祝福は貴方だけに捧げます!!

中村湊

文字の大きさ
7 / 24

誘われる瞳に逆らえません

しおりを挟む
 目が醒めると、見たことがない天蓋てんがい付きのベッド。ふかふかしていて気持ちいい。そして、温かい人のぬくもり。
 ひと? うーん、たしか……初めての社交界のデビューで、王宮のパーティーに彼のエスコートで……キス、された。それも、公衆の面前で!!

 「起きたか?」
 
 心地よい聞き覚えのある声。恐る恐る顔を上げる。
 とても柔らかく優しい瞳。ぎゅぅっと優しく抱きしめられる。そして、当たり前かのようにキスをしてきた。

 「んっ……ぁっ……」
 「可愛い」

 おでこ、頬、唇。首筋とキスをたくさん。そのたびに、我慢できない甘い声が出てきてしまう。
 彼の大きく節張った指が、身体を優しく撫でている。ピクリと身体が跳ねて、彼を喜ばせてしまう。
 
 「っだ、め……っあ……りひゃ、る、と、さま……」
 「もっと、キスしよう」
 「だか、ら……んんっ……あっ、だ……ぁっ」
 「可愛い」

 熱い黒い瞳が私を捉えている。もう、どうしたら? このままだと……。
 キスをたくさん受けていると、胸があたたかく、彼を身近に感じる。ほんのり、翠色の光が包んでいる。
 
 バタンっ!!

 勢いよく、寝室の扉が開かれた。その先には、血相を変えて、形相も変えた……オネエちゃんがいて。
 リヒャルト様を私から、ひんいた。うん、投げ飛ばした。

 ドスン!!

 「……ロイ……お前……」
 「大丈夫? もっと早く来たかったけど?」
 「おいっ!!」
 「こんっのど阿呆あほうが、パーティーでやらかしたっていうし……最後までヤラレてない?」
 「待て!! ヤッていない!! 俺はまだ!!」

 いや、まだ。って、しようとしました? しそうな勢いありましたよね? だって、胸とか、下腹部に手が……。
 あっ、オネエちゃんが……。

 「ちょぉっと、この男連れていくな」
 「まっ、待て……ロイ、お前……」

 バタン……。
 リヒャルト様、生きて帰ってきてください。

 「うわーーーーー!!」

 断末魔だんまつまの叫び。オネエちゃんがお兄ちゃんになったわ。
 うん、久し振りに聞いた。あの、叫びした人。

 清々しい笑顔のロイと、無事に生還を果たしたリヒャルト。その状況を知った「……あぁ……旦那様」と言ったワルバーン家の執事長のギルバートさん。悲痛な顔をしていました、ギルバートさん。
 パーティーから帰った私の後のことを、アルバルトから聞いたからとオネエちゃんは馬車ではなく、馬で駆けつけた。
 今、彼はりもせずに、私を抱きしめている。少々、諦め気味のロイが大事な話があるからと再び彼をひっぺがして執務室へと行った。

 「マリア様。旦那様が戻られるまで、お茶でもどうぞ」
 「ありがとう」

 ギルバートは、用意していたお茶と茶菓子を持ってきてくれた。温かい紅茶に、ジャムもあった。
 日付が変わっていたのか? 窓辺から少し陽射しが見えた。初めてワルバーン公爵家に来た。ゲームでは、スチルで見ただけだけど。公爵家は、広大な領地を持っていてリヒャルトは領民にはとても慕われていたと思う。
 彼が何故、祝福を得られないのか? 光魔法を遣えなくなったのか? そのあたりが、ゲーム上では解かれていたんだけど……いま、ここでギルバートさんに尋ねるのは失礼だよね? 彼から、話したくなったら話してくれるのを待とう。

 お腹が少し満たされた時に、2人が戻ってきて3人でお茶になった。
 だんだんとまた眠気がきて、彼の温もりを探し始める。

 「眠そうにしているのも可愛い」
 「んっ……私、かわいく、ないです」
 「可愛いマリア」

 可愛いとばかり言い、決して、好きとは言わない。分かっている。彼は、私を可愛いといって、可愛がりたいんだろう。
 まぶたが重く、その瞳で一生懸命彼への気持ちを伝えたいのに……本当は、憧れから……。

 「いいの? 本当のことを言わないで?」
 「……その方が、お互いのためだ」
 「お前はソレでいいかもしれない。でも、マリアは……」
 「俺がどういう役か、分かっているだろう?」
 
 やれやれ、と肩をすくめるロイ。本当の事を話さなくてはならないのは、分かっている。
 教会から異例の連絡が入った日。自分の光魔法が戻る娘が現れた、と。その娘は、まもらなくてはならないこと。
 どんな方法で行っても護ることを優先とした。光魔法は二の次。彼女のことは、フィリップに以前、映像魔法で姿を見せて貰っていたし「可愛くて可愛くて」と連呼している兄だった。
 実際に逢った時、可愛いと思えた。妹みたいに。ロイからは、「傷つけたらタダじゃおかない」と念押しされていた。クロイツ家には、教会との事がある上で当人には言わずに婚約を申し込むと。 それで、済むと。それで、役を果たせる、と。

 腕の中で気持ちよく眠っている彼女が、可愛いのは本当だ。ただ、日に日に、可愛すぎて自分がどんどん暴走していく。ドレスを、宝石をあんなにプレゼントする筈では……。
 キスを初めてした時、自分の中で温かいモノを感じた。翠色の光が包み込んでいた。祝福を受けると、その者の色が現れる。光魔法の光を初めて見た。
 
 「俺は帰るけど、それ以上はしない約束だからな」
 「…………」
 「自分の気持ちに正直になるなら……許す」
 「……俺は、自分の役を……果たすだけだ……」

 ロイは屋敷から帰って行った。
 抱きかかえたまま、彼女と再びベッドに戻る。もぞもぞと安心する場所を探すように動いて、落ちつくと小さな笑みを浮かべる彼女。 俺が安心する場所ではない……彼女には、ロイのように想っている人間がふさわしいだろうし。アルバルトのように、聖騎士としても人望の厚い人間が傍にいてもおかしくない。

 「俺みたいな……堕ちた騎士は……君には、相応ふさわしくないんだ」

 彼女が少し、寂しそうな顔をしたように見えた。聴こえるはずがない。言える筈がない。
 俺は……彼女の、マリアの隣には、役としているだけなのだから。
 

 『リヒャルト様、好きです』
 『……可愛いマリア……』
 『リヒャルト、さ、ま?』
 『……俺は、君を好きではない……務めでいただけだ』
 『そう、です、か……』

 あぁ、そんな寂しい瞳をしないでくれ!! 可愛いマリア!! 俺は、ただ、役を果たして……君を護って……。
 泣かないでくれ!! 涙を……。
 ま、待ってくれ!!
 マリア?
 可愛いマリア?

 マリアがどんどん黒い霧に囲まれている。違う、そっちじゃない!! 助けないといけないのに、光魔法が遣えない俺には剣しかないのに……。

 『マリア!! ダメだ!! そこから離れるんだ!!』
 『ごめんなさい。私……違うの……マリアだけど……違うの』
 
 

 「マリア!! っ、はっ、はぁ、はぁ!!」

 隣には、小さな吐息をたてて「リヒャルト、さ、ま」と言っている彼女。

 「よか、た……」

 夢なのに、異様な現実味のある感覚。寝汗で寝間着のシャツが身体に張り付いている。
 彼女が眠っている間に、少しこの気持ち悪い汗を流しに風呂場へと向かった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

処理中です...