好きな世界を選んでいいと言われたんですが、多すぎるから分裂しちゃいました。

ニコニ

文字の大きさ
10 / 59
第一章

ワーヒド 第5.5話 ミディールさんサイド

しおりを挟む
 私はアーラム伯爵家の四男。
 今領地の南側に位置するグリザヤル子爵領に通商の話をしに行った帰りだ。

 本来、貴族同士の話し合いは現当主か時期当主が出向かうものであり、いくら爵位が格下の子爵でも、それは貴族として常識に欠ける行為である。

 しかし、アーラム家は生死の淵に立たされている。長男のライセン兄はウルバン伯爵家に吸収されないために父上と領に常時居なければならない。次男のブライス兄は王都で仕官をして、社交界でアーラム家を支え、王都でのアーラム家の地位を保っている、これも本来は長男の仕事。三男のディビット兄は病で五年もベットの上だ。

 このことは周知の事実で、子爵も苦笑いしただけで何も咎めなかった。むしろ通商の話を快く承諾してくれた。なんでも、先先代のアーラム伯爵が当時のグリザヤル男爵を助けたらしい。

 グリザヤル領はファルデン山脈とザンディール山脈の間の平野に位置し、大規模の商隊も月に何度も来る通商の要。領地の大きさと歴史と武功がなかったせいで爵位は子爵までしか上がらなかったが、並みの侯爵に負けない財力がある。

 グリザヤル子爵の支援がなかったら今頃ウルバン伯爵領の一部になっていたかも知れない。

 アーラム家は先代のギャンブル癖で年々赤字が続いており、今回も大事な話なのに付き人は御者のアルだけで護衛すらいない。このあたりは盗賊も出ないし、魔物なんてアーラム領全体でも月一だ。心配するに及ばないが、貴族の面子というものもある。これをよその貴族のネタにされたらたまったものではない。

 アーラム家の存続を考えているとアルが馬車を止めた。なんでも魔法使いが通りかかったらしい。
 何をそんな馬鹿な話と思ったが、アル洞察力が高く私の腹心だ。相手が嘘をついてるなら即時見破られるだろう。本当に魔術師か、アルを騙せるほどの腕前か、どのみち只者ではない。

 馬車を降りて挨拶を交わす。確かに魔術師風の格好をしている。そして終始表情を崩さない。無愛想の無表情ではなく、基本笑みを浮かべていて、こっちの話によって表情も変わったりする。だが貴族との腹の探り合いに慣れた私には分かる、これは作った表情ということを。

 彼にいろんな質問をしたが、はっきりした答えが出ない。貴族同士でもここまで答えが曖昧なのは極めて無礼な行為、それをものともしないというのは彼はかなりの大物だ。

 話している途中でアルはまた馬車を止めた。前回と違うのは今回はゆっくりとめたのではなく、急に泊まり、馬も落ち着いでいない。盗賊でも出たのか。いや、盗賊でさえこんなうまみが全くない貧乏貴族を襲わないだろう。だとしたら最悪な可能性…

「大変だ!オークの群れだ!30はある!」

 こんなことになっているというのに、彼は動揺したそぶりを見せなかった。しかもその上に
「片付けましょか?」
 なんて聞いてきた。

「30のオークなんて、うちの領の騎士百人が必要だぞ!」
 思わず落ち着きのない声を出してしまったが、状況が状況だから許して欲しい。
 それでも彼は大したことないように片付けた。そう、『片付けた』のだ。
 激しい戦闘は起こらなかった、一方的な蹂躙ではなく、我々にとっての強敵は声を発することなく『片付けられて』しまった。

 私はその光景に圧倒されてしまったが、残された一縷の理性で冷静のように振る舞い、オークの魔石の買い取りの話を切り出した。そして彼は後払いでいいということで先に魔石の袋を渡してくれた。
 私を逃さない自信があるのでしょう、そもそもこのくらい彼にとって他愛もないかも知れない。

 彼は東にある魔導王国から来たのではないと言ったが、信憑性が薄れて行く。
 結果はどうであれ、彼の情報を得ようとして機嫌を損ねるのは愚かだ。それでアーラム領のことを話したら彼は楽しそうにきいてくれた。

 話していると、彼の性格についてある程度分かった。まず、彼は実力を見せた後でも高圧的な態度取らない、話が通じる人だと思う。
 それ以外の情報は一切手に入ってこない。

 アーラム家に着いてから直ぐに父上と会って、このことを話した。
 父上も最初は信じなかったが、大きな袋いっぱいのオークの魔石を見たら信じてくれた。今のアーラム家の財政では、この一袋で一年近くはもつ。そして彼の戦力について話した。これには父上はさらに驚かされたと思う、アーラム家にいる全軍を投入しても勝てるかどうかわからないから。

 父上も事情を理解したが、それほど者にどうやって接するかを悩んでいるようだ。
 しかし、あまり待たせられない。時間は一秒も無駄にはできない。当主である父上がいるので四男である私の出る幕はない。父上の成功を祈ることしか私にはできない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...