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壱 出会いの章
38話 仮面は妖しく全てを惑わす
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パーティー当日、緋夜は現在レイーブ伯爵領の高級宿の一室で……ゆったりとお風呂に浸かっていた。その周囲では宿の従業員が忙しなく動いている。
(私は……こんなところでなにをしているんだろう)
密談からの帰り際、メディセインからパーティー当日の午後にこの高級宿に行くようにと言われてやってきたのはいいのだが、名前(本名ではなく事前に決めていた偽名)を名乗った途端にガイと引き離されてそれぞれ部屋に押し込められ、今に至る。
(パーティー用のドレスってことは……当然アレもあるんだよね。憂鬱……)
などと考えている間、従業員達にヘアと化粧をされている。女性達がはしゃいでいるのは少々気にかかるがこの後にやってくる地獄を思えば些細なことだ。
「お客様は本当にお美しいですわね。化粧をされていないと分かった時は本当に驚きましたよ! ……さて化粧が終わったところで……早速ドレスの着付けに移りましょうか」
(ああ……ついに……)
これからのことを想像し遠い目になりながらも大人しく締められる以外の選択肢がないためため息をつきそうになりながら、背中を向ける。
「それではコルセットを締めますね。少々我慢してください」
という言葉と共にコルセットの紐を締め上げられる。
(うっ! ……なにこれ!? こんなに締め上げるとか、骨格歪んだらどうするの!)
思わず声を上げそうになったものをなんとか堪えて嵐が過ぎ去るのを待った。
「ふう……できましたよ」
「あ……はい……ありがとうございます……」
はじめてのコルセットにぐったりしながら従業員が持ってきたドレスに視線を向けると、緋夜は目を見開く。
「派手じゃないですか? そのドレス」
「いいえ、お客様は大変素材がいいですからどんなものでもお似合いになりますよ!」
「いや、そうではなくて……」
「さあさあ、着替えましょう!」
ほぼ強制的にドレスを着せられようやく一息入れた緋夜に従業員が鏡を向けてきた。
「終わりましたよ。とてもお綺麗ですわ~!」
「あ、ありがとうございます……」
何故か非常に盛り上がっている従業員達に苦笑しながら鏡に視線を向けるとそこには確かに綺麗な女性が映っていた。
(まあ、これはこれで悪くはない、けど……コルセットが苦しいっ!)
そんなことを思いながらも表情に出してはいけないので『いつものように』仮面を被る。部屋の外に出ればもう引き返すことはできない。
(それじゃあ、行きますか。久しぶりのパーティーに)
今日はいつにも増して気が昂る。今日はいつものパーティーよりも『楽しく』なりそうだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
高級宿のエントランスには人だかりができていた。その比率が女性に傾いていることでもわかる様に、その原因は着飾った美男子が二人で立っているからである。
「ガイさんもよくお似合いですよ」
「うるせえよ。ったく落ち着かねえ」
「自分じゃないみたい、ですか?」
「なんで俺が赤い髪なんだよ。どっちかっつったらあいつの方だろ」
「いいではないですか。金髪の女性はありふれていますからむしろ丁度いいのですよ。目の色さえ変えてしまえばなんの問題もありません。認識阻害の魔道具もありますし」
「そういうお前はがっつり髪色変えやがって」
「私は顔を合わせていますから、念の為です」
「チッ」
会話の内容まではわからないが、男前系の美形と妖しい色気を漂わせる儚げな美形が並んで言葉を交わしているだけで、失神してしまいそうになっている者まで出始める中、ヒールの音が響き男性二人に近づいていく女が一人いた。
「お待たせしました」
「ああ、支度終わったんです……ね……」
「……」
自分達の元にやってきた女を見た男二人はしばし言葉を失った。
青と水色の花飾りが添えられた赤いドレスの上を艶やかなプラチナブロンドの髪がストレートに流れ、本来黒い瞳は気の強さを表す様な鮮やかな水色へと変わり白い肌を際立たせ、ローズピンクに塗られた唇がなんとも言えない色香を醸し出していた。
