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第39話 本の虫達①
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「呼ばれて来たよ、エディルです! 話は聞いた。お声掛けありがとう! 感謝感謝」
ハイテンションで自らを名乗ったエディル。広間を見回して、すぐ傍にいたヴェロニカを見た。
「この人達は、全員がライバルかな?」
広間には十数人の老若男女。中央にいるアッシュが何やら指揮を執っている。時折、数人が笑顔で口論か討論か分からない言葉をぶつけあっていた。
ヴェロニカはアッシュ達を監視するように、ジッと見つめていた。
「あの殆どがアッシュの知り合い。同じ本の虫仲間なのじゃが、今ツアー用の観光名所の説明やらを書きあげておってな。奴らの会話は聞かぬほうが身の為じゃよ。なにせ、禁書のタイトルや内容をひっきりなしに口にしておる」
例えば歴史書。元王家には都合の悪い事が書かれていたり、リッパー教会などの宗教の不祥事が書かれていることがある。
アッシュ達、本の虫は持てる知識と蔵書をフル活用し、一国家でもなかなか作れないような、精密な歴史年表をたった二日で作り上げていた。
現在やっているのは、作り上げた歴史年表が禁書指定されないよう、危ない記述を消す作業をしている段階だ。
「今日中に終わりそうかな?」
引きつった顔で、エディルが心配そうに聞いた。
「いいや、何年かかるか分からぬ」
いつもの如く呆れるヴェロニカ。
「二日で作ったのに、ここから年単位でかかるのかい?」
「奴らは本の虫なのじゃ。仲間を増やす為に文章という名の卵を次々に仕込む。そして奴らはその卵を守る為に必死に他の本の虫と戦うのじゃ。生むは易しとはよく言ったものだねぇ」
「ああ、成程ね。先ほどから聞こえる口論はそういうことかな」
エディルが少し納得の表情を浮かべた。
「ですから、海底教会にまつわる話、神を有しなくとも教会を建てた民族シーカイン
の話は外せません! 神を祀らぬ民族であるから、と禁書に指定されるという主張はあくまでも予想に過ぎず、現在でもシーカイン族関連本は禁書の指定を受けてはいません!」
冒険者ギルドの職員、ミルゲが楽しそうに主張を展開している。元気溌剌としている彼の姿は、陰気な普段とはまるで違っていた。ミルゲに賛同するシーカイン族歴史ロマン派が拍手喝采する。
一文どころか単語一つでこの大騒ぎの大盛り上がり。
蚊帳の外のヴェロニカは足をプラプラと揺らしながら、エディルを見た。
「因みに、面接は隣の部屋じゃよ。早く行った方が良い」
「先に挨拶をしたかったのだけどね。まぁアッシュさんがあの調子では、確かに後にした方が良さそうだ」
苦笑したエディルは、ヴェロニカに恭しくも演技かかった調子で一礼。面接会場へと向かった。
暫くして、アッシュが休憩を宣言。本の虫を一時解散させる。
「どんな調子なのじゃ?」と聞いたヴェロニカ。
「後半日で終わらせる。添乗員用の台本を作る時間が欲しいしな」
「終わるのか?」
「終わらせる」
断言するアッシュ。既に完成図が見えているらしい。
アッシュが言い切るからには大丈夫だろう、とヴェロニカも納得した。
「この件が終わったらどうするんだい?」と再び聞くヴェロニカ。
「リッパー教会の出方次第だが──、」と前置きしたアッシュ。
「枢機卿会議に喧嘩を売ろうと思う。まだ計画段階だから詳しくは話せないがな」
そう言いながら、アッシュは目の前の広間に集う、本の虫達の顔ぶれを見た。
基本的に好事家しかいないが、未だに本は高級品。そんなものを買い集められる財力の持ち主だけあって、殆どが経済界の重鎮だったり、貴族だったりした。同好の士には非常に寛容な人々だが、ひとたび怒らせれば半端な組織は半年と経たずに消滅させる力を持つ。
中には出版関係の人間、印刷所の経営者もいる。今回まとめた年表や観光名所説明、添乗員の台本などを製本してもらう手筈も整っていた。
カルミオも大型客船の手配を済ませ、内装の一新に取り掛かっているとの報告が入っている。計画は順調だ。
本好きが集まっているだけあって、休憩時間の今も本の話題が途切れない。資料として持ち寄った希少本や古書を見せ合い。語り合い。時には交換の約束や写本の申し出など、皆楽しそうに歓談している。
そんな和やかな空気に水を差したのは、外の喧騒だった。
「何だ?」
本好きの一人が、うるさそうに窓の外に目をやる。ミルゲが広間の窓の一つを開けた。
次の瞬間、広間に飛び込んできた声。和やかな空気は霧散し、冷たい沈黙が落ちた。
