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神剣に選ばれし者と深淵神③
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その場にいた何千人と言う人間が無言になり、訓練場は瞬く間に静寂に包まれた。
何が起こったのか分からない。
グリードが渾身の一撃を放とうと剣を振り上げた刹那、気が付けば次の瞬間にはグリードが鮮血を噴き出していたのだ。恐らく……いや、間違いなくグリードを斬ったのはヴィルであった。それ以外到底有り得ないと誰もが分かってはいたものの、全員目の前の光景に呆気を取られ正常に処理が働いていなかった。
上半身を深々と斬られたであろうグリードはゆっくりと膝から崩れ落ち、そのまま仰向けに地面に倒れ込む。
「……がッ……!」
「ハハハハ、これが王国最強と謳われた父さんの実力なの? 弱すぎるね」
倒れる実の父をまるでゴミを見る様な視線で見下すヴィル。ヴィルはそんな父を見下しながら視線を少し横にズラす。そこにはグリードの手から離れた神剣ジークフリード。ヴィルはゆっくりと落ちている神剣ジークフリードに近付くと、そのまま剣を拾い上げた。
「コレが神剣ジークフリードか。いいねぇ。父さんに勝った記念に、この剣は俺が貰うよ。アンタはここでお終い。ゆっくり休んで」
そう言うと、ヴィルは新たに手にした神剣ジークフリードを既に深手を負っているグリードの右腕目掛けて突き刺した。
「ぐあぁぁぁぁッ……⁉」
「な、何をしているんだヴィルッ!」
「おい! 早く仕合を止めろ!」
ヴィルの思いがけない行動に、訓練場は瞬く間に騒がしくなった。誰かの声によりふと我に返った立会人が慌てて仕合を止めようと2人の元に駆け寄る。しかしその立会人はヴィルの一睨みで体が委縮し動きを止めてしまった。
彼を睨むヴィルの冷酷な目が訴えかけている。
“邪魔をするなら殺す”と――。
余りに禍々しい殺意を向けられた立会人はただただその場で体を震わせる事しか出来ない。そして、再び視線をグリードに戻したヴィルは突き刺した剣を勢いよく引き抜くと、そこから耳、左腕、太股、足……と次々にグリードの体の至る所を剣で突き刺したのだった。
断末魔の叫びを上げる父グリードに対し、微塵の躊躇いなく剣を突き刺し続けるヴィルの姿はまるで悪魔。ヌチャヌチャと肉を切り裂く音とヴィルの高笑いだけが訓練場に響く。
仕合を観戦していた団員達は、ヴィルのその恐ろしい行動と彼から発せられている悍ましいオーラに完全に思考と体が停止し動けなくなってしまっていた。
時間にして約10秒程であろうか。
ヴィルが5、6度グリードの体に剣を突き刺した所で、呆気に取られていた七聖天の面々が一斉にヴィルを止めに入った。
「何やってんだよテメェッ!」
「あれ、もう終わりなの?」
「グ、グリード大団長……ッ⁉」
「ヤバいぞこれは。早く傷を塞いで回復させるんだ」
「まだ息はあります! 急いで下さいッ!」
「おいユリマ! お前こうなる事分かっていたなら何で止めなかったんだ!」
「これは私の視た未来とは違います……! もしかして――」
場が異様な慌ただしさに包まれたと同時、七聖天のユリマはふと時が止まった様に冷静になると、彼女は無意識の内にヴィルに視線を移していた。
(もしやこれは深淵神アビスの影響? 私が視た未来よりもかなり時期が早くなっていますね……。私も急がなければ)
この時、唯一この世界で起きている全てを知るユリマのみが事態を把握する事が出来た。
いや、正確にはユリマと“もう1人”。
「なぁんだ、本当に終わりなんだね。詰まらないなぁ。でもこれからもっと楽しめるんだよね、“アビス様”?」
『ええ。私と共にいればもっと貴方を満足させてあげられる。来るべき日は近いわ――』
訓練場が騒ぎに包まれる中、不敵な笑みを浮かべながらヴィルと“深淵神アビス”が言葉を交わしていた事に誰も気付く者はいなかった――。
