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しおりを挟む王家の第四王子であるグランディアは、左側の一族を母に持つ。
その血を緩衝材として、左側と王家と右側を姻戚で結ぶ。平和的歩みを始めてみないかと、三年前に国王に打診された。
娘の健康面を理由に話を濁したステイ大公だったが、グランディアが十五歳になり成人すると、それは王命という形になってダナー城に届いた。
だがそれを本人に告げてから、驚く事にリリーは、グランディア第四王子からの書簡を一年間も無視し続けていたのだ。
**
「王命に断る術が無かったが、まさかリリエル本人が、王子を無視していたとは」
リリーだけを除く家族の定例会。この内容に婦人は苦笑し、次兄は腹を抱えて笑う。
御披露目の会場に、招待状もなく乗り込んできた第四王子グランディア。その後は王よりの書簡を携えて、リリーとの縁を結ぼうと足繁く通ってきた。
三年間のやり取りに、不平を言わないリリー自身が、グランディアとの縁を望んでいるのかと思っていた家族だったが、思い返してみると、婚約を告げられたリリーは、喜びもせずに困惑した顔をしていた。
「ですが不敬罪が気になります」
言ったメルヴィウスの首から全身には、厄除けの呪いが刻まれている。リリーの死を防ぐ為にあらゆる手段を探してきた中で、メルヴィウスは旧教会の呪術士に勧められて、厄除けの入墨を施した。
「この程度は、不敬罪にはならない。我らが不敬罪を問われるのは、王族ではなく王自身への攻撃のみ」
絶大な力を持つ右側と左側の直系は、王族には従わないという不文律がある。彼らを罰する事が出来る者は、王ただ一人。
父である大公の言葉に沈黙したメルヴィウスだが、焦る気持ちは消えることはない。
家族を始め一族は、歴代の公女の死因を調べ尽くした。
病死、自死、事故死、事件死、不敬罪、その要因は様々で、一貫性は特にない。だがいずれも、十七歳になる前に凄惨な死を遂げていた。
外的要因を防ぐために、リリーは城の中で護られていたのだが、最近になりグレインフェルドは、リリーの十七歳までの時間を意識するようになった。
「成人する前に、リリエルを城下街へ行かせるのはどうですか」
「危険です!」
「だが、あらゆる想定をしなければならない」
「リリーは、十六歳で死にません!!」
音を立てて立ち上がったメルヴィウスを、兄は冷ややかな目で制する。
「この十四年、一族は呪いについて調べたが、いまだそれを確実に回避する術を見つける事が出来ていない。歴代の公女様方の、死因の因果関係も不明なままだ。ならばこのまま城に隔離するよりも、リリーの時間に選択肢を与えたい」
十五歳の成人を前に、外の世界を見せてあげたい。
リリーが望むのであれば、時間を自由に過ごさせてあげたい。
メルヴィウスはガタンと座り腕を組む。そして吐き捨てる様に言った。
「呪いに関する、調査は続けます」
「無論だ。何もしないという選択肢は無い」
グレインフェルドの提案に両親は頷く。本人は何も知らない。一族で箝口令を敷いたそれは伏せられたまま。そして二人の兄弟は、外出の許可を告げにリリーの部屋を訪れた。
「俺が伝えます!」
きっと喜ぶに違いない。グレインフェルドよりも先にリリーの元にたどり着いたメルヴィウス。
だが妹は、挑戦的な顔をして二人の兄を見上げ、何やら考え始めた。
**
「お城の外に出るの?」
「そうだ。お父様とお母様より許可を頂いた」
「なんで?」
「?」
なんでと問われ、思わず兄弟は顔を見合わせる。
「それって、グランディア様と何か関係あるの?」
「第四王子と?」
言ってリリーは、手紙を捨てていたと白状した、暖炉を横目で示唆した。
「ぷっ、あははは!」
「笑い事ではないのよ、メルお兄さま。お父さまとお母さま、何か言っていなかった? …その、私に罰を与えるとか…」
やり取りしていると嘘をつき、一年間も王子を無視していたと知った大公と婦人は驚き、珍しく二人で話し込んでいた。
その内容は、夫妻にとっては左側と王族への悪口という酒の肴だったのだが、妹は罰に怯えて過ごしていたという。
「そんなことはしない。外の世界の勉強だ」
「…お勉強。ならそれって成人前のお勉強よね? たしかグレイお兄さまとメルお兄さまは、領地運営を任されているのよね? …そうね、私はね、きっとお父さまやお母さまは、領地は無理だって言いそうよね…。何をさせられるのかしら。ごみ拾い? 慈善活動?」
「…リリー、勉強とは言ったが、堅苦しいものではない。まずはダナーの城下街、そしてステイ領地を見て廻る事だ。買い物でも、気軽にやりたい事を考えなさい」
「お買い物、街でお買い物してもいいの!?」
「…いいよ」
「でも街は、危ないんだぞ」
「大丈夫、都会は危ないって、メルお兄さまよりも昔から知ってるのよ! ようやく大人の階段を登るのねっ! 私はね、一人でお買い物も、一人で乗り合い馬車にだって乗れると思うの!」
「……」
「…うん? 乗り合い?」
それを経験したことは、グレインフェルドにもメルヴィウスにも無い。常に従者と護衛を共にするし、今までに考えた事がない二人は、妹への返答に間を空ける。
「お金のお支払も、お釣りの計算だって間違えない。きっとぼったくられない自信もあるの!」
「忍んで行くわけではないのだから、金の支払いは必要ないのだが、…まあとにかく、楽しんでおいで」
「はいっ!」
「ぼったくりって、どこで覚えたんだ?」
「内緒ー。うふふっ!」
それからリリーは毎日はしゃぎ喜び、前日は興奮して夜も眠らず起きていたと侍女からの報告があった。
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