無垢なる密蕾は、愛しき腕にて咲き誇らん

古都助(幸織)

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~アレクディース・アメジスティー編~

王兄姫の冒険と、副団長の困った葛藤3~アレク×幸希~

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 ――Side 幸希


『ふにゃああああああああああああ!!』

 豹麗族の治める王国、ラディシュヴェリアの地にて響き渡ったのは、私の情けない悲鳴だった。
 薄青の美しい花々が咲き乱れる広大な庭園を抱く王宮の三階奥。
 ラディシュヴェリアの第二王子殿下こと、アルフレードさんの一日愛玩動物になる事が決定しまった狼姿の私は、真っ白な絨毯に寄せられた沢山のクッションの中心で散々な目に遭っている。

「あぁ、最初に触った時も思ったけれど、堪らない触り心地だね。この温かな命の鼓動、撫でる度に伝わる最高のもふもふ感……っ」

『キャウゥゥゥン……ッ』

「今まで私が愛でてきた子達の中でも、最上級の触り心地だね……」

 うっとりと歌うかのように奏でられるアルフレードさんの恍惚とした声音。
 仰向けになっている私のお腹を何度も何度も撫で擦っては称賛を送ってくる。
 あぁ……、本当に、顔と普段の性格は申し分ないのに、なんて残念な人なんだろうっ。
 かれこれ一時間はもふもふされている身としては、もう触られすぎて疲労困憊だ。
 頭をわしゃわしゃと撫でられ、抵抗しようとした私をひっくり返すアルフレードさん。
 弱点であるお腹を触られたせいで、結局されるがままになってしまう。
 私の場合はお腹に触られると、どうやら弱いらしく、他の気の強い狼さんや犬達のように吠えて威嚇する事も出来ない。
 ちなみに、ファニルちゃんとアークちゃんは部屋から続いている小部屋の中で美味しいお菓子の山に嬉々として飛びついている為、助けは求められない。

『アルフレードさんっ、も、もうっ、許してくださ、い~!!』

「ん~、もうちょっと愛でさせてくれないかな? 可愛らしい狼さん……、ウォルヴァンシアの王族血統の毛並なんて、滅多に触れるものではないからね」

 あぁっ、ただの暴漢相手なら力を使って吹き飛ばす事も出来るのに!!
 悪意がないだけに、物凄く抵抗しづらい!!
 それに、アルフレードさんの触り方はもふもふ好きを豪語するだけあって、触れ方にもこだわりがあるというか、抗いがたい誘惑がっ。
 だけど、流石にもうこれ以上は、体力と気力的に、む、無理!!
 
『も、もう無理ですから!! 元の姿にっ』

 と、私が降参の声を上げて人の姿に戻ったのと同時に、部屋の両開きになっている大きな扉が乱暴な音を立てて開かれた。
 慌しい様子で駆け込んで来た人達の姿に、私とアルフレードさんの動きもぴたりと止まってしまう。
 
「あ、アレク……、さん? それに……、カインさんも」

 部屋の中へと踏み込んで来た二人は、人の姿に戻った私を目にした瞬間……。
 目の前で突然鼻と口許を右手で塞ぎ、目に見えてわかりやすい程に、意味不明な頬の熱を抱いた。
 後ろに一歩下がり、「ゆ、ユキ……っ」と、狼狽えた二人の声が重なる。
 私を見て驚いた事は間違いないようだけど……、一体何に驚いたのかを問う前に、アレクさんが目にも止まらぬ早業でクッションを背に寝そべっている私を抱き抱えてしまった。
 自分の背中を盾にして、私の姿を背後の人達に見せまいとするかのような必死さと、見たら命はないと言わんばかりの殺気を漂わせている目。……何事?

