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~カイン・イリューヴェル編~
竜の皇子と王兄姫、戸惑いの距離2~カイン×幸希~
しおりを挟む――Side カイン
女同士ってのは、よほど相性が悪くねぇ限り、すぐに仲良くなっちまうもんなんだなぁ……。
親父や兄貴達との面倒くせぇ謁見を終わらせた後、久しぶりの家族の時間とやらをこなす為に中庭の方まで来たわけ、なんだが……。
「カインは貴女に出会えたお蔭で、元の素直なあの子に戻ってくれたと思うの。どんなに感謝しても感謝しきれないくらい」
「そんな事ありません。カインさんはいつだって、本当は変わりたい、真っ直ぐに生きていきたいって、そう思っていたはずなんです。だから、私達との出会いはあくまできっかけにすぎなくて、今のように変われたのは、カインさん自身の力ですよ」
「まぁ……。貴女は本当に心根の美しい人なのですね……。どうか、どうか、息子の事をこれからも末永く、よろしくお願いいたしますわ」
「はい、こちらこそ……」
白いテーブルクロスの敷かれた足の長いテーブルの前方席で、ユキの手をとり涙ながらに俺の事を頼み込んでいる俺の母親の姿がある。
イリューヴェル皇国、皇帝グラヴァードの正妃である、皇妃ミシェナだ。
人間とは違い、俺達竜皇族(りゅうおうぞく)や他の人外種族達の寿命は半端なく長い。
そのせいか、どんなに歳をとっても、外見上は三十代手前ぐらいまでしか成長しない。
確かに寿命や死は避けて通れない絶対のモンではあるが、俺達の身体に、基本的に老いはない。
で、俺の母親や親父も例に漏れず、三十代手前付近の外見をしているわけだが、……母さんの奴、ユキに会うからって、本当の容姿を魔力で調整して少し歳をとらせてやがるな。
(大方、幼く見られるのが嫌で外見の年齢を引き上げたんだろうが、性格は全然変わってねぇし)
少女のように心根の素直な女だと評される皇妃ミシェナ、俺の母親は、ユキに対して自分が未来の義母だと、今の内から気に入られておきたいんだろう。
悩みの種だった馬鹿息子が更生した事も喜んでいたし、時々、母さんの所に里帰りして見舞いをしている時にも、世話になっているウォルヴァンシアの奴らやユキの事についても色々話して聞かせていたからな……。
その中でも、ユキに対する興味は一際強く、早く会いたいと常々口にしていた。
だから、こんなにもテンション高ぇ態度でユキと喋り捲ってるんだろうな。
一番前の真ん中の席でワイングラスを揺らしている親父が、自分の妻の意外な姿に小さく目を見開いているが、それは俺の向かい側の席に座っている兄貴達も同じだ。
身体が弱く、儚い印象しかなかった俺の母さんが、人が変わったように喜びに表情を和ませている。
その姿は……、以前では考えられない本来の姿そのもので、煩わしいしがらみを全て払拭したからこそ見られた姿なのだと、その場にいる誰もが昔を思い出しながら感じていた。
中庭の周囲に配されている女官や騎士達も、同じ心境だろう。
イリューヴェル皇宮に溜まり切った淀みが晴れる前の……、あの頃を思えば。
「――ン、カイン。どうしたの? ぼーっとして」
「あ? ……いや、なんつーか……、よくそんなに鳥みてぇに喋りまくれるモンだと思ってな」
俺の左隣の向こう側の席からかかった母さんからの問いかけに適当な答えを返すと、母さんがその重そうな紺色のドレスと共に無言で立ち上がった。
な……、なんだ? この面倒な威圧感は……。
俺の傍にやって来た母さんが、ひくりと頬の肉を引き攣らせながら手を伸ばしてくる。
「――痛ぇっ!」
「カイ~ン……? たまにしか顔を出してくれない薄情な息子が、母の楽しみを奪うというの?」
容赦なく俺の頬の肉を引っ張る母さんの顔には笑みが貼り付けてあるが、怒り荒ぶる魔力の気配が身体からだだ漏れになっている。昔は、怒る事自体怖がって出来なかった女が、まさかの進化を遂げている事に慄く。
元からこういう性格だったのか、それとも、俺が更生した事で自身の変化を望んだのか。
そこはわからねぇが……、母さんが感情を抑え込む事なく外に出している事に、何故かほっとしている自分がいる。
「こ、皇妃様、そのくらいになさった方が……」
