無垢なる密蕾は、愛しき腕にて咲き誇らん

古都助(幸織)

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~カイン・イリューヴェル編~

竜の皇子と王兄姫、戸惑いの距離9◆~カイン×幸希~

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 ――Side カイン


「つーわけで……、なんか、すげぇ自分が恥ずかしいわけだ」

 どこかへと姿を消していたカインさんが私の許に戻って来てから一時間ほど。
 夕食の時間はとっくに過ぎているけれど、涙で濡れた跡を残しながら戻って来たカインさんと一緒にいる事の方が大事だったから……。
 私はソファーに座り膝枕をしながら彼の部屋で話を聞く事にした。
 お兄さん達によって私が連れて行かれたあの山が、あの場所が、カインさんにとってどんな意味を持つのか……。
 どうやら全部、本人に知られてしまったらしい。
 私が聞いた話と同じ事を、道を辿る様に話してくれたカインさん。
 お兄さん達との思い出、自分から選んだ、悲しい別れの道。
 それを今、彼はその胸に抱えながら、静かな涙を流している……。

「恥ずかしくなんかありませんよ。少し遅くなってしまいましたけど……。お兄さん達との思い出を、ちゃんと取り戻せたじゃないですか」

「ん……、まぁ、な。けど、やっぱ……、自分が情けねぇ、つーか」

「カインさん……」

 幼い頃、自分からお兄さん達との関わりを絶ったカインさんは、その後に高熱を出して……、記憶の一部を失ってしまった。
 それが原因で、誰も自分を助けてくれないと、愛されていないと、そう、思い込んでしまっていたカインさん。
 あの日、高熱など出さなければ……、もっと違う道があったかもしれないのに。
 せめてお兄さん達との楽しい思い出があれば、もう少し。
 けれど、どんなに後悔しても……、道を描いてしまったその日々を塗り替える事は不可能。
 今、カインさんが悔しそうに、申し訳なさそうにしているその姿に心を痛めながら、私は彼の心に寄り添いたいと願う。心から、切に。

「後悔する事は、いっぱい、あると思います……。だけど、大切な思い出を取り戻せて、……本当に、良かった」

「ユキ……」

「ちゃんと、自分の手で掘り出せましたよ。カインさんの大切な、お兄さん達との記憶(おもいで)」

 その取り戻した記憶をどう扱うかは、カインさん次第。
 お兄さん達に会って、それを打ち明けるのも、隠したままにするのも。
 留まるのも、前に進むのも、全部。
 私に出来るのは、カインさんがまた一人ぼっちにならないように、傍に寄り添う事だけ。
 今、こうしているように……。
 カインさんの黒髪を梳きながら瞼を閉じていると、ふと、頬に穏やかな温もりを感じた。
 瞼を開けてみると、私の頬にはカインさんの右手が。
 そっと感触を確かめながら、その真紅の双眸で見上げてくるカインさん。
 その仕草に少しドキドキとしながら戸惑っていると、ゆっくりと、綺麗過ぎる魔性の美貌が起き上がりながら近づいてきた。

「正直……、どの面(つら)下げて兄貴達に謝ればいいか、わかんねぇ。自分からもう関わるな、って、兄貴達の優しさを全部跳ね除けたってのに……。あの時は、俺のせいで危ない目に遭わせたくねぇ、迷惑をかけたくねぇ、って、そう、思ってたのに……」

「カインさん……」

「結局、記憶を落っことしたせいで、さらに面倒をかけちまった……。守りたい、って、そう思ってた相手を、俺は……、くそっ」

 男らしい腕の感触が、私の身体をそっと抱き締めてくる。
 必死に過去の自分から、新しい自分へと、這い上がろうと足掻いてきたカインさんだけど……。
 お兄さん達に関する記憶を忘れていた自分自身への怒りが、彼を酷く苛んでいる事が伝わってくる。
 何故忘れてしまったのか、それが不可抗力であっても、彼は自分に免罪符を使わせない。
 きっと私が何を言っても、この人は自分を責め続けてしまうのだろう。
 だから……、せめてこの想いだけでも、届いてほしい。
 私はカインさんの背中を抱き締め返すと、涙を零すそのくしゃくしゃの辛そうな顔を見上げ、唇へと温もりを重ねた。

「ゆ、ユキ?」

「……今は、取り戻せたお兄さん達との思い出を、大事にしてください」

 お兄さん達に伝えたい事も、自分の中で思い出した過去への後悔や申し訳なさよりも、今はただ……。

「カインさん、前に言ってましたよね。このイリューヴェル皇国には、辛い思い出ばかりだって……。でも、ちゃんと在ったんですよね。たとえ壁が出来ても、貴方を陰ながら想っていてくれた、大切な人達の存在が」