「禁書が多数持ち込まれているとの情報が入った。直ちに投降せよ。持ち込まれた本は我々が押収し、審査の上で無害な本は持ち主に返却することを、我が神リッパーに誓おう」
ハイテンションで自らを名乗ったエディル。広間を見回して、すぐ傍にいたヴェロニカを見た。
「この人達は、全員がライバルかな?」
広間には十数人の老若男女。中央にいるアッシュが何やら指揮を執っている。時折、数人が笑顔で口論か討論か分からない言葉をぶつけあっていた。
ヴェロニカはアッシュ達を監視するように、ジッと見つめていた。
「あの殆どがアッシュの知り合い。同じ本の虫仲間なのじゃが、今ツアー用の観光名所の説明やらを書きあげておってな。奴らの会話は聞かぬほうが身の為じゃよ。なにせ、禁書のタイトルや内容をひっきりなしに口にしておる」
例えば歴史書。元王家には都合の悪い事が書かれていたり、リッパー教会などの宗教の不祥事が書かれていることがある。
アッシュ達、本の虫は持てる知識と蔵書をフル活用し、一国家でもなかなか作れないような、精密な歴史年表をたった二日で作り上げていた。
現在やっているのは、作り上げた歴史年表が禁書指定されないよう、危ない記述を消す作業をしている段階だ。
「今日中に終わりそうかな?」
引きつった顔で、エディルが心配そうに聞いた。
「いいや、何年かかるか分からぬ」
いつもの如く呆れるヴェロニカ。
「二日で作ったのに、ここから年単位でかかるのかい?」
「奴らは本の虫なのじゃ。仲間を増やす為に文章という名の卵を次々に仕込む。そして奴らはその卵を守る為に必死に他の本の虫と戦うのじゃ。生むは易しとはよく言ったものだねぇ」
「ああ、成程ね。先ほどから聞こえる口論はそういうことかな」
エディルが少し納得の表情を浮かべた。
「ですから、海底教会にまつわる話、神を有しなくとも教会を建てた民族シーカイン
の話は外せません! 神を祀らぬ民族であるから、と禁書に指定されるという主張はあくまでも予想に過ぎず、現在でもシーカイン族関連本は禁書の指定を受けてはいません!」
冒険者ギルドの職員、ミルゲが楽しそうに主張を展開している。元気溌剌としている彼の姿は、陰気な普段とはまるで違っていた。ミルゲに賛同するシーカイン族歴史ロマン派が拍手喝采する。
一文どころか単語一つでこの大騒ぎの大盛り上がり。
蚊帳の外のヴェロニカは足をプラプラと揺らしながら、エディルを見た。
「因みに、面接は隣の部屋じゃよ。早く行った方が良い」
「先に挨拶をしたかったのだけどね。まぁアッシュさんがあの調子では、確かに後にした方が良さそうだ」
苦笑したエディルは、ヴェロニカに恭しくも演技かかった調子で一礼。面接会場へと向かった。
暫くして、アッシュが休憩を宣言。本の虫を一時解散させる。
「どんな調子なのじゃ?」と聞いたヴェロニカ。
「後半日で終わらせる。添乗員用の台本を作る時間が欲しいしな」
「終わるのか?」
「終わらせる」
断言するアッシュ。既に完成図が見えているらしい。
アッシュが言い切るからには大丈夫だろう、とヴェロニカも納得した。
「この件が終わったらどうするんだい?」と再び聞くヴェロニカ。
「リッパー教会の出方次第だが──、」と前置きしたアッシュ。
「枢機卿会議に喧嘩を売ろうと思う。まだ計画段階だから詳しくは話せないがな」
そう言いながら、アッシュは目の前の広間に集う、本の虫達の顔ぶれを見た。
基本的に好事家しかいないが、未だに本は高級品。そんなものを買い集められる財力の持ち主だけあって、殆どが経済界の重鎮だったり、貴族だったりした。同好の士には非常に寛容な人々だが、ひとたび怒らせれば半端な組織は半年と経たずに消滅させる力を持つ。
中には出版関係の人間、印刷所の経営者もいる。今回まとめた年表や観光名所説明、添乗員の台本などを製本してもらう手筈も整っていた。
カルミオも大型客船の手配を済ませ、内装の一新に取り掛かっているとの報告が入っている。計画は順調だ。
本好きが集まっているだけあって、休憩時間の今も本の話題が途切れない。資料として持ち寄った希少本や古書を見せ合い。語り合い。時には交換の約束や写本の申し出など、皆楽しそうに歓談している。
そんな和やかな空気に水を差したのは、外の喧騒だった。
「何だ?」
本好きの一人が、うるさそうに窓の外に目をやる。ミルゲが広間の窓の一つを開けた。
次の瞬間、広間に飛び込んできた声。和やかな空気は霧散し、冷たい沈黙が落ちた。
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