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1杯目~誤飲酒~

03 回りくどい奴

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「俺が飲んだのは……酒じゃなくて……満月龍ラムーンドラゴンの血……?」

 え……どういう事? 血ってあの血だよな? 誰にでも流れてる赤い……。

 余計に頭が混乱してきた。何て言えばいいのかも分からねぇ。

 戸惑う俺を見かねたのか、フリーデン様が再び口を開いた。

「反応に困っておるみたいじゃな。まぁ無理もない。まさかアレを飲んでしまう者が現れるなんて誰も予想していなかったからの。私よりエドワードの方が現時点での詳細を知っておるだろう。説明してくれるか?」
「はい。私で宜しければ」

 そう言って、今度は横にいたエドが俺に事情を話し始めた。

「まさかこんな事になるとはな……ジン」
「全くだ。分かりやすく頼むぜ」
「やれやれ……。いいか? まずお前が飲んだアレは、フリーデン様も仰った様に酒じゃなく満月龍の血だ」
「それは今聞いたけどよ、何でまたそんな物がここに?」
「あの血は5年前、満月龍が去った後に偶然手に入れたものだ。お前が奴に傷を負わせてくれたお陰でな」

 という事は……アレは本当に本物の満月龍の血……。

「オエェェ……ッ!」
「おいおい! こんな所で絶対吐くなよ⁉」

 飲んだ物の正体を改めて認識したら無意識にえづいた。

「マジかよ、急に気持ち悪くなってきた……。俺ドラゴンの血なんか飲んだの? 大丈夫⁉」

 いや、まぁ別に最悪死んでもいいんだけどよ、生きてる目的もねぇし。でも流石にドラゴンの血飲んで死ぬって意味分からな過ぎだろ。

「落ち着けって。多分死ぬ事はないだろうが、どうなるのかも分からん。ぶっちゃけ逆にどう? 何か体の変化とかないか?」
「いい加減だなおい」
「しょうがないだろ。人が飲むなんて想定外過ぎるんだから」
「そんな事言われても……別に大して変わりないぜ? 飲んでから少し経つけどな。っていうか何でそもそも満月龍の血なんかをボトルに入れて運んでたんだよ。何か使い道あるのか?」
「それをずっと調べていたんだ。5年間ずっとな。お前が飲むまでずっとな。そしてやっとその手掛かりを掴んだのに、あろう事かお前が全部飲んじまった」

 凄い棘のある言い方だなぁコイツ。暫く会わないうちに随分器の小さい男になったものだ。まぁ明らかに俺が悪いけどな今回は。

「手掛かりって何だよ」
「ああ、それはな……。ここからはフリーデン様にもご清聴願いたいのですが」
「構わんよ。続けてくれ」
「ありがとうございます。既にご存じかと思いますが、我々騎士団は5年前、偶然にも満月龍の血を手に入れました。初めは当然誰も気に留めていなかったのですが……事が起きたのはあの日の翌日でした。甚大な被害にあった東の街を中心に朝から大勢の人々が動いており、私も数名の団員と共に街を回り、怪我人や生存者の救出にあたっていた時です。

満月龍は、私の隣にいるジンフリーとの壮絶な闘いによりダメージを負っていました。そしてそれがきっかけで血が辺りに流れていたのです。私もこの時は何も思いませんでした。被害が被害なだけに、それ所ではなかったので……。

ですが、何故か私は血の流れたその場所を見てから、その光景が頭を離れす……妙な“違和感”さえ覚えていました」

 エドは記憶を辿る様に、当時の事を鮮明に話している。今この玉座の間にいる人間は俺を含めて17人。国王、エド、そして護衛の騎士団員が10人と城の家来が4人。この家来と騎士団員が何処まで事情を知っているのかは分からない。だが少なくとも反応を見る限り、全く知らない俺とは違って、この満月龍の血の存在は知っている様子だ。

 成程……そう言う事か。

 この場にいる者達は最低限の事情を知っている。それにも関わらず、わざわざ本当に“1から”丁寧に説明するとはな……ハハハ。俺は気付かないうちにそこまでお前に心配かけていたのか。

 これは分かりづらい上にかなり遠回りだが……エド、お前なりの気遣いと受け取っていいんだよな?

 全てを失い絶望を得たあの日。俺はあの日から今日まで、抜け殻の様な日々をただただ過ごしてきた。思い返したくもねぇ……。思い返したとしても、酒を飲んでた記憶しか無い。王国の復興が何処まで進んでいるのかも当然分からない。あれから皆がどう過ごしているのかも、人や街の雰囲気さえも分からねぇ。というより何も感じなかったと言った方が正しい。

 だからだろ?
 だからエドはわざわざ“俺だけ”に教えてくれてるんだ。あの日の続きを。別に知った所で何も変わらないけど、少なからず、5年という歳月があの時の俺より幾分がマシになったと思って話してくれているんだよな……。

 相変わらず回りくどい奴だぜ。何も変わってねぇなホントに。

「――その違和感と言うのは?」

 絶対知ってる筈のフリーデン様もエドに付き合い始めたか。って、そんな言い方は失礼だな。フリーデン様も察してくれている。全く……。一体どこの国王が俺みたいな庶民1人にここまで気を掛けてくれるんだよ……。

 ここまでされてやっと分かってきた。俺が思っていた以上に色んな人に迷惑掛けてるって事も、自分がどうしようもなく情けねぇ野郎だって事もな。

 俺はそんな事を思いながら、エドの話に静かに耳を傾けた――。

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