悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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六頁 サンビタリアに染まって

86話 第四王子の祝宴①

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 さっすが王城で開かれるパーティ。規模も華やかさも桁違いだな。まだ主催者である王族は来ていない。それが普通なんだけど。とりあえず他国の来賓とか自国でつながりの深い貴族とかに挨拶をするだろうから最初の内はそれにくっついていればいい。……はずなんだけど、あっという間に囲まれてしまい身動き取れません。挨拶の順番は他国の来賓→自国の高位貴族って順番らしい。公爵家は最高位なので対等な身分である他の四公爵家以外の貴族たちはこっちから声をかけないと相手が挨拶できないというなんともシビアなものだ。別に挨拶くらい好きにすればいいのにって思ってしまう庶民感覚。中身がド庶民だとうっかりばれないようにしないとな~……妙に勘の鋭い連中とかいるし。面白がってくれる人であればいいけど足元掬おうと考えている連中にばれるといろいろまずいことになるだろうからな。……まさにテレビの中に迷い込んだ気分だ。
 公爵と共にひとりの青年のところへ向かう。

「お久しぶりです、ヴィエトル殿下」

 公爵が声をかけた青年は公爵を見ると爽やかな笑みを浮かべた。

「アクナイト公爵お久しぶりです。お変わりないようで安心しましたよ。おや? 今日はご子息も一緒なんですね」
「ええ。シュヴァリエこちらがアウィス王国の王太子ヴィエトル・アウィス殿下だ。殿下こちらがアクナイト家の次男シュヴァリエです」
「初めまして。アクナイト公爵家次男、シュヴァリエ・アクナイトがアウィス王国の王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「はじめまして。第二公子。アウィス王国第一王子のヴィエトル・アウィスです。アウルからの報告にもよく貴方のことが書かれているもので、お会いできて光栄です。それにアクナイト公爵家には秘された華があると有名でしたからね」
「秘された華とは……お恥ずかしい限りです」

 ヴィエトルは爽やかな笑顔で公爵との会話に興じている。もうすでに退場したい……。

「ルアル嬢もお久しぶりですね」
「アクナイト公爵家長女ルアル・アクナイトがアウィス王国の王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「我が国に留学しているシエル公子から弟妹のことをよく自慢されるんですよ。彼があそこまで自慢したくなるのも納得です」
「「……光栄です」」

 俺とルアルは揃ってバレないよう顔を引き攣らせた。シエルの奴他国で一体何を言っているんだ? それにルアルのことはわかるが俺のことまで何を話す事があるんだろうか。シエルもルアルも全っ然交流なかったんだぞ? 家族との思い出とか皆無に等しいのに。

「それから殿下、こちらはセレーナ・サンビタリア侯爵令嬢です。この度デビュタントを迎えられまして」
「サンビタリア侯爵家の?」
「は、はい。はじめまして。この度デビュタントを迎えましたサンビタリア侯爵家四女セレーナ・サンビタリアが王太子殿下にご挨拶申し上げます」

 多少緊張はしているがそれでも他国の王族相手に堂々と挨拶をして見せた時点で彼女の印象は一気によくなるだろう。それに……さっきからひそひそと聴こえてくる貴族、特に女性たちの会話に上がるルアルとセレーナのアクセサリーの話題。セレーナへのお膳立てとしては充分だと思う。

「はじめまして。セレーナ嬢。デビュタントおめでとうございます。貴女のような可憐な女性が社交界に増えたことはとても喜ばしい。以後お見知りおきを」
「はい、殿下にそう仰っていただき光栄です」

 その後何とかヴィエトルとの会話を終えて挨拶回りも一通り済んだ後、俺たちは公爵と離れ、食事を手に歓談していた。

「やあシュヴァリエ、見てたよ」

 ここでアウル、リヒト、クラルテが俺たちに合流してきた。こういう時真っ先に声を掛けてきそうなクラルテはそわそわしながらも口を開かない。おそらくアウルやリヒトから事前に言われていたことをちゃんと守れているらしい。クラルテは平民。言ってしまえばこの会場の中で一番身分が低い。そんなクラルテが公爵子息である俺においそれと声を掛けてはいけないのだ。学園と同じように接すればその時点で社交界から白い目で見られてしまう羽目になる。

