マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第30話 軍用結界破り

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 一世一代の魂の叫びだった。
 この世に純粋な愛があるというのならば、今の自分こそが体現者であると言わんばかりの愛の咆哮。気軽に質問した青年すらドン引きするほどだ。

「あ、うん。なんだか、もういいかなって気もしたけれど、とりあえず規則があってね」

 青年は転がっている異端者狩りを指さす。

「ンノル様の教えを捻じ曲げて、流布せんとする不逞の輩はこうやって身を滅ぼす。『二刺の釘』という呼び名の意味を理解出来るかい?」

 ヴェロニカがアッシュを止めようと必死に抱き着き締め上げているが、びっくりするぐらい効果はない。
 アッシュはそんなヴェロニカの腕を振りほどこうと、抗いながら答えた。

「当然だ。呪詛の神『ンノル』とは、現在滅亡した少数民族、ンジャンナ族が祭っていた神だとされている。ンジャンナ族は成人に際して目標を定めてから、不達成の折には死亡する呪いを自らにかけることで、覚悟を示す習わしがあった」

 どうだと言わんばかりのアッシュの力説。

「おお、よく知っているね。流石」

 青年は素直にアッシュを褒める。だが表情は苦笑い気味。
 何故かと聞かれれば、それはアッシュを『二刺の釘』に辿り着かせてはならぬ、とヴェロニカが高速で呪文を詠唱していたからだ。

「いでまし、いでまし、おいでまし。木漏れ日の溢れる隠れの里よ。万事、素敵な晴れの宿――樹海空虚木漏れ日荘!」

 高速詠唱で魔法を発動したヴェロニカ。アッシュを拘束しようと狙う。地面から生い茂る樹海が出現し始める。

「拘束隠蔽結界? 『こちらで如何でしょう』の術か。はっ、ちょろいな!」

 一瞬確かに樹海が見えたが、刹那、アッシュがヴェロニカの結界魔法破りを行った。

「な、なんじゃと!? このッ、何をしやがったのじゃお主!」

 渾身の結界を破られたヴェロニカ。その手法が全く分からずに大混乱。アッシュはそんなヴェロニカを無視し、青年の質問に答え続ける。

「呪詛の神『ンノル』の権能魔法は元々、他者ではなく自らを呪うためのモノだった訳だ。これを、他者を呪う用途に使用する者を不逞の輩とし、彼らを諌める為、どちらにも刺さってしまう二本の釘、そこから『二刺の釘』と聖典を呼びならわした」

 アッシュの解答は花丸満点。青年は感心した様子で何度も頷いた。

「理解しているようだね。呪えば呪われる。当然のことだ。もっとも、己の破滅と引き換えにでも他者を呪う者が後を絶たない。本来は、そういった者こそを律する教えだというのにね。まぁそれは兎も角として、いいだろう。君には資格があることは分かった。これを授けよう」

 青年が聖典『二刺の釘』を差し出すと、アッシュはついにヴェロニカの拘束を振りほどき、凄まじい勢いで飛びついた。

「ぃひゃっほぉぉぉぉぉぉう! 本物の『両二刺の釘』どわぁ! やった! やったぞおお! この野郎めがぁぁぁ!」

 子供のように喜ぶアッシュ。一方で、ヴェロニカは地面に両手をついた。

「止められなかったのぉ。まさか軍用拘束隠蔽結界を、訳の分からん方法で破られるとは」

 ヴェロニカの言葉に、青年が同情的な視線を向ける。

「魔力が地面を走ったように見えたけど、それ以上はさっぱりだったよ」

 青年が言った。

「魔力が地面を?」

 何かに気付いた様子のヴェロニカは、アッシュを見た。

「お、お主、さては埃取りの魔法で地面を調査して見つけた結界の要を、収納魔法に放り込みおったな!?」

 血相を変え、ようやく理解出来たヴェロニカ。

「隠蔽結界なんてものは、内側からの看破を全く想定していないからな。ましてや、樹海空虚木漏れ日荘は千人規模の兵士が中で過ごせるように作られた結界だ。生活魔法程度はほぼ例外なく使用出来る」

 淡々と説明するアッシュだが、本人の気はもう『二刺の釘』にしか向いていない。

「軍用結界を、生活魔法で瞬時に全壊させるなど前代未聞じゃよ!」
「本来なら魔法使い百人で起動する結界魔法を、たかが俺一人を足止めする為に使う奴も前代未聞だ!」
「お主の足は止まらなかったじゃろう!」
「目の前に本があるんだ。止まる訳がないだろうが!」

 青年がコホン、とわざとらしい咳払いを一つ。言い争う二人の注意を引いた。

「じゃあ僕はこの辺で失礼するよ。言うまでもないことだけど、くれぐれもその聖典を人目に触れさせないようにね。後は機会があれば、ンノル教会に祈りに来るといいよ」

「ありがとうございました」

 アッシュが深々と頭を下げ、感謝の意を示す。

「僕が邪神の神官だと知った上で、畏怖の目も向けず素直に頭を下げたのは君が初めてだ」

 最後まで苦笑いの青年。

「反応に困るよ」と青年は言い残し、立ち去ろうとする。

 だがそこで、ヴェロニカが唐突に声をかけた。

「あ、待つのじゃ。何故お主は聖典をオークションに出したんだい?」

 青年は足を止め、肩越しに振り返った。

「布教が理由の一つさ。でももっと大きな理由は、リッパー教会の動きが奇妙だったから、だね」

 青年は異端者狩りの死体を見て、うっすらと笑みを零した。

「想像通りだった。実に迷惑な話だよ」と青年。

「何が分かったのかの?」とヴェロニカが聞く。

「僕たちはこの件に関与するつもりはないし、詳らかに語るつもりもない。僕たちンノルの神官にとっては、信条にかかわるからね。それに何より、僕はンノル様を信じている」

 それだけ言って、青年は港へと去っていった。
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