取し俺はオリーブに乗って下町を駆け回った。

そうして一軒の工場で、貴重な情報を得た。

なんでもその工場が懇意にしてた同業者が設備投資に失敗して倒産した
って話だ。
工場の名前は「藤原精工所」
とうぜん社長さんの名前も藤原「藤原 耕三ふじわら こうぞう

奥さんの名前は「藤原 依子ふじわら よりこ
藤原さん夫婦には大学生の息子がひとり。
息子の名前は「藤原 匠ふじわら たくみ

設備投資のため、他の工場と同じで大光商事から借金。
だが、思ったより受注が伸びず、借金はふくらむばかり・・・。

とうぜん大光商事から、毎日のように取り立ての催促が来てたらしい。
その取り立てに来てたのが、向田 恭二むこうだ きょうじ

大光組・・・向田の取り立ては執拗に社長を追い立てて脅し、恐喝、
いやがらせ・・・それは酷かったらしい。

で、あげくの果てに社長は責任をとって首を吊った。
借金苦の自殺だったらしい。
藤原さんが首を吊ってるのを見つけたのが息子の匠だった。
すぐに救急車を呼んだらしいが、手遅れだったみたいだ。

残された奥さんと息子にとって恨んでも恨みきれないのは向田 恭二と大光商事。

その話・・・俺は怪しいと思った。
借金による逆恨み・・・ありえると思った。

でも、俺が動けるのはそこまで。
この情報だけ警察に提供して、あとはタカさんに任せることにした。

で結局、向田をやったのは、藤原 匠だと言うことが分かった。
犯人は藤原家のひとり息子だった。

彼の事情聴取によると、たまたま向田が殺されたその日、匠は偶然にも
あの公園の前を通りかかったんだそうだ。

そしたら男ふたりが、モメてる現場に遭遇した。
公園の照明の下に浮かび上がった男のひとりが、あの恨んでも恨みきれない
向田だった。

でも、もうひとりの男がナイフを出して向田に迫っていたみたいだったが、
逆に男は向田の返り討ちあって殴られて蹴られて逃げるようにしてその場を
立ち去った。

向田は、相手の男を、さげすむように、ほくそ笑いながらタバコに火を
つけたらしい。
それを見た、匠は向田に、ひとことでも恨みつらみを言って、ののしって
やろうと公園へ入っていった。

で、向田の前に男が落としたナイフを見つける。
その時だった、そのナイフを見た瞬間、匠の心は壊れた。
で、落ちていたナイフの柄をハンカチでくるんで向田めがけて走った。

向田は匠にいきなり襲われて、よける間もなく心臓を刺された勢いで
茂みまで飛ばされて絶命した。

それが今回の事件の真相だった。
匠が偶然公園を通らなかったら、起きなかった事件でもあった。
しかし、事件なんてそんなもんなんだろう。
誰もが自分の衝動以外に、なにかに突き動かされて思わぬことをやってしまう。

その後、犯人が捕まったことがニュースで流れた。
そのニュースを見たからなんだろう・・・ズズの親父が警察に自首してきた。
スズの親父のしたことは一応は殺人未遂になる。
殺人未遂罪の法定刑は、殺人罪と同じだ。
すくなくとも5年以上は服役することになるだろう。

弁護士がつくだろうし、情状酌量の余地もあるだろうから、思ったより
罪は軽くなるかもしれなかった。

すずの親父が出頭してきたって言うんで、俺とスズはすぐにオリーブに乗って
警察に向かった。
タカさんに頼み込んでスズと親父の面接をお願いした。
で、一応スズとスズの親父との面接は、短い時間だったが許された。

つづく。

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