自殺しようとしているクラスメートを止めたら、「じゃあ私を抱けるんですか?」と迫られた

桜 偉村

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第24話 お泊まりデート

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「すみません、すっかり寝てしまいました……」

 かえではあくびとともにリビングに登場した。夕方の六時を回ろうとしているところだった。

「おう、おはよう。つっても夕方だけどな」

 YouTubeの視聴をやめて振り返り、手を上げた。
 楓もノロノロと同じ所作をした。どこか元気がないように感じられた。

「楓」

 手招きすると、トボトボと頼りない足取りでやってきた。
 隣に座ろうとするその背中と膝裏に手を差し込み、膝の上に座らせた。

「ゆ、悠真ゆうま君? どうしたのですか?」
「それは俺のセリフだ。悪夢でも見たか?」
「っ……!」

 背後から包み込むように密着しているので、動揺が直に伝わってきた。

「……何でわかったんですか?」

 声が硬い。体も強張っているみたいだ。

「落ち込んでるように見えたからな。なんとなくだけど」
「すごい観察眼ですね」
「楓限定でな」

 サラサラの髪の毛に手ぐしを通す。
 毛流れに沿って撫でていると、徐々に楓の体から力が抜けていくのがわかった。

「……別に、大したことではありません。嫌なことを言われたときの夢を少し見ただけです」

 それ以上の追求を拒むような、端的な口調だった。
 心配だけど、多分今は追求するときじゃないな。

「そうか。まあ、何か吐き出したくなったら言ってくれ」
「……どうして」

 楓がポツリとつぶやいた。

「おっ?」
「どうして、悠真君はそんなにも私が望んだ通りの対応をしてくれるのですか……?」

 その声はわずかに震えていた。

「ただ常に楓のことを観察して、どうしてほしいのか考えてるだけなんだけどな。結構当たってたりするのか?」
「ほとんどドンピシャですよ……私が落ち込んでるときは特に」
「ならよかった」

 楓の体の向きを反転させ、正面から抱きしめる。

「これからも楓が望む答えを出し続けられるかはわかんねえけど、ちゃんと見てるからな。頑張り屋さんなところも、ちょっと人見知りではあるけど本当は人と話すのが好きなとこも」
「はいっ……」
「あとエッチなことが好きなのも、そのくせ普通の恋人っぽいことだとすぐに恥ずかしがるとこも」
「ゆ、悠真君⁉︎」
「——甘えたいけど不安で自分からは甘えられないとこもな」
「っ……!」

 楓は目を見開いて固まった。
 頬を緩めて、その頭にポンッと手を乗せる。

「三回目だけど、大事なことだからもう一回言っておくぞ。俺は楓が思っている以上に楓のことが好きだ。ぶっちゃけて言うと、もっと甘えてほしいって思ってる。彼女から甘えられるほど男にとって嬉しいことはねえからな。だから、来たいならもっと来ていいぞ、というか来てくれ。難しいだろうけど」

 楓の瞳から、ポロッと涙がこぼれ落ちた。
 後頭部に手を回した。肩に顔を押し当てさせる。
 しゃくりあげる楓に冗談めかした口調で、

「今の俺、観察眼鋭いか?」
「鋭すぎるから、泣いちゃったじゃないですかっ……!」
「はは、それは悪いな」

 笑いながら頭を撫でた。とうとう抑えきれなくなったのか、大きな声で泣き出した。
 数分して泣き止んだあとも、楓は肩から胸に場所を移しただけで顔を上げなかった。

「……悠真君」
「ん?」
「早速、わがままを言ってもいいですか?」
「おう。なんだ?」
「もう少しだけ……ウチにいてくれませんか?」
「よし、夕食はピザでも取るか」
「えっ? あ、あのっ、そこまではしていただかなくても——」
「いや、もう決めた。母さんもこの決定を支持してくれるはずだ」

 簡単に経過を話すと、「二時間は帰ってくるな」というありがたい言葉をいただいた。
 続けて「確かご両親ほとんど家にいないんでしょ? もし彼女さんがいいって言うなら泊まってもいいわよ。そういうときは寝るのも不安になっちゃうかもしれないもの。あっ、避妊だけは忘れないでね」という文面が、最後にニヤリと笑っている顔文字付きで送られてきた。

