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第40話 本の虫達②
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窓の外にずらりと並ぶ人影。異端者狩りと思しき黒ずくめの集団だ。数は四十人以上はいるだろうか。
カルミオ派がクラバウ教会の存続に向けて動き出したことを察知し、妨害に来たのだろう。だがこれほど真っ直ぐ正面から妨害に来るとは、流石のアッシュも予想外だった。
しかし、この広間には実際に禁書が多数存在している。
そして、禁書以上に――本好きが多数存在していた。
冷たい沈黙の中で、本好き達の連帯感が高まっていく。
目配せ一つ。持ち上げた本一冊。無言のまま意志疎通を果たしていく本好き達。内部の様子が分からない外の異端者狩り達は、投降せよと呼びかけを続ける。
本好きの一人が窓辺に立ち、外の異端者狩り達へ呼びかけた。
「君達、サウスボンス市議会からの許可は取りつけたのか?」
「我らは枢機卿会議直轄の組織である。サウスボンス市議会は関係ない」
異端者狩りの活動は基本的に黙認される。権能魔法を持つ教会にそっぽを向かれては、組織運営が難しくなる場合が多々あるからだ。
今回の異端者狩り達はあくまでも投降を呼びかけており、身体的な危害を加える旨の発言をしていない。
しかしながら、財産権を侵そうとしているのは明白。異端者狩りに対して呼びかけた本好きは、それを見逃さなかった。
「サウスボンス市議会の許可を得ていないのならば、君達の要求は単なる恐喝に過ぎない。枢機卿会議の決定は国法に優越することはなく、サウスボンスは一つのれっきとした都市国家であり、君達の活動は完全な越権行為だ。私達が従う義務はない」
「禁書は社会秩序を乱す。諸君は反社会的な活動をする為に、その場に集まったのか?」
カルミオ派へのレッテル張り。異端者狩りの質問に、本好きは呆れたような視線を向けた。
「君は大きな勘違いをしている。社会秩序を乱す反社会的な活動とは、今まさに君達がやっている恐喝行為を言うのだ。君達は禁書が持ち込まれたと言うが、禁書の定義は何かな?」
ここはサウスボンスである。古書オークションが行われ、堂々と邪神の聖典が売りに出される都市国家だ。禁書の指定を受けた本など、サウスボンスの議会禄を紐解いても一冊とて見つからない。
アッシュ達は確かに禁書自体は多数持っている。だが、サウスボンスの法に照らした場合、禁書を一冊も持っていないという事にもなる。
ヴェロニカが先陣を切る本好きを指差した。
「本職は弁護士だ」と小声で答えたアッシュ。
「この集団、無敵じゃないかの?」
ヴェロニカの疑問はすぐに氷解した。
「我々は議論を望んでいる訳ではない。禁書を処分する為にここにいるのだ! あくまで隠し立てするのならば、こちらも相応の手段を取らざるを得なくなる!」
強く高圧的な態度を見せた異端者狩り。
「なんと恐ろしい!」
弁護士がわざとらしく、大声を張り上げて怯えて見せた。そして広間を振り返り、アッシュに笑みを向ける。
「彼らは法的な権限もないまま私達の財産にレッテルを張り、勝手に処分すると言い出した。サウスボンス法における恐喝の要件は満たしていた。周囲を囲まれて私達には逃げ場もなく、持ち出せる財産にも限りがある為、自衛権の行使が認められる要件も満たしていた。
彼らは異端者狩りを名乗った。すなわち、魔法が使える。そんな彼らが相応の手段を取るという。恐喝要件を満たした容疑者たる彼らが、逃げ道を塞いで、相応の手段を取るというのだ。皆、恐ろしくはないかい?」
直後、広間にこだまするわざとらしい悲鳴の数々。ニヤニヤと笑う本好き達に、弁護士は告げた。
「最早、彼らは恐喝犯ではない。私達を恐怖させ、無理やりに財産を奪うべく、私達の移動の自由を奪って軟禁状態とし、更なる手段を取ると脅してきた。そう、彼らはサウスボンス法における強盗犯、その容疑者だ。つまり、我々にも逮捕権が認められる。さぁ、私達は財産を守る為にどうすればよいだろうか?」
弁護士の問いかけに、本好き達は唱和した。
「抵抗せよ! 反抗せよ!」
満足そうに頷いた弁護士は続ける。
「彼らは文化財を不当に奪い、歴史から抹消せんとする不逞の輩だ。私達本好きはどうすればよいだろうか?」
「応戦せよ! 抗戦せよ!」
「私も同じ気持ちだ。恐怖はある。だが、我々は幸いだ。そうだろう? 我々は今まさに、文化を守る勇者として戦う資格を与えられたのだから」
「そう、われわれは英雄である!」
ノリノリで演説をする弁護士。事前に打ち合わせでもしていたかのように答える本好き達。異様な空気が窓から漏れ出したか、外の異端者狩りが若干怯える始末。
弁護士が一礼する。
「以上、『ツイン砦の名もなき英雄譚』より抜粋。お付き合いくださり、ありがとうございました」
拍手がこだまする。
「まさか、物語のワンシーンを演じておったのか」
全てを理解したヴェロニカ。急に頭痛を覚えたように頭を押さえた。溜息も出ない。
そう、彼らはただ演じていただけである。だから、これからが本好き達の本気だ。
アッシュが広間の扉へと足を向け、更に本好き達に声をかけた。煽る。
「処す?」と不敵な笑みのアッシュ。