「あ、アレクさんっ、く、苦しいですっ」

 顔をアレクさんの胸に埋められ、全身でその熱を感じる事になってしまった私。
 身体を離して貰えるように懇願するけれど、ますます強く掻き抱かれる状態になってしまい、身動きを封じられてしまう。
 何故急に抱き締められてしまったのか、何故、こんなにも恐ろしい殺気が駄々漏れになっているのか……、尋ねたいけれど、その余裕がない。
 
「アルフレード殿下、我が国の王兄姫に対する無礼、どう贖うおつもりですか?」

 貴人に対する敬語に変えたアレクさんの声音は、その低く呻くような音だけで人を切り裂けそうな恐ろしい気迫に満ちている……。
 普通の人だったらきっと、あまりの恐怖感に震えてしまいそうなアレクさんの声音。
 だけど、それを向けられているアルフレードさんの応える声音に、怯えの気配は一切ない。

「名乗りもせずに、私の部屋に許可もなく踏み込んできた者が言う台詞ではないと思うのだけどね」

「踏み込む原因を作ったのは貴方です。他国の姫を勝手に攫った挙句、その身を穢した罪は重い」

 穢されたというか、撫でまわされたのは事実なのだけど……、アレクさんの中では相当の重大事に発展しているらしい。
 カインさんの脳内もそれは同じようで、アルフレードさんに掴み掛かっていく物音と怒声が室内に響き渡った。
 
「テメェが何撫でまわそうが勝手だがな、ユキにまで手ぇ出してんじゃねぇよ!!」

 ユキをあんな姿にしやがって!! と、カインさんがアレクさん越しに私を指差して怒っている。
 と、ラディシュヴェリア王宮に勤めている臣下らしき青年が、ささっと私の傍に駆け寄って丸く大きな鏡を目の前に差し出してきた。
 少しだけ緩んだアレクさんの腕の中から顔を上げてその鏡面を覗き込んだ私は、そのあられもない自分の姿に悲鳴を上げそうになってしまう。
 な、なに、これは!! 髪は乱雑に乱れているし、頬の紅潮や涙で潤んだ瞳が、な、何というか……、物凄く危うげな雰囲気を醸し出しているような気がするのだけど!!
 それに気づかせてくれた臣下の人が視線を逸らしているのは、きっと気遣いからだ。
 アレクさんが視線をこちらに戻し臣下の人をひと睨みすると、小さく悲鳴が上がり、即座に向こう側へと強制的に立ち去らせてしまった。

「あ、アレクさん……、あの、こ、これはっ」

「ユキ……、俺がもう少し早くに駆け付けていれば、お前にこんな屈辱的な思いは……!!」

「えっ」

 これはもしかしなくても、アレクさんは何か多大な誤解をしているのでは!?
 奥歯を悔しそうに噛み締め、「辛かっただろう……っ」と、背中を軋ませるほどの力で抱き締めてくるアレクさん。お決まりの脳内大暴走を起こしているようだ。
 私が狼の姿から人の姿に戻った瞬間に駆け込んで来たから、この姿でアルフレードさんに何か良からぬ事をされたのだろうと思っているのだろう。
 慌ててそれを否定しようと口を開く私に、アレクさんは何も言わなくていい、と、自分の中の思い込みを先行させてしまう。

「アレク、さ、っ、ち、違うんですよっ、これはっ」

「お前を一人で行かせさえしなければ……、くっ、俺はお前の騎士として役立たずだっ」

「だから、ちがっ」

 私の事に関して、アレクさんは思い込んだら一直線。
 誰にも止められないジェットコースターのような思考回路に切り替えて、自分の事を責め始めてしまう。
 現実で起きた事実よりも、自分の脳内暴走に振り回され苦悩するアレクさん。
 こうなると、……何を言っても無駄、というか、アレクさんは自分の世界にはまり込んでしまう。
 普段が真面目な分だけ、暴走するとその収拾に多大な時間を要するのも、いつもの事だ。
 というか、アレクさんの背中向こうで怒鳴っているカインさん、貴方もですか?
 さっきから、アルフレードさんが私にした事を勝手に決めつけて危ない発言を連呼してますがっ。
 