「思った以上に出血が酷いぞ!」
「早く処置をしろッ!」
異様な空気に包まれた訓練場。そこからはただ全員がグリード大団長の無事を願い続け、静かにその日は終わりを迎えたのだった。
♢♦♢
~リューティス王国~
ヴィルとグリードの決闘から数日後。もう剣士としての復帰はおろか、日常生活でさえも困難を極める体となったしまったグリードは大団長の座を退いた。この数日間七聖天のメンバーや他の団長達からも様々な意見が飛び交ったが、最後は国王の一言によって正式にヴィル・レオハートが新大団長の座に就く事が決められた。
国王も確かにヴィルに対して疑念を抱いたのは間違いない。だがそれと同時期、既に世界の至る所でこれまでに見た事がないモンスターが出現しているとの情報が相次いでいてた。世界はそれを“終焉”と呼び出し、深淵神アビスの強まっている事を一早く感づいた白銀のモンスター……獣天シシガミことハクは国王に直談判し、世界の未来を全て告げていたのだ。
だがこの交渉は決裂する。
国王の迷える決断を促したのは他でもないヴィル・レオハート。そして彼と何時からか密かに行動を共にしていた、全ての元凶である深淵神アビスだった。
ハクが国王の元に訪れる前日、ヴィルは深淵神アビスの存在や3神柱、リューティス王国の歴史やこれから起こり得るであろう未来の話をしていたのだ。ヴィルから全ての話を告げられた国王は半信半疑でもあったが、リューティス王国が衰退してしまうという道だけは絶対に避けたかった。
国王は自身とリューティス王国の無事を約束すると、ヴィルと深淵神アビスと心中する事を決断したのだった。
後に訪れたハクを終焉の元凶とし、国王は七聖天や騎士魔法団員全てに偽りの情報を伝えた。全ての悪はハクと3神柱という存在であると。国王は真実を闇に葬ったのである。
それから更に強まった深淵神アビスの力によって、終焉の影響は目まぐるしい早さと勢いで世界に蔓延っていった。それと同時にヴィルと深淵神アビス、更にハク、イヴ、ドラドムート。そして世界を救う運命を託されたグリム、エミリア、フーリンといった様々な存在の運命と思惑が複雑に絡み合い、実に数百年前から動き出していた全ての歯車が今まさに重なったのである――。
♢♦♢
~リューティス王国・王都~
そして現在――。
「何か兄さん急にやる気になったみたいだね。まぁそっちの方が俺も楽しいからいいけどね! ハッハッハッハッ!」
ヴィルは得意の高笑いを響かせると、配備していた団員達に突っ込んで来るグリムとフーリンを見てとても満足げな表情を浮かべていた。何やら嬉しそうなのが手に取る様に分かる。直ぐ側にいたジャンヌとデイアナもそれには気付いている。
「アイツらを殺せば全て終わりなんだよな?」
「そうだよ。あ、兄さんに手を出したらお前でも許さなッ……「分かってるっつうの。サイコパスのお前の邪魔をする気もなければ、俺にはあの兄さんも興味ない。逆にあっちの槍男は俺が貰うぜ」
「話が早くて助かるよジャンヌは。俺も槍の方は全く興味ないから好きにしてよ」
「ちょっと。アックスとローゼン神父は深手で動けないって聞かされたけど、カルは何処に行ったの? まだ今日姿を見ていないけど」
そう言ったデイアナはカルがいないか辺りを見渡していたが、やはりカルの姿は何処にもなかった。ヴィルとジャンヌも彼の行方は知らないとの事。それ以前にヴィルは既に気持ちがグリムだけに向いていた。他の事なんてどうでもいいのだ。
「あっちにいる杖を持った女の子だけならまだしも、邪神が一緒となると私では無理よ。認めたくないけどその実力差はラドット渓谷で痛感させられているから」
「だったらその時より数引き連れて行けばいいだろ。今はこうして戦力を王都に集めたんだからよ」
「それはそうかもしれないけど……」
「別に無理に倒しに行かなくてもいいんじゃないデイアナ。俺が兄さん殺した後でどの道全員消すからね。さぁ、俺達もお楽しみと行こうよ――!」