問われた本好き達も満面の笑み。そして、殺意溢れる声で返した。
「処す!」
ビブリオマニア達の熱い思いが着火した。
カルミオ派がクラバウ教会の存続に向けて動き出したことを察知し、妨害に来たのだろう。だがこれほど真っ直ぐ正面から妨害に来るとは、流石のアッシュも予想外だった。
しかし、この広間には実際に禁書が多数存在している。
そして、禁書以上に――本好きが多数存在していた。
冷たい沈黙の中で、本好き達の連帯感が高まっていく。
目配せ一つ。持ち上げた本一冊。無言のまま意志疎通を果たしていく本好き達。内部の様子が分からない外の異端者狩り達は、投降せよと呼びかけを続ける。
本好きの一人が窓辺に立ち、外の異端者狩り達へ呼びかけた。
「君達、サウスボンス市議会からの許可は取りつけたのか?」
「我らは枢機卿会議直轄の組織である。サウスボンス市議会は関係ない」
異端者狩りの活動は基本的に黙認される。権能魔法を持つ教会にそっぽを向かれては、組織運営が難しくなる場合が多々あるからだ。
今回の異端者狩り達はあくまでも投降を呼びかけており、身体的な危害を加える旨の発言をしていない。
しかしながら、財産権を侵そうとしているのは明白。異端者狩りに対して呼びかけた本好きは、それを見逃さなかった。
「サウスボンス市議会の許可を得ていないのならば、君達の要求は単なる恐喝に過ぎない。枢機卿会議の決定は国法に優越することはなく、サウスボンスは一つのれっきとした都市国家であり、君達の活動は完全な越権行為だ。私達が従う義務はない」
「禁書は社会秩序を乱す。諸君は反社会的な活動をする為に、その場に集まったのか?」
カルミオ派へのレッテル張り。異端者狩りの質問に、本好きは呆れたような視線を向けた。
「君は大きな勘違いをしている。社会秩序を乱す反社会的な活動とは、今まさに君達がやっている恐喝行為を言うのだ。君達は禁書が持ち込まれたと言うが、禁書の定義は何かな?」
ここはサウスボンスである。古書オークションが行われ、堂々と邪神の聖典が売りに出される都市国家だ。禁書の指定を受けた本など、サウスボンスの議会禄を紐解いても一冊とて見つからない。
アッシュ達は確かに禁書自体は多数持っている。だが、サウスボンスの法に照らした場合、禁書を一冊も持っていないという事にもなる。
ヴェロニカが先陣を切る本好きを指差した。
「本職は弁護士だ」と小声で答えたアッシュ。
「この集団、無敵じゃないかの?」
ヴェロニカの疑問はすぐに氷解した。
「我々は議論を望んでいる訳ではない。禁書を処分する為にここにいるのだ! あくまで隠し立てするのならば、こちらも相応の手段を取らざるを得なくなる!」
強く高圧的な態度を見せた異端者狩り。
「なんと恐ろしい!」
弁護士がわざとらしく、大声を張り上げて怯えて見せた。そして広間を振り返り、アッシュに笑みを向ける。
「彼らは法的な権限もないまま私達の財産にレッテルを張り、勝手に処分すると言い出した。サウスボンス法における恐喝の要件は満たしていた。周囲を囲まれて私達には逃げ場もなく、持ち出せる財産にも限りがある為、自衛権の行使が認められる要件も満たしていた。
彼らは異端者狩りを名乗った。すなわち、魔法が使える。そんな彼らが相応の手段を取るという。恐喝要件を満たした容疑者たる彼らが、逃げ道を塞いで、相応の手段を取るというのだ。皆、恐ろしくはないかい?」
直後、広間にこだまするわざとらしい悲鳴の数々。ニヤニヤと笑う本好き達に、弁護士は告げた。
「最早、彼らは恐喝犯ではない。私達を恐怖させ、無理やりに財産を奪うべく、私達の移動の自由を奪って軟禁状態とし、更なる手段を取ると脅してきた。そう、彼らはサウスボンス法における強盗犯、その容疑者だ。つまり、我々にも逮捕権が認められる。さぁ、私達は財産を守る為にどうすればよいだろうか?」
弁護士の問いかけに、本好き達は唱和した。
「抵抗せよ! 反抗せよ!」
満足そうに頷いた弁護士は続ける。
「彼らは文化財を不当に奪い、歴史から抹消せんとする不逞の輩だ。私達本好きはどうすればよいだろうか?」
「応戦せよ! 抗戦せよ!」
「私も同じ気持ちだ。恐怖はある。だが、我々は幸いだ。そうだろう? 我々は今まさに、文化を守る勇者として戦う資格を与えられたのだから」
「そう、われわれは英雄である!」
ノリノリで演説をする弁護士。事前に打ち合わせでもしていたかのように答える本好き達。異様な空気が窓から漏れ出したか、外の異端者狩りが若干怯える始末。
弁護士が一礼する。
「以上、『ツイン砦の名もなき英雄譚』より抜粋。お付き合いくださり、ありがとうございました」
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「まさか、物語のワンシーンを演じておったのか」
全てを理解したヴェロニカ。急に頭痛を覚えたように頭を押さえた。溜息も出ない。
そう、彼らはただ演じていただけである。だから、これからが本好き達の本気だ。
アッシュが広間の扉へと足を向け、更に本好き達に声をかけた。煽る。
「処す?」と不敵な笑みのアッシュ。
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