「……っ」

 荒んでいく弟を見つめながらも、手を差し伸べられなかった立場。
 ……カインさんと同じように、お兄さん達も苦しんでいた。
 半分ではあるけれど、彼らにとってカインさんは大切な弟。
 自分達を縛る枷さえなければ、もっと、形振り構わずに行動出来ていたら……、弟を助ける事が出来たはずなのに、と。
 アースシャルクさんとグランヴェルトさんは、それぞれに自分自身を責めながらそう話してくれた。
 流れ去った時間は、とても長い……。
 孤独に血の涙を流しながら必死に足掻いてきた、あの頃のカインさんに手を差し伸べる事はもう出来ないけれど……。
 カインさんも、お兄さん達も、皆、皆、今を一緒に生きている。
 これからの長い時間、過去よりも、もっと、もっと、沢山の思い出を作っていけるから。
 
「私、嬉しかったんです。カインさんのお兄さん達が聞かせてくれた、貴方への愛情(きもち)。その事が凄く……、自分の事のように、凄く、嬉しかった」

「ユキ……」

「本当は、帰ってすぐに知らせたかったんですよ? でも……、お兄さん達と約束をしてしまいましたから。だから、……とても、辛かったんです」

 お兄さん達の気持ちを隠しておくのは、とても。
 きっと……、お兄さん達がカインさんに何も言わず、これからもその気持ちを隠し続ける事になっていたとしたら、耐え切れずに私の口から伝えてしまっていたかもしれない。
 知らないままでも生きてはいけるけれど、そのままにはしておけなかっただろうから……。
 至近距離で見つめているカインさんの顔には、抑えきれない心の内が溢れるように涙となって伝い続けている。
 声にならない音が、低い嗚咽となって漏れ聞こえる。
 そんなカインさんの心と温もりを感じながら、ずっと寄り添い続けていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「大丈夫ですか? カインさん」

「んっ……。悪ぃ、ちょっと……、甘えすぎたな」

 泣きすぎた両目を腕に擦り付けながら、カインさんはバツが悪そうに私から温もりを離した。
 甘えすぎた、と言ってはいるけれど、私としては全然そんな事はない。
 幼い頃から我慢ばかりして生きてきた人だから、この世界で一番大好きな、愛する人だから……、私は、その拠り所となれる事が嬉しくて、嬉しくて。

「もう、大丈夫そうですか?」

「あぁ……」

「じゃあ、食事を貰ってきますね。お腹、空いてますよね?」

 ソファーから立ち上がった私は、皇宮に仕えている女官さんに食事をお願いしようと扉に向かいかけた。
 けれど、前に進もうとした瞬間にぐいっと後ろから何かの力に引き戻されてしまう。
 
「カインさん?」

「飯は……、いい。明日の朝に纏めて食う」

「……食事以外に、何か欲しい物、ありますか? ティーセットならこの部屋にありますし、すぐに淹れられますよ」

「お前がいい」

 ……私? きょとん、と、後ろを振り向きながら首を傾げていると、小さく呟かれたその音の意味を、三秒ほど遅れて理解し始めた。
 ソファーから立ち上がったカインさんが、私の腕を引いて温もりを自分の中に閉じ込める。
 縋るようにきつく抱き締められて、その熱い吐息が首筋に埋まった。

「今……、すげぇ、お前が、欲しい」

「あ、あの……、そ、それって、つ、つまり」

「嫌か?」

 肩口に舌を這わされ、ちゅっと吸い付かれる。肌を吐息が擽りながら耳元へと伝い、切なそうに囁かれたその問いに、鼓動が跳ねる。
 キスだけじゃなく、その先の繋がりを求めている気配……。
 視線を彷徨わせた私は、胸を突き破る程に激しい鼓動の強さと一緒に全身を甘い痺れに襲われながら、カインさんの背中に両手をまわした。
 私と同じように高鳴るその鼓動を、顔を押し付けている胸から感じ取る。
 一度目は手加減をすると言っていたカインさんは、その約束通りに私を大切に愛してくれた。
 でも、……二度目は? 二度目は、どれだけ求められてしまうのだろうか。
 そんな恐れを胸に抱きながらも、私は小さく答える。

「愛して……、ください」

 恥ずかしさを抑え込みながらそう伝えると、すぐにベッドへと運ばれた。
 白いシーツの中に温もりが沈み込み、私の蒼髪が波のように広がる。
 黒い上着を脱ぎ捨てたカインさんが覆い被さってくると、愛おしさの溢れる音が、耳朶を震わせた。