「ユキ姫殿も驚いておられますよ……」
ついには両頬の肉を弄ばれる事になった俺が母さんの手を掴んで引き剥がしにかかっていると、上の兄貴二人が見かねて声を投げてきた。
俺の方は見ようとはせずに……、母さんの方にだけ視線を注いでいる。
別に避けられる事がどうこうってわけじゃねぇが、……その態度を気にする奴がいるんだよ。
「あの……」
「母さん、さっさとユキの方に戻れよ。茶が冷めちまうぞ」
「全く……。ユキ姫様、こんな口の悪い息子ですけど、本当によろしいのかしら?」
「え? あぁ、はいっ。私にとっても、カインさんは勿体ないぐらいに素敵な人ですからっ」
兄貴達の態度に何かを言いかけたユキを遮り俺は先手を打った。
俺と兄貴達の関係を心配してくれてんのは有難いが、お前にそんな気までまわさせるわけにはいかねぇよ。
元々、俺達異母兄弟は仲良しこよしの関係なんか最初からないようなもんだ。
遥か先にある、気の遠くなるような未来で起こる、次期イリューヴェル皇帝の座を巡る面倒な関係は消えてねぇんだ。アースシャルクの方は、禁呪の件で自分のおっさんが何をやったかを知った後、次期皇帝候補の座を自分から放棄したらしいが、兄貴には何の罪もないからな……。
いずれ親父もアースシャルクを説得して、次期皇帝候補に戻してやる事だろう。
不穏分子の排除は終わっていても、また兄貴達の背後で権力に飢えたおっさん達が沸く可能性もあるし、俺達の関係が変わる事もない。
それに……、あんだけ大迷惑と被害をかけまくった三男を、この真面目な兄貴達が簡単に受け入れるわけもないしな。俺にとっては普通の事だが、ユキにとってはそうじゃないんだろう。
俺の方に身体を向けたユキが、そのブラウンの双眸に不安を揺らめかせて俺を見上げてくる。
「何も心配すんな。俺は大丈夫だ。な?」
「カインさん……、はい」
俺がその頭を撫でて安心させてやると、ユキは俺の心に寄り添ってくるかのように微笑んだ。
つーか……、そういう可愛い仕草で男心を鷲掴むんじゃねぇよ、こいつは。
母さんや親父、兄貴達がいるってのに……、抱き締めて俺だけのもんだって見せつけてやりたくなる。
「ユキ……」
本当は、この二年以上……、ユキと想いを交わせるようになってから、この関係が、今ある幸せな時間が全部嘘なんじゃないかって、ずっと自分の中に不安と幸福をないまぜにしながら生きてきた。
番犬野郎とユキの事を取り合っていた時も、自分が選ばれなくても……、ユキを好きだって感情が俺の中に在る限り、それもひとつの幸せなんだって……、そう思っていた。
けど、いざユキと両想いになってからは……、傍にいるだけじゃ全然足りなくなって、日増しに面倒な熱に翻弄される事になった……。
(結婚するまでは……、か)
すぐ傍にいるのに、同じ場所に住んでるっつーのに……、ユキが『成熟期』を迎え、俺が結婚を申し込んで式を挙げるまでは、――絶対に一線を越えるな。
そう、ユキの叔父であるレイフィードのおっさんと親父さんに表と裏で脅されまくって二年以上。
流石によ……、惚れた女との関係がキスまでって、健全な成人男子には酷な要求だよな。
この脅しのせいで、俺が何度抑えきれねぇ想いに振り回されて、ユキを襲いかけちまった事か……。
まぁ、その度にユキの過保護軍団に邪魔されまくったわけだが……。
(この国なら邪魔は入らねぇよな……、流石に)
勿論、ユキに無理強いして嫌われちまうのは本末転倒だ。
俺は、ユキを愛するこの気持ちと、俺を愛し受け入れてくれるユキの存在をひとつにしたい。
そうでなけりゃ、身体の欲だけ晴らしたって虚しいだけだからな。
「カインさん……、どうしたんですか?」
「……」
はぁ……、どうすりゃ、ユキをこれ以上好きにならずに済むんだろうな。
俺の様子を心配して頬に手を伸ばしてくる細い腕の柔らかな感触も、親父が用意したドレスのせいで見える、いつもと違ったユキの一面も……、本当、困る。
「こほんっ! ……カイン、ニヤけているところを悪いが、場を弁えたらどうだ?」
「はっ!? だ、誰がニヤけてんだよ!! ば、馬鹿な事言ってんじゃねぇよ!! クソ親父!!」
つい意識をあらぬ事に飛ばしていた俺は、親父からの生暖かいツッコミで瞬時に我に返り、噛み付いてやろうかと言わんばかりに怒鳴りつけてやった。
