だって私は、真の悪役なのだから。

wawa

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   後日、王家の紋章付きの手紙を送り、リリーに会う約束を取り付けた。

   リリーは一族に甘やかされて育ったのか、御披露目の場では貴族には珍しい無作法を行った。その行動に令嬢の周辺を探らせると、ステイ一族は、過剰なまでに大公令嬢を手厚く保護しているらしい。

   そして再び訪れたダナー城。王都にしかない洗練された焼き菓子を手土産に渡すと、リリーはとても分かりやすく喜んだ。

   その態度に、いつもグランディアの容姿を褒め称えるだけの、周囲の婦女子と同類だと考える。

   (右側ダナーに過剰に保護される箱入り令嬢だと聞いていたけど、女子供の扱いは、常にどれも同じだね)

   グランディアの見た目に騙されて好意を持つ。その好意を、王子は道具として利用するだけ。

   だがその考えは、直ぐに覆される。


   「グランディア様は、山大鹿ヘンムってご存知?」  
   
   「もちろん知ってるよ」

   「うちの家門のものたちはね、この前とっても大きな山大鹿ヘンムを狩ってきたのよ」

   「そうなんだね」

   「山大鹿ヘンムはね、増えすぎると村に入って悪さするから、春に狩られてお肉と毛皮になるの」

   「そうなんだね」

   「体はとっても大きくて、爪も長くて鋭くて、闘うととーっても危ないの。でもうちの者たちは優秀だから、短時間で仕留めたんですって」

   「そうなんだね」

   「………」

   「………」

   「お肉は召し上がったこと、ありますの?」

   「ありますよ」

   「………」

   「………」

   妙な間に、リリーはグランディアの瞳をじっと見つめている。二人の背後にそれぞれ立つのは、王子と令嬢の護衛。

   今はグランディアの一人の護衛に対して、リリー側にも背後に一人立っている。それはあの日から専任護衛筆頭として任命された、トライオン・クレルベ・ケイズだった。

   (ケイズの拷問官の跡取りを、ただの護衛として配置するとは)

   グランディアの護衛である王宮騎士のサイ・ラフェルは、一軍を指揮できる立場の者を護衛に据え置く大公家に疑問を抱いた。

   「グランディア様のお家のものは、山大鹿ヘンムはどうやって仕留めるの?」

   「…うちの周りには、山大鹿ヘンムはあまり出ないからね。あれは辺境の森にしかいないでしょう? うちは街の中なので」

   「そうなの、ではそちらの皆さまは経験が無いのね。じゃあうちの方が優秀ね」

   「………」

   「………」

   「珍しいお菓子をありがとう。そろそろお帰りになられるかしら?」

   「ちょっと君、面白いことを言うね。ここに来た道のりの時間と比べて、滞在時間はその半分だよ」

   「まあ、グランディア様のお住まいは、ずいぶん遠くなのね。ご苦労様です」

   「………」

   「………」

   「じゃあ、氷菓子は頼めないわね」

   「……お望みであれば、次に持参しましょう」

   リリーは、グランディアの負けず嫌いを自然に刺激する。かみ合わない会話にトライオンは軽く目を伏せたが、サイは王子の小さな変化を見てとった。


 **


   (今日はプランの尋問官、この前はノースの断頭官だった。エレクト・アストラ・プラン、メイヴァー・エール・ノース、いずれも伯爵家の跡取りが)

   次期大公のグレインフェルドではない。大公家といえど、ただの令嬢の護衛が、会う度に変わっている。

   その事を疑問に思ったグランディアが訊ねると、なんとリリーには専任護衛が十人居ると口にした。

   (我ら王族でも、多くて五人程なのに)

   内心で息を飲み込んだのは同じく護衛のサイだったが、グランディアは笑ってそれを馬鹿にした。

   「令嬢の護衛が十人とは。それ程に、ステイ大公家には余裕があるのですね」  

   「そうなのよ。うちの者は皆、とーっても強いから、グランディア様のお家の者にも負けないわね」

   「!」

   王族に対して反逆ともとれる内容に、妙な緊張が張り詰める。だが言った本人は、「だってグランディア様もそう思ってるでしょ? 自分の騎士団が一番だって」と軽やかに笑った。

   「…」

   「護られる側が一番だってそう思ってないと、護る側はやってられないのよ」

   物心ついたときから兄弟で足を引っ張り合い、常に優劣が頭にある。そこでグランディアは、自身の部隊への信頼より、王太子付きの優秀な部隊を羨んだ事があった。


 **


   「姫様、先ほどの言葉は、あまり、いえ、かなりよくありません」

   「どれかしら。私はよく、言葉を選ばないって常に注意されるものだから、心当たりがないわ」

   「うちのものがとーってもって、あれです」

   「…うちのものがとーっても、口うるさい…」

   「そんな話はしてなかったでしょう! うちが強いとか、あまり、その、他家の方には、そういう危険な発言は、お止めください」

   「………」

   「金輪際、お止めください」

   「えへへっ!」

   「駄目ですよ! この件は、きちんとケイズ卿に報告致します」

   「ああ、やめてよやめて。トライオン様に報告されたら、お父さまやお兄さまたちにも伝わる、話が長引けば、お母さまにまでいってしまう、」

   「します」

   「エレクトーン、お願い…」

   「だから改名しないで下さい! 僕の名前はエレクトなんです!」

   「エレクト、お願い。やめて。」

   「あと気になるのは、あまりメルヴィウス様のあることないことを、お客様にお話にならない方がよいかと…」

   「あることよ。メルお兄さまは、ああ見えてグレイお兄さまよりも冗談が通じない真面目なの。グランディア様が間違えて冗談を言わないように、教えてさしあげたのよ」

   「ですが、お身内のことは、お控えに」

   「特にメルお兄さまはね、あまりグランディア様をよく思っていないから。親切心なのよ」



 **



   「あれだけ口が軽いんだ。ダナーの弱味を簡単に口にすると思っていたが、なかなか喋らないね」

   王城までの長い道のりに、馬上でそう言いながらも、リリーに会いに行く日、自ら菓子を選びに行くグランディアの表情は隠しようもなく明るい。それを唯一知っていたのは、見守っていた護衛のサイだった。
   
   通い続けた三年。十五歳になり父王より婚約の許可が出た。そして正式な婚約書類を携えてダナー家に申し出ると、それ以降、リリーからの返信はぴたりと止まった。

   「グランディア殿下」

   目に見えて、グランディアはやつれ落ち込み荒んでいった。

   「あの家の弱味は分かってる。あの娘だってことなんだよね」

   結局グランディアが知り得たのは、リリーが家族と一族に愛されているという事実だけだった。


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