「君達ね……、何を勘違いしているのかは知らないけれど、私はユキ姫殿を自分の部屋に招待して、その身体を愛でさせて貰っていただけだよ?」

 いえ!! その言い方だと多大に誤解を招くと思います、アルフレードさん!!
 アルフレードさんの胸ぐらを掴み、竜手を振り下ろそうとしているらしきカインさんを止めようと、臣下の人達が大慌てで止めにかかる。
 脳内暴走のアレクさんと、現実行動での暴走しまくりなカインさん。止めるべきなのは間違いなく――。
 
「カインさん、違うんです!! 私の狼姿の方を撫でていただけなんです!! 別にアレクさんやカインさんが心配してくれている危ない事には」

「どっちも同じだろうが!!」

「そうだ……。たとえ獣の姿であろうとも、あの男はお前に触れたんだ。嫌がるお前を押さえ付け、この温もりを余す事なく……!!」

「だから、そういうのじゃありませんってば!! 触ってほしくない部分は避けて貰えるようにお願いしましたし、確かに疲れはしましたけど、ただそれだけでっ」

「それだけでも十分に重い罪だろう……! 俺以外の男の温もりが、お前の肌に触れたと思うと……っ、斬らねば気が済まないっ」

 もう本当に、今日も今日とて悪い意味で絶好調のアレクさんの暴走っぷりに、私はぶんぶんと首を振って、お願いだから落ち着いてほしいと懇願する。
 このままでは、理性を頭から追い出したアレクさんとカインさんが、アルフレードさんを瞬殺してしまいかねない!! そうなったら、いろんな意味で重大事が発生してしまう!!

「あ、アルフレードさんっ、い、今すぐに逃げてください!! アレクさんとカインさんが凶行に及ぶ前に、は、早く~!!」

「逃がすかよっ!! この変態痴漢野郎が!!」

「カイン、その手を離すな。俺が一撃で仕留める」

「ふざけんな!! 先に俺が八つ裂きにしてやるから、テメェはその後にしやがれ!!」

「二人とも、お願いですから本気の目で言わないでください!!」

 冗談抜きで本気の二人に涙目で戦慄していると、その怒りの炎を緊急鎮火するかのように、室内の天井からザバーン!! と、大量の水が滝の如く降り注いできた。
 ……アレクさんとカインさんの頭の上にだけ。
 まるで滝行のような光景だと、不謹慎にもそんな感想を抱いてしまう。
 
「クソッ、何しやがる!!」

「……」

 びしょ濡れになってしまった二人が、姿の見えない介入者の姿を捜しながら天井を睨み付けると、聞き覚えのある声が響き、天井に走った緑銀に光り輝く転移の陣からその姿を現した。
 着地点を間違える事なく軽やかに降り立ったその人は、溜息と共に真白の白衣を捌いて二人を見据える。
 銀フレームの眼鏡越しに知の気配を抱く深緑の双眸……。
 ウォルヴァンシア王国王宮医師の地位を冠するルイヴェルさんのご登場だ。
 
「ルイヴェルさん!!」

「アレク、カイン、レイフィード陛下に迷惑のかかる行動をするのは控えろ」

「テメェっ、止めるにもやり方ってもんがあんだろうが!! 見ろよ、これ!! 全身ずぶ濡れじゃねぇか!!」

「ルイ……」

「すぐ乾く。それよりも、ユキの事で後先を考えなくなる癖をいい加減どうにかしろ。恋に溺れて周りが見えなくなった男の結末は、いつの世も悲惨なものだぞ」

 全くもってその通りです、ルイヴェルさん!!
 元々の原因は、私が断り切れずにアルフレードさんの餌食となってしまった事なのだけど、両国間の関係に亀裂が入る前にそれを防いでくれたルイヴェルさんの存在は、本当に救世主様のように思える。
 大量の水撃を受けてしまった二人も、これで少しは落ち着いてくれたはず。
 ……と、私が安堵を抱いてほっとしていると。

