無垢なる密蕾は、愛しき腕にて咲き誇らん

古都助(幸織)

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~ルイヴェル・フェリデロード編~

【結婚後】差し入れとハプニング3◆~ルイヴェル×幸希~

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 Side 幸希

「苦労が増えたな……」

 重苦しい溜息と共に、私の頭の上で呟かれた旦那様の一言。
 あの山を後にした私達は、ようやく自分達の寝起きする部屋へと戻って来る事が出来た。
 闇の精霊さんは、一度レイフィード叔父さんにお預けしてあるので問題はない。
 けれど、……最愛の旦那様のご機嫌が最悪状態です!
 夕食後にバスルームへと連れ込まれ、泡だらけのバスタブに入れられた私は、ルイヴェルさんに髪を洗われながら居た堪れないひとときを過ごしている。

「ルイヴェルさん……、あの、やっぱり、怒ってます、よね?」

「お前の頑固さは、今に始まった事でもない。……だが、昼食をすっぽかされた挙句、男連れで帰る羽目になった俺の事を少しは考えてみろ」

「ご、ごめんなさい……。でも、あの精霊さんは、一人で寂しそうだったので……、つい」

「捨て犬を拾うような気持ちだった、と。そういうわけか」

「はい」

 ふっと、泡に息を吹きかけられながら問われて、私はくるりとルイヴェルさんの方に振り向いた。
 今は眼鏡をしていないその深緑の双眸に、私に対する残念な気配が浮かんでいる。
 せっかく差し入れを持って行ったのに、まさかあんな事になるなんて……。
 必死に探してくれた魔術師団の皆さんやセレスフィーナさん、そして、ルイヴェルさんには本当に申し訳ない。でも、結婚するなら好きな人と、と、若干説得力のない願いを抱くあの闇の精霊さんは、いつかきっと素敵な人を見つけられる気がするのだ。
 だから、少しでも力になれたら、と。

「ごめんなさい」

「もういい。お前を連れて行かれるよりはマシだからな」

 バスタブの外に置いてあったシャワー用のそれを手に取り、ルイヴェルさんが私の髪から泡を洗い流していく。ぷるぷると頭を振って息を吐く私はきっと、旦那様の目には子犬のように映っているのだろう。
 くるりと背を向け、今度は私に自分の髪を洗えと無言の要求が飛んでくる。
 私はシャンプーから適量を手に取り、旦那様の綺麗な銀の髪へと手を差し入れ始めた。

「出来るなら、幸せな結婚をしてほしいと思っているんですけど……、あの人、闇の精霊王様の後継者なんですよねぇ……。同種族以外の場合」

「不可能ではないが、他種族の血が混ざると……、闇の精霊にどんな影響が出るかは、問題とするべきところだろうな」

「そうですね……。とりあえず、別種族の女性を知って貰いながら」

「闇の精霊から嫁になりそうな性格と容姿の者を探してやる気か?」

 やっぱり旦那様にはお見通しだったらしい。
 優しい手つきで銀の髪を洗いながら肯定した私に、ルイヴェルさんはやっぱり呆れ気味だ。
 出来る事なら同種族の女性との婚姻の方が、現闇の精霊の長である王様も、受け入れやすいだろう。それに、きっとあの闇の精霊さんは、まだまだ世界の在り様を知らない気がする。
 どんな景色があって、どんな人達がいて、外の世界で暮らしている闇の精霊達にどんな子たちがいるのか……。まずは、この世界を正しく知って貰う事から始めるつもりだ。

「なので、闇の精霊さんを色々なところに連れて行ってあげようと思います。あ、ルイヴェルさんにご迷惑はかけませんから、安心してくださいね」

 ルイヴェルさんがお仕事をしている時間などに動けば問題はないはずだ。
 そう伝えると、不満げな深緑の瞳が私をぎろりと振り返ってきた。

「つまり、俺が仕事に励んでいる間は、あの男と共に行動する、という事か?」

「まぁ、毎日じゃありませんけど、そうなりますね」

 もしかしなくても、却下……、と言われそうな気が。
 というか、もうその怖い気配だけで猛抗議の代わりになっているとしか言えない。
 ルイヴェルさんは泡まみれの状態で私の方に身体を向けると、ぎゅっと予告もなく私の鼻を抓みにかかってきた。い、いひゃい!!

