悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

文字の大きさ
96 / 148
六頁 サンビタリアに染まって

90話 夜空の下で

しおりを挟む
 わざわざ待っていなくていいのになんでこんなところにいるんだ。

「なぜいる?」
「それからルアル嬢からの伝言だ」
「君に伝書鳩を依頼するとは肝の据わっていることだ」
「……それをシュヴァリエが言うのか。一番言っては駄目な人間だろうに」
「喧嘩を売りに来たのなら会場へ戻れ」
「『お兄様がさっさと逃げるから装飾品のことを聞かれて大変ですわ。しかもこんな大舞台で貴族たちとの交流を避けるなんて許しませんわよ。早く戻ってきてくださいまし』だそうだ」
「……私の話を聞いていたか?」

 俺の言葉をスルーしてルアルからの伝言を告げたアウルはめちゃくちゃ楽しそうにしていた。こいつの設定ってクールな常識人じゃなかったっけ? 最近その設定が崩れている気がするんだが。

「まあでもせっかく抜け出したんだ。少し歩かないか?」
「…………一応聞くが拒否権は?」
「さあ、どっちだろうな」

 つまりないと。はあ……まああんまり早く行っても妹から小言を貰うだけだしついていくだけならいいか。それに今戻ればクラルテとも相対することになる。あいつ……ファルカタで協力したいっていう申し出を受け入れる代わりに俺とは関わらないって言ったの忘れてるだろ絶対。実に都合のいい主人公様である。俺は! お前に! 関わったら! ろくなことに! ならないんだよっ! ……はあ、関わらないようにすればするほど主人公や攻略対象たちが寄ってくるのはなんでなんだろう。俺やっぱり呪われているんじゃ……。って今目の前にいる男も攻略対象だったわ。

「どうした? 疲れたか?」
「なんでもない」

 アンタらのせいだって声を大にして言いたいです。押し花押し花押し花押し花押し花……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛押し花がやりたい~~~~~!!!!! もう貴族の務めとかどうでもいいから押し花がやりたいよぅ……。いったいいつになったら俺に押し花ライフ平穏は訪れるんだぁぁぁぁ!!!

「おい、本当に大丈夫か?」
「なんでもないと言っている。しつこいぞ」
「何でもないって顔ではないが……そんなにパーティが面倒か?」
「こんなものに好き好んで出る人間たちの気が知れない」
「君らしい言い分だな」
「では聞くが君は好き好んでパーティに出席するのか?」
「まあ……義務だから出ているということのほうが多いのは事実だな」
「まともな思考で安心しました」
「まったく君は……」
「そんなことよりどこに向かっている?」
「もうすぐ着く。……ところでシュヴァリエ。ルアル嬢とセレーナ嬢が付けていた装飾品だがあんなものどうやって考え付いたんだ?」

 探るというよりは純粋な好奇心でアウルは訊ねてきた。思いついたも何もアレは前世ではごく身近にあったものです。思いついたのではなく元々あったものであり趣味でした。……なんて馬鹿正直に言えるはずもなく。こういうとき言い訳を考えるのってものすごく面倒よね。よく転生物で飯テロとかやったりするけどなんでそんなもの知っているんだっていう突っ込みはもっともだと思う。俺だってそんな情報や知識はどこで仕入れたんだって突っ込む自信がある。王族とかに割と平気で見せたりするけどこの世界では曖昧で信憑性に欠けるものをよく信用しようと思うよね。お互い怖いと思うんだけどな。まあ俺も似たようなことやっている……か? 俺は制作方法も材料も流出させる気はない。俺の側にいたサリクスでさえも詳しい材料を教えていない。いくら信頼しているとはいえ教える情報には気をつけているつもりだ。
 よって俺はアウルにこう答える。

「偶然の産物だ」

 言いたくないという俺の気持ちを察したのかアウルは意味深に微笑むだけでそれ以上突っ込んでは来なかった。

「着いたぞ」

 当たり障りのない会話をしているうちに目的地に着いたらしい。俺は城に来た記憶がないためわからないが、中庭なのか? 花々が咲き乱れているけど他の場所よりも高くなっているのか眼下に広がる王都が一望できる場所だった。なんとなく空中庭園? のような場所らしい。まさかこんな場所があるなんて知らなかったな。……でもここって。

「……私が入って平気な場所なのか?」
「国王陛下と王太子殿下の許可は取っている。シュヴァリエは花が好きなんだろう? 気に入ると思ってな」

 いつの間に……。確かに滅茶苦茶綺麗だけどさ、なんでわざわざこんなところに連れてきたんだ? こいつにメリットなんてないだろうに。

「なぜ私をここへ連れてきた?」
「君の反応が面白いからだ」

 なるほど、意味わからん。本当に謎だな。面白いからっていう理由でわざわざ王族に許可を取るとは思えないんだけど……ほんとにわからん。だけど眺めは本当に綺麗だからな~……文句は言えん。