「ユキ……、ユキ」

「はい」

「兄貴達の事もそうだが……、お前と出会ってから、本当に、……俺は幸せになり過ぎてるな」

「私も、カインさんと出会ってから、沢山の幸せを貰っていますよ」

 最悪の出会いから始まった私達の関係だけど、こんな幸せな未来が待っているなんて、思いもしなかったあの頃……。
 この人を特別な存在として想えるようになるまで、かなりの時間がかかったように思う。
 好きだと言ってくれた、諦めないと、待つと、そう、力強い瞳で想いを捧げ続けてくれた人。
 楽しい事も、悲しい事も、辛い事も、全部、全部……、今に繋がる大切な想い出ばかり。
 そっと、額や目元、頬にキスを贈ってくれるカインさんに、私も同じように温もりを返す。

「これからも一緒に……、カインさんと、こうやって、沢山の幸せを見つけていきたいです」

 これ以上の幸せなんて求めてはいけない、そう思うけれど……。
 私は、カインさんを、世界で一番愛しているこの人を、もっと、もっと、幸せにしてあげたいって、我儘にもそう願ってしまっている。
 もう二度と、孤独を覚えないように、自分の存在を辛く思わないように……、もっと、もっと。
 愛しさを込めてカインさんの唇に触れると、嬉しそうな笑い声が落ちてきた。

「これ以上、甘やかす気かよ?」

「いつもは無理ですけど、二人きりの時は……、いっぱい、甘やかしてあげたいです」

「――っ。お前、なぁ……、ホント……、俺をどうしたいんだよ」

「カインさ、――んっ」

 困ったように、カインさんの顔がくしゃりと歪んだ直後、私の唇は熱い吐息に飲み込まれていた。
 濡れた感触が淫らに交じり合い、口の中を蠢くカインさんの舌が、歯列や粘膜を舐めまわしてくる。
 
「ふっ……、ん、ぅっ、……はぁ、カイン、さ」

「ユキ、……ンっ、……は、ぁ」

 舌を突(つつ)かれた私は、その熱に応える為に、自分の舌をおずおずと絡めていく。
 何度もしている行為だけど、やっぱり経験値はカインさんの方が格段に上。
 それが、今までに経験してきた女性関係の現れである事は間違いないけれど、ひとつだけ、違う事がある。
 それは、――。

「ユキ、ユキ……っ、はぁ、……好きだ、ユキ、っ」

 余裕を失くしていく声音と、荒くなっていく吐息。
 唇が離れ、ツッ……と、交わっていた名残を示す透明な筋が伝う。
 好きだと囁くカインさんの音は狂おしいほどで、それを受け止める私も、同じように胸の高鳴りを抑え切れず、ぞくりと全身を震わせてしまう。
 その震えが、甘い疼きが何を求めているかなんて、簡単な答え。
 この人の想いに溺れたい、私も、カインさんをこの胸の内に溢れている想いで、溺れさせたい。
 太腿をまさぐりながらロングスカートを捲り上げられ、下着の上からカインさんの指が濡れている柔らかな場所をくちゅりと押しやった。

「んっ、……カイン、さん」

「俺だけ、だよな?」

「……え?」

「お前がこんな風に濡れて、悦ぶのは……、俺に対してだけ、だよな?」

 真っ赤に染まる私の顔を見つめながら、カインさんは指先を動かして、下着の奥を擦り付けてくる。
 空いている方の手でブラウスの釦を外され、二つの膨らみを隠してある邪魔な物を剥ぎ取られてしまった。
 ふぅ……と、胸の頂(いただき)にカインさんの吐息が触れ、少しだけ突き出された舌先が意地悪な愛撫を仕掛けてくる。

「ぁっ……、んっ、カイン、さ、ん、はぁ、……ぁんっ」

「言えよ。俺にしか感じない、って……、俺だけが欲しい、って」

「はぁ、はぁ……、や、ぁっ、舐めちゃ、んぁっ、指、もっ、カインさ、ぁ、んぅっ」

 部屋の明かりも消さずに攻め立ててくるカインさんの意地悪に、私は身を捩りながら恥ずかしい声を上げ続ける。
 他の人となんて考えられないけれど、こんなにも明るい場所で乱されるのは羞恥でしかない。
 せめて、闇に包まれた世界でなら……、素直な気持ちを言葉に出来るのかもしれないけれど。
 カインさんからの問いに答えられずにいると、不意にその淫らな動きが止まった。

「カイン、さん……?」

「脱がすぞ」

「え? きゃ、きゃあっ!」

 呼吸を落ち着けながら言ったカインさんが、私のロングスカートを引き摺り下ろして剥ぎ取ると、それをぽいっとベッドの外に投げ捨ててしまった。
 じゃ、邪魔なのはわかるのだけど、ぐいっと両足を開かされた私は羞恥最大値に達して叫んだ。

