魔界の姫君は、わんこ天使に手を焼いておりまして。

古都助(幸織)

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第七話・大天使ラジエルからの呼び出し2

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「……で? 部隊長やその取り巻き連中をフルボッコにした挙句、軍の施設を破壊。お前は、何がしたいんだ?」

「……申し訳、ありません」

 シャルロットと別れてから、一ヶ月。
 彼女の気配は人間界から消え失せ、恐らくは……、魔界に帰ったものと思われる。
 自分との接触を拒み、頭を冷やせという事なのだろうが……、気に入らない。
 椅子に背を預けてクルクルと回っているラジエルの前に跪きながら、シグルドは思いっきりわかりやすく不貞腐れていた。
 シャルロットに会えない苛立ちが、いや、拒まれているという現実に酷く腹が立ち、陰口を叩いたり、絡んでくる者達を片っ端から叩きのめして憂さを晴らす日々。
 自分でも、何がしたいのかよくわかっていない。
 あのオカマ……、いや、エリィという男だけが、エリィの特別。
 それもまた、苛立ちの原因のひとつとなっていた。

「はぁ……、お前、暫く謹慎しとけ。情緒不安定な奴にいられても迷惑だ」

「はい……」

「……覇気のねぇ顔。部隊長からの降格処分も検討すべきか」

「ご随意に……」

「……ちっ。仕方ねぇなぁ。……シグルド、近日中に書簡を預ける。魔界に行って、魔王にそれを渡して来い」

「魔界に……?」

 通常、何かしらの用事がなければ、天使が魔界に、魔族が天界に足を踏み入れる事はない。
 だが、大天使からの書簡を預かっているのなら、堂々と入っていける。
 ……シャルロットに、会えるかもしれない。
 そうしたら、今度こそちゃんと話をして……。

「ラジエル様、……シャルロットは、魔王の娘なんだそうです」

「ふぅん。当然知ってるけどな」

「どうやったら……、友人に、なれるでしょうか」

「……お前、まだそこで悩んでんのかよ。鈍感天然パワー半端ねぇなぁ」

「?」

「友達になってどうすんだよ?」

「気心の知れる間柄になって……、共に、時を過ごしたいと」

「で?」

 ……で、と言われても。出来れば、親友ランクまで漕ぎつけて、それから。

「嬢ちゃんの友達、あ~、最終目標は親友だっけか? なら、その後はどうすんだよ。嬢ちゃんに恋人や結婚相手が出来たら、お前なんか即お払い箱だぞ。男の親友なんて、邪魔なだけだからな」

 ラジエルがうんざりした様子で自分のクセのついている黒髪を掻き回し、で? と、また繰り返す。
 そうか……。彼女に特別な、伴侶となる相手が現れたら、友達や親友になれても、傍にはいられなくなるのか。
 ……、……、…………。

「そんなもの……、出来なければいいのに」

 呟いた言葉には、暗く、淀んだ憎悪の気配があった。
 自分から彼女を奪うものなど、全部消え去ってしまえばいい。
 ……シャルロットの隣にいるのは、自分、だけで……いい。
 
「……お前、鏡で自分の顔見て来いよ。とんでもねぇ殺戮者の顔してんぞ」

「え……。そう、ですか?」

「ふぅ。……嬢ちゃんがお前を遠ざける理由、よぉ~くわかるわ」

「何故……」

「そりゃ、身の危険を感じてるからだろ」

「……はい?」

 自分はシャルロットに危害など加えたりしない。
 ……首を傾げ、考えに考えた結果。

「わかりました。シャルロットは俺を誤解しているのですね? 友達になりたいと装って、本当は自分の中にある石を狙っているのだと」

 その誤解を乗り越えれば、今度こそちゃんと自分の気持ちをわかってくれるかもしれない。
 目をキラキラとさせ始めたシグルドは、魔界行きを最高のチャンスと捉えた。
 しかし……、大天使様の表情はさらに歪んでしまう。

「何なんだ、何なんだこいつ……っ。ここまでヒント出してやって、まだ気付かねぇの? うぅっ、胃が痛ぇぇっ。ラファちゃん、ラファちゃん、今すぐ飛んで来てぇっ」

 と、ラジエルが小声で助けを呼んでいるのは、同じ大天使であり、親友のラファエルの事だ。
 天界で最も治癒力に優れた彼ならば、ラジエルの胃痛も、この面倒な頭痛も取り去ってくれる事だろう。
 ……生憎と、今は地上に行っていて留守だが。

「ラジエル様、今度こそ……、俺はシャルロットの友達に昇格してみせます。出来れば、一気に親友の座に上り詰めたいとも思っていますが」

「はぁ……、もう勝手にどうにでもなっちまえ」

 一人、これからの希望に燃えているシグルドには、ラジエルのげっそりとした顔は見えていなかった。
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