「二人きりでは動くな。いいか? 絶対に、人の目がある所を選んで行動しろ。アレクやカインでもいい。誰かを誘ってあの闇の精霊と三人で行動しろ」

「うぅっ、い、いひゃいでふよぉっ」

「それと、夜にはあの男とは会うな。闇の気配が強まったところでまた馬鹿をやらかされては、俺も自分を抑える自信がないからな」

「ふぁ、ふぁいっ」

 貴方のお綺麗な顔とは違って、私の鼻が大変な事になったらどうしてくれるんですか!!
 ようやく解放して貰えたものの、きっと私の鼻は真っ赤に腫れているはずだ。
 鼻を擦りながら泡風呂に沈んだ私は、「もう自分で流してくださいね!」と、シャンプーの続行を放棄する。それに対しては何も不満を言わず、ルイヴェルさんはさっさと髪についている泡を綺麗に洗い流してしまった。そして……、背後から大きな温もりに囚われる。

「少しは夫の気持ちも察しろ。自分の妻が他の男と四六時中共に行動するなど……、逆の立場だったら平静でいられるか?」

「び、美人のセレスフィーナさんといつも一緒にいるじゃないですか」

「双子の姉をその中に入れるな。はぁ……」

 まぁ、確かに王宮の中でルイヴェルさんがメイドさん達と話している姿や、魔術師団の女性達に囲まれている光景を目にする時はあるけれど……。
 
「もう嫉妬するレベルじゃなくて、美形税的な悟りを拓いているので、大丈夫です」

「は?」

 モヤモヤしない事もないけれど、嫉妬するだけ無駄なのをちゃんとわかっている。
 ルイヴェルさんに関わらず、美形の方々は芸能人並に大変な苦労をしているのだ。
 だから、有名税みたいなものだと割り切って……。

「そう平気なふりをしながら……、つい最近、俺が城下の女達に囲まれている所を、刺すような殺気で陰から見ていたのは誰だったんだろうな?」

「……し、知りませんっ」

 あ、あれは、たまたま、その……、お菓子の材料を買いに行った帰りに、ルイヴェルさんにプレゼントを持ってきた女の子達がきゃあきゃあ言っていたのを見かけただけで。
 べ、別に、嫉妬の眼差しで見ていたわけじゃ……。
 けれど、どんなに言い訳をしても、旦那様は全てをその深緑の双眸で見通しながら、暴きにかかってくる。

「お前も俺と同じだ……。他の誰にも取られたくないと、渡さないと、素直に認めたらどうだ?」

「んっ……、ち、違いま……、ちょっ、どこ触ってるんですかっ」

 泡の中で動きが見えなかったせいか、気づいた時にはルイヴェルさんの右手が私の下肢を、左手が、心臓の上に添えられていた。
 あきらかにわざとだ。私の耳朶を吐息で擽りながら、その手は淫らな動きで愛撫を施してくる。

「い、や、……ぁ、離し、て。はぁ……、んっ、やめ」

「あの男に触れられただろう? 消毒をしてやるからじっとしていろ」

「そんな、ところは……、触られて、ま、せん、から」

 バスタブの中から這い出ようとしても、旦那様は逃がしてくれない。
 胸の突起を弄っていた指先が肌を擽りながら、やがて、その大きな手のひらに膨らみを包み込む。
 優しい手つきと、時折、痛みさえも与えてくるかのような巧みな仕草で。
 下肢の方では、徐々にその撫でるだけの愛撫に蕾の中心が潤みはじめ、知らず無意識に腰が揺れ始めてしまう。

「んっ、ぁ、ぁあ、……やぁ、だ、め、……はぁ、んぁ」

「当然、今回の件に関する仕置きがない、……などと、思っていたわけではないだろう?」

「ふぅっ、んっ、……ごめんな、さいっ。あ、謝り、はぁ、ます、だから」

 いやいやと首を振りながら暴れようとする私のせいで、泡がいたる所に飛び散っていく。
 言葉では逆らえても、身体は愛しい人に触れて貰えている事に喜びを覚えてしまう。
 お仕置きだと耳元に意地悪く囁かれて、きゅん……と、ルイヴェルさんに弄られている蕾が蜜を零しながら疼く。硬い指先が肉を押し開き、くちゅりと中に忍び込んでいく。