「い、いやぁああっ、な、なにやってるんですか!! あ、明かりっ、明かり消してください!! 丸見えの状態でこんなの、い、嫌です~!!」

「全部見てぇから、諦めろ」

 お互いの身体を隠すものは何もない。つまり、もし誰かが入って来たりしたら……。
 死因、羞恥過多のショック死ルート……!!
 それだけは何としてでも回避!! 回避しなくては!!
 カインさんが消してくれないなら私が消す!! そう訴えて抵抗を始めたけれど、私の恥ずかしい場所に顔を埋めてきたカインさんのせいで、さらに大変な事になった!!

「ちょっ、か、カインさんっ、何する気なんですかあああっ!!」

「そりゃあ、……こうするに決まってんだろ」

「い、ぁあっ、やっ、駄目っ、カインさんっ、駄目っ。――ぁっ、あんっ」

 下着をずらされたかと思うと、ぬるりと……、濡れた熱い感触が潤んだ秘部に這わされてきた。
 その刺激にビクンッと身体が跳ね上がり、花びらを広げられながらカインさんの舌に弄られる。
 
「そんな、所……っ、汚い、ぁっ、汚い、です、からっ、やめっ、ぁああっ」

「どこがだよ……。はぁ、こんなにも綺麗で、甘い蜜が生まれる場所、知らねぇ」

「カイン、さん、っ、ぁっ、あぁっ、……やぁっ、本当に、だ、め、ん、ぁあっ」

「明るいお陰で全部見えるな……。舐める度に蜜が溢れて、ヒクヒク震えてるお前のここ」

 くちゅりと差し込まれた指の感触が、蜜口の奥を意地悪に愛撫してくる。
 全部見られてる……、私の表情も、カインさんに触れられて熱くなっている身体も、蜜を零しながら疼いている両足の間も、全部、全部。
 
「カインさん……、お願いですから、もう、明かりを」

「そんなに恥ずかしいか? 俺しか見てないのに?」

「そ、そういう問題じゃっ、……ぁっ、あっ、中、弄らない、で……っ」

「顔真っ赤にして可愛い声出してるお前も、弄られて疼いてるこの身体も、俺だけに見せる姿だろ? 全部見せろよ……、お前の全部を、俺だけに」

 そんな事を言われたって、私はカインさんみたいに自信なんてない。
 魔性の美貌と色香ダダ漏れの男性からしてみれば、少女期の私は絶対に物足りない身体つきに違いないのだから。
 うぅ……、暗闇の中でなら、まだ何とか誤魔化せると思えるのに、この状況はっ。
 首を振って嫌、嫌、と繰り返し続ける私に構わず、カインさんは指を引き抜いて、またねっとりとした動きで舌を這わせ始めた。

「ユキ……、お前が駄目だって泣いても、俺は見る。この瞬間は、俺だけのもんだからな」

「うぅっ、意地、悪っ」

「そんなの前から知ってんだろうが。けど、そうやって恨みがましく睨んでくる顔も、やっぱ最高だな。お望み通り、滅茶苦茶にいじめてやるから……、覚悟しろよ」

「んぅぁああっ、ァッ、あぁっ、カインさっ、はぁ、ああっ、やぁっ」

 そこからはもう、抵抗の声も出せない程に凄い猛撃だった……。
 愛撫によって勃ち上がった淫芯を指で押し潰され、捏ね回され、カインさんの舌と指に激しく嬲られて快楽を注ぎ込まれる蜜口。
 とろりと零れる蜜を吸われ、何度も何度も、私は果てるのを繰り返させられた。
 
「……はぁ、ずっと舐めて可愛がってやりたいところだが、こっちもそろそろ限界だ」

「はぁ、はぁ……。カイン、さん」

「その顔も、俺だけが見られる、女の顔だな。俺の事が欲しくて仕方ないって感じで、……はぁ、すげぇ、くる」

 高みに押し上げられた余韻で力を失くしている私を眺めながら、カインさんが上着と同じ黒色のズボンを締めていたベルトを外し、赤黒く隆起している自分の分身を取り出した。
 室内の明るさのせいか……、どうしよう、ばっちり見えてしまっている。
 それだけじゃなく、上半身の鍛え上げられた筋肉まで視界に映り込み、し、心臓がっ。
 顔を横に向けようとすれば、カインさんがくいっと指先でこっちを向けと要求し、意地悪な笑顔で私の羞恥を煽りにかかってきた。