玉座の間では、わざと品の良い礼儀なんかを守ってやったわけだが、俺が猫を被ったところで誰もそれが本物だとは思わねぇだろう。
当たり前の事だが……、さっきはイリューヴェル皇族とウォルヴァンシア王族の形式的な場だったからな。
一応、挨拶ぐらいはユキに恥を欠かせねぇようにと、猫を被り込んでみたわけだ。
ま、もう必要ねぇから、親父にも容赦なくツッコミ返しをするわけだが。
「カインとグラヴァード様は、すっかり仲良しになられたのですね……」
「いや、ミシェナよ。どちらかというと、俺が噛み付かれてばかりの気がするのだが」
「そんな事ありませんわ。カインの声音には、グラヴァード様に対する愛情が、しっかりと感じ取れましたもの」
「「「ぶはぁああっ!!」」」
瞬間、母さんの意味不明な発言に、俺と兄貴達の口から含んでいた紅茶の中身が噴き出した。
あ、あ、あ、愛!? 俺が親父に!? どこをどう見たら、そうなる!!
口元を拭いながら抗議の大声を上げようとした俺に、母さんからの発言を自分に都合の良いように受け止めた親父が、その口端をにんまりと喜びの気配に染めやがった!!
「そうか……。ようやく俺の親心がお前にも」
「んなわけねぇだろうが!! この馬鹿親父!! 嬉しそうにすんなああ!!」
「カインさん……、良かったですね。私もとっても嬉しいです」
「お前も変な誤解すんあああああ!!」
はぁ……、はぁ……。どっからどう見たらそうなんだよっ!!
俺は女官や騎士共の目がある事も構わずに、否定を込めた感情をその場に叩き付ける。
そりゃあな、確かに昔の因縁や親父との関係は前より改善されちゃいるが、別に好きとかじゃねぇぞ!!
前よりは少しだけマシに思えるようになった普通の親父!! それ以上はなし!!
……だってのに、なんだよ、このすげぇ居心地の悪い微笑ましさ全開の視線の群れはよぉっ。
視線を走らせれば、俺に対する負の感情を抱いていたはずの奴らの口元にあきらかな笑みの気配が浮かんでいた。
「……カイン、お前」
おい、何だよ。お前らもかよ!!
長男のアースシャルクが、避けていた俺の視線を捉えたかと思うと、周りの奴らと同じような微笑ましい気配を浮かべやがった。
次男のグランヴェルトの方は……、顔色は全然変わってねぇが、若干気配に同じようなもんが感じられるのは気のせいか?
違うぞ? 違うからな? 俺は親父の事なんか好きじゃねぇからな? 勘違いすんなよ!!
俺がその場で両の拳を羞恥に震わせていると、回廊の方からファニウスがやって来た。
親父の傍に近づき、何か書類の束を渡しているようだが……、大方政務関係だろうな。
……と、思ったんだが、何か楽しそうだな。
「父上……、それはもしや、一週間後の『武闘大会』の件ですか?」
アースシャルクの言葉に、椅子に座りなおした俺の意識がそちらに向く。
『武闘大会』……、そういや、そんなのもあったな。
一年に一回、イリューヴェル皇国の皇都で開催される力試しみたいなもんなんだが、俺も昔はむしゃくしゃしてる時に参加した事もあったな。……飛び入りで。
確か、毎年優勝者には多額の賞金と優勝賞品が与えられるんだが、今年はどんなモンやら。
「今年は例年以上に多いようだ。それに、賞金よりも、優勝賞品の方に興味を示す女性も多い」
「確か……、『七色の宝玉をあしらった髪飾り』……だったと記憶していますが」
グランヴェルトからの確認に親父が静かに頷くと、俺達の目の前に『記録』の映像を映し出した。
今回の武闘大会に出場する参加者のデータが幾つも浮かび、その中に優勝賞品らしき像が映り込んでいる。
「確かに、女が好きそうな賞品だな」
「グラヴァード様、何故武闘大会の賞品が女性用の髪飾りなのですか?」
「単純な話だ。毎年暑苦しい男達の祭典としか見られていなかったからな。場に華やかさを取り入れる為に、大会委員会が女性参加者を得る為にそうしたらしい」
「まぁ……。けれど、これなら私も欲しくなってしまいますわね。ねぇ、ユキさん」
「はい……」
……ん? 七色の宝玉をあしらった髪飾りの映像を見ているユキの視線が、ある種の熱を孕んでいるような気が……。もしかしなくても、あれが欲しいのか?