「ルイヴェル、さん……。や、ぁっ、お風呂、では、駄目……、はぁ、……ぁ、ん、やぁ」

「寝台に限らず、色々と違う場所での行為は試したはずだがな? このバスルームでも、お前は俺に何度もその愛らしい声を聴かせただろう」

 それは、嫌だと言い張る私を懐柔して事に及んだ貴方のせいでしょうが!!
 わざと私の羞恥心を煽って、拒むように仕向けて、それを陥落させていくのが大好きなくせに!!
 不埒な事は微塵も考えていないような顔をしている旦那様だけど、私に対してはどこまでも貪欲だ。ドS大魔王様の上に、性欲に対しても大魔王級だもの、この人は!!
 私の顔を自分の方に向かせ、その深緑で心を絡め取りながら唇を塞いでくる熱。

「ん……、も、う、怒り……ます、よっ」

「安心しろ。時期にお前から……、いつものように強請ってくる」

 舌を吸われながら、ぐっとお尻に押し付けられてきたのは、あまり言葉にはしたくないけれど……、旦那様が興奮状態で準備万端になってしまったという証拠の、……硬くて、大きな、感触。
 その逞しい昂ぶりに貫かれてしまえば、あとは愛する人の熱に溺れる込んでいくだけ。
 身を捩ってその事態を回避しようとするけれど、はい、最初から無理な相談でした。
 先に私を果てさせた旦那様が中から指を引き抜き、自分の腕の中に私を振り向かせて抱え込む。

「今日は色々と苦労をかけさせられたからな……。仕置きと、……報酬を与えて貰おうか?」

「ルイヴェル、……さ、ん。……はぁ、ンッ、……ふ、ぁ、や、ぁ……、ぁあああああっ」

 ニヤリと笑った深緑が私の存在を抱いた瞬間、腰を鷲掴まれ、一思いに下から貫かれた。
 熱く膨れ上がった昂ぶりが、私の蕾を強引に開かせ、潤んでいた蜜の褥の中に沈み込む。
 もうっ、この大魔王様はどこまで鬼畜仕様なの!!
 息を乱しながら涙を零す私の目元に舌を這わせ、その存在で埋め尽くした褥の柔らかな肉壁を容赦なく熱の荒ぶりと共に擦り上げてくる。

「はぁ、……んぅ、あぁ、……っ、意地、悪……、ルイヴェ、ル、さんの……、はぁ、馬鹿、ぁ」

「それが最愛の男に対する物言いか? 少しは手加減してやろうかとも思ったが……、容赦はいらないようだな。――ユキ」

 ゆっくりと中を味わうかのように動いていた昂ぶりが、牙を剥いた獣のように暴れ始め、さらに膨れ上がる気配を見せた。い、今でも大きすぎるのに、これ以上はやめてください!!
 ルイヴェルさんの両手が私の腰とお尻を爪が食い込む程に捕らえ、何度も力強く下から突き上げてくる。泡のお陰で危ない光景を見ずに済んでいるけれど、感触や熱は誤魔化せない。

「お前は……、この辺りが好きだろう?」

「え、……やぁああっ、ぁあっ、だ、駄目っ、はぁ、そこは、んんぅっ」

 私の身体を知り尽くしている旦那様は、愉快そうに蕩けている秘所の中でも一番弱い部分を太い亀頭で攻め立て、腰を押し回して一気に落としにかかっていく。
 とても悔しいけれど、一応は愛の溢れているこの情事において、私がルイヴェルさんに勝てる点は、今のところひとつもない。
 熱を抱き、快楽とルイヴェルさんから与えられる深い愛情に翻弄されている私を、深緑の双眸が愉快そうに見つめてくる。
 普段も意地悪なところがある人だけど、正直言って、この行為の時に比べればまだ生易しい。
 乱れて甘い声を漏らす私をさらに追い詰め、その右手が私の背中を自分の胸に抱き寄せて、一層強く、奥深くまで繋がろうと昂ぶりが捻じ込まれてくるのだ。

