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もう一人の名探偵
しおりを挟むとあるスポーツクラブで、プールに若い女性の水死体が浮いているとの110番通報があった。
通報したのは、そのスポーツクラブのインストラクターで、朝、出勤した際に発見したということである。
この事件の担当は、栗原ミホコ。女性はなぜ、プールに水死体で浮いていたのか。そして、いったい犯人は誰なのだろうか。
その謎を説き明かすべく、ミホコは事件があったスポーツクラブへと向かったのであった。
スポーツクラブにて──。
遺体はすでに鑑識により処理されていて、現場に残っている警官の数もまばらだった。
ミホコはスポーツクラブに入ると、水泳のインストラクターをやっている第一発見者の男性に話を聞くために、プールサイドまで移動した。
「あなたが第一発見者ですね。私は警視庁捜査一課の、栗原ミホコです」
「はい、よろしくお願いします」
見た感じ爽やか系の好青年だ。しかも、かなりのマッチョである。この男性目当てに、このスポーツクラブに通っている女性も少なくないと思えるくらいのいい男だった。
「じゃあ早速、事件について詳しくお話をうかがえますか?」
「はい、わかりました」
そう爽やかに返事をして、男は話し始めた。
「朝、いつものように出勤して、プールへ行く扉の鍵を開けました」
「それで?」
「そして、プールに何か浮かんでいると思い、明かりを点けたら、島田さんが死んでいたんです」
「島田さんって、被害者の女性と、お知り合いですか?」
「ええ、うちのスポーツクラブの会員さんです」
「そうですか……あと、プールの鍵なんですが……」
「はい?」
「なぜ、鍵が掛かっていたのに、島田さんは入ることが出来たと思いますか?」
「さあ、それは私にもわかりません」
「そうですか……」
ミホコはとりあえず、この事件を頭の中で整理してみることにした。
司法解剖の結果が出なければ、はっきりした事はわからないが、恐らく溺死とみて間違いないだろう。問題は、誰に殺害されたのかということだ。
プールの鍵が掛かっていたのに、被害者の女性はどうやって侵入できたのか。鍵を開けて入ったとすれば、鍵を閉めた人間が必ずいる。そして、鍵を閉めた人間が、犯人である可能性は極めて高い。
ということは、犯人はプールの鍵を自由に持ち出すことが可能な人物ということになる。
「このスポーツクラブの関係者が、犯人の可能性があるわね」
どうやら、ミホコの考えがまとまったようだ。
「いろいろ聞かせて頂いて、ありがとうございます。では、私は署に戻りますので」
「そうですか……早く犯人が捕まるといいですね」
「はい、必ず逮捕します!」
そう言って、ミホコが帰ろうとしたその時である。
「ちょっと待ってくださーい!」
「誰?」
なんと、ミホコが振り向いたその場所には、赤い縁のメガネに、チャイナドレス姿の娘が立っていたのである。
あなたのハートを回し蹴り!
とってもキュートな
デンジャラス探偵!
名探偵リンリン!
「さて、帰るか!」
ミホコは、何も見なかったことにして帰ろうとした。
「キャー! ちょっと待って下さいよー刑事さーん!」
「私は何も見てない……何も聞こえない……何も見てない……何も聞こえない……」
ミホコは目を閉じ、両手で耳を塞いで、念仏を唱えように同じ言葉を繰り返していた。
「刑事さーん! ねえ、刑事さんってばー!」
だがリンリンは、ミホコの肩をポンポン叩いている。
「あー! うるさーい!」
さすがにうざかったのだろうか、ミホコはリンリンを怒鳴り付けた。
「あーよかった。気付いてくれたんですね」
だがリンリンには、まったく堪えた様子はない。
「いい、あなた……リンリンっていったかしら? よーく聞きなさい!」
ミホコは、リンリンをじっと見据えながら話し続けた。
「ここは子供の遊び場じゃないわ。それにこんな真似していると、どっかのアホみたいに、取り返しのつかないことになるわ。今日は、お姉さんの言うことを聞いて帰るのよ。いいわね、わかった?」
そう言い終えるとミホコは、リンリンの頭を軽く撫で、連れて帰ろうとした。
「でもあたし、犯人わかっちゃったんですけど……」
「ええっ! なんですって!」
ミホコは、びっくらこいた。
「あなた、犯人わかったって本当なの?」
「ええ、もちろん」
そしてリンリンは、第一発見者の男を指差し、こう言い放ったのである。
「犯人はあなたね!」
「ぼ、僕じゃありませんよ」
だが、インストラクターの男は、焦って否定している。
「リンリン、あなた何を根拠に言っているの?」
ミホコがそう聞くと、リンリンは指を差したまま、
「え? だいたいこういう場合って、第一発見者が犯人だって相場が決まってますし、ていうか、これ一度、言ってみたかったんですよー」
と、大喜びだ。
だが、
「お、脅かしやがって……」
インストラクターの男は、異常なまでの冷や汗をかいている。
「この男、なんでこんなに驚く必要があるのかしら?」と、ミホコは疑問に思ったが、今はこのお騒がせ娘を何とかしなくてはならない。
「さてリンリン、あなたも一緒に帰るのよ」
そう言って、ミホコがリンリンを連れて帰ろうとしたその時である。
プールの向かい側の飛び込み台から、バシャーンと“何か”が飛び込んだ音がしたかと思ったら、異常なまでの水しぶきをあげながら、物凄いスピードで、その“何か”は近づいてきたのだ!
