マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第51話 性癖

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 気持ち悪い。
 その言葉通り、アッシュは感じた不快感を隠そうともしなかった。

「ふふ、なんの事かね」とはぐらかしたロット。

 当然、アッシュの抱く不快感に、ロットが心情を語る義理などない。
 ロットの傍にいた異端者狩りが、砂鉄条網を何とか切り裂き、戒めを解いた。ロットは険しい顔でアッシュを睨みつける。錫杖を構えた。

「問答は無用だ。最初から貴様とは相容れぬと分かっ――、」

 ロットの言葉が遮られる。全てを言い切る前に、一つの強風が吹き抜けた。
 風に含まれる魔力の残滓に気付いたロット。身構えるより先に、アッシュが鉤杖を構えて問いを発する。

「『神の在処』を消し去るつもりか?」

 アッシュの問いに答える筈はない。ない筈だったが、ロットの口は勝手に答えを口にする。

「その通りだ」とロットが言う。

 驚愕に目を見開くロット。すぐに自らが何らかの自白魔法を受けて居ることに気付いた。手印を結び、リッパーの権能魔法の一種で解除を試みる。
 しかし、アッシュは淡々と、風の鳥籠に囚われた哀れな金孔雀に次なる質問を投げかけた。

「各地の廃教会を壊して回ったのはお前だな?」と問うアッシュ。

「そうだ」と答えたロット。

 またしても意思に反する発言。ロットの口が勝手に動いた。権能魔法を利用しても解除が出来ない。
 それは、根本的に魔法の解釈が間違っているからに他ならなかったが、ロットにはアッシュがどんな魔法を使っているのか分からなかった。
 だが、このまま自白魔法の影響下にあっては不味いことだけはしかと理解していた。

 脱出路を探し、ロットの視線があちこちに向けられる。しかし、そんなロットの目に移ったのは、異端者狩り達の困惑顔だった。

「今回の任務は、異端者から『神の在処』を奪還するものでは?」
「消し去るつもり、とはいったい」
「廃教会を、壊す?」
「信奉する神ではないとはいえ、何故壊す必要が?」

 困惑と疑心が広がる戦場。唯一、アッシュだけは仮説を立てていた。思案顔で答え合わせをする。

「聖人ロット、お前、人の怪我が見たいのか」
「その通りだ!」

 意思に反して断言したロット。思わず体が硬直する。しかし、ロットの口は変わらず動いた。

「だって素晴らしいではないか。あるべき姿に戻ろうとする、人体の健気な活動というものは。リッパーの権能魔法が作用すると、人々の体は骨を、肉を、皮を再生させていく。それもごく短時間で。あの無駄のない機能的な献身さは、人々はこうあるべき、と体が理解している証だ! 
責任を持って元の状態へと戻そうとし、それでいて、無理と分かれば妥協も出来る柔軟さ。社会はこうあるべきだと、細胞の塊は理解している証拠だ。
私はね、怪我の治癒を見る度に、心を殴りつけられたような衝撃を受けるんだ。体は、細胞は、こうまであるべき姿を示しているのに、その集合物である我々の意識はどうなんだ、この社会はどうだ、と! その一翼を担う、私自身の愚かさと至らなさを突き付けられ、殴りつけられ、私は、私は――とても興奮するんだ!」

「うっわ、なんとも気持ち悪い!」とヴェロニカが一刀両断。

 吐き捨てるように言ったヴェロニカの批評に、異端者狩り達は大きく頷いていた。
 しかし、アッシュは腕を組み、ロットの言葉を吟味するように沈黙しながら、数回頷いた。その後、結論を導き出したアッシュ厳かに口を開く。

「成程な。お前、めっっっちゃ気持ち悪っ!」

 抽出に抽出したアッシュの言葉。ロットはあからさまにムッとした顔をする。

「自覚はあるとも。だが、禁書卿にだけは言われたくない」とロット。

「あ、それは分かるの」とヴェロニカも賛同。

「ヴェロニカはどっちの味方だ」

 横目でヴェロニカを睨んで抗議するアッシュ。冷えた地面を踏みしめ、ロットに向けて歩き出す。

「お前、聖人とか言われているけど、危険人物だな」
「重ねて言うが、禁書卿に言われたくはない」

 枢機卿が率いる異端者狩りを相手に、無傷で圧倒している。この時点でアッシュも相当な危険人物である。
 だが、異端者狩り達は複雑そうにロットとアッシュを見比べていた。
 ロットが自白した廃教会の破壊と、今回の『神の在処』奪取の大義名分である魔物の大氾濫を、食い止める目的が矛盾している。その上、ロットの性癖はあまりにも危険な思想だった。
 アッシュを野放しにはできないが、ロットに従っているのも正義の御旗に泥を塗る。逡巡する異端者狩り達を横目に、アッシュは鼻で笑った。

「お前らは何を目的に行動している?」と問いかけるアッシュ。

「漠然とした正義を守るためか? 違うだろう。魔物の大氾濫を食い止める為に『神の在処』を欲しているんだ。ならば、お前達が取るべき行動は、そこの危険な聖人に従うことではない。当然、俺の味方をすることでもない。自らの責任で『神の在処』を奪取し、枢機卿会議に提出することだろう」

 諭すアッシュを見て、ヴェロニカが意外そうな顔を浮かべている。

「丸め込んで味方にすると思ったのじゃが」
「本を燃やすような奴らと共闘しろって? 冗談じゃない。アイツら全員ボコボコにしないと、俺の気が済まないんだ」
「やっぱり本なのじゃな」

 ヴェロニカは異端者狩りに目を向ける。
 アッシュの理屈に納得したらしき異端者達。各々武器を構え、アッシュとロットを捕縛するべく動き出そうとした。

「我も戦うとするかの」

 ヴェロニカも動き出す。
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