こうして、ユリマの処刑が掛かった王都での決戦が幕を上げたのだった――。
何が起こったのか分からない。
グリードが渾身の一撃を放とうと剣を振り上げた刹那、気が付けば次の瞬間にはグリードが鮮血を噴き出していたのだ。恐らく……いや、間違いなくグリードを斬ったのはヴィルであった。それ以外到底有り得ないと誰もが分かってはいたものの、全員目の前の光景に呆気を取られ正常に処理が働いていなかった。
上半身を深々と斬られたであろうグリードはゆっくりと膝から崩れ落ち、そのまま仰向けに地面に倒れ込む。
「……がッ……!」
「ハハハハ、これが王国最強と謳われた父さんの実力なの? 弱すぎるね」
倒れる実の父をまるでゴミを見る様な視線で見下すヴィル。ヴィルはそんな父を見下しながら視線を少し横にズラす。そこにはグリードの手から離れた神剣ジークフリード。ヴィルはゆっくりと落ちている神剣ジークフリードに近付くと、そのまま剣を拾い上げた。
「コレが神剣ジークフリードか。いいねぇ。父さんに勝った記念に、この剣は俺が貰うよ。アンタはここでお終い。ゆっくり休んで」
そう言うと、ヴィルは新たに手にした神剣ジークフリードを既に深手を負っているグリードの右腕目掛けて突き刺した。
「ぐあぁぁぁぁッ……⁉」
「な、何をしているんだヴィルッ!」
「おい! 早く仕合を止めろ!」
ヴィルの思いがけない行動に、訓練場は瞬く間に騒がしくなった。誰かの声によりふと我に返った立会人が慌てて仕合を止めようと2人の元に駆け寄る。しかしその立会人はヴィルの一睨みで体が委縮し動きを止めてしまった。
彼を睨むヴィルの冷酷な目が訴えかけている。
“邪魔をするなら殺す”と――。
余りに禍々しい殺意を向けられた立会人はただただその場で体を震わせる事しか出来ない。そして、再び視線をグリードに戻したヴィルは突き刺した剣を勢いよく引き抜くと、そこから耳、左腕、太股、足……と次々にグリードの体の至る所を剣で突き刺したのだった。
断末魔の叫びを上げる父グリードに対し、微塵の躊躇いなく剣を突き刺し続けるヴィルの姿はまるで悪魔。ヌチャヌチャと肉を切り裂く音とヴィルの高笑いだけが訓練場に響く。
仕合を観戦していた団員達は、ヴィルのその恐ろしい行動と彼から発せられている悍ましいオーラに完全に思考と体が停止し動けなくなってしまっていた。
時間にして約10秒程であろうか。
ヴィルが5、6度グリードの体に剣を突き刺した所で、呆気に取られていた七聖天の面々が一斉にヴィルを止めに入った。
「何やってんだよテメェッ!」
「あれ、もう終わりなの?」
「グ、グリード大団長……ッ⁉」
「ヤバいぞこれは。早く傷を塞いで回復させるんだ」
「まだ息はあります! 急いで下さいッ!」
「おいユリマ! お前こうなる事分かっていたなら何で止めなかったんだ!」
「これは私の視た未来とは違います……! もしかして――」
場が異様な慌ただしさに包まれたと同時、七聖天のユリマはふと時が止まった様に冷静になると、彼女は無意識の内にヴィルに視線を移していた。
(もしやこれは深淵神アビスの影響? 私が視た未来よりもかなり時期が早くなっていますね……。私も急がなければ)
この時、唯一この世界で起きている全てを知るユリマのみが事態を把握する事が出来た。
いや、正確にはユリマと“もう1人”。
「なぁんだ、本当に終わりなんだね。詰まらないなぁ。でもこれからもっと楽しめるんだよね、“アビス様”?」
『ええ。私と共にいればもっと貴方を満足させてあげられる。来るべき日は近いわ――』
訓練場が騒ぎに包まれる中、不敵な笑みを浮かべながらヴィルと“深淵神アビス”が言葉を交わしていた事に誰も気付く者はいなかった――。
「思った以上に出血が酷いぞ!」
「早く処置をしろッ!」
異様な空気に包まれた訓練場。そこからはただ全員がグリード大団長の無事を願い続け、静かにその日は終わりを迎えたのだった。