「な、何なのいったい……!」
と、ミホコが言ったその時、それは勢いよくプールから、ザッパーンと飛び出した。
犬かきさせたら日本一!
マスかきさせたら世界一!
ビキニパンツが
食い込み探偵!
名探偵レン太郎!
なんとレン太郎が、競泳用のビキニパンツで登場したのである。
だが、ミホコは黙って、レン太郎から目をそらしている。
「あ、あれ? ミホコさん、今日はどうしたんですか?」
「……は……出……るわよ」
「え? なんですか?」
「パ、パンツの横から、はみ出てるわよ!」
「え! マジっスか?」
レン太郎は、履いているビキニパンツを確認した。
見ると、ビキニパンツの横から、チンコが“こんにちは”をしていたのだ。
「おっと失礼」
レン太郎は、チンコをしまい込んだ。そして、はにかんだ笑顔を浮かべながらこう言った。
「超KYでしたね」
【KYとは】
若者を中心に流行っている言葉で『(K)空気(Y)読めない』という意味である。
「あんた、KYの意味わかって言ってんの?」
「え? (K)キレイな(Y)よこチンって意味でしょ?」
「違うわーっ!」
と、そこへリンリンが、
「じゃあ、(K)汚い(Y)よこチンって意味ですか?」
「それも違うわーっ!」
そこで、レン太郎とリンリンは声を揃えてこう言った。
「じゃあ、どんな、よこチンなんですか?」
「だから、よこチンじゃねーよっ!」
ミホコは、突っ込み疲れて少し老けたように見えた。
すると、
「いやー所長! やっぱり所長の登場の仕方は一味違いますね」
「いやいや、リンリンのチャイナドレスもなかなか……てか、スリットをもうちょっとエグい感じで……」
「キャー! それじゃパンツが見えちゃいますよー!」
「見えた方がいいんだけど」
「もー! 所長ったらエッチですねー!」
「そお? それほどでもあるけどー!」
「アーハッハッハッハッ!」
と、レン太郎とリンリンが楽しそうに話し出した。
そこへ、
「ちょっと、あんた達!」
と、ミホコの声。
「はい、何でしょうか?」
と、レン太郎が答えた。
「あんた達、ずいぶん仲が良さそうだけど、どんな関係なの?」
「え? リンリンは、私のアシスタントですけど……」
「な、な、なんですってーっ!」
ミホコはさっきよりも、びっくらこいた。
「ちょっとあなた! こっちに来なさい!」
ミホコはリンリンの手を引っ張り、レン太郎から離れた所まで移動した。
「なんですか? えーと…ミホコさん?」
「なんですか? じゃないわよ! あなた、何であいつのアシスタントなんかやってんの?」
「え……探偵になりたかったからです」
「探偵事務所ならいくらでもあるでしょ?」
「いやーいろんな探偵事務所に面接に行ったんですけど、全部断られてしまいまして……」
リンリンは、頭をポリポリ掻きながら話を続けた。
「んで、レン太郎所長の探偵事務所を尋ねたら……」
「尋ねたら?」
「一発OKでした」
「ていうか、大丈夫? あいつに何か、変な事されたりしてない?」
「え、大丈夫ですけど……」
「そ、そうなの? おかしいわね……」
そう、ミホコはまだ知らないのだ。リンリンが空手五段で、近寄る男を条件反射で殴り飛ばすということを。
「でも、あいつの探偵事務所は止めたほうがいいわ。まだあいつが、まともな方だったら話は別だけど……」
「まともな方って、どういう意味ですか?」
また、リンリンも知らなかった。レン太郎が二重人格者で、銃声を聞くことによって、アホになったり賢くなったりするということを。
とその時、
「いやーでもあなた、もったいない事しましたねー」
と、レン太郎の声が聞こえてきた。どうやら、インストラクターの男に絡んでいるようだ。
「もったいないって、どういう意味ですか?」
「いや、私だったら、警察を呼ぶ前に、乳を揉みながらマウストゥマウスをしましたけどね。いやー本当にもったいない」
と、レン太郎の言葉を聞いた途端、ミホコの顔色が一変した。そして何かを思いついたように、インストラクターに向かって話し始めた。
「もう一つだけ、あなたに聞きたい事があるんですけど」
「な、なんでしょう?」
「あなたは、島田さんを見つけた時、なぜ救急車ではなく警察を呼んだんですか?」
「そ、それは……えーと」
インストラクターは、答えに困っているようだ。しかしミホコは、ここぞとばかりに畳み掛けた。
「その答えはひとつ! あなたは、島田さんがすでに死んでいるのを知っていたからです。違いますか?」
「…………」
「どうしました? なぜ、答えられないんですか?」
