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DVDショップ惨殺事件
しおりを挟む警視庁捜査一課──。
少しクセのある、黒髪のショートカット。それにつけ、アンニュイな雰囲気をかもし出しつつ、出勤してきた一人の女がいる。
彼女の名は、栗原ミホコ。警視庁捜査一課の女刑事である。
ミホコは、東大卒のキャリアであり、黒川とは同期で警視庁に入った。警視庁では、美人と名高いミホコだが、仕事以外には興味を示さず、上司が持ってくる見合い話にも応じずにいた。
そして、そんなミホコに、黒川はひそかに想いを寄せていたのであった。
ミホコは出勤するなり、不機嫌そうにデスクにかじりつき、黙々と何かを書いている黒川を発見した。
「おはよう、黒川くん」
「ああ、おはよう」
「北海道はどうだった?」
そう、この日は、黒川が北海道から帰ってきた初日だったのだ。
「……最悪だ」
「でしょうね。なんせ、犯人と一緒に縛られて警察に連行されたんですもんね」
飛行機の事件で、黒川が犯人と一緒に縛られて警察に護送された件は前代未聞で、すでに警視庁内でも、有名な話になっていた。
「あの野郎……今度会ったらただじゃおかねえ」
「だから、帰ってきた早々、朝っぱらから始末書を書かされてるってわけね?」
黒川は、犯人を逮捕したにもかかわらず、レン太郎に犯人と一緒に縛られたお陰で、「警察の恥さらしだ」と、課長に大目玉をくらい、始末書を書く羽目になってしまったのである。
とその時、DVDショップで、強盗殺人事件が起きたとの110番通報が入った。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」
ミホコは、黒川に軽く手を振り、現場に向かおうとした。
「ちょっと待て、俺も行く」
だが黒川は、ペンを置きジャケットを羽織って、ミホコに着いて行こうとしている。
「ダメよ。黒川くんは始末書を書いてなさい。また課長から怒られるわよ」
「……チッ!」
黒川は舌打ちをして、大人しく席に座って始末書を書き始めた。
「じゃあ黒川くん、頑張って」
「おい、ミホコ」
捜査に行こうとしたミホコを、黒川は再び呼び止めた。
「なに?」
「気をつけろよ」
「うん……わかった」
ミホコはそう言うと、平気な顔をして捜査に出て行った。だか黒川は、嫌な予感がしていた。
またあの男が現れて、捜査を引っかき回すんではなかろうかと。
あの男とは、そう──、
名探偵レン太郎のことである。
DVDショップにて──。
殺害されたのは、DVDショップの店長で、鋭利な刃物で切り付けられたことによる、出血死であることが判明。犯人は、現金30万円が入った金庫を奪って逃走。そして犯行は、閉店間際を狙ったものである事がわかった。
先に駆け付けた、捜査員の話によると、この店は裏DVDも取り扱っており、マニアの間ではかなり有名なDVDショップとのことだった。
「お疲れ様です、栗原刑事」
現場に到着したミホコに、待機していた警官が挨拶をした。
「お疲れ様」
ミホコも軽く手を上げて、警官に応えた。
「DVDショップのアルバイトの店員が来てますが、呼びましょうか?」
「そうね。話が聞きたいから、呼んでちょうだい」
「はっ!」
警官は駆け足でその場を離れ、アルバイトの店員とともに、ゆっくりと戻ってきた。
だが、
「ヤッホー!ミホコさーん!」
そのアルバイトの店員は、現場の雰囲気をぶち壊すくらいのハイテンションで、ミホコに声を掛けたのである。どうやら、ミホコのことを知っているようだ。
それもそのはず。そのアルバイトの店員とは、あの名探偵レン太郎だったのだから。
逃げ足だけは金メダル!
暗中模索のまぼろし探偵!
名探偵レン太郎!
「あんた、こんな所で何やってんのよ」
現れるなり、いきなり変態的にポーズを決めるレン太郎に、ミホコは、込み上げる怒りを抑えながら、そう言った。
するとレン太郎は、捜査官顔負けの毅然とした態度で、ミホコに向かって、こう言った。
「このDVDショップは、違法な裏DVDをレンタルおよび販売しており、私はアルバイト店員として潜入捜査をいたしておりました」
「嘘つけーっ!」
「やっぱりバレましたか。ぶっちゃけ、探偵だけじゃ食っていけないので、この店でアルバイトしてたんですよ」
「なんか切実過ぎるわ……」
「でも、このアルバイト、エロDVD借り放題ですからいいですよ。おかげさまで、私のキンタマは連日すっからかんです」
「あんたのキンタマの話はどうでもいいわ」
「え、今なんて言いました?」
「あんたのキンタマの……」
「も、もう一度……」
「キ、キンタマ……」
ミホコは顔を赤らめて、少し恥ずかしそうにしている。
「グヘ、グヘ、グヘヘヘヘ」
そんなミホコを見たレン太郎は、嬉しそうにニヤニヤしている。
「気持ち悪い笑い方をするなーっ!」
すっかり、レン太郎のペースに巻き込まれてしまったミホコ。無事に事件を解決する事が出来るのだろうか。
レン太郎にペースを乱されっぱなしで、話はまったく先に進む気配を見せない。
「このままではマズイ」と思ったミホコは、自分のペースを取り戻そうと、落ち着いてゆっくりと深呼吸をした。そして、レン太郎の顔を見据えて、話しはじめたのであった。
「あなたに聞きたい事があるのよ」
「わかってますよ。殺人事件の犯人のことですよね?」
「あら、何か心当たりでもあるの?」
「実はですね……私の中では、容疑者はすでに三人に絞られているんですよ」
なんと、レン太郎はすでに容疑者目星をつけていると、ミホコに言い放ったのだ。
だが、ミホコは「何を言いだすんだこの変態野郎め」との表情を浮かべつつ、こう言った。
「へえー聞かせて貰おうじゃない。で、誰なの?」
すると、レン太郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、こう言い放ったのである。
「それでは問題です!」
「……へ?」
【問題】
DVDショップの店長が、何者かに殺害されました。犯人は、鋭利な刃物で切り付けて殺害したと思われます。犯人は、次の三人の容疑者の内の誰でしょう?