「せっかくの機会だぞ? 好きなだけ見ろよ。特別サービスだぜ?」

 全世界の女性を虜にしてしまう魔性の美貌が、妖しく色香の滲む微笑で私を捉える。
 夢見心地でベッドまで移動してきたはずなのに、何故こんな心臓に悪すぎる展開になるのだろうかっ。お願いしますから普通に抱いてください、普通に!
 昨夜は凄く優しくて、忘れられない大切な想い出の日になったのに。

「い、意地悪、しないでくださいっ」

「意地悪なんかしてねぇと思うけどな? 俺はお前の全部を見ちまいてぇし、お前にも、俺の全部を見てほしい、って、そう思ってるだけだ。純粋に、な」

 意地悪な笑みが消えたかと思うと、カインさんは私の額に優しいキスを贈って、少年のように純粋無垢なあどけない表情になって笑った。
 私の手を取り、「ほら……」と、早鐘を打つ鼓動の上に温もりを押し付ける。
 その時になって、また、改めて気付く。
 愛し合う行為に緊張しているのは自分だけじゃない。
 どんなに経験を数多くしていても、カインさんは私と同じなのだ。
 好きな人と、想い合える人と肌を重ねる、二度目の夜。
 つい意地悪をしてしまうのも、カインさんなりの照れ隠しなのかもしれない。
 余裕を保ちたくて、でも、難しくて……。
 カインさんの優しいキスを受け入れていると、室内に変化が訪れた。

「明かりが……」

「全部見てぇけど、お前の泣き顔に弱いのも、事実なんだよな」

「え、――ぁっ、カイン、さ、ぁああっ」

 全てを照らし出していた光が消え去り、窓の外から差し込む月明りだけを頼りの世界が私達を包み込んでいた。
 その瞬間から、私の目にはカインさんだけが映り込み、意識の全てが彼だけに向かう。
 そして、熱い滾りの切っ先が潤んだ秘部を突き破り、ゆっくりと私の中へと浸食を始めた。
 二度目の夜は、やっぱりまだ痛みを伴うもので……。
与えられる圧迫感と辛さに涙を零していると、カインさんが動きを止めて私を抱き締めてくれた。
 自分の欲望だけを押し付けない、優しいカインさんの眼差し。

「んっ」

「ごめんな……。昨日の今日で、堪え性ないよな」

「カイン、さん……。ァっ、んんぅっ、……はぁ、カイン、さ、んっ」

 ゆっくりと、気遣うように揺れ始めたカインさんの腰。
 二度目の行為を鈍い痛みと共に受け入れながら、私から視線を逸らさないカインさんの一途な瞳に、くらりと目眩を覚えてしまう。
 今こうしている瞬間が夢のようで、昨夜よりも、もっと強く、深く、愛されている事を感じる。
 
「ホント……、俺を甘やかすと、ろくな事にならねぇって、今、そう思ってんだろ?」

「違っ、……んっ、はぁ、違い、ますっ。もっと、……も、っと、甘えて、ほしい、ですっ」

「昨日男を知ったばかりのお前に、こんな無理させてんのに……、か?」

 自嘲気味に嗤ってそう言いながらも、カインさんの昂ぶりが私の中から出て行く事はない。
 蕩けた蜜に塗れた柔らかな肉壁を何度もその熱で擦り上げ、徐々に腰を打ち付ける力が強くなってくる。
 確かに昨日の今日での行為は辛い部分もあるけれど、相手がカインさんだから……。

「カインさん、だから……、貴方の、愛情、を、感じられる、なら、いっぱい、欲しい、です」

「――っ!! な、なんつー殺し文句をっ。お前、狙ってやってんじゃねぇだろうな?」

「狙、う……? ぁああっ! カインっ、ぁっ、カインっ、さっ」

「そんな事言われたら……、抑えられるわけ、ねぇ、だろっ。はぁ、……は、ぁ、ユキっ、好きだ、くっ、お前の全部が、欲しいっ」

 最初の時よりも、カインさんの動きが余裕のないものへと変わり、何もかもを奪うような荒々しさが私に襲いかかってきた。
 いやらしい粘着質な蜜音が下肢から大きく響き、蜜口を圧迫する逞しさがさらに膨れ上がった気がする。
 腰を打ち付けられる度に揺れる私の身体と、肌に零れ落ちてくる、カインさんの汗。
 私の涙を舌腹で舐めとり、カインさんの唇が首筋に吸い付いてきた。
 本当に、全部、全部、カインさんに奪われてしまいそうな激しさ。
 けれど、こんなにも愛されている現実が、堪らなく嬉しくて……。
 カインさんの頭を両手の中に抱え込みながら、彼の昂ぶりをきつく締め上げる。
 うっと、苦痛と快楽の入り混じった低い音がカインさんの口から零れ出ると、さらに抽送の動きが激しさを増した。
 ベッドが二人分の重みを受け止めながら悲鳴を上げ、私達が深く交わっている姿を、静かな月の光が照らし出す。