一方、緋夜もエントランスで待っていた男二人を見て一瞬目を見張る。ガイは色彩が黒い髪と水色の目から赤い髪と黄金の目に変わっている。しかし彼の纏う空気は強烈でその様子はまさに絶対強者だ。メディセインの方は膝まである長い三つ編みは純白から紫へ、真紅の目は若干ピンク寄りになっているものの、彼の醸し出す色気は凄まじくそのアンバランスな雰囲気は人を欺き惑わせる麗しき妖怪のそれだ。
当然そんな美形二人が目立たないわけはなく、宿中の視線を釘付けにしている。そんな中状態の二人に近づくのは少々抵抗を覚えるが、既に緋夜は仮面をつけているため気にならない。一切の躊躇いもなく二人に話しかけた。
「お二人とも固まってどうしましたか?」
「……いえ、なんでも。よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
あくまでも笑顔で互いに会話をする中、不機嫌そうな表情で突っ立っているガイに視線を向けると小声で話し始めた。
「折角着飾っているのに嫌っそうな顔」
「放っておけ」
「終始こんな状態なんですよこの人」
「まあでも、護衛っていう設定だからあんまりにこにこしているのも不気味か」
「そうですね。このまま仏頂面でいられる方が良いでしょう」
「好き勝手言いやがって……」
「さて、そろそろ馬車へ乗りましょうか」
メディセインの言葉に緋夜とガイも従い、馬車へと乗り込む。通常護衛は馬車の外にいるが、今回はガイも中に入り最終確認を行う。
「これからレイーブ伯爵家のパーティーに参加するにあたり、私はレイーブ伯爵の親戚という立場になります。そしてヒヨさんは私のパートナーの令嬢で名前はセリーヌ・ストラッシュ、ガイさんが私の護衛・キオン。私とヒヨさんが入場する前に別ルートからガイさんが会場へ入ります。あとは私達が入場して少ししたら私は挨拶回りという名目で依頼主に近づき資料を渡したら私達の役目は終わりです。適当なところでさっさと抜けて帰ります」
一通り流れを話し終えると緋夜は頷き、ガイは更に不機嫌になった。
「そんなに不服そうな顔しないでいただけますか」
「うるせえ」
「いいじゃん。滅多にできない経験だと思って」
「お前な……」
そんな雑談をしているとメディセインが(表面的に)真剣な顔つきになる。
「ひとつ忠告しておきます。私が潜入している貴族……モルドール侯爵家の令嬢は非常に自尊心が高く、目立ちたがり屋です。ですので自分以上に目立つ人間が許せません」
「……なるほどね。それで喧嘩ふっかけてくるってこと。侯爵家ならそれだけで有利だし」
「そういうことですので、お気をつけて」
「とか言いながら実はそうなることを期待しているでしょ。でなきゃ目立てって言った後にこんなこと言わないもの」
「まあ確かに楽しみですよ。貴女が彼女をどのようにあしらうのか」
そう言うメディセインに緋夜は少々違和感を覚えた。出会ってから終始楽しげに笑い、面の皮が厚かったメディセインだが、今は非常に纏うオーラが黒い。
「なんか怒ってない?」
「まさか。私が使用人であることを盾に迫ってきたからと言ってその程度で怒ったりなどしませんよ」
(怒ってるじゃん)
(怒ってるじゃねえか)
メディセインの様子に緋夜は苦笑しガイは興味なさげに腕を組んでいるが、内心では全く同じことを考えていた。
「あ、そうそう。モルドール侯爵子息の方にもご注意を。彼も彼でなかなか面倒ですから。特にガイさんは注意なさってください」
「なんで俺が」
不機嫌そうにガイが言葉を投げかけるとメディセインはクスリと笑いながら言った。
「モルドール侯爵子息は……男色なんですよ」
ピシリ
という効果音でも聞こえてきそうなほどに凍りついたガイを見て珍しいと思った人物が一名、予想通りだとほくそ笑んだ人物が一名いた。
「……降りていいか?」
「ダメです」
「私に一人で行けと?」
即座に却下されたガイは盛大に舌打ちをする。そんな様子に緋夜は少しばかりの同情をガイへと向けた。それぞれ趣味はあっていいとは思うが受け入れ難い人も大勢いるのである。それはどこの世界でも同じなのだろう。
「ああ、それともう一つだけ。今回のパーティーには特別ゲストもお越しになりますのでよろしくお願いしますね」
「誰それ」
「今は秘密です。きっと招待客の中で知っているのは主催者と私、それからクリフォード侯爵くらいでしょう」
