先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第九章

第252話 志保と武岡

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青山あおやま先輩が、武岡たけおか先輩の幼馴染……⁉︎」

 香奈かながルビーのような深い赤色の瞳を大きく見開いた。
 間違っていたら申し訳ないんですが、青山先輩は武岡先輩の幼馴染ですか——。それが、たくみの問いだった。

「そういえば、ちょくちょく言い寄ってきてた女がいたな」

 まことは興味がなさそうにつぶやき、軽く肩をすくめた。武岡の幼馴染という情報で、志保しほのことを思い出したようだ。
 あれだけ熱狂的に応援されているにも関わらず、現在のリーダーですら把握していないのだ。親衛隊というものにそもそも興味がないのだろう。

 冬美ふゆみは衝撃を受けている香奈を横目で見て、眉を寄せた。
 彼女と香奈のリアクションの違いは、武岡への好感度というよりは、彼の幼馴染というキーワードに対する知識の差によるものだろう。

 武岡は巧たちが入部するころにはやさぐれて始めてたが、それでもまだ三軍のキャプテンに任命されても文句は出ない程度だった。
 だが、香奈が入部したこと——というより彼女が武岡に一切振り向かずに巧に夢中になっていたこと——で彼の負の心は増大し、最終的には香奈に強引に迫ってキャプテン資格の剥奪はくだつと部活動停止処分を喰らうまで至った。

 しかし、彼が転落人生を歩み始めたのには明確なきっかけがあった。
 幼馴染で恋人だった女に振られたのだ。それが志保だった。

 それも、志保はただ振っただけではない。「彼氏が三軍とか恥ずかしいし、真君のほうが格好いい」という、男としてのプライドをいたく傷つける刃のような言葉を残した。
 真がスターダムを駆け上がっていくのを尻目に三軍でくすぶっていた高校一年生の武岡にとっては、相当ショックだったに違いない。

 そんな大きな事件があったからこそ歪んでしまったし、反対に明確なきっかけがあったからこそ、再び明るい道を歩み始めることに成功したとも言えるだろう。
 横暴な性格なのは元々だが、今の彼は誰よりもサッカーに打ち込んでいる。

「武岡先輩は前に青山先輩との関係を聞いてきましたけど、あのときから何かあると疑っていたんですか?」

 巧が問いかけると、武岡は眉間にシワを寄せたまま、軽く舌打ちをするように答えた。

西宮にしみやを推しているあいつが、お前と仲良くするはずがねえと思ってたからな。逆に、お前はいつから気づいていた? 志保が俺の幼馴染だって」
「関係を聞かれたときから薄々は。香奈を含めほとんどの女子を苗字で呼ぶようになった中、青山先輩のことは名前で呼んでいましたし、お話は伺っていましたから」
「……チッ、つくづく気に食わねーやろうだ」

 武岡が鼻を鳴らし、キツく眉を寄せた。
 巧は肩をすくめて苦笑いを浮かべてから、広川ひろかわ内村うちむらに鋭い眼差しを向けた。

「ところで単刀直入にお聞きしますが、青山先輩からの指示を受けていた証拠はあるんですか?」
「「っ……」」

 広川と内村の喉がごくりと上下した。
 彼らは思わずと言った様子で視線を逸らした。誤魔化そうとしているというよりは、答えるのを拒否しているようだった。

「——おい」
「「っ……!」」

 武岡のドスの利いた地の底から響くような声に、彼らはさらに身を縮こまらせた。
 武岡がその胸ぐらを掴み、一段と低い声で、

「さっさと出せ。轢いただけじゃ飽き足らず、逃げるつもりか?」

 彼らは実際に轢き逃げはしていないが、ニュアンスは伝わったらしい。
 脂汗を額に浮かべ、蒼白になっているその表情には、自責、後悔、羞恥などの様々な感情がないまぜになって浮かんでいた。
 覚悟したように唇を噛みしめ、震える手で携帯を取り出した。

「チャットでやり取りはしてねえのか?」
「し、してることにはしてるが……あいつは慎重で、メッセージではバレねえように普通の会話に別の意味を持たせてるんだ」

 二人の携帯に表示されているトークルームにはそれぞれ「志保」という名前が