裏切り者扱いされた氷の魔術師、仲良くなった魔族と共に暮らします!

きょろ

文字の大きさ
51 / 52

第51話 死という幸せ

しおりを挟む
 薄暗く冷たい廊下を、アッシュは壁に身体を預けながら、足を引きずる様に進んでいた。
 身体は少しずつ崩れていく。歩く度に足に激痛が走る。それでも歩みを止める訳にはいかなかった。止まってしまえば、もう二度と歩く事は出来ないだろう。
 玉座の間へと続くこの廊下に、良い思い出など一つもなかった。

「どうして僕は、僕達は、あんな奴に黙って従っていたんだろうな……」

 身分が違った。立場があった。使命、家柄、歴史、責任。
 様々な鎖がその身に絡みつき、身動きが取れなかった。神に選ばれ、人知を越えた力を持った勇者族ですら、身分の鎖というものから抜け出す事は出来なかった。
 家族を無惨に殺され、守るべき民に刃を向け、尊敬する友と殺し合った。何一つとして本意ではなかったが、今更それを述べるのは言い訳にしかならないだろう。この戦いの犠牲になった者達は、決して認めはすまい。

「地獄に何回行けば償えるのか分かりゃしない。だが、お前だけは……ッ」

 アッシュは身体を押し付ける様にし、重たい両開きの扉を開いた。目映ゆいばかりに磨かれた大理石の床。当時の名工の手によって作られた玉座の上に、その男は居た。
 この広く豪華な権威の象徴たる部屋で、たった一人で。

「お前だけは地獄に向き合ってもらうぞ、国王よ!」

 招かれざる客を前に、国王は肘を付いたまま、気怠そうに顔を上げる。そしてアッシュの腐りかけた姿を見回した後で、薄く笑った。

「勇者族と持て囃された貴様が、何とも惨めな姿だな。正直、落ちぶれた貴様を見て溜飲が下がったぞ。下々の者共が言う、ざまぁみろ、といった気分か」
「この期に及んで、そんな台詞が出てくる。情けない奴め」
「どうした、遺言くらいなら聞いてやるぞ」
「この姿はな、国の為に必死に戦い、人生を貴様に弄ばれ、そして国を滅ぼした者の成れの果てだ。それを見た感想が、己を省みるでもなく、国を憂える訳でもなく、相手を見下してご満悦というだけか」
「ふん……」

 国王はつまらなさそうに鼻を鳴らした。憎悪の籠ったアッシュと、目を合わそうともしなかった。

「裏切った僕がこうなるのは仕方がないとしよう。だが、国に殉じたロイまでこの様な仕打ちを受けなければならない理由があるものか。アーサーもミリアナも、無事では済まないだろうな」
「それは責任転嫁というものだぞ。貴様らが無能だからこうなった。王の権威を認めぬ愚か者共には、当然の末路だ」
「人は王の肩書きに、無条件で頭を下げる訳じゃない。その肩書きに相応しい人間であればこそ、尊敬されるんだ」
「黙れ、虫けら風情が!」

 国王は激昂して立ち上がり、杖を振るってアッシュを殴り付けた。何度も、何度も。殴る度に腐った肉が飛び散り、骨が剥き出しになった。
 それでもアッシュは倒れなかった。

「余が国王に相応しくないとでも言うつもりか! 貴様が余の何を知っている!?」

 十数回打ち終えた所で息が上がり、国王とアッシュはその場で睨み合った。

「王の権威の下で意思を統一してこそ、大望は為し遂げられる。それを貴様らが台無しにしたのだ、役立たずどもが!」

 アッシュは沈黙し、深呼吸を繰り返していた。吸った空気がそのまま穴の空いた肺から出ているのではないかと思える程に苦しい。

「貴様があの時、謝罪をしていれば余は許すつもりであった! 地べたに額を擦り付け、忠誠を誓っていればこうはならなかった、全てが上手く行っていたのだ!」

 止めとばかりに、国王が杖を振り上げた。その瞬間、アッシュの指先が光り、巨大な氷槍が飛び出した。

「ぐぅぎゃぁぁ!」

 国王の腹部を貫き、吹き飛ばされた体が玉座に縫い付けられた。

「物事を都合の良いようにしか考えられない。そんな奴が王に相応しいものかよ」

 それだけを呟き、アッシュは前のめりに倒れた。
 国王は苦痛に悶えながら、氷槍を懸命に引き抜こうとするがピクリとも動かず、溶ける気配も無かった。

「誰ぞ、誰ぞおらぬか……、槍を引き抜け。医師共、何をしておる。早く回復魔法を……ッ」

 国王の呼び出しに応える者は誰もいない。言葉が虚しく、玉座の間に響き渡るのみであった。腹から高貴な血がとめどなく流れ出し、玉座を濡らす。
 流れる血は命のタイムリミット。それが徐々に減る様子を間近に見て、国王の心は恐怖に支配された。

「誰か、誰かおらぬか! バビヨン、国を救う策とは何だ。今すぐそれを実行してみせよ、バビヨン!」

 国王は繰り返し助けを求めた。他に頼れる者も、信じられる者もいなかった。来る筈がないと頭の片隅で理解しつつ、それを認めずに叫び続けるしかなかった。

 夕日が傾く岬にて、アーサーはミリアナの膝枕で横になっていた。
 身体は動かず目も見えない。一番多く死と再生を繰り返した彼は、身体の損傷も一番早かった。

「波の音が聞こえるな……」
「ええ、以前から決めていたの。死ぬなら海の側がいいって。沈む夕日を見ながらね、好きな人とゆっくり死にたいって」

 ミリアナが寂しげに笑った。

「夕日、綺麗なのかい。俺はもう何も見えなくってさ」
「見えなくていいわよ。私の顔もぐちゃぐちゃで、貴方に見られたくなんかないもの」
「見えるさ。思い出の中で、君はとても魅力的に微笑んでいる」
「そういう台詞はもうちょっと早く言って欲しかったな」
「悪かったよ。何でもかんでも使命ばかりでさ。それを成し遂げなければ一人前ではないし、誰かを愛する資格なんてないと思っていた」
「真面目過ぎるのよ貴方。まぁ、ロイみたいにお調子過ぎでも、アッシュみたいにのんびりし過ぎでも困るけど」
「アイツらにだって、俺達に言いたい事は山程あると思うぞ」
「えー、聞きたくない」

 波の音を聞きながら、遠い昔に戻った様に談笑した。もうずっとこんな風に笑い合えてなかった様に思えた。

「海の側に家を建てて、君と一緒に暮らしたかった」
「うん……」
「ロイとアッシュが土産を持って遊びに来て、凄く騒がしくなるんだ。でも、アイツらが来ると子供達が喜ぶから何も言えなくなってさ……」
「うん、分かる……」

 夢を語る声がスッと消えた。アーサーは、眠る様に死んで逝った。

「お疲れ様、アーサー……」

 それだけ言うと、ミリアナの意識も途切れた。

 折り重なる白骨死体が発見されたのは、それから数か月後の事である。
 それが勇者族であるアーサーとミリアナのものだとは、誰にも気付かれなかった――。

 ただの男と女として、彼らはその生涯を終えた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...