「え? クリフォード侯爵も?」
「ええ。ですからとても楽しいパーティーになると思います」
そう言って笑うメディセインの瞳は獲物を狙う蛇の様に美しく妖しく不気味だった。
ーーさまざまな思惑が交差するパーティー会場まで、あと少しーー
(私は……こんなところでなにをしているんだろう)
密談からの帰り際、メディセインからパーティー当日の午後にこの高級宿に行くようにと言われてやってきたのはいいのだが、名前(本名ではなく事前に決めていた偽名)を名乗った途端にガイと引き離されてそれぞれ部屋に押し込められ、今に至る。
(パーティー用のドレスってことは……当然アレもあるんだよね。憂鬱……)
などと考えている間、従業員達にヘアと化粧をされている。女性達がはしゃいでいるのは少々気にかかるがこの後にやってくる地獄を思えば些細なことだ。
「お客様は本当にお美しいですわね。化粧をされていないと分かった時は本当に驚きましたよ! ……さて化粧が終わったところで……早速ドレスの着付けに移りましょうか」
(ああ……ついに……)
これからのことを想像し遠い目になりながらも大人しく締められる以外の選択肢がないためため息をつきそうになりながら、背中を向ける。
「それではコルセットを締めますね。少々我慢してください」
という言葉と共にコルセットの紐を締め上げられる。
(うっ! ……なにこれ!? こんなに締め上げるとか、骨格歪んだらどうするの!)
思わず声を上げそうになったものをなんとか堪えて嵐が過ぎ去るのを待った。
「ふう……できましたよ」
「あ……はい……ありがとうございます……」
はじめてのコルセットにぐったりしながら従業員が持ってきたドレスに視線を向けると、緋夜は目を見開く。
「派手じゃないですか? そのドレス」
「いいえ、お客様は大変素材がいいですからどんなものでもお似合いになりますよ!」
「いや、そうではなくて……」
「さあさあ、着替えましょう!」
ほぼ強制的にドレスを着せられようやく一息入れた緋夜に従業員が鏡を向けてきた。
「終わりましたよ。とてもお綺麗ですわ~!」
「あ、ありがとうございます……」
何故か非常に盛り上がっている従業員達に苦笑しながら鏡に視線を向けるとそこには確かに綺麗な女性が映っていた。
(まあ、これはこれで悪くはない、けど……コルセットが苦しいっ!)
そんなことを思いながらも表情に出してはいけないので『いつものように』仮面を被る。部屋の外に出ればもう引き返すことはできない。
(それじゃあ、行きますか。久しぶりのパーティーに)
今日はいつにも増して気が昂る。今日はいつものパーティーよりも『楽しく』なりそうだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
高級宿のエントランスには人だかりができていた。その比率が女性に傾いていることでもわかる様に、その原因は着飾った美男子が二人で立っているからである。
「ガイさんもよくお似合いですよ」
「うるせえよ。ったく落ち着かねえ」
「自分じゃないみたい、ですか?」
「なんで俺が赤い髪なんだよ。どっちかっつったらあいつの方だろ」
「いいではないですか。金髪の女性はありふれていますからむしろ丁度いいのですよ。目の色さえ変えてしまえばなんの問題もありません。認識阻害の魔道具もありますし」
「そういうお前はがっつり髪色変えやがって」
「私は顔を合わせていますから、念の為です」
「チッ」
会話の内容まではわからないが、男前系の美形と妖しい色気を漂わせる儚げな美形が並んで言葉を交わしているだけで、失神してしまいそうになっている者まで出始める中、ヒールの音が響き男性二人に近づいていく女が一人いた。
「お待たせしました」
「ああ、支度終わったんです……ね……」
「……」
自分達の元にやってきた女を見た男二人はしばし言葉を失った。
青と水色の花飾りが添えられた赤いドレスの上を艶やかなプラチナブロンドの髪がストレートに流れ、本来黒い瞳は気の強さを表す様な鮮やかな水色へと変わり白い肌を際立たせ、ローズピンクに塗られた唇がなんとも言えない色香を醸し出していた。
