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2杯目~旅立ち酒~

23 大笑い

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~ツインマウンテン山頂~

 リフェルの突拍子もない提案。
 だがその詳しい内容を聞けば聞く程、何時からしかその提案がかなり現実的になってきていた。

「――よし。じゃあ取り敢えず“コイツら”帰していいよな?」
「完全に納得した訳ではないが……息子を守ってくれた事とこの提案で手を討つとしよう」
「助かる。おい、お前ら! 今回の事に懲りたなら2度とするんじゃねぇ。次やったらテメーら売り飛ばすからな!」
「「は、はい、分かりました! もう絶対にしません!」

 俺は密猟男達に釘を刺し、アクルも渋々納得してくれた様なので俺達はこの馬鹿な若者達を解放した。

 顔面蒼白のまま慌てて消えていった彼らを見れば、恐らく同じ過ちを犯すことはないだろう。……と思う。

 そして重要なのはこっちの話。

「……で、結局話をまとめると、そのリバース・オークションとやらを潰せば結果全ての問題が解決すると?」
「そうデス。リバース・オークションは表では取引出来ない違法ナ物を取引スル場。密猟者ノ多くは狩ったモンスターをココで売買しているのデス」
「聞けば聞く程に胸糞が悪い。これだから人間は嫌いだ」
「そこは同感だな。俺もリバース・オークションの存在は知っていたが実際に見た事はねぇ。少し話を聞いただけでも相当質悪い場所らしいからな。そもそも見たくもねぇ」
「リバース・オークションは何でもアリの売買所。狩られたモンスターは勿論、生きたまま取引を行うのも当たり前。人間や獣人族も当然売買の対象になっていマス」
「参加してる奴の気も知れねぇな本当に」
「オークションは特別な許可証ガ無いとそもそも入れマセン。そしてソコに参加してイルのは世界中デモ富や権力を持つ者達バカリ。言うなれば金と力の巣窟なのデス」
「つまり、オラ達モンスターにとって不愉快なその場所を潰せば、ツインマウンテンも平和になるという事だろ?」
「この世から悪を全て撲滅スルのは不可能デスが、ここ数年のデータから計算すレバ、少なからずこのツインマウンテンのモンスターが多く売買されているリバース・オークション会場ヲ潰せば被害は激減しマスね」
「場所は?」
「ツインマウンテンから1番近いリバース・オークション会場は“フランクゲート”と呼ばれるオークション会場。ココから南へ444㎞離れたフルトフランク王国の地下デス」
「王国の地下だと? 国ぐるみで隠蔽してやがるのか」
「ハイ。と言っても王国の人々は存在すら知りマセン。王国どころか世界中ノ人々がリバース・オークション自体知知りませんカラね。知っている者ガ寧ろ珍しいデス」
「まぁそりゃそうか……。公になったらとんでもない事態になるからな」
「時にお前達――」

 リバース・オークションの話を進めていると、アクルが真剣な顔つきで俺達に問いかけてきた。

「そもそもお前達何故いきなり山頂に現れた。オラの事を知っているみたいだが、一体何者だお前達」
「それを話そうとしたらお前が襲い掛かってきたんだろ」
「当たり前だろう。人間は敵だからな。だがお前達には借りが出来た。どうやら本物の悪でもなそうだ」
「初めから話聞いてくれりゃ楽だったんだけどな。まぁ一騒動あったお陰で互いにメリットが生まれたから結果オーライだろ。
なぁ、アクル。改めて……俺の名前はジンフリー。そんでコイツはアンドロイドのリフェル。俺達は満月龍を探して旅に出たんだが、どうにもこうにも情報が少なくてな。リフェルが万物を知るアクルなら満月龍について何か知っている確率が高いって言うから此処まで来たんだ」
「満月龍だと……? 何故あんなドラゴンを探しているのだ。しかもお前達の様な人間が」
「色々事情があってよ。今リフェルの中には満月龍の魔力が蓄えられているんだ。そして俺達の目的は満月龍を見つけて“倒す”事」

 俺は至って真面目に答えた。この度の目的はそれのみだからな。だからは俺はありのままを率直に言ったつもりだが、それを聞いたアクルの反応はかなり予想外なものだった。

「グーーハッハッハッハッ!」

 え……。
 笑ってる……?