「セレーナ嬢、この度はデビュタントおめでとうございます」
「ありがとうございます。オルニス公子にもお手伝いいただいて……」
「俺は何もしていないさ。すべては隣にいるシュヴァリエがお膳立てしたんだから。二人が身に着けているそのネックレスとイヤーカフもシュヴァリエからの贈り物だろう?」
「あら……やっぱりオルニス公子にはお分かりになりますのね」
「ああ。さっきからご令嬢方が二人の装飾品を見て目を輝かせていた」

 そう言いながら意味深に周囲へ視線を向けるアウルに俺はため息を溢す。多分自分たちもこれを手に入れるにはどうしたらいいかとか話しているんだろうな。作り方なんか教えてやらないし広めるつもりもないけど。どうしても欲しいなら自分たちで試行錯誤してやってみろって話だ。

「そうだろうな。……それにしても、本当に参加したんだな編入生」

 俺から話しかけてもらえたことであからさまにほっとした表情を見せたクラルテは嬉しそうに会話に加わってきた。そんなに嬉しいのか? というか俺がなかなか会話に入れないことが気に食わなかったのかリヒトがずっとこっちを睨んでいたんだよな。そっとルアルの様子を伺った時、ちょっとリヒトに不快感を向けていたのは見なかったことにしよう。

「はい! 本当だったら王族のパーティなんて出席できないってわかっていたんですけどどうしてもリベルタ……殿下のお祝いがしたくて。そしたらリヒト……公子やエヴェイユ殿下が手を尽くしてくれて」
「そうか」
「それにしてもお二人の付けている飾り、とっても綺麗ですね!」
「ありがとうございます。クラルテさん。私たち二人ともお兄様にいただいたんですの」
「そうなんですね! もしかしてアクナイトさ……公子の手作りだったりしますか?」
「さあ……それはわかりません」
「そうですか……でもほんとうに綺麗です。一体どこで見つけたんですか?」
「そうですね、シュヴァリエ様が女性に装飾品を贈るとは意外ですが私も出所が気になります」
「知ったところでどうするんだ?」
「いいえ、ただもし怪しい場所から出てきたものだったら困ると思いましたので」
「ほう? 王族主催のパーティに怪しい物を持ち込むような愚か者だと言いたいのか?」
「まさか。シュヴァリエ様が良からぬ者に騙されたのではと心配になっただけですよ」

 そう言いながらもリヒトは俺に不信感満載の目を向けている。しかしなんでそんなに食いつくんだよお前は。このアクセサリーに何か因縁でもあるわけ?

「まあまあリヒト公子。アクナイト公子も睨み合うのはその辺にしておやつでも食べましょう? 僕たち何か取ってきます」

 そう言ってクラルテはリヒトを引っ張り食事が並べられている場所へ消えて行った。……さて。

「……で、アウル。なにか変わったところは?」
「今のところ特段目立つようなことはない。俺はアウィス王国からの留学生ということで王太子殿下と一緒に入場した後比較的自由に歩き回ってみた。サンビタリアの三姉妹とリコリス嬢が常に一緒にいて時折男性給仕と話をしていたくらいだ」
「…………そうか」
「君から事前に貰っていた対策帳に書いていたからそこまで気に掛けることでもないだろうと思ったんだが」
「下手に警戒するほうが怪しまれるか……」
「そういうことだ」

 楽し気に談笑する女性二人の横で俺とアウルもこそこそと状況確認を行っていると突然アウルが無言で俺の背後を指さした。

「ご歓談中失礼しますわ」

 ……ああ、やっぱり来るのか。予想通りでもできれば無視したかったんだがな。そんなに嫌がらせをしたいか。
 苛立つ心を叱責してそっと振り向いた先にはアラグリアとサンビタリアの三姉妹が立っていた。

「お久しぶりですわねお従兄さま、それからルアルさん」
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