一方、緋夜もエントランスで待っていた男二人を見て一瞬目を見張る。ガイは色彩が黒い髪と水色の目から赤い髪と黄金の目に変わっている。しかし彼の纏う空気は強烈でその様子はまさに絶対強者だ。メディセインの方は膝まである長い三つ編みは純白から紫へ、真紅の目は若干ピンク寄りになっているものの、彼の醸し出す色気は凄まじくそのアンバランスな雰囲気は人を欺き惑わせる麗しき妖怪のそれだ。
当然そんな美形二人が目立たないわけはなく、宿中の視線を釘付けにしている。そんな中状態の二人に近づくのは少々抵抗を覚えるが、既に緋夜は仮面をつけているため気にならない。一切の躊躇いもなく二人に話しかけた。
「お二人とも固まってどうしましたか?」
「……いえ、なんでも。よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
あくまでも笑顔で互いに会話をする中、不機嫌そうな表情で突っ立っているガイに視線を向けると小声で話し始めた。
「折角着飾っているのに嫌っそうな顔」
「放っておけ」
「終始こんな状態なんですよこの人」
「まあでも、護衛っていう設定だからあんまりにこにこしているのも不気味か」
「そうですね。このまま仏頂面でいられる方が良いでしょう」
「好き勝手言いやがって……」
「さて、そろそろ馬車へ乗りましょうか」
メディセインの言葉に緋夜とガイも従い、馬車へと乗り込む。通常護衛は馬車の外にいるが、今回はガイも中に入り最終確認を行う。
「これからレイーブ伯爵家のパーティーに参加するにあたり、私はレイーブ伯爵の親戚という立場になります。そしてヒヨさんは私のパートナーの令嬢で名前はセリーヌ・ストラッシュ、ガイさんが私の護衛・キオン。私とヒヨさんが入場する前に別ルートからガイさんが会場へ入ります。あとは私達が入場して少ししたら私は挨拶回りという名目で依頼主に近づき資料を渡したら私達の役目は終わりです。適当なところでさっさと抜けて帰ります」
一通り流れを話し終えると緋夜は頷き、ガイは更に不機嫌になった。
「そんなに不服そうな顔しないでいただけますか」
「うるせえ」
「いいじゃん。滅多にできない経験だと思って」
「お前な……」
そんな雑談をしているとメディセインが(表面的に)真剣な顔つきになる。
「ひとつ忠告しておきます。私が潜入している貴族……モルドール侯爵家の令嬢は非常に自尊心が高く、目立ちたがり屋です。ですので自分以上に目立つ人間が許せません」
「……なるほどね。それで喧嘩ふっかけてくるってこと。侯爵家ならそれだけで有利だし」
「そういうことですので、お気をつけて」
「とか言いながら実はそうなることを期待しているでしょ。でなきゃ目立てって言った後にこんなこと言わないもの」
「まあ確かに楽しみですよ。貴女が彼女をどのようにあしらうのか」
そう言うメディセインに緋夜は少々違和感を覚えた。出会ってから終始楽しげに笑い、面の皮が厚かったメディセインだが、今は非常に纏うオーラが黒い。
「なんか怒ってない?」
「まさか。私が使用人であることを盾に迫ってきたからと言ってその程度で怒ったりなどしませんよ」
(怒ってるじゃん)
(怒ってるじゃねえか)
メディセインの様子に緋夜は苦笑しガイは興味なさげに腕を組んでいるが、内心では全く同じことを考えていた。
「あ、そうそう。モルドール侯爵子息の方にもご注意を。彼も彼でなかなか面倒ですから。特にガイさんは注意なさってください」
「なんで俺が」
不機嫌そうにガイが言葉を投げかけるとメディセインはクスリと笑いながら言った。
「モルドール侯爵子息は……男色なんですよ」
ピシリ
という効果音でも聞こえてきそうなほどに凍りついたガイを見て珍しいと思った人物が一名、予想通りだとほくそ笑んだ人物が一名いた。
「……降りていいか?」
「ダメです」
「私に一人で行けと?」
即座に却下されたガイは盛大に舌打ちをする。そんな様子に緋夜は少しばかりの同情をガイへと向けた。それぞれ趣味はあっていいとは思うが受け入れ難い人も大勢いるのである。それはどこの世界でも同じなのだろう。
「ああ、それともう一つだけ。今回のパーティーには特別ゲストもお越しになりますのでよろしくお願いしますね」
「誰それ」
「今は秘密です。きっと招待客の中で知っているのは主催者と私、それからクリフォード侯爵くらいでしょう」
「え? クリフォード侯爵も?」
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