まぁ、デザインも悪くねぇし、ユキの髪に飾ったらすげぇ綺麗そうだが……。
ユキと賞品を交互に見やった俺は、優勝できる可能性があるかどうかを考え始める。
昔の俺の戦闘能力じゃ難しかっただろうが……、俺も色々と経験してきたからな。
どこぞの鬼畜野郎達から押し付けられた修行の日々や、番犬野郎との手合せも、確実に俺の戦闘能力の底上げをしている。今の俺なら……。
右手を上げて親父に参加の意思表示をしようとすると、何故かユキが先に親父へと口を開いた。
「あの、私も参加しては……、駄目、でしょうか?」
「「「ぶっ!!」」」
また、俺と兄貴達が同時に咽る事になってしまった。
おいおい、何言ってんだよ、こいつ……。荒くれ共の集まる面倒な大会だぞっ。
いや、危ないかどうかって言われたら……、むしろヤバイのは野郎共の方だけどな。
ユキの中に在る三色の光、あれが繰り出す攻撃の威力は本気になればこの世界を余裕で脅かす事も出来る危険なもんだ。けどな、お前が出ちまったら、ある意味結果が見えすぎの最悪の展開だろうが。
それを知っている親父の顔も、すげぇ返答に困ったように眉根が寄せられている。
言ってやれ、危険だから出るなって、オブラートに包んで却下しろ。
「あ~……、その、ユキさんは、何故、出たいと思うのだ?」
「あの、私……。この『準優勝の賞品』がほしいんです」
「準優勝……?」
ユキが指差したのは、映像の中のひとつ、準優勝の奴に与えられる『黒いブーツ』だった。
あれ、男物だよな……。俺好みのデザインと性能の靴だが、何であんなモンを?
俺達の疑問の視線を受けたユキが、理由を話さずに「駄目……、でしょうか」と上目遣いに親父を見つめる。
……やめろ、他の野郎にそういう可愛い顔向けんな。兄貴達も見てんだろうが!
「ユキ姫様、武闘大会には危険が伴うのですよ? 貴女のような可憐な方が出るには……」
「そ、そうですよ、ユキ姫殿……。貴女にもしもの事があれば」
「アースシャルク兄上の言う通りです。私も反対ですよ」
「そう……、です、か」
しゅん、と、目に見えてわかるほどに項垂れて、ユキが名残惜しそうに準優勝の黒ブーツに視線を戻す。
ユキに限って不味い事になるとは思わねぇが、それでも、俺も反対だ。
こいつの身体に傷のひとつでも、いや、苦痛なんか絶対に味わわせたくなんかない。
同時に、ユキの願いを叶えてやりたいとも思うが、俺が欲しいのは優勝賞品の方だし、準優勝の方は、ユキが誰かに贈りたいモンなんだろ……。――誰にだ。
そうだよ、一番重要なのは、あんなモン、誰にやるかって事だ。
まさか番犬野郎にじゃねぇよな……。前に長年愛用してたとかいう靴がそろそろ替え時だとかユキに話してた気がするが、いや、ルイヴェルっていう可能性もあるよな。
俺が探るようにユキを見つめ、誰にやりたいのかを尋ねると、「ひ、秘密……、です」と腹の立つ答えが返ってきた。恋人の俺に秘密ってなんだよ。
「お前が出ちまったら、出場者のプライドがズタズタになっちまうだろうが。絶対やめとけよ」
「それって……、私が自分の力を使う事を心配してるんですか? それなら、大丈夫ですよ。今回は双剣と自分の魔力だけを使おうと思ってますから」
「尚更駄目に決まってんだろうがっ。いきなりレベルダウンで怪我でもするのがオチだ」
「だ、大丈夫ですっ」
「何が大丈夫なんだよ! 武闘大会ってのはな、お前が考えてるよりも面倒で姑息で力押しの連続なんだよ!!」
そう怒鳴って言い含めてやれば、ユキは怯んだ様子を見せて自分の唇をきつく噛んだ。
あの三色の力を使わない場合、絶対にユキは怪我を避ける事は出来ない。
どこのどいつかもわからねぇような参加者共に、自分の恋人が傷つけられるような光景、誰が許すかよっ。
下手をしたら死ぬ事だってあるんだ。それをこいつはちゃんとわかってんのか?