「殺るなら殺るで、実行者が露呈しないように手を打つべきだろう? 人が見ている前、それも、まだ陽も沈んでいない内から事を起こすのは賢くないぞ」

「ルイヴェルさん!! さりげに何を物騒な事を真顔で言ってるんですか!!」

 その表情はまさに悪の参謀と称するに相応しい冷酷さと嘲笑を抱く姿だった。
 いえ、元からルイヴェルさんの場合、正義の味方よりは悪役サイドだとは思っていたけれど、アルフレードさんを見据えるその眼差しは、秘密裏に始末する気満々の気配に満ちている。
 けれど、不意に零れた喉奥の含み笑いの後に、ルイヴェルさんはその不穏な気配を収めた。
 アルフレード殿下の前で膝を着き、貴人に対する礼をとると、アレクさんとカインさんの非礼を詫びる言葉を口にし、手続きを取らずに直接転移の術で中に入った事にも頭を垂れた。
 
「まさか、ウォルヴァンシアの王宮医師殿まで訪ねて来られるとはね……。ユキ姫殿は、最上級の手触りをしているだけでなく、臣下にも深く想われているらしい」

 余裕のある微笑を浮かべているものの、若干……、ルイヴェルさんを前にしたアルフレードさんの口の端が引き攣っているような気がするのは、どう見ても事実だ。
 非礼をお詫びする前に物騒な事を口にしていたから……、今更手のひらを返されても感じとった危機感は消せないという事なのだろう。

「――さて、それではアルフレード殿下への非礼もお詫びいたしましたので……、我が国の王兄姫殿下に対する非礼、その『償い』をして頂きましょうか」

 ゆっくりと立ち上がったルイヴェルさんは、全然似合わない爽やかな笑みを纏うと、身の危険を察したアルフレードさんに白衣の懐から取り出した小瓶の中身を軽く振りかけた。
 何の粉なのかはわからないけれど、アルフレードさんは苦しそうにクシャミを連打し、もくもくと立ち込め始めた煙の中に包まれてしまった。
 
「ルイ……、何を?」

「今回の件は、ユキの身に降りかかる『危険』の種類を考慮せずに監視をつけた俺のせいでもあるからな……。俺なりの責任を取って、お前達の分まで『報復』を行わせて貰うというわけだ」

「おい、ルイヴェル。言ってる意味が全然わかんねぇぞ。クシャミ連呼させて、それが報復になるのかよ? 生温いんじゃねぇか?」

「いや、俺がこれから行う『報復』は……、平和的だが、本人にとっては一番厭う内容だ」

 あぁ、あれは絶対に悪い事を考えている顔だ……。
 ルイヴェルさんのニヤリとした悪の参謀顔に悪寒を感じた私は、アルフレードさんに地獄の審判が下るのを悟った。バルコニーから吹き込んできた風が煙を散らし、中で苦しんでいたアルフレードさんの姿を再び私達の視界に映し出す。……あれ? アルフレードさんの姿が、ない?
 確かにその場所に立っていたはずのアルフレードさんが、どこにもいない。
 視線を彷徨わせてみると、ルイヴェルさんの目の前……、正確には絨毯に近い部分から悲しそうな獣の声が聞こえた。

「……アルフレードさん?」

『ナァァオ……』

 うるうると涙の浮かぶサファイアの双眸、ふさふさの柔らかな黄金色の体毛……。
 それはまるで、大きな猫を思わせるしなやかな体躯……。
 けれど、それが猫でない事は、すぐにわかった。
 この国は、『豹』の姿と人の姿を抱く人々が暮らす地だ。
 つまり……、この綺麗な洗練された眩い黄金色の毛並みを纏う動物の正体は。

「前に仕入れた情報の中に、ラディシュヴェリアの第二王子殿下の弱点というものがあった……。他者を触るのは平気なくせに、自分が誰かに触られるのは苦手らしい、とな」

『ニアァアアッ……!! で、出鱈目な情報じゃないかな、そ、それは』

「はあ? 触られるのが苦手だ? マジかよ、それ」

「あぁ。前にサージェスが酒の肴よろしく零していたからな。確かな情報のはずだ」

 ルイヴェルさんとカインさんの視線が、絨毯に転がっている豹姿のアルフレードさんへと向かう。
 全力で否定の意を込めた首振りをしてみせるアルフレードさんだったけど……、同時に零れたルイヴェルさんとカインさんの喉奥での不穏な笑いに、びくりと黄金の毛を恐怖に逆立てた。