「はぁ、……ぁあっ、ルイヴェル、さ、ん、はぁ、……お願、い、です、から……、も、もう、許し、ぁあああっ」

「俺がこの程度で許してやると……、本気で思っているのか?」

「ふ、ぅっ、ぁっ、……や、ぁ、ルイ、ぁんっ、あぁっ、……はぁ、無理、これ以上は、……ぁっ、あぁっ」

「お前の中は、素直で利口だな……。はぁ、……くっ、俺の心ごと虜にするかのような、淫らな締め付けには、いつも翻弄されてしまう」

 言葉では誤魔化せない身体の熱と快楽への欲求。
 ルイヴェルさんの腕に強く掻き抱かれ、狂おしいほどに突き倒された後、高みへ昇る予感が訪れた。

「ユキ……っ、んっ、二人きりの時ぐらい、体裁も理性も投げ捨てて……、くぅっ、少しは自分を晒け出してみたらどうだっ」

「んぅっ、ふぅ、……はぁ、ルイヴェル、さ、ん、ルイ……、んっ、ぁっ、あぁあっ」

「――ユキっ」

 一番奥の大事な部分を突き破られそうな程に攻められた瞬間、視界が真っ白に弾けた。
 互いの身体が大きく震えを覚え、ルイヴェルさんの想いが吐き出される低い音が耳に届く。
 じわりと広がった……、お腹のあたりの熱を抱く感触。
 いっぱい苛められたけれど、それでも……、二人で繋がって果てる瞬間は、いつも幸せな心地になってしまう。
 きっと一度では終わらない。それを予感しながらも……、ルイヴェルさんが私を求めてくる理由を少しだけ感じ取る。
 誰よりも深く愛してくれている人、けれど、何度も抱こうとするのは、恥ずかしがり屋の私が口にする、素直な本音を聞きたいから。
 二人で混じり合い、溶け合っていく内に、気が付けば何度目とも知れない行為の最中に、私は理性も体裁も失って、ルイヴェルさんだけを求める言葉ばかりを口にするようになってしまうのだ。
 あまり覚えていないけれど、やっぱり理性がある内はなかなか素直になれないと思う。

「ユキ……、俺を見ろ。他の事に意識を飛ばすな」

「ルイヴェル、さん……。んっ」

 段々と、バスルームの熱で意識が朦朧としてきているのか、それとも、最愛の旦那様の熱で自分が保てなくなってきているのかわからずに、私は下肢の果てた昂ぶりを抜いてほしいと涙目で懇願する。喉が渇いて……、外の夜風に当たりたくなってしまっているから。
  
「……こんな顔は、他の奴には見せられないな。いや、見せる気もないが、さて、どうしたものか」

「ルイヴェル、……さん?」

「まるで生まれたての子猫だな。……俺の腕の中に閉じ込めて、永遠に誰の目にも触れさせずに済むのなら……」

「んっ」

 軽く下唇を啄まれ、その後に私のものより大きな舌が口内にするりと入り込んでくる。
 私の全身、魂の奥までも余す事なくこの人のものだと主張されているような、愛撫の嵐。
 シャンプーを終えた髪から漂ってくる甘い香りと、愛しい人の熱。
 心を、全身を包み込む優しい幸福の気配に抗えるはずなどなく、私もそのキスに応え始めた。
 やがて、ルイヴェルさんの腕に抱かれてバスルームを出た私は、親猫のように甲斐甲斐しく身体を拭ってくれた旦那様の手によって、逃れられない檻の中へと閉じ込められるのだった。
 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ユキ姫様……、大丈夫でございますか?」

「す、すみません……。せ、セレスフィーナさん、わざわざ、お見舞いに、うぅっ」

 翌日の昼、激しすぎる旦那様の愛情で足腰が立たなくなってしまった私は、寝室から出る事も出来なかった。いつもだったらもう少し手加減を……。
 あ、わかった。私が勝手な真似をしないように、わざと寝台に閉じ込めるような真似をっ。
 寝台の傍には、旦那様の双子のお姉さんが申し訳なさそうに頭を下げてくれながら、林檎の皮を剥いてくれている。
 セレスフィーナさんが謝る事など、ひとつもないのに……。
 悪いのは全部あの大魔王様なんですよ、あのドSなんですよ。
 むしろ私と貴女はどこからどう見ても、被害者です!!

