悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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七頁 クレマチスの願い

98話 アルクスの本性

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 ぎりぎりと体を押さえつけるアルクスによって完全に動きを封じられてしまった。こんな密室で男に押さえつけられているってめちゃくちゃ嫌なんだが? ……って確かゲームでもクラルテが同じ目に遭っていたけども! こんなところで原作と同じようにならなくてよくない? なんで嫌なところで原作通りの展開が起こるかなぁ。……とりあえず、背中と腕が痛いわ! お前教師だろうが! 生徒を襲ってんじゃねえよ馬鹿野郎!

「仮にも生徒を押し倒すとはとても素敵な趣味をしていることだ」
「ふん、本当に生意気な餓鬼だな。大人しくしていればいいものをなぜ関わるんだ?」
「生徒を襲う変態如きに話す道理はない」
「役に立たない人間が態度だけは一人前だな」
「…………お前は一体何者だ?」
「さあ? 教えてやる義理はない。前と違って利用価値のなくなったお前には、な……?」
「お前如きが私を利用するなどと………寝言は寝て言え」

 そう言って俺は奴の足の間にあるもの目掛けて膝を入れた。

「ぐっ………!?」

 ほんのわずかな隙ができたところで全力でアルクスの檻から這い出し鍵を開けようとしたところで今度は思い切り後ろに引っ張られた。掴まれた肩がめちゃくちゃ痛い。一瞬脱臼するかと思った。そのまま俺は背後から抱きしめらる格好になる。………まずい、もしこの場面を誰かに見られたらいろんな意味で面倒なことになる。つーか男の象徴攻撃された直後でなんでそんなに動けるんだよ! ふつうは無理だぞ!? あれめちゃくちゃ痛いんだからな!? ……なんでそんなことを知っているのかは言わない。黒歴史です。

「随分と乱暴になったものだな」
「……さっさと離せ無礼者」

 抑揚のない声でそう言うとアルクスはくつりと笑い俺の耳元に唇を寄せてきた。

「いいのか? もしここで騒げば破滅するのはお前だぞ?」

 そんな言葉とともに生暖かくねっとりとした物体が耳を這う感触が……ぎゃあああああ!!!!! 今、こいつに、耳、舐められた!!! と同時に思い出した。そういえばここBLの世界だった、と。俺の馬鹿!!! なんでこの状況でそんなこと思い出すんだよ! ふざけんな! あああ気っっっ色悪い! 鳥肌ヤバイ!!!!! こんな展開ゲームにはありませんでした! 
 アルクスド変態に対する罵詈雑言が喉付近で交通渋滞を起こし、心の中がアニメや漫画で見る料理音痴の作る鍋の中身のような状態になっている中、どうにか言葉を捻りだす。

「白昼堂々生徒を襲う教師より傷は浅いと思うが?」
「……本当に可愛げのねえガキだ」
「私の知ったことではない」
「はっ! ……まあいい。これ以上邪魔をするなら容赦はしねえ。命が惜しかったらとっとと手を引くんだな」

 そのままアルクスは耳元から俺から顔を離すと同時に思い切り壁に叩きつけて何事もなかったかのように去ろうと個室のドアを開けようとしたところで。

「すみません、この部屋から大きな物音がしたのですがなにかありましたか?」
 
 この声はアウル!? なんで? 

「……ちっ」

 アルクスは元の儚く優しい教師の仮面を被り平然とドアを開けた。

「騒々しくてすみません。なにもありませんよ。実は私も少々違和感を覚えてこちらに来たのですが、どうもアクナイトさんが体調を崩されていたようですので付き添っていたんです」
「……そうでしたか。それはお手数をおかけしました。先生もお忙しいでしょう。彼のことはお任せを」
「わかりました。アクナイトさんもご友人のほうが気楽でしょうしお任せします。何かあれば遠慮なく相談してくださいね」

