「あんたみたいな雑魚が彼氏で恥ずかしい」と振られましたが、才色兼備な彼女ができて魔法師としても覚醒したので生活は順調です〜ヨリ?戻せないよ〜

桜 偉村

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第一章

第40話 ジェームズ、父に叱られる

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 ノアを襲撃した日の夜、ジェームズは自室でノアとシャーロットの今後を自分の都合の良いように解釈して、あくどい笑みを浮かべていた。

「ククッ、今頃はシャーロットがノアに別れを告げているかもしれんな。いや、もう別れた後か。自分のせいでノアが襲われたとなれば耐えられないだろうし、そもそも人間主義者にも勝てない雑魚など見限るだろう」

 そうなれば、やはり強さを求めてジェームズに言い寄ってくるかもしれない。
 そうしたら、みっちり調教して首輪でもつけてやろう——。

 そんな事を考えていると、扉がノックされた。
 父のムハンマドからの呼び出しだった。

 ノア襲撃に関する話だろう。
 勝手な行動をとった事について軽く注意されるくらいだろうと、ジェームズはタカを括っていた。
 自分が失態を犯したとは思っていなかったからだ。

 部屋に入った時のムハンマドの表情が厳しくても、思ったよりは怒ってんなこいつ、くらいにしか思わなかった。
 
「ジェームズ。人間主義者を雇ってノアを襲撃したそうだな」
「はい」

 ムハンマドの静かな問いかけに、ジェームズは悪びれもせずに頷いた。

「その結果、どうなった?」
「雇った人間主義者を処分せざるを得なかったのは失態ですが、それも数名ですので損害は大きくありません。結果としてシャーロットにはプレッシャーを与えられたので、首尾としては悪くなかったと思います」
「シャーロットにプレッシャーを与えてどうするつもりだ?」
「自分のせいでノアに被害が及ぶ事となれば、シャーロットは彼から離れるでしょう。そうすれば、やっぱり俺と婚約しようと翻意ほんいする可能性が——」
「——馬鹿者!」

 ムハンマドが耐えかねたように怒鳴り声を上げた。
 鬼の形相で睨みつけてくる父を前に、ジェームズは縮こまってしまった。

「お前は魔法の才はあるから、多少の愚行は見逃していたが……今回ばかりは度を超えている! ノアとシャーロットを引き離せば自分にもまだチャンスがある? 思い上がるのも大概にしろ!」
「なっ……!」

(思い上がりだと? ふざけるな……!)

 ジェームズは反論しようとしたが、怒髪を立てている父を前にすると、言葉が出なかった。
 その間にも、説教は続く。

「テイラー家が、わざわざシャーロット嬢に意中の相手がいるとまで伝えてきたのは、今後とも彼女を嫁がせる気はないという意思表明だ。そんな中でその意中の相手であるノアが襲われ、現場にお前がいた。テイラー家の不審を買うには十分すぎる!」
「し、しかし、俺は自分が犯人であるという明白な証拠は残していませんが」
「馬鹿者! 証拠など残していたら勘当ものだ! 証拠はなくとも、テイラー家に警戒心を抱かせた。それだけでお前の罪は重い!」
「なぜですか? テイラー家は実力もなく、策謀に頼るしかない弱腰集団ではないですか。そんな奴らに多少警戒されようと、そこまで不都合はないはずです」

 糾弾きゅうだんされて苛立っていたが故の過激な発言という側面もあったが、ジェームズは自身の言葉通り、テイラー家を見下していた。
 だからこそ、シャーロットに縁談を断られた事も許せなかったのだ。

 ムハンマドはハァ、と呆れたようにため息を吐いた。

「お前はこれまで何を学んできたのだ。実力だけでこの社会を生きていけると思ったら、大間違いだ。実力主義だからこそ、それ以外との繋がりも重要なのだ。そもそも、ある程度の頭があってこそ、実力主義は成立する。お前にはその根底の、頭の部分が圧倒的に足りていないようだな」
「なっ……!」
「それに貴様、人間主義者数名を処分しただけだから損害は大きくない、と抜かしたな?」
「えぇ、確か損害は七名だけでした。このくらいの数なら許容範囲でしょう」

 ジェームズは鼻を鳴らした。
 少しでも、父に対抗するために。

「何人だったのかは問題ではないっ、私は未来の話をしているのだ!」

 ムハンマドは力任せに机を叩いた。
 それにビクッと体を震わせたジェームズは、自分が怯えたわけではないとアピールするように胸を張り、余裕の笑みを口元に張り付けた。
 引きっていたが、彼にその自覚はなかった。