「そういえば、闇の精霊さんは、今……」

「彼ですか? 彼は……、レイフィード陛下とユキ姫様のご温情により、王宮内に一室を与えられまして、今は地上の事を勉強中です」

「そうなんですか……。と、とりあえず、良いスタートを切れた、という事ですよね」

「はぁ……、まぁ、そう、なんです、が」

 どうしたんだろう。麗しの女神様が、若干遠い目をして窓の外に視線を投げてしまった。
 小さなナイフを鞘に納め、切り分けたリンゴを並べているお皿の横にそれを置く。

「恐らく……、ユキ姫様に害が及ばぬようにとの考えなのでしょうが」

「はい?」

「弟が、彼と契約を結びました」

「え……」

 弟、イコール、ルイヴェルさん。彼、イコール、闇の精霊さん。
 まさかの報告に、私は目を瞬いて飛び上がりかけた。
 何がどうなってそうなってしまったの!? 闇の精霊さんの精神状態は無事なの!?
 
「一時的な契約なのですが、闇の精霊に伴侶が出来、国に帰った時点で契約は効力を失くすようにしたようです。ただ……、あの弟が主となると、彼は色々と苦労も多いのだろうな、と」

「地獄ですね……、それ」

「ふふ……、流石に、闇の精霊王の跡継ぎを過労死させるような事はないと思うのですが」

 平穏な生活が出来るかどうかは、保障出来ない。
 私とセレフィーナさんは窓の外に視線を投じ、闇の精霊さんの精神をどうケアすべきかと、同じように悩み始めるのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほら、口を開けろ。お前の為にケーキを買いに行ってやったんだぞ」

「知りませんっ」

 私の知らないところで闇の精霊さんに死刑宣告のような横暴を強制するなんて……。
 セレスフィーナさんがお見舞いに来てくれてから数時間後、おやつの時間にお土産の箱を持って訪れてくれた旦那様が、フォークに生クリームたっぷりの美味しそうなケーキの一部を刺して私の口元に運んでくれたけれど、ついそっぽを向いてしまう。

「闇の精霊さんが可哀想じゃないですか……。よりにもよって、ルイヴェルさんと契約を結ぶなんて」

「お前は自分の夫をどんな鬼畜だと思っているんだ」

「泣いて懇願しても許してくれない溺愛系鬼畜だと思ってますが、何か?」

 大体、私に対して前科のある闇の精霊さんを、ルイヴェルさんがちゃんと気遣ってくれるのかどうか。お嫁さんを探す前に心が折れてしまうのではないかと心配なのだ。
 けれど、旦那様は私からの答えが不服のようで、少しだけ室内の気温が下がった気がする。

「またお前に不埒な真似をしないように安全策を取ったまでだ。別に八つ当たりや報復をする為に契約を結んだわけじゃない」

「本当ですか?」

「疑わしそうな目をするな。ほら、お前の大好きな城下のケーキ屋で買った物だぞ。口を開けろ」

「ん……」

 パクリ。あぁ、懐柔されたようで少しモヤっとしてしまったけれど、相変わらず某お菓子店のケーキは極上品の舌触りだ。
 雛鳥の餌付けのように運ばれてくるケーキを食べながら、ふとルイヴェルさんの表情を見上げると、……なんだか、物凄く優しそうな笑顔と出会ってしまった。

「何ですか?」

「いや、……お前は、昔から俺を飽きさせない存在だと思ってな。恋人であり、妻であり、……可愛いペットにもなってくれそうだ」

「なぁあああああっ!! なななな、何言ってるんですか!! わ、私は、犬猫じゃないんですよ!!」

 しかも飼い主がルイヴェルさん!! 猫じゃらしを手に、意地悪な事をされながら延々と遊ばれそうな気しかしない!! まぁ、……三食付けてはくれそうだけど。
 それに、ブラッシングもマメにやってくれそうな気もする。
 などと冷静なイメージを抱いてしまった自分を叱咤しつつ、私は今度こそ毛布の中に潜り込んだ。
 
