夏の想い出

枕返し

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一人

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夏も終わりに近づいた頃、帰り際にヨーコ姉ちゃんが
「あのさ、私、夏にしかここには来られないんだ。だから、今年はもうお別れなの。」

この夢のように楽しかった毎日が終わってしまうと告げられる。
それは夏休みと同じように。
「なんで会えないの?もっと一緒に遊びたいよ。」
「ごめんね。できないんだ・・・。でも、来年もまた来るから。絶対来るから。だから、来年。また、会いたいな。」
「来年・・・。」
「そう。マコト君が私のことを覚えていてくれたら、そしたら、私、待ってるから。来年の、私たちが初めて会った日、ここで。」
「わかった、約束だ。俺、絶対来るから。来年もまた遊ぼう。」
「うん。・・・ばいばい。」



そう言って俺たちは別れた。
だけど俺は諦めきれずに次の日もいつもの場所に行ってみた。
でも、朝からずっと待ってみてもヨーコ姉ちゃんは来なかった。
だから俺は来年、ヨーコ姉ちゃんに相応しい男になって会えるように頑張った。
いつも大人のような余裕を持って、賢くて、憧れる。
そんなヨーコ姉ちゃんと対等の男になるって、そう決めた。


夏休みが終わって、俺は得意な運動はもっと上手くできるように、嫌いだった勉強も毎日真剣にやった。
そうしたら思いのほか簡単にクラスでも上位になって、学年が上がってからはトップになった。
ヨーコ姉ちゃんの言っていたように相手のことを考えて人に接していたら友達も増えた。
学校では何においても他の誰にも負けない、それを皆が望んでいると感じるようになった。
そして俺は、完璧でなければならなくなった。

テストでは満点を、体育では常に勝利を、学級委員で委員長で。
とにかく俺はヨーコ姉ちゃんのようになりたかった。
肩を並べて対等な関係になりたかった。
だけどその結果としての現状が俺には窮屈だった。
もう誰も、俺に勝負を挑んでくるやつはいない。
俺の孤独感はもしかしたら去年よりさらに深まっていたかも知れなかった。
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