「はぁ、……くぅ、ぁっ、言えよ、ユキっ。俺だけが好きだ、って、俺にしか感じない、って、はぁ、ユキっ」

「ん……ッ、ぁっ、はぁ、ァんっ、好き、はぁ、好き、ですっ。カインさんだけ、カインさんに、しか、こんな風に……、感じま、せんっ。んぅっ」

「んっ、こうやって繋がってると……、お前は、どんどん、素直に、なる、な。はぁ、もっと感じさせて、可愛がりまくって、俺だけしか見えないようにしてやりたくなるっ」

 私の身体を揺さぶりながら、掠れた声音でそう言ったカインさんの真紅の瞳に、愛情だけじゃない、狂気さえも孕んだような危うい光が見え隠れする。
 その視線に抱かれながら、ぞくりぞくりと心が震えてしまう。
 この人になら、壊されても構わない……。
 永遠に愛してくれるのなら、愛し合えるのなら、この熱に焼き尽くされても構わない、と。
 
「目を閉じるなよ……っ。最後まで、ちゃんと、俺を見ろ。はぁ、……ユキっ、ユキっ、俺の全部を、お前の目に、身体に、心に、刻み付け、ろっ」

「カイン、っ、さ、んっ、あっ、ァッ、あっ、あぁああっ」

 最奥を狙って何度も何度も突き上げて抉りつけてくる熱の逞しさに翻弄され続ける。
 純粋な愛情だけじゃない、支配欲さえも宿した、激しい執着の動き。
 互いの汗が混じり合い、言葉がなくなっていく。

「はぁ、くっ、……ぅぅっ、くそっ、限界だっ」

「あぁっ、んぁあっ、はうぅっ、アッ、ァあっ」

「――ユキっ!! ぅぁっ」

 両手の指をしっかりと絡み合わせ抱き締め合った直後、カインさんの熱情が中で弾けた。
 愛していると、全身で訴えてくるカインさんの温もりに、私は動けずにそれを受け止め続ける。
 一度目よりも長い。行為の余韻に酔い痴れているその表情に見つめられながら、私の奥ではカインさんの弾けた昂ぶりが、まだ、吐精を続けている。
 私が暮らしていた世界とは違い、こちらの世界では簡単に魔術で完璧な避妊が可能となっているから、何も心配はない、のだけど……。
 腰をゆっくりと揺らしながら熱を注ぎ込んでくるカインさんの動きと、奥で感じている熱の気配が強すぎて……、この人の存在にくらくらとしてしまう。

「カイン、さん……。もう」

「はぁ、……言った、だろ」

「え?」

「最初は手加減してやるって……。けど、今夜は二回目だ。少しずつ、慣らしていかないと、な」
 
 ……つまり? 
 たらりと、熱に包まれている私の背中を冷や汗が伝った。
 私の肌に所有の華を刻み付けながら、中に入っている感触を危険な硬さと大きさに戻していくカインさん……。
 あれ、これって。

「お前がクセになって強請るくらい……、愛してやるよ」

「あ、あのっ、ちょっ、昨日の今日ですよ!? そういうのはまた、日をおいて……っ。ぁっ、んっ」

「ウォルヴァンシアに戻ったら、絶対に何ヶ月もおあずけ喰らうに決まってんだろうが。なら、イリューヴェルにいる間、たっぷりと愛し合うべきだろ? なぁ、ユキ」

 い、今の行為でも十分に激しすぎたのにっ、どう考えても上級者向けの愛され方だと思ったのに、カインさんは自分の唇をなぞるように舌で舐め上げ、妖しく微笑んできた。
 初心者!! 私は立派な初心者!! 向こうの世界の男性だって、きっと連続で何回もやろうとなんてしないと思う!! というか、風の噂では一度したら回復はかなり先、と。
 しかし、私の中をいやらしく攻め始めたカインさんの息子さんは物凄く元気な様子で……っ。

「二人きりなら、甘やかしてくれるんだろ? 幾らでも」

「え、えっと、……ぁんっ、あっ、何回でも、って意味、じゃ、はぁ、んんっ」

「自分で煽った責任、取るよな? ユキ……、ユキっ」

 動物達がそうするように、カインさんが私の耳をぱくりと口に銜えて舐めまわしながら、二回目の行為を求めて身体を揺らし始める。
 この貪欲さは、確かに私のせいかもしれない……。
 エリュセードの時間で、二年。向こうの世界で言えば、四年。
 求めてくるカインさんに我慢をさせ続けていた長い月日。
 待ての状態から、よし! のサインを出された竜の皇子様は、もう止まらないし、止められない。
 イリューヴェル皇国にいる間に、と言ってはいたけれど、……この調子だと、ウォルヴァンシアに戻ってからも、隙を見て襲いかかってくる気がひしひしと。
 