♢♦♢
~リューティス王国~
ヴィルとグリードの決闘から数日後。もう剣士としての復帰はおろか、日常生活でさえも困難を極める体となったしまったグリードは大団長の座を退いた。この数日間七聖天のメンバーや他の団長達からも様々な意見が飛び交ったが、最後は国王の一言によって正式にヴィル・レオハートが新大団長の座に就く事が決められた。
国王も確かにヴィルに対して疑念を抱いたのは間違いない。だがそれと同時期、既に世界の至る所でこれまでに見た事がないモンスターが出現しているとの情報が相次いでいてた。世界はそれを“終焉”と呼び出し、深淵神アビスの強まっている事を一早く感づいた白銀のモンスター……獣天シシガミことハクは国王に直談判し、世界の未来を全て告げていたのだ。
だがこの交渉は決裂する。
国王の迷える決断を促したのは他でもないヴィル・レオハート。そして彼と何時からか密かに行動を共にしていた、全ての元凶である深淵神アビスだった。
ハクが国王の元に訪れる前日、ヴィルは深淵神アビスの存在や3神柱、リューティス王国の歴史やこれから起こり得るであろう未来の話をしていたのだ。ヴィルから全ての話を告げられた国王は半信半疑でもあったが、リューティス王国が衰退してしまうという道だけは絶対に避けたかった。
国王は自身とリューティス王国の無事を約束すると、ヴィルと深淵神アビスと心中する事を決断したのだった。
後に訪れたハクを終焉の元凶とし、国王は七聖天や騎士魔法団員全てに偽りの情報を伝えた。全ての悪はハクと3神柱という存在であると。国王は真実を闇に葬ったのである。
それから更に強まった深淵神アビスの力によって、終焉の影響は目まぐるしい早さと勢いで世界に蔓延っていった。それと同時にヴィルと深淵神アビス、更にハク、イヴ、ドラドムート。そして世界を救う運命を託されたグリム、エミリア、フーリンといった様々な存在の運命と思惑が複雑に絡み合い、実に数百年前から動き出していた全ての歯車が今まさに重なったのである――。
♢♦♢
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「何か兄さん急にやる気になったみたいだね。まぁそっちの方が俺も楽しいからいいけどね! ハッハッハッハッ!」
ヴィルは得意の高笑いを響かせると、配備していた団員達に突っ込んで来るグリムとフーリンを見てとても満足げな表情を浮かべていた。何やら嬉しそうなのが手に取る様に分かる。直ぐ側にいたジャンヌとデイアナもそれには気付いている。
「アイツらを殺せば全て終わりなんだよな?」
「そうだよ。あ、兄さんに手を出したらお前でも許さなッ……「分かってるっつうの。サイコパスのお前の邪魔をする気もなければ、俺にはあの兄さんも興味ない。逆にあっちの槍男は俺が貰うぜ」
「話が早くて助かるよジャンヌは。俺も槍の方は全く興味ないから好きにしてよ」
「ちょっと。アックスとローゼン神父は深手で動けないって聞かされたけど、カルは何処に行ったの? まだ今日姿を見ていないけど」
そう言ったデイアナはカルがいないか辺りを見渡していたが、やはりカルの姿は何処にもなかった。ヴィルとジャンヌも彼の行方は知らないとの事。それ以前にヴィルは既に気持ちがグリムだけに向いていた。他の事なんてどうでもいいのだ。
「あっちにいる杖を持った女の子だけならまだしも、邪神が一緒となると私では無理よ。認めたくないけどその実力差はラドット渓谷で痛感させられているから」
「だったらその時より数引き連れて行けばいいだろ。今はこうして戦力を王都に集めたんだからよ」
「それはそうかもしれないけど……」
「別に無理に倒しに行かなくてもいいんじゃないデイアナ。俺が兄さん殺した後でどの道全員消すからね。さぁ、俺達もお楽しみと行こうよ――!」
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