「……父上、ユキ姫殿は私達でお話をして説得させて頂きます。よろしいでしょうか?」
「グランヴェルト……?」
「アースシャルク兄上と私で、ユキ姫殿に中庭の奥を案内してきます。その際に、色々とお話を……」
俺に怒鳴られてますます落ち込んじまったユキを見兼ねたのか、グランヴェルトが親父の許可を得て、こっちにまわってきた。まだ話は終わってねぇってのに……。
ユキの手を取ろうとするグランヴェルトを睨み付け、俺はその手を、音を立てて払った。
「ユキに触んな……っ」
「別にお前が心配するような真似はしない。お前はそこで、少し頭を冷やしていろ」
「なっ……」
「カイン……、ユキ姫殿はお前の乱暴で強引な物言いに萎縮しておられる。グランヴェルトの言う通り、暫くの間、ここで自分の発言を反省していなさい」
俺の事なんか目にもしたくないとばかりに目を見る事すら避けていた奴らが、人が変わったように、声音にある種の逆らえない音を含んで俺を諌めた。
ユキを席から立たせ、自分達の間に挟むようにして中庭の奥へと消えていく……。
何なんだよ……。俺は、間違った事なんか言っちゃいねぇだろうが……。
「カイン……、今のはお前が悪い」
「そうね。繊細な女の子の気持ちを汲み取れないなんて……、本当に、どこかの誰かさん譲りなんだから」
「ミシェナ……、それは俺の事だろうか?」
「はい」
「……すまなかった」
俺を責める言葉を向けてきた親父を睨み付ければ、母さんまでが俺に対して意味のわかんねぇ事を言い出した。
繊細な女心ってなんだよ……。俺はただ、ユキが危ない目に遭わねぇように説得してただけじゃねぇか。
それなのに、何が悪いってんだよ。
疑問と苛立ちを抱えている俺の傍に、母さんが含み笑いをしながら寄ってくる。
自分の胸に俺の顔を押し付けるように、頭を両腕の中に抱え込みそっと俺の後頭部を撫でる。
「な、何すんだよっ」
「カイン……。さっきの貴方は、ユキ姫様があの賞品を何故欲しがったのか、『誰』にあげるのかと不安になって、その感情を荒げたでしょう?」
「……そんな事、ねぇよ」
図星を刺されて、俺は小さく反抗の音を返す。
ユキと恋人同士になれたとはいっても、アイツの周りにはその心を分け与えられている奴らが多い。
年がら年中気にしているわけでもないが、たまに……、不安が胸に染みを広げる事がある。
俺からユキを取り上げる奴らに対する醜い嫉妬と、その感情が大切なアイツの心まで傷つけると、そうわかっているくせに。本当に……、ごくたまに、今のようなやり取りをしてしまうのだ。
なぁ、誰にあの賞品をやるんだよ……。危ない場所に行ってまで、贈りたい相手なのか?
母さんと親父は、俺のそんな浅ましい心の内を見抜いている。
「お馬鹿さんねぇ……。あの準優勝の賞品の備考欄をよく見てごらんなさい」
「備考欄……?」
映像が俺の前に流れるように滑り込んできた。親父が移動させたんだろう。
その賞品説明の欄を食い入るように見つめた俺は、次の瞬間絶句した。
――装備出来る種族=竜皇族限定。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺の間抜けな絶叫が、平和な中庭の隅々まで響き渡った。
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