 ……うん、これは想像以上だった。
 つーかこの感じ、母さんもう俺らがやることやってんの知ってんのか? 少なくとも勘付いてはいるのか。母親って怖えな。

「お母さん、なんと言ってましたか?」

 楓がやや不安そうに尋ねてきた。

「二時間は帰って来んなって言われた」
「そ、それはまた……」

 楓が曖昧に笑った。若干引きつっていた。

「あとさ、楓」
「はい」
「その、今日は親御さん帰ってくるのか?」
「いえ、帰ってこないと思います」

 楓の表情には失望、そして期待の色があった。
 後者はそれこそ俺の期待通りであってくれよ。

「だったらさ、泊まってもいいか?」
「悠真君が、ウチにですか?」

 たどたどしく問い返してきた。楓の表情にははっきりと期待の色が浮かんでいた。
 やべぇ、めっちゃ嬉しいなこれ。口元がニヤけてしまった。

「そう。楓が望むなら、だけど」
「ぜ、ぜひ泊まっていってくださいっ!」

 楓が勢いよく俺の手を握りしめてきた。

「あっ……」

 自分が子供のようにはしゃいでしまったのが恥ずかしかったんだろうな。
 楓はふと我に返って耳まで真っ赤になっている。

 ——こうして、急遽お泊まりが決定した。



 夕食後にソファーで携帯を見ていると、楓が近寄ってきた。

「どうした?」
「い、いえ、その……」

 もじもじと逡巡しゅんじゅんする様子をみせた後、ためらいがちに自ら体を預けてきた。
 足の間に後ろ向きですっぽりと収まっている。

「……悠真君とくっついていると、落ち着きます」
「お望みならもっとくっつくけど?」

 俺は「揶揄わないでくださいっ」と赤面する反応を予想していた。
 楓は振り返り、頬を染めてはにかみながら、

「じゃ、じゃあ、お願いします」
「っ……!」

 ……おっふ。

「悠真君?」
「えっ? お、おう。お望みのままに」

 想定外プラス可愛すぎのダブルパンチで悶絶してしまった。
 お腹に手を回して抱きしめると、楓はくすぐったそうに笑った。

 くっついたまま他愛もない雑談をしたりアニメを見ていると、いつの間にか時間が経っていた。

「もうそろ日付超えるし、ぼちぼち寝るか」
「そうですね」
「確か布団は結構余ってるんだよな? どこにあるか教えてもらえるか?」

 今さら同衾どうきんがどうこう言うつもりはないが、普通に別々で寝るつもりだった。
 楓は何も答えなかった。

「楓?」
「……しょに寝たいです」
「えっ?」
「だからっ、その……い、一緒に寝たいです!」

 楓が顔を真っ赤にして叫んだ。
 予想だにしていない言葉だったので、俺は呆然としてしまった。
 楓はネガティヴなものと受け取ってしまったようだ。自責と後悔の念を浮かべて、

「あっ、す、すみません。甘えていいって言われたからって私、調子に——」
「あぁ、違う違う!」

 我に返り、慌てて楓のネガティヴ思考を断ち切った。

「予想してなかったから驚いただけだ。楓がいいなら一緒に寝ようぜ」
「大丈夫ですか? 無理してないですか?」
「んなわけねえじゃん。お邪魔してる身だから遠慮してただけで、一緒に寝れるなら寝てえよ」
「そうですか……」

 本心であることはしっかり伝わったみたいだ。
 楓は顔を赤らめつつも嬉しそうに笑った。噛みしめるような口調だった。

「じゃあ、寝るか?」
「はいっ」

 俺の分の枕と掛け布団を引っ張り出して、二人で楓のベッドに横になる。
 ダブルベッドなので、二人で寝ても余裕があった。
 
 これまで何度も体を重ね合わせている。一緒にベッドの上にいるのは慣れているはずだ。
 しかし、どこか気恥ずかしさがあった。
 楓も同じだったようだ。顔を見合わせて笑い合った。

 それで緊張がほぐれたのだろう。
 俺たちはいつものペースを取り戻した。常夜灯の元で先程までの雑談の続きをした。

 しかし、時間が時間だけに眠気はすぐにやってきた。
 楓もうつらうつらし始めていた。

「そろそろ寝るか?」
「そうですね……」

 楓は胸の前で手を不自然にヒクヒク動かした後、不意にこちらに手を伸ばしてきた。俺の指先をちょんと摘んだ。

「どうした?」
「こうしていると安心します……いいですか?」
「もちろん。なんならもっとくるか?」

 布団を広げてみせる。
 楓は逡巡する様子を見せた後、おずおずと体を潜り込ませてきた。

 腹のあたりでモゾモゾと動く。
 程なくしてフィットする場所を見つけたようだ。俺の腕を枕がわりにして、満足げにふふ、と笑った。

「枕と掛け布団、一つでよかったな」
「そうですね」

 楓がクスクス笑った。
 彼女の背中と俺のお腹や胸がくっついているため、振動は伝わってくるが肝心の顔が見えない。

「こっちは向いてくれねえのか?」
「む、無理ですっ」

 楓が叫ぶように言った。どうやら相応に羞恥を覚えていたらしい。
 交わるときは普通に向かい合って抱き合ってるけど、それとはまた別なんだろうな。
 俺もなんとなくこそばゆいし、気持ちはわかる気がする。

「……ありがとうございます」

 楓がポツリとつぶやいた。

「実はまた悪夢を見てしまわないか少し不安だったんですけど、悠真君のおかげでリラックスできました」
「いい夢見れそうか?」
「はいっ」
「そっか。よかった」

 顔は見えていなくても、楓が微笑んだのが気配だけでわかった。
 彼女の細い腕がリモコンに伸びた。常夜灯が消えた。

「おやすみ、楓」
「おやすみなさい、悠真君」

 楓の声は本当に幸せそうだった。
 俺は過去最高潮に気分よく眠りにつくことができた。

 彼女の寝相が悪くて夜中に腹を蹴られて起きたこと、朝勃ちがバレて午前中から激しい運動をすることになったのはご愛嬌というやつだろう。
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