「ユキ、こっち向け。ほら、ンっ」

「ひゃっ、んっ、カイン、さん……っ、ァッ、駄目、だ、めっ」

 ――物凄い危機感を感じたけれど、結局、その夜は深夜遅くまで寝る事が出来ませんでしたっ。
 そして、翌日に寝込む羽目になった私と、満足感たっぷりにお肌つやつやのカインさんを目撃したルイヴェルさんとサージェスさん。勿論、そのまま見逃す事はなく……。
 次に私の目が覚めた時には、全身ズタボロ状態ぷらす、頭に幾つもの大きなタンコブを作ったカインさんの姿があった。
 ……間違いなく、やったのはあの大人二人組だったのは、言うまでもありません。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ――Side カイン


「つーわけで……、また来るわ」

「皆さん、お世話になりました。お元気で」

 イリューヴェル皇国を出る日の朝。
 玉座の間で猫被りの挨拶を済ませた後に素の自分へと戻った俺に、相変わらず親父が諦めの悪い顔をしやがって、ブツブツと文句を言い始めた。
 
「別に急用があるわけでもないのだろう? それならば、どどんと三ヶ月ほどイリューヴェルに滞在しても……。大体、俺だってまだユキさんと話したりないというのに」

「いい加減に諦めろよな……。俺はウォルヴァンシアの方が肌に合うんだよ。ついでに、親父をユキの傍に置いとくと毒にしかならねぇから絶対ぇ嫌だ」

「はは……、カインさんたら」

 ユキや周りの奴らは、よく俺の事を、魔性の美貌の持ち主だの、タラシだの言いやがるが、本当の危険人物極まりない魔性は、目の前の親父だろ。
 イリューヴェル皇帝である親父は、本気で好きになった女はいないものの、その顔の良さとダダ漏れの色気のせいで、すれ違う見ず知らずの女をころりと落としまくる面倒な奴だ。
 今だって、俺の防壁を突破して、ユキの両手を取って涙ながらに落としにかかっている。

「ユキさん……、俺は、いずれ貴方がこの国で息子の嫁として末永く暮らしてくれる未来を思い描いているのだっ」

「は、はぁ……」

「待てごらぁああああああっ!! ユキにその面倒な顔近づけんなぁっ!!」

「ぐはぁあああっ!!」

 ったく、油断も隙もねぇ親父だな、おい!!
 俺の右ストレートを喰らって吹っ飛んだ親父の姿に、玉座の間にいた女官や騎士達が次々と悲鳴を上げて慌てるが、そのくらいでどうこうなる皇帝じゃねぇだろ、と、俺は溜息を落とす。
 親父に悪意や下心がねぇのはわかってるが、全体的に文句を言うと、うざい。
 家族愛に目覚めてからというもの、本当にしつこいくらいに過保護になりやがって、主に俺が迷惑している。あぁ、違うな。大迷惑の間違いだった。

「カインさん、もう少し、お父さんに優しくしてあげましょうよ」

「ふんっ。未練がましい親父には甘くしたら駄目なんだよ」

「皇帝補佐官としては、第三皇子殿下には国に帰還し、尽力してほしいところだぞ?」

 傍観者特有の高みの見物よろしく、微かに笑いながら声をかけてきたファウニスに、俺はふんっとそっぽを向く。第一皇子と第二皇子が揃ってるんだ。第三皇子の俺は、ウォルヴァンシアとイリューヴェルの架け橋的な立ち位置で十分に仕事をしてんだろうが。
 そう言い返してみたが、相も変わらず……、この悪友は「足りるわけがないだろうが?」的な笑みで、俺に挑戦的な笑みを向けてくる。