「……この場に連れてきたのはこの景色を見せるためか?」
「まさか」

 まあそうだわな。そんだけのためにわざわざこんな場所手配するとかないわ。……でも、ちょうどいい。俺もこいつに個人的に用事があったし。

「まあなんでもいいがその前に、君にこれを」

 そう言いながら俺がアウルに差し出したのは男物のバングルだ。装飾に使ったものは例のレジンもどきである。だが中に入っているのは花ではなく鳥の羽だ。鷹の羽の一部に金色の宝石スフェーン。
 突然俺から渡されたそれにアウルは目を見開く。

「いったいどういうことだ?」
「ただのお礼とお詫びですよ。他国の人間である貴方を何度もこの国の不祥事に巻き込んでしまったにもかかわらず碌な謝罪もできていないので」
「別に気にしていないんだがな……。まあいい、ありがとう」


 慎重にその腕にバングルを嵌めたアウルはそのまま俺に手を差し出してきた。

「……さっきの踊りは完璧だったが、どうだ? 俺とも一曲踊らないか?」
「君とは散々踊っただろう」
「あれは君の練習だろ? 先生と生徒ではなくパーティの参加者として踊ってみようと思ってな」
「有象無象におかしな噂を流されでもしたらどうする」
「君がそんなことを気にするとは意外だな」
「ふざけるな」
「俺相手に噂話などできるはずないだろう?」

 明らかに挑発を込めた口調に言葉が詰まる。確かにそれは言えている。どれだけ噂が大好きな連中だろうとアウル相手に滅多なことはできない。そんなことをすれば最悪首が飛ぶ。
 ……っていうかこの光景、スチルそのままじゃん! 攻略対象がまさにこの背景でクラルテに手を伸ばす絵が一枚そしてこの後に一緒に踊る絵が一枚。この章は内容自体が落ち着いていたということであまり人気がなかったんだけどスチルが多いということでストーリーよりもスチル! てな感じな章だったような。
 ……で、俺は今まさにスチルそのままの光景を目にしているわけで。しかも対象は俺。……なんだろうめちゃくちゃ複雑なんだが。ストーリーは回避したいけどスチルは欲しいなって思っていたんだよ。だけどそれは遠くで拝むものであってこんな間近でしかも自分が入り込むなんて考えていないわけ。……しかし、これはSNSで自慢したら炎上確定なほどおいしい展開なわけでもある。……困った。ユーザーとして体験してみたい気持ちとストーリーを回避したいという思いがせめぎ合って……くっ! ~~~~~よし! こうなったらいっちょ腹を括ってスチル確保といこうじゃないの!

「一曲だけなら」

 アウルはそっと微笑んで俺の手を取りその勢いのままステップを踏み出した。

「少々強引が過ぎるのでは」
「優等生なステップでは飽きると思ったんだがシュヴァリエ・アクナイトにはまだ早かったか?」
「言ってくれるなアウル・オルニス。もう少し激しくても構わない」

 いえ構います! 強がりです! なのでゆっくりでお願いします! ……なんて思いも虚しく、アウルはまるで剣舞のような鋭さで俺をリードしていく。不思議なもので慣れてくればこの型崩れしたダンスが楽しく思えてくる。……舞台で殺陣を演じる役者にでもなった気分だな。

「どうしたシュヴァリエ。ステップが遅れているが?」
「アウルこそ体の動きが遅いのではないか?」

 月下の下、誰もいない庭園で互いに挑発し合いながら踊る俺たちは一体どんな風に見えているんだろうか。この場には録画用の魔法道具はないけど……ああきっと、とても綺麗な光景に違いない。少なくとも俺の目に映っている男は凄く、綺麗だ。変だよな……俺は悪役でお前は攻略対象なのに。絶対に相容れないはずの二人が揃ってパーティを抜け出して踊っているなんて。
 ……本当に今の俺はどうかしている。絶対に避けたいはずの相手に、今だけはこいつの目に映っていたいなんて思っているんだから。
 どうせ二人しかいないんだ。こうなったらとことんまで踊ってやる。

——名前のついているこの感情に、目を瞑りながら。
しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

夫は私を愛していないらしい

にゃみ3
恋愛
侯爵夫人ヴィオレッタは、夫から愛されていない哀れな女として社交界で有名だった。 若くして侯爵となった夫エリオットは、冷静で寡黙な性格。妻に甘い言葉をかけることも、優しく微笑むこともない。 どれだけ人々に噂されようが、ヴィオレッタは気にすることなく平穏な毎日を送っていた。 「侯爵様から愛されていないヴィオレッタ様が、お可哀想でなりませんの」 そんなある日、一人の貴婦人が声をかけてきて……。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...