「アレク、お前はユキを連れて今のうちに帰れ。あとの報復は……、俺とカインで試しておこう」

「ルイ……」

「る、ルイヴェルさん、あ、あの、手荒な事は」

「心配すんな。……全力で擽るぐらいじゃ、誰も死にゃしねぇからな」

 アルフレードさんを無理矢理仰向けに固定し、その両前足をカインさんが押さえ付けると、ルイヴェルさんが両手をわきわきと楽しげに動かしながら囁く。

「他人を擽るなど、一体どれぐらいぶりだろうな……。手加減の仕方など当の昔に忘れているが……、王子殿下に御満足して頂く為にも、『尽力』させて貰うとするか」

『ちょっ、ちょっと待ちなさい……!! その手はっ、な、なにかなぁっ』

「覚悟しとけよ、この動物愛玩変態王子がっ。俺とルイヴェルが全力で……、躾け直してやっからよぉ?」

『ひいいいいいいいいいいいいいい!!』

 どうしよう!! 二人とも目が本気すぎる!! というか、両手が物凄く楽しそうにアルフレードさんのお腹へと向かっていく!!
 ぐっと柔らかな体毛に一度ルイヴェルさんの指先が埋まると、そこから勢いよく怒涛の擽り攻撃が始まってしまった!!
 高速で動くルイヴェルさんの両手!! カインさんが左手をアルフレードさんの顎に添えて、そこを重点的に擽り倒していく。
 響く阿鼻叫喚の悲鳴、自国の王子様がとんでもない目に遭っているのに、臣下の人達はぶるぶると恐怖に震えて壁際に張り付いてしまっている。
 
「ユキ、行こう」

「え? あ、あの、で、でもっ」

「アルフレード殿下がルイ達に仕置きを受けている間……。ユキ、お前には……、俺からの仕置きを受けてもらう」

「えっ!?」

 急にアレクさんから物騒な言葉が飛び出したのと同時に、私の身体はひょいっと彼の腕へとお姫様仕様よろしく抱き上げられてしまった。 
 じっと私の顔を不機嫌そうに見下ろしてきたアレクさんは、ルイヴェルさん達に「存分に懲らしめて差し上げてくれ」と無情にも煽るような一言を言い残し、部屋を出て行く。
 い、今、アレクさんの口から『仕置き』とかいう言葉が聞こえた気がするのだけど、それって、ルイヴェルさんが口にするのならわかるけれど、何でアレクさんが!?
 私に対して尊重や優しい姿勢を常とするアレクさんが、『仕置き』!?
 
「あの、アレクさんっ、それってどういうっ」

「俺との約束よりも、珍しい材料集めを選んだ事……、正直言って、不満を感じている」

「えっ」

「せめて、俺を伴に付けてくれれば……、今回のような脅威も起こらなかったはずだ。俺にも責任はあるが……、他の男の手がお前に触れたかと思うと……、もう、耐えられない」

 私を抱く力がぎゅっと強さを増すと、アレクさんは少しだけ怒った気配を滲ませながら、ラディシュヴェリアの王宮を後にし、夕暮れの光で優しいオレンジ色に染まりゆく城下町に下りた。
 仕事を終えて家路につく人々、仲間を誘って酒場に向かう人々、町の表通りから賑わいの声が消えていく様を見つめながら、私はアレクさんに連れられて一軒の宿屋へと入る事になってしまった。
 アレクさんが私に乱暴な事をするわけはないと信じているけれど……、どうしても、彼が口にした『仕置き』という言葉が気になってしまう。
 これから何をされるのか、何故宿屋にアレクさんが部屋をとったのか……。
 二階の奥にある部屋に入り、重々しい気配で閉まった鍵の音と共に、私は逃げられない檻の中に放り込まれた小動物のような心地に陥ってしまったのだった……。
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