「皇族に生まれた以上、民からの期待には応えるべきだろう? 他国にいても出来る仕事をまわしてやるから、楽しみにしていろよ?」

「けっ。気が向いたらこなしてやるよ」

「ふふ、俺自らチェックしに行ってやるから覚悟しろ。怠けた場合は、ペナルティ倍増しで見張りながら仕事をさせてやる」

「うげぇ……」

 まぁ、こんな風に脅しまじりな声のかけ方も、こいつなりの見送りなんだろうな。
 仕事を送り付けたのを口実に、俺の様子を見に来る、とか、な。
 ユキの奴も、「美味しいお菓子を作ってお待ちしていますね」と、ファウニスの本音を見抜いているらしく、大歓迎の笑顔全開だ。
 その様子をすぐ傍で眺めていた俺は、ふと……、親父から少し離れた位置に控えている兄貴達へと視線を向けた。
 どっちも静かに黙りこくったまま、その瞼を閉じている。
 このまま、……何も言わずに、適当に別れる事も可能だろう。
 けど、――それじゃ駄目なんだよな。
 俺は、大切な記憶を、二人の思いをこの心に思い出す事が出来ている。
 
「……アース兄貴、グラン兄貴」

 かつて、そう、二人を慕いながら呼んでいた、愛称。
 いや、幼い頃の俺は、アース兄ぃ、グラン兄ぃ、と、二人の事を呼んでいた。
 けど、この歳になってからそう呼ぶのはなんか気恥ずかしくて、二人の目の前に立った俺は、少しだけ呼び方を変えて、声をかけた。
 今までとは違う、あの、別れを告げた日へと戻ったかのな気配。
 アース兄貴も、普段あまり感情を表に出さないグラン兄貴でさえも、目に見えて大きくその双眸を見開いている。
 
「今まで……」

「「カイン……。――っ!?」」

 兄貴達が驚くのも当然だろう。
 強気に出る事の多い俺が、――兄貴達に深く頭を下げたという事実。
 第三皇子としての形式的な礼じゃない。
 カインという、一人の存在としての、心からの謝罪。
 ずっと、俺の事を陰から見ていてくれた、案じてくれていた二人の事を裏切り続けてきた、俺自身の罪。ゆっくりと顔を上げ……、驚いている兄貴達の顔を正面から見据える。

「忘れてて……、ずっと、ちゃんと向き合えずにきて、ごめん」

「「……」」

「自分から、兄貴達と縁を切ろうとしたくせに、その事も全部忘れて、俺は兄貴達から貰った大事な思い出を、心を、置き去りにしながら生きてきた……。ずっと、ずっと……」

 どう詫びれば許されるのか、どう接すれば、失くした時間を取り戻していけるのか、全然、わかんねぇ……。けど、俺はもう、何の力もなかった子供じゃねぇから。
 
「どんなに時間がかかっても、俺は、兄貴達ともう一度正面から向き合っていきたい。嫌がられても、鬱陶しいと蔑まれるとしても、自分に出来るやり方で、兄貴達に、償っていきたい」

 告げた声には、自分でも気付かない内に震えが宿っていた。
 霞む視界の意味と、頬を静かに濡らす存在。
 勝手な事を言うな、と、拒まれるかもしれない恐れは、勿論ある。
 だが、それでも……、俺は兄貴達から逃げたくはねぇから。
 もう一度、深く頭を下げて、踵を返そうとしたその時。

「「カイン!!」」

「――っ!!」

 普段だったら、冗談じゃねぇ、って……、そう怒鳴っているはずの、……。
 腕を引かれ振り向かされた俺は、失ったはずの温もりの中で強く抱き締められていた。
 アース兄貴と、グラン兄貴……。二人の腕の中で、声を出す事すら考えられなかった。
 
「カイン……、カインっ。罰されるべきは、償うべき愚か者は、私達の方だろう?」

「俺達は、お前が一番辛い時に、こうやって抱き締めてやる事も出来なかった……。兄として、何も」

「アース兄貴……、グラン、兄貴……っ」

 野郎と抱き合う趣味なんかねぇのに……、何で、何で。

(こんなにあったけぇんだろうなぁ……)

 幼い頃、よくこうやって兄貴達に甘えまくっていた自分の姿を思い出した。
 母親以外に心を許せた、大切な家族……。
 俺は……、こんなにも大事なもんを、ずっと忘れていたんだな。

「ごめん、……ごめん、兄貴っ」

「謝らなくてもいいんだよ、カイン……っ。お前は、あんな境遇の中を、必死に生き延びてくれたんだ。私達はお前が、今ここにいてくれるこの現実が、堪らなく嬉しいのだから……っ」

「カイン、俺達も……、お前と向き合っていきたい。許してくれるか?」

「くっ、……あ、当たり前、だろうがっ。お、俺だって、嫌だって言われても、会いに来るから、なっ」

 自分でもすげぇ恥ずかしいくらい、泣きまくった。
 頭を撫でてくるその手の温もりが、俺を思ってくれている兄貴達の心が、過去の辛い記憶を新しい始まりの色で塗り替えていく。
 心から大切に想える幸希と繋いだ手とは反対の、もうひとつの手を、優しい温もりで包み込むかのように……。
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