「別に怒る事でもないだろう? 俺にとってお前は、永遠に愛で続けたい対象だと言っているだけだ」

「知りませんっ!!」

 毛布を引き剥がしにかかってくるルイヴェルさんに猛抵抗で抗ったものの、一度動きが止んだかと思えば……。寝台に重みが加わる気配がした。
 まさか、潜り込んでやろうという考えなのだろうか、と、思った矢先。
 
「うぐっ……!!」

 どっしりと身体の上に何かが居座った。
 まさか……、恐る恐る毛布から顔を出してみると、――私の上に大きな銀毛の狼が!!
 最愛の旦那様と同じ色合いの狼。その目が冷ややかに私を見下ろしている。
 ウォルヴァンシア王国で生まれた狼王族は、皆、同じように狼と人の姿二つのどちらにもなれるように生まれついている。私も一応変身出来るのだけど……、一体何のつもりで。
 優雅に人の上で寛いでいる銀毛の狼こと、ルイヴェルさんが、ふさふさの尻尾を愉し気に揺らしている。

「こ、の……っ」

『毛布の中から出て来る気になっただろう? 大人しく俺の相手をしろ』

「い・や・で・す!! 意地悪な旦那様の事なんか知りません!!」

 のし~ん……。くっ、さらに体重をかけてきたっ。
 このままでは旦那様に押し潰されて残念な結末を迎えてしまうかもしれない。
 仕方なく観念し、毛布から抜け出し銀毛の狼さんと向き合うと、大きな頭で擦り寄られてしまった。中身はルイヴェルさんだってわかってる。わかってるけど!!

「はぁ~、もふもふっ」

『ふあぁぁ……、丁度眠くなる時間帯だな。暫くの間ここで休ませて貰うぞ』

「え? ちょっ、ちょっと!! ルイヴェルさん!! まだお仕事の時間帯ですよ!!」

 私に懐く様子を見せながら、ごろんと大きな体躯の狼さんが寝台に寝転んできた。
 今頃王宮医務室では、セレスフィーナさんが一人でお仕事を頑張っているというのに……。
 でも、完全に無防備な姿を見せて寝息を立て始めた旦那様の姿に、不謹慎にも頬が緩んでしまう。
 うん、ルイヴェルさんが狼の姿になっている時は、私よりも何倍も可愛いペットになれる気がする。もふもふの毛並みを撫でながら、もう一度私も横になった。

「後で怒られても知りませんからね? 私の大好きな旦那様」

『セレス姉さんからの説教には慣れているから大丈夫だ』

「あ」

 まさかの狸寝入りだった旦那様が、狼の口を私へと近づけ、悪戯っぽく唇に感触を残してまた瞼を閉じた。

「もう……。ふふ、おやすみなさい、旦那様」

 思わず、自分よりも遥かに年上の旦那様が見せる子供じみた面に和みながら、私も自分から狼さんの口にキスを贈って、その大きな体躯に寄り添い瞼を閉じる。
 この人には意地悪されたり、翻弄されてばかりで、滅多に勝てないけれど……。
 こんな温かな日々がずっと続きますようにと、願ってしまう自分がいる。
 幼い頃は、大好きな『ルイおにいちゃん』だった人。
 このエリュセードに戻って来て再会してからは、私の記憶が封じられていたせいもあるけrど、あまり本心の読めない人で、意地悪な部分も垣間見えて、苦手にも思っていた人。
 けれど、ずっと私の保護者として、大切に気遣ってくれて……、気が付いたら、かけがえのない唯一人の男性になっていた。
 今思えば、私はきっと……。

(ルイヴェルさんの背中を追いかけ続けて、ようやく隣に並べたのかもしれない)

 この人が私を想い、沢山愛してくれたように、これからもずっとそうであるように……。
 私も、いつかこの人を支えて、ずっと愛していけるように、これからも一緒に並んで歩き続けていこう。お日様の優しい香りがする銀毛の狼さんを抱き締めながら、眠りに落ちた私の口元には、いつものように、幸せな笑みが浮かんでいたのだった。
 


 fin
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