A.川島リナ(OL)
B.村上ヒトシ(学生)
C.松田ヤスオ(警備員)
さぁ、誰でしょうか?
「クイズ番組かっ!」
ミホコはずっこけつつも、レン太郎に突っ込んだ。
「あらミホコさん、わからないんですか?」
「本当にこの中に犯人がいるの?」
「ヒントは“鋭利な刃物で殺害”ですよ」
果たして、レン太郎は何の意図があってミホコにこのようなクイズを出題したのであろうか。
ミホコは、またもやレン太郎のペースに乗せられてしまいつつも、真剣に考え込んでしまった。
そしてミホコは、嫌な予感がしつつもクイズの答えを言った。
「まさかあんた……」
「はい?」
「鋭利な刃物だから【A.リナ。刃物で殺害】とか言うんじゃないでしょうね?」
「ピンポーン! ミホコさん大正解。犯人は【A.川島リナ】でしたー!」
「んなことで犯人を決めんなーっ!」
さすがのミホコも、我慢できずにブチ切れた。だがその時、
「おおーなるほど!」
警官の人達は、クイズの答えに納得して拍手した。
「お前らも、拍手すんなーっ!」
すると、レン太郎が一本のビデオテープを持ってきて、ミホコに手渡した。
「ミホコさん。はい、これ」
「なによ、これ?」
「防犯カメラの映像です。これに【A.川島リナ】が店長を殺害した映像が録画されてます」
「本当に? なんか、あんたがビデオ持ってくると、エロビデオにしか思えないんだけど」
「否定できないのが悲しいです。でもこれで事件解決ですよ」
「ビデオが本物だったらね」
ミホコは、現場に乗りつけた車の車載モニターで、ビデオの映像を確認した。そこには、レン太郎の言う通り、しっかりと【A.川島リナ】と思われる女性が、店長を殺害している状況が映像として残されていた。
このビデオテープは証拠となり、犯人は逮捕されるだろう。
ミホコは、現場で待っているレン太郎の所へ戻ると、手を差し延べながらこう言った。
「ありがとう。珍しくあなたのお陰で事件解決できそうよ」
「握手ですか? なんか照れ臭いですね」
そう言いながら、レン太郎がミホコの手に触れた、その時である。
「うぉりゃー!」
ミホコはレン太郎の手首をひねり、一瞬で地面に押さえ付けてしまったのだ。
「ひほこはん……ひはいでふ」
(訳:ミホコさん……痛いです)
「あら、お忘れかしら? あんたも一応、手配中の犯人だってことを」
ミホコはレン太郎を起こして、手錠を取り出そうとしている。
「そ、そうでしたね……」
「それじゃ逮捕するわよ」
手錠を取り出たミホコは、レン太郎を逮捕しようと手錠を構えた。だが、その時──、
「黒川さんがミホコさんのこと、好きだって言ってましたよ」
「え?」
レン太郎の言葉に、ミホコの手が止まった。
「黒川さん言ってましたよ。“俺のミホコに何かしたらただじゃおかない”って」
「く、黒川くんが……」
「ミホコさん、黒川さんに愛されてるんですね」
長い間、恋愛とは掛け離れた生活を送ってきたミホコにとって、人づてとはいえ、黒川からの突然の告白には、動揺を隠せずにいた。
とその時、ミホコの手が緩んだスキに、レン太郎は手を振りほどき、スルリとミホコから離れたのである。
「あっ!」
「じゃあミホコさん、また会いましょうね」
「ま、待ちなさい!」
「ちなみに、黒川さんの話は嘘じゃないですよー!」
そう言い残すとレン太郎は、あっという間に逃げ去ってしまったのであった。
「逃がさないで! 追い掛けて!」
ミホコは、慌てて警官達に呼び掛けた。
「はっ!」
警官達も、直ぐさまレン太郎は追い掛けたのだが、その追跡も空しく、レン太郎を捕まえることは出来なかったのであった。
見事に事件を解決して、逃げおおせる事に成功した、名探偵レン太郎。
次回は、どんな現場に現れるのであろうか。
そして、黒川とミホコの恋の行方とは。
「く、黒川くんが、あたしの事を……」
(つづく)
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