マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第29話 謎の青年

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「まぁ、こうなるよなぁ」と呟いたアッシュ。

 地面に倒れる異端者狩りの頭をつま先でコンコン、と突いて生死を確かめる。間違いなく死んでいた。だが外傷はない。代わりに肌に呪文が浮かんでいる。呪詛による死亡だ。それも回避や解呪の方法がある禁術ではなく、抗いようのない呪詛の神『ンノル』の権能魔法だと見て理解した。

「ンジャンナ族語で呪文が浮かぶ、というのは『シアナ王国滅記』の記述通りか」

 淡々と語らうアッシュ。

「分析しておる場合ではないぞアッシュ」とヴェロニカ。

「あやつ、今待っていたと言ったの」

 不穏な空気に慌てるヴェロニカの頭に手を置き、アッシュは安心させるように笑った。

「落ち着けよ。もし殺すつもりなら、俺達を視認する必要もない。強制的に行動させる呪いもあるしな。つまり、向こうは俺達を呪う気はないんだよ。まぁ今のところは、だが」
「ひと言余計だねぇ。なら気が変わるかもしれんの」
「そうだな。気が変わったら、それこそ俺にはどうしようもないな」

 青年は苦笑いするアッシュ見る。手のひらサイズの木製の笛を首から提げていた。ンジャンナ族語が模様のように彫り込まれた笛をアッシュの知識に照らし合わせれば、それは『ンノル』の紋章であった。
 恐らく青年は呪詛の神『ンノル』の神官。それも、金貨二千枚を即金で出せるほどの財力を併せ持った高位神官だ。
 青年は聖典『二刺の釘』を開いたまま、アッシュを見つめていた。

「どうしようもない、か。良く言うね」と青年。

「何の事かな?」ととぼけるアッシュ。

「対呪結界が二層。浄化の手印が、四つ? 君、手が四つもあるのかい? 魔法の対象を入れ替える、それも初めて見るな。凄いね君。権能魔法でもなければ、呪術師の方が大怪我をするよ。しかもそんな曲芸みたいな真似を、隣の娘の分までやるとは」

 対策を全て言い当てられたアッシュ。思わず笑みが引きつった。

「ほら、どうしようもない」

 改めて観念したアッシュ。

「司者クラスなら十分騙せたと思うよ」と青年。

「いや、枢機卿ですらどうなるか。本当に驚いているんだ。微かに聞こえるこの鳥の声、祝福の聖鳥ラミエルドリだよね。君が再現しているんでしょう? どうやっているんだい」

 純粋な、澄み切った瞳が好奇心を訴えてくる。自分で殺した異端者狩りの死体の中央で発するには、あまりに場違いとなる前向きな空気だ。
 アッシュは肩の力を抜き、ヴェロニカにだけ聞こえるようにゆっくり呟いた。

「絶対に動くな、切り抜ける方法が一つだけある」
「分かったのじゃ」

 緊張の度合いを高めるアッシュ達。それに対し青年は、まるでたった今周囲の惨状に気付いたかのような素振りをし、転がる死体を見回した。

「あ、そうか。そりゃ事情も知らずにこれを見てしまったら、警戒もするよね。いや~怖がらせてすまない。君達に危害を加えるつもりは一切ないんだ」

 青年はそう言うと、服の袖を捲ってめ右腕を晒す。
 何をするか分からない。意図も読めない。アッシュは一瞬の取りこぼしもなく青年を見つめる。
 しかし、結果はアッシュ達の思っていたものとは異なった。 

「君達に害意や敵意を持って危害を加えないことを誓い、破りし時には我が命をンノル神に捧げることを宣言する」

 青年の突然の誓い。思わずアッシュも眉を顰めた。
 するとその直後、彼の右腕にンジャンナ族語の呪文が浮かぶ。青年は自らに呪いを掛け、アッシュ達に敵対しない証明を立てたのだ。
 アッシュは青年の右腕のンジャンナ族語の呪文に、彼の誓約文が含まれているのを読み取り、ようやく全身の緊張を解いた。
 青年は大量殺人を行った後とは思えない、澄んだ目を宿に向けて言った。

「迷惑をかけてしまったから、君達に伝言を頼みたいんだ。申し訳ない。部屋にあるモノは好きに売ってくれて構わない、と」

「分かった、伝えておこう」とアッシュが言った。

「ありがとう。さて、本題に入ろうか」

 青年は『二刺の釘』をパタリと閉じると、表紙をアッシュに向けた。

「これが欲しいかい?」

 青年の問い。誰より先に反応したのはヴェロニカだ。

「アッシュ、待て!」

 ヴェロニカが抑止。だが時すでに遅し。

 アッシュは既に落ちていた。

「めっっっちゃ欲しいぃぃぃぃぃ~!」

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