異世界騎士の忠誠恋

中村湊

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女神様が望むモノ

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 クリスマスが過ぎて以来、女神様との距離を感じるようになった。 歌音かのん自身も、彼との距離を感じていた。ただ、傍にいて欲しい。名前を……呼んで欲しいだけ。
 彼と出逢って、一緒に暮らすようになって。一生懸命に、この世界のこと、この国のことを学んでいる彼。彼なりに、歌音を喜ばせようとしてくれていること。
 
 「わがままなのかな……」

 ポツリと、言う。
 今日は、ハロルドは急な仕事で外出している。歌音は仕事が休みで、買い物を済ませて家でご飯を作っている。
 今夜の夕食は、彼の大好きなカレーライス。具だくさんのカレーライス。冬になると、さつまいもを入れる。

 グツグツ……。

 弱火で煮込んでいる時間。余計なことを考えてしまう。
 クリスマスの日に、雑誌で見ていたアクセサリーに「可愛い」と言っていたことを覚えてくれていたのは、嬉しかった。
 でも、あのブランドはとても高くて……買ってくるとは思わなかった。
 
 ピンポーン。

 「はい」
 「歌音? 今、いい?」

 玄関を開けると、綾音あやねが難しい表情で立っていた。
 家の中に招き入れ、お茶を出した。綾音ちゃんの好きな紅茶。

 「綾音ちゃん。どうしたの?」
 「うーん……フリードがさ……クリスマスに……」
 「フリードさん?」
 「プロポーズしてきやがった!!」
 「へっ?!」

 言った後に、姉は頭を抱えだした。「ありえない、あの男」「指輪も用意して」と……。
 フリードは、綾音ちゃんに「傍にずっといたいから」とか言っていたけど。プロポーズは……予想はしていたと、思う。綾音ちゃんは。
 
 「映画に出てくるような……ひざまずきに……あぁ!!」
 「……わかった気がする……」
 「どうしよう?」
 「綾音ちゃんは……もう、答えでてるんだよね?」
 「……まぁ……歌音には、話しておかないとと思って」
 「ありがとう」

 綾音のプロポーズ話しの後、自分の話をすることになった。というか、妹の表情が曇っているのが分かっていたから。
 ポツリポツリと話して、「呼んでくれないの」と言った。
 名前をいまだに、「女神様」と呼び続けているハロルドの事だから、「歌音かのん」と呼ばれたいんだろうと。

 カレーのいい匂いが部屋に届いた。
 歌音は綾音を夕食を一緒に食べたいと言った。フリードも誘っていいと話して置いた。

 「ただいま戻りました!!」
 「おかえりなさい」

 今日も、全速力で走ってきたんだろうな。全身汗だくではないが、少し息を整えている。
 背の高い彼がかがんで、彼の頭を撫でる。その後、ぎゅっと抱きしめる。
 ドクッドクッと、彼の心臓の音が聞こえてくる。確かめるように、胸に顔をうずめる。

 「そばに、いて?」
 「は、はい」

 最近は、帰ってくる度に言われる。ハロルド自身は、忠誠を誓った騎士として傍を離れたくない。一時いっときも……バイトだって行きたくない。
 彼女の仕事場に行き、傍にいたい。でも、女神様に断られてしまった。家にいても、電子レンジで温めしかできない。食事の準備ができない。
 こんな自分でも、「傍にいて」と言ってくれる女神様の期待にこたえたい。自分になにができている? 何を返せる? 自問自答の日々。
 なにも返せていないことに、辿り着いて落ち込んでしまう。

 「女神様……俺は……」
 「今日は、カレーライスだよ!!」
 「っ……カレーライス?」
 「ハロルドさん? 好きでしょ?」
 「……はい……」

 話しが途中になってしまう。最近はそうだ。彼女のことが分からなくなってきた。何を望んでいるのか? どうしたら喜んでくれるのか?
 全て裏目にでてしまう。

 風呂でその日の汗を流し、髪の毛を乾かして貰う。小さな手が優しく撫でてくれている。

 「えっ?! ハロルド、カノンちゃんにそんなコトしてもらえてるの?」

 フリードたちが、夕食にくると言っていたが……タイミングが悪かった。
 ハロルドにとっては、女神様との大事な時間。それを邪魔された気分になる。「……俺の大事な時間が……」と、いつの間にか口にだしていた。
 ピクリと彼女の手が反応した。優しい手がさらに柔らかく髪の毛をすいて乾かした。そのとき、赤面していた歌音の表情をハロルドは見ることができなかった。

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