魔界の姫君は、わんこ天使に手を焼いておりまして。

古都助(幸織)

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第九話・君は今どこに?

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「シャルロット様ですか? 姫様なら、今は城下の方に行かれておりますよ」

「城下に? 買い物か?」

「多分、孤児院の方だと思います。久しぶりに子供達と遊ぶのだと、そう仰っておられました」

 魔界での一日がひと巡りした翌日の朝。
 シャルロットに魔界を案内して貰おうと彼女の部屋を訪れたのだが、そこには寝台のシーツなどを回収している女官が二人いるだけだった。
 
(シャルロットが身を委ねていたシーツ……)

 むずむず、むずむず。……本能と理性がぶつかり合い、シグルドの両手が危うくシーツの回収に乗り出しそうになったが、寸でのところで耐えた。
 
「……孤児院までの道を、教えて貰ってもいいだろうか?」

「勿論です。地図をご用意しますから、ご自分の部屋でお待ちになっていてください」

「助かる」

 カゴに入れられて遠ざかっていくシーツに名残惜しさを向けながら、シグルドは部屋に戻った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あら!! シグルドちゃんじゃな~い!!」

「……エリィ」

 翼と獣耳獣尻尾を消して出た魔界の王都。
 シグルドは自分の気配を魔族のそれに変え、誰に絡まれる事もなく街中を歩いていた。
 人間界と同じ、頭上には透き通るような青空が広がり、街にも活気が溢れている。
 その、大通りの途中で出会ってしまった……、会いたくない、オカマ。
 別に女装をしているわけでも、化粧をしているわけでもないが、出会った瞬間からエリィは変なオカマという認識でシグルドは見ている。そして……、今は、憎く思える相手でも、ある。
 シグルドは駆け寄ってくるエリィを無視し、早足で孤児院への道を急ぐ。
 勿論、エリィも声を上げて付いて来る。

「ちょっとぉ~、どうしたのよぉ~!! 無視なんて酷いわ~!!」

「……」

 以前は、シャルロットと自分の仲を邪魔せず、協力してくれる良いオカマだとも思っていた。
 だが、今は違う。後ろからしつこく追って来るオカマは、自分とシャルロットの中に亀裂を入れている。
 特別な相手……。何故、自分よりもこのオカマ野郎がいいのか……、その苛立ちをまた思い出した。
 
「エリィ、金輪際俺に話しかけるな」

「えぇえええっ!? 何でっ、何でよぉ~!! 私っ、シグルドちゃんに何かしちゃったの!?」

「ふんっ」

 エリィに教える気はない。もし、シャルロットにとって自分が特別だと知れば、変な気を起こすかもしれない。
 シグルドと、シャルロットの友情を終わらせるかもしれない存在。……まだ始まってもいないが。
 
「シグルドちゃぁああああんっ!!」

「鬱陶しい」

「もうっ、本当に何を怒ってるんだか……。あ、そうだわ!! シャルちゃんの情報教えてあげましょうか? シグルドちゃんはあの子の事、まだまだ知らない事が多いでしょう? とっておきの秘密とか」

「うるさい!!」

「……シグルド、ちゃん?」

 自分の方がシャルロットの事を知っている。自分の方が彼女と親しい、特別な間柄。
 そう自慢しているようにしか見えないエリィに、シグルドは突然立ち止まり振り返ると、その胸倉へと掴み掛かった。思わぬ行動にエリィが目を丸くし、首を傾げる。

「……どうしたの? シグルドちゃん。今日の貴方は酷く怯えているように見えるわ」

「……お前に何がわかるっ」

「もしかして……、何か誤解してるんじゃない?」

「……」

「たとえば、……私がシャルロットちゃんに気があるんじゃないか、とか。貴方の知らない、特別な仲、とか」

 困った子供を相手にしているかのような苦笑気味の物言いに、シグルドの中で怒りの炎が増々激しく燃え盛る。
 そんなの、知りたくもない。シャルロットとエリィの関係が、本当はどんなものなのか。
 万が一、自分が踏み込めない親密な関係だったら、……その時は。

「……もう、付いて来るな」

「はぁ、……だから、誤解よ、シグルドちゃん。私とシャルロットちゃんは」

「黙れ」

 シャルロットを独占したいという感情がシグルドの心に壁を作り、エリィが追って来れないように全速力で孤児院へと足を走らせた。
 何も聞きたくない。何も知りたくない。シグルドが知りたいのは、自分にとって都合の良い……、エリィの事と、他の邪魔者以外の、シャルロットの全て。
 そんな風に狭量な自分を感じているのに、……この男はまだ、自分の気持ちに名前を付ける事が出来なかった。
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