「人の死は目立つ。詳細までは伝わらずとも、お前に雇われた者たちが全員死亡したという噂は広まるだろう。そんな奴に、今後とも協力したいと願う者がいると思うか?」
「うっ……」

 ジェームズは言葉を詰まらせた。
 ムハンマドの言う事が正しいと理解していたからだ。
 しかし、それを素直に認めるには、ジェームズの心は未熟すぎだ。

「で、ですがっ、所詮は魔法も使えない奴らです! そんな奴らに牙を剥かれたところで、我がブラウン家に何の問題がありましょうか」

 必死に自分を正当化しようとするジェームズに対し、ムハンマドは再びため息を吐いた。

「はあ……貴様は社会というものをまるで理解していないようだな。人間主義者は立派な一大勢力だ。情報も影響力もある程度は持っている。味方にしておけばそれだけで利になるし、敵になれば厄介だ。そんな事も理解できんようでは、到底私の後など継がせられんな」
「なっ……⁉︎」

(俺が、次期当主としてふさわしくないって言いてえのかっ?)

 ジェームズは憤怒ふんどの表情で父を睨みつけたが、

「反論があるなら聞こう」

 冷たい瞳で一瞥されて、目を逸らしてしまった。

「っ……ありません」

 血が滲むほど拳を握りしめながら、ジェームズは首を横に振った。

「次期当主の座の筆頭はお前だが、それはあくまで魔法に秀でているからだ。お前でなければならない理由もない。ついては、スミス家の長女と関係を修復しろ。それさえもできなければ、お前に我が家の跡を継ぐ権利はない。いいな?」
「……わかりました」

 やっとの事でそれだけ答えて、ジェームズは退室した。


◇   ◇   ◇



「クソが、クソがぁ!」

 ジェームズは修練場で、込み上げてくる怒りに合わせて魔法を放ち続けた。
 父に己の未熟さを指摘され、馬鹿にされて、彼のプライドはズタズタに引き裂かれていた。

 それでも、次期当主の座を剥奪されるかもしれないという恐怖が、彼を正気に戻した。
 もっとも、自分の非を認める事はなかったが。

「ハッ、テイラー家や人間主義者の顔色をうかがわなきゃなんねーなんてくだらねーな。実力主義の根底には頭脳が必要なんてのは、実力が足りてねーあのクソ親父の言い訳だ。マジでだせえな、あいつ」

 ジェームズは、父が周囲との関係を気にするのは実力不足によるものだと決めつけた。

「けど、今は仮にもあいつが当主だからな。ある程度は従わなきゃならねえ。馬鹿馬鹿しいが、当主の座を奪うまでは仕方ねーな」

 自分が当主になったら好き放題できるのだから、それまでは少し我慢するしかない——。
 ジェームズはそう自分に言い聞かせた。

「アローラと復縁しなきゃいけねーのは面倒くせえが、結果的にはこれで良かったのかもしんねーな。実家を干されているシャーロットがどんな爆弾を抱えているのかわかんねーし、そもそもあいつは体も貧相で、趣味も読書の陰キャだ」

 ジェームズは自分のプライドを守るため、シャーロットをこき下ろした。

「その点、アローラは面倒くせえ女だが、体と見目だけはいいし、シャーロットほど陰気くさくもねえ。それに、あいつは最近覚醒したばかりだ。今はシャーロットより下でも、将来性はアローラの方がある。実力主義にのっとっても、あいつの方が俺の女に相応しいな」

 アローラと復縁するメリットを並べ立てる事で、ジェームズは落ち着く事ができた。
 そして、アローラと喧嘩別れした時の事を思い返す。

『何でもっと私に合わせてくれないの⁉︎』

 彼女はそんな事を言っていた。

「しゃーねーな。家柄はともかく、あそこまで実力と容姿と体を兼ね備えた女はそうそういねえ。ちょっとだけ優しくしてやるか。そうすれば確実に惚れ直すだろうし、すぐに体も許すだろう」
 
 アローらの豊満な体を好きにできると思うと、ジェームズはたかぶりを抑えられなかった。
 自らのそれを扱く。

 最初はアローラとの行為を想像していたが、最後に思い浮かべていたのは、ノアの前でシャーロットをめちゃくちゃにしている自分の姿だった。
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