名探偵レン太郎

レン太郎

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ドキドキデートを尾行せよ

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 とある駅で──。
 一見、ガラの悪い男が、煙草をふかしながら、腕時計と駅の改札に何度も目をやり、ソワソワしている。
 彼の名は、黒川ヒデキ。駅前で、ミホコと待ち合わせ中である。
 実は、二人がこうやって待ち合わせすることになったのを説明するには、話を少し戻さなければならない。

 さかのぼること数日前──。
捜査一課の黒川のもとに、一本の電話が入った。

「もしもし、黒川だ」

「ヤッホー黒川さーん。レン太郎でーす!」

「テメーいったい何の用だ?」

「いやね、今日は黒川さんに、耳寄りなお話があるんですよ」

「……なんだ?」

「ミホコさんをデートに誘ってみて下さい。絶対に上手くいきますよ」

「な! お、お前、いきなり何を……」

「ミホコさんも黒川さんの誘いを待ってますよ。じゃあ、頑張って下さいねー」

「あ、オイ! ちょっと待て」

 しかし、黒川の呼び止めも空しく、すでに電話は切れてしまっていた。

 DVDショップの事件以来、ミホコは様子はおかしかった。

「何かあったのか?」と尋ねても「な、何でもないわよ」と、どことなく、よそよそしくなってしまい、黒川と、まともに目を合わせなくなってしまっていた。
 黒川は、レン太郎の言葉が気になった。「デートに誘え」とは、どういうことなのだろうか。
 黒川はとりあえず、デスクで仕事をしているミホコに、声を掛けることにした。

「な、なあ……ミホコ」

「な、なに、黒川くん」

 やはりミホコは、相変わらずよそよそしい。

 この時なぜか黒川は、レン太郎の「絶対上手くいく」という言葉を信じてみたくなった。

「最近、あの……なんだ……話もろくにしてないし、飯でも食いに行かないか?」

 黒川もまた仕事一筋で、女性をデートに誘うなんて、皆無に等しかった。

「えっ! ご、ご飯? そ、そうね……行きましょうか?」

 よそよそしいながらも、ミホコはOKしてくれた。

「じゃあ、今度の休みでいいか?」

 クールを気取りながらも、黒川の心臓は爆発寸前である。

「う、うん……」

 二人の会話はギクシャクとしたものだったが、とりあえずデートの約束は出来た。
 しかし、皮肉な事に、レン太郎の指示に従った結果だったので、黒川は心境は複雑なものであった。


 そしてデート当日──。
 約束の時間は18時に駅前。でも黒川は、一時間以上も前から駅前で待っていた。
 5分おきくらいに、腕時計を見てはソワソワしながら。見た目は、恐持てのオッサンのようだが、黒川の心はまるで初デートの高校生の気分だった。
 そして、黒川が駅の改札に目をやると、ミホコが出てくるのが見えた。黒川はこの一時間、何度この改札に目をやったことだろう。

「黒川くん、ゴメン待った?」

「いや、今来たとこだ」

 普段は仕事でパンツスーツしか着ないミホコだったが、この日は珍しくスカートを履いていた。ミホコもまた、まんざらでもないようである。


 レストランにて──。
 黒川とミホコが来たレストランは、こじんまりとした地味な店だったが、夜景が見えて美味しいと評判の店だ。
 ミホコはこの店の常連で、幾度となく訪れてはいたが、黒川とのデートで訪れるとは夢にも思ってなかった。

「どう、美味しいでしょ?」

「ああ、美味いな」

 二人は、お勧めの料理に舌鼓を打ちながら、今までギクシャクしていた会話に花を咲かせていた。
 だがその時、その雰囲気をぶち壊すかのように、隣のテーブルから、聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。

「このスープをクルトンてんこ盛りで。あと、この肉をどんぶりみたいに食いたいんですけど。ええ。あと、ミディアムレアじゃないとボクチン食べれないのー。てか、このワイン超うめー!」

「まさか」と思い黒川は、恐る恐るとその声の主の方を振り返った。そこにはなんと、あのレン太郎が、ワインを豪快にラッパ飲みをしている姿があったのだ。
 黒川は怒りにうち震え、席を立とうとした。

「どうしたの? 黒川くん」

 ミホコはキョトンとした顔で、黒川を見ている。

「……あいつだ」

 そう言いながら黒川は、レン太郎の方を指差した。

「……あ」

 ミホコは、開いた口が塞がらない様子だ。

「ちょっと行ってくる」

「あたしも行くわ」

 黒川とミホコは席を立ち、込み上げる怒りを抑えつつも、レン太郎の席へと向かったのであった。

「おい」

「あらどーも、黒川さんにミホコさん。デートはいかがですか?」

「ていうか、なんであんたがここにいるのよ」

「なんでって、二人のデートを生暖かい目で見守るために決まってるじゃありませんか」

 そう言うと、レン太郎は席を立ち上がった。


 時には恋のキューピット!
 縦横無尽のミラクル探偵!
 名探偵レン太郎!