 それだけ言うとアルクスはすれ違いざまにアウルヘ何かを囁き今度こそ去って行った。……とりあえず、おとといきやがれクソ野郎。心の中で密かに中指を立てる。直接やりたいが目の前にアウルがいるのでそんなお下品な真似はできません。俺だってそれくらいの分別はあるぞ。

「シュヴァリエ! 大丈夫か!?」

 大丈夫じゃねえよ。なんだよあいつめちゃくちゃだな。つーかこんな狭い場所で思い切り壁に叩きつける奴があるか。うぅ、あちこち痛い。

「問題ない。ひとまず寮へ戻る」
「……そうだな。だがまずは医局のところに行くぞ」
「不要だ」
「悪いがそんな話を聞くわけにはいかない。手首を見てみろ」
 
 手首? ……げっ! 紫色の手形がばっちりついてる! あんの野郎よくもやってくれたな! この様子じゃあ他のところ、特に肩もやばそうだな。だってあいつの手が離れた今でもまだ痛いもん。個人の対処でどうにかなるものでもないしここは大人しくアウルの言うこと聞いておきますかね。あと一刻も早く耳を消毒したい。まだ耳に奴の舌が這う感触が残っている。よくパニックを表に出さなかったわ。おえぇ……。

…………

……



「打撲と捻挫ですね」

 学園医局の先生にそう言われた。怪我の場所は奴に掴まれた手首と肩、あと壁に叩きつけられたときに当たり所の悪かった背中と太腿の一部。結構な広範囲だな。尚、手首は打撲と一緒に捻挫だってさ。あとはすべて打撲。なかには内出血している場所もあるらしい。道理で熱っぽいと思った。治療のために服を脱いだら手首だけでなく肩にもくっきりと紫色の手形があり、あまりの有様にアウルは険しい顔で絶句し、医師に至っては小さく悲鳴を上げた。

「けがの程度は手首の捻挫以外は比較的軽いものです。しかし範囲が広いのでしばらくは絶対安静にしていてください」
「わかりました」
「それにしても一体何があったんです? その怪我は明らかに人為的なものでしょう? このままにしておくわけにはいきません。貴方は公爵子息です。その貴方が学園内でそんな怪我を負うなんて由々しき事態ですよ」
「その通りだ。シュヴァリエ。この件は殿下に報告するぞ」

 二人の険しい視線が突き刺さる。困ったな。打撲だけだったら転んだと誤魔化すところだけど明らかな手形がついている以上はぐらかすことはできない。それはアルクスの野郎もわかっていたはずだ。なのにこんな真似をするということはもう間もなくこの学園から姿を消すということだろう。それに奴が言っていたあの言葉。

——これ以上邪魔をするなら容赦はしねえ。命が惜しかったらとっとと手を引くんだな。

つまり今回の件に奴は確実に関わっているということになる。なぜアルクスはそんな確信を与えるような真似をした? 俺たちが怪しんでいたのは気づいていただろうに。……駄目だ、さっぱりわからない。

「それはここで言うわけにはいきません。貴方はあくまでも医局の一職員でしかありませんので」

 そう言うと先生はぐっと唇を噛みしめ悔し気に頷いた。申し訳ないとは思うがこういえば自分の関わっていい領域ではないと理解できただろう。本来であれば俺も関われるはずのない案件なんだから。そんなことはエヴェイユも判っているだろうに。なのになんで関わっているのかと言えば他でもないエヴェイユの意思王族命令だからだ。……単純に利用できるものは利用する、以外にも何かしらの思惑があるんだろうな。

「治療、ありがとうございました」

 そのまま俺はアウルとともに医局を後にした。直後、アウルは無言で包帯の巻かれていない手を掴み無言で歩き出した。

「いきなりどうした?」

 俺の問いに答えることなくやや乱暴な足取りで廊下を進んでいくアウルに俺だけでなくすれ違った周囲の人間も目を丸くしていた。ほんとにどうしたよこいつ。
 それからも俺の話など聞こえていないかのようにずんずん進みあっという間に寮の俺の自室に辿り着いた。そして部屋に入るなり。

「それで?」

 真顔のアウルによって壁ドンされた。
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