そうミホコが詰め寄ると、インストラクターは、ゆっくりと口を開き話し始めた。
「……あの女が悪いんだ」
「……え?」
「そうだ! 全部あの女のせいだ!」
「それはどういう意味?」
「あの女、結婚してくれないと、俺達の関係を皆にバラすとか言いやがったんだ!」
「ふーん。要するにあなたは、このスポーツクラブの女性会員を食い物にしてたわけね」
「人聞きの悪いこと言うなよ。向こうから勝手に言い寄って来たんだぜ。どうしようが、俺の勝手じゃねーか」
「あんたってさぁ……」
「なんだよ」
「最っ低ね!」
と、ミホコが言ったその時──、
「いいえ、最高ですよ!」
と、レン太郎の声。
「私もあなたのように、女にモテるにはどうしたらいいんですか? てか、弟子にして下さい」
そう言いながら、インストラクターに言い寄った。
するとミホコが、
「オメーは、すっこんでろーっ!」
レン太郎を怒鳴り付けた。
「キャーッ! ミホコさん怖いーっ!」
レン太郎は、まるで小犬のように逃げ回っている。
「……ったくもう」
そしてミホコはインストラクターをにらみつけ、手錠を取り出しながらこう言い放った。
「あなたを、殺人の容疑で逮捕します」
「ち、畜生っ!」
やけになったインストラクターは、リンリンに向かって走り出した。恐らく、リンリンを人質にして逃げるつもりだろう。
「し、しまった! リンリン逃げてーっ!」
「は、はーい!」
ミホコの言う通り、リンリンは走り出した。そして、ミホコは、犯人を追った。
「待ちなさーい!」
犯人は、リンリンを追っている。
「待てやコラーッ!」
リンリンは、犯人から逃げている。
「キャーッ!」
それを見ながらレン太郎は、鼻をホジっている。
「……ホジホジ」
それを見たミホコは、犯人を追いかけながらキレている。
「あんたも手伝えーっ!」
「えーっ! めんどくさいです」
「あんたのアシスタントが危険な目に遭っているのに、何やってんのよっ! この薄情者がーっ!」
だが、ミホコの怒りも空しく、
「いやいや、ミホコさん。リンリンなら大丈夫っスよ」
と、レン太郎は余裕の表情である。
そして、犯人の手が、逃げ惑うリンリンの肩に触れようとしたその時である。
「キャーッ!」
バッコォーッ!
犯人は、リンリンの悲鳴とともに吹っ飛んでしまったのだ。
「ほらね。ミホコさん」
「え? いったい何が起こったの?」
「リンリンは、男に触れられると殴り飛ばしてしまうという性質を持っているんです」
「で、でも……あんなマッチョな男を、いとも簡単に」
「ああ見えても、空手五段なんです」
「な、成る程。だからあんたは余裕かましてたってわけ?」
「その通りです。ていうか、ミホコさん?」
「なによ?」
「犯人、のびちゃってますけど、逮捕しなくていいんですか?」
そう言ったレン太郎が指差した先には、リンリンの正拳突きにより気絶した犯人が倒れていた。
「あ、あんたに言われなくても、わかってるわよ」
レン太郎の言葉にイラッとしながらも、ミホコは気絶している犯人に駆け寄り手錠をかけた。
「犯人確保!」
そして、事件は解決した。
すると、
「やりましたね、ミホコさん。あたし、チョー感動したって感じです」
と、リンリンの声。
「ありがとうリンリン。あなたのお陰よ」
「そ、そんなことありませーん!」
リンリンは、顔を真っ赤にして照れている。
「あら?」
「どうしたんですか? ミホコさん」
「あいつは、どこ行ったの?」
「所長ですか? 所長なら、さっき女子更衣室の方へ行きましたけど。なんか、捜査だとか言って……」
「ったく、あの野郎は世話がやける……。リンリン悪いけど、ちょっと犯人を見といてくれる?」
そう言うとミホコも、女子更衣室の方へと向かった。
そして──、
ドカッ! ビシッ!
バコッ! ガスッ!
ベシッ! ボコッ!
と、女子更衣室の方から、すごい音が聞こえてきたと思ったら、女性用の水着姿のレン太郎が、ミホコに引きずられて出てきたのである。
よく見ると、顔をボコボコにされているようだ。
「ミ、ミホコさん……だんだん、殴る強さが増してませんか?」
「うるさい! あんたが余計なことばっかりするからでしょ!」
今回も見事に事件を解決に導いた名探偵レン太郎。そして見事に犯人を撃退した名探偵リンリン。
次回は、どんな現場に現れるのであろうか。
「所長! 女性スイマーに変装するなんて、さすがです!」
「違うわーっ!」
(つづく)
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