 レン太郎は、レストランの客の視線を一人占めにし、ポーズを決めた。

「お前、本当に殺されたいらしいな」

 黒川は、額に血管を浮きだたせている。だが、そんな黒川を気にすることもなく、レン太郎は厳しい顔をしながら話し始めた。

「実は、お二人にお話があります」

「なんだ?」

「まず黒川さん」

「なんだ?」

「ミホコさんとのせっかくのデートなのに、手すら握らないとは、どういうことですか!」

「なっ! 手をだと!」

「次にミホコさん」

「なによ?」

「黒川さんは奥手のようですから、ミホコさんから腕を組むくらいの積極性がないとダメじゃないですか!」

「う、腕をって……あんた」

「さらに、ミホコさんが普段は履かないスカートを履いてるんですよ。気付きませんか?」

「そういえば……」

 黒川は、ミホコのスカート姿をマジマジと見た。そして、その視線を感じたミホコは、頬をを赤らめた。

「スカートを履いて女らしさをアピールしてるんですから“今日はホテルで一発OKよ”のサインなんですよ」

「ホテルって、あんたねえ」

 ミホコは、呆れ顔でため息をついた。

 だが──、

「ミホコ、そうなのか?」

 黒川が、男の部分を覗かせた。

「違うわーっ!」

 ミホコは、全力で否定したのであった。

「というか、お前どっから見てたんだ?」

「どこって、駅からずっと尾行してましたけど」

「なんだと(なんですって)」

 と、黒川とミホコが、声を揃えて驚いたその時である。

「キャーッ!」

 突如として、店内に悲鳴が響き渡り、黒川とミホコは、悲鳴が聞こえる方へ向かった。
 そして、レン太郎も向かおうとした。

「お前はついてくんなーっ!」

 果たして今回は、どんな事件が待ち受けているのだろうか。

 頑張れ! 黒川&ミホコ!
 そしてオマケのレン太郎!


 突如として聞こえて来た悲鳴をたよりに、三人は急いでその現場へと駆け寄った。
 そこにはなんと、50~60代くらいの男性が、椅子から転げ落ちて倒れていた。
 その横では、ウェイトレスが青ざめた顔をして立っており、一緒に同席していた男性も、青ざめた顔でボー然としている。
 黒川は、いち早く倒れている男性に駆け寄り、首に手を当て脈を確認した。

「どうなの? 黒川くん」

 ミホコが、神妙な面持ちで黒川に話し掛けた。

「死んでるな……ん?」

 男は死んでいた。だがしかし、その遺体からの微かなに臭いに、黒川は気付いた。

 黒川はその臭いを確認しようと、遺体の口元に、顔を近付けた。レン太郎も顔を近付けた。
 そして、黒川とレン太郎の顔の距離が、ぐっと縮まった。

「これだけ顔が近いと、なんだかドキドキするね……ヒデキ」

「うるせーよ」

 黒川は、照れるレン太郎に軽く突っ込んだ。
 とそこへ、ミホコの声。

「で、どうだったの? 黒川くん」

「ああ……思った通り、アーモンド臭がするな」

「てことは……」

「ミホコ、本部に連絡して店を封鎖するぞ。それと客も従業員も、この店から一人も出すな!」

「わかったわ!」

 ここで、なんのこっちゃ分からない人の為に説明しよう。
 青酸カリを代表とする青酸系の薬物は、人の身体に入ると化学変化を起こし、アーモンドに似た臭いを放つ性質を持っている。
 死体からアーモンド臭がしたという事は、青酸カリによって殺害された可能性が高いという事だ。