「グハハハハッ、何を言い出すかと思えば、満月龍を倒すだと? それもお前達たった2人で! グ~ハッハッハッ! そんな冗談を言いふらす為に旅しているのかお前達!どこまでも笑わせる気だ!グハハハハッ……「冗談ではありマセン。私はソノ為に造られマシタから」

 大笑いしているアクルをリフェルがズバッと遮った。
 一瞬困惑した表情を浮かべたアクルであったが、そのリフェルの言葉があまりに真っ直ぐ過ぎて思わず笑いが止まってしまった。

「いや~、それにしても久々に大笑いした。何時ぶりだろうか。満月龍を倒す……。お前達はどうやら本気みたいだな……」
「アンタでも笑うって事は、俺達やっぱり相当無茶な事しようとしてるって事だよな?」
「無茶どころではない。不可能だ」

 まだどこか真剣に受け入れられていないアクルは投げやりにそう言った。

 だが俺はそんな言葉よりも、当初の見込み通り、アクルが少なからず満月龍の“知識”を持っているのではと感じられた。

「不可能ではありマセン。後3日で満月龍と同等の魔力ヲ手に入れマスので、4日後以降ナラいつ遭遇しても1ターンキルで仕留められマス」
「ワンターン……? 良く分からないが、満月龍と“同等の魔力”とはどういう意味だ?」
「先程も申しマシタが、私は対満月龍用にDr.カガクが造り出したアンドロイドなのデス。私ノ中にはナノループという装置ガ組み込まれてオリ、コノ機械によって満月龍の魔力ヲ無限に増幅させる事ガ出来マス。プログラムされた満月龍本体のデータ情報を元二計算すれば、私は後4日デ満月龍を超える魔力値になりマス」

 いつもの様に淡々と語るリフェル。
 そして、何故かアクルはその話を聞き終える頃には再び神妙な顔つきへと戻っていた。 

「どうした?」

 気になった俺はアクルに聞いた。

「いや、何というか……。質問ばかりになるが、何故わざわざ満月龍を狙う? 単なる好奇心なのかそれ相応の理由があるのか。そして何故人間が満月龍の魔力など持っている。どうやって手に入れた?」

 俺達に問うアクルの態度から真剣さが伝わってくる。

「家族を殺された――」

 俺が発したその一言で、アクルの表情がより険しくなった。

「もう5年前の話だが………俺達の王国が満月龍に襲われた。当時騎士団だった俺は、王国を守ろうと必死で奴と戦ったがまるで歯が立たなかった。人間如きの力じゃ到底敵わない絶対的な力の前に、王国の一部は壊滅的な被害に遭い、大勢の命も奪われた。
俺は王国を守るどころか、奴に何とか“かすり傷”を負わせたのが精一杯。自分の家族……3人と1匹すら守れず奴に瀕死にされた。
満月龍を狙う理由は他にもあるが、俺の1番の理由は失った家族と自分へのケジメの為。奴を倒さない事にはこの絶望から這い上がれねぇんだ……」

 最後まで話を聞いていたアクルは黙り込んでいた。そして、この暫しの沈黙を破ったのはアクル。

「……俺の事を何処まで知っている?」
「生まれてカラ若い頃に人間二裏切られ種族間戦争ガ起き一族カラ追放されて何やかんやで今に至ル事までデス」

 全部じゃん。

 きっとアクルもそう思っただろう。

「成程。ならば知っていると思うが、俺は人間が大嫌いだ。だが人間全てが悪ではないと分かっている。分かってはいるがそれを受け入れるのはまた話が別。自分でも今こうして人間と会話しているのが信じられないぐらいだ」
「事情なんてもんは人それぞれ。絶対これが正しいなんて存在しねぇよ」
「大嫌いな人間、それに何の面識もないお前達であったが、息子を守ってくれた事には感謝している。そしてそれだけでなく、オラ達が棲むこのツインマウンテンの被害を無くそうと案を出してくれた事もな。
でもだからこそ聞くぞ? 本当にあの満月龍を相手にするつもりか?」

 単なる脅しではない。巨体のアクルが目の前にいるだけで物凄い威圧感だが、今のアクルからは何処か芯に暖かさや強さの様なものを凄く感じる。

「ああ。全種族に大笑いされても探すぜ俺は」
「そうか……」

 アクルは何かを悟った様子で一瞬だけ笑みを零した。

「いいだろう。俺が満月龍について知っている事“全て教えてやる”」
「「――!」」

 そう言ったアクルは静かに語り始めるのだった――。
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