「黒川さん。アーモンド臭がしたってことは……」

 レン太郎は、何かを思い付いたような顔で黒川に話し掛けた。

「そうだ。いくらお前がアホでも探偵ならわかるだろ?」

「はい。でかいアーモンドを喉に詰まらせての窒息死ですね?」

 黒川は、呆れて頭を抱えてる。

「あ、あれ、違いました?」

「死体からアーモンド臭がしたってことは、青酸カリを飲まされて殺されたって事もわからねーのか? このアホ探偵っ!」

「ひ、酷い……ヒデキ。なにも、そこまで言わなくてもいいじゃない」

「フンッ!」

 とそこへ、ミホコが戻ってきて、黒川にこう告げた。

「店の人間全員を集めて来たわ」

「封鎖したか?」

「したわ。誰も出入りは出来ないから大丈夫よ」

 店にいたのは、客が6人。ウェイトレスが3人。料理人が3人の計9人だった。黒川は、集めた人間全員に向かい、状況を説明し始めた。

「皆さん、よく聞いて下さい。たった今、殺人事件が起きました。ここにいる全員が容疑者となりますので、捜査にご協力お願いします」

 集めた全員がざわつき始めた。この空間に、殺人犯と一緒にいるのが分かったのだから、当然だろう。
 そこへレン太郎が、黒川にワクワクした顔で話し始めた。

「黒川さん」

「なんだ?」

「なんか、探偵物の小説みたいでドキドキしますね」

「これは元々、探偵物の小説だっ! お前がいつも話をややこしくするから、おかしくなってるんだろうがっ!」


 とそこへ、

「まあまあ、黒川くん落ち着いて。それよりも一人一人に話を聞かなきゃ……ね?」

 ミホコは話に割って入り、黒川をなだめるように、そう言った。

「そ、そうだな」

 と、黒川が落ち着きを取り戻そうとしたその時である。

「にょーほっほっほっほっ!」

 レン太郎が不敵に、いや、不気味に笑い始めたのである。

「なんだ気持ち悪い」

「その必要はありませんよ」

「なぜなの?」

「なぜなら、私には犯人がわかってるからですよ」

 そう言うとレン太郎は、被害者と同席していた男を指差し、さらにこう言い放ったのである。

「犯人は、あなたですよ」

「な、何を言ってるんですか」

 同席していた男は、慌てふためきながら否定をしている。だが、レン太郎は、それをものともせずに話を続けた。

「あなたは、被害者の男性に弱みを握られて、金銭を要求されていたんです」

 レン太郎は指を差したまま、さらに話し続けた。

「そして、金を渡す口実で被害者の男性を呼び出し、その男性がトイレに行っている間に、あらかじめ持っていた青酸カリをワインに入れ、そのワインを被害者の男性に飲まして殺害した。違いますか?」

「お、おい……何をいきなり」

 黒川は、レン太郎に「お前、頭大丈夫か?」と言わんばかりの表情で、話を止めようとした。
 だが──、

「そ、その通りです。私がやりました……」

 その男は、レン太郎の推理通り、犯行を認めてしまったのであった。

 その現状を目の当たりにした黒川とミホコは、声を揃えて、こう言わざる負えなかった。

「うそーん!」

 そして、まだ信じられない黒川は、レン太郎に問いただした。

「お、おい、なんでわかったんだ?」

 レン太郎は、まだ犯人を指差したままプルプルと震えていた。そして、喋りがおぼつかないながらも、黒川にこう告げた。

「く、黒川さん……」

「どうした?」

「適当に言ったら当たっちゃいました」

 黒川とミホコは声を揃えて、再びこう言わざる負えなかった。

「あてずっぽうかよっ!」


 そして、間もなく警察が到着し、犯人は逮捕され事件は解決した。

「なんか、とんでもない休みになっちゃったわね。黒川くん」

「ああ、そうだな」

「でも楽しかったわ。また誘ってね」

 ミホコは黒川の方を向いて、にっこり微笑んだ。そして黒川もまた、照れ笑いを浮かべている。
 とそこへ、

「さて、事件も解決しましたし、私はここらで失礼します」

 レン太郎は、さりげなく帰ろうと出口に向かっていた。
 だが、すかさず黒川は、レン太郎の行く手をさえぎるかのように、立ちはだかった。

「また上手いこと逃げる気だろうが、そうはいかんぞ」

 するとレン太郎は、ミホコに聞こえないように、黒川に小声でそっと呟いた。

「今日のデートのお膳立て、誰がしたのかミホコさんに話しちゃいますけどいいんですか?」

「な、何……き、貴様っ!」

 黒川は、人一倍プライドの高い。よりによって、レン太郎に後押しされてデートに誘ったなんてことがミホコに知れたら──。

「ミホコ、今日は見逃してやろう」

「え、なんで?」

「あてずっぽうとはいえ、こいつのお陰で犯人がわかったんだ。それに、俺達はまだ、デ、デートの途中だし……な?」

 考えた末に黒川は、レン太郎を見逃してやることにした。そして、ミホコを説得するのに、デートという使い慣れない言葉を、恥ずかしさを抑えて絞り出すように言った。

「そ、そうね、もう黒川くんったら……」

 ミホコもまた女。黒川の言葉を照れながらも、すんなり受け入れてしまった。

「じゃあ、黒川さんにミホコさん。また会いましょうね」

 去り行くレン太郎を見送りながら、黒川は呟いた。

「次は、絶対に逃がさんぞ」

「アハハ。お手柔らかにお願いしますね」

 そう言い残すとレン太郎は、悠然とその場を立ち去っていったのであった。

 見事に事件を解決へと導いた、名探偵レン太郎。
 次回は、どんな現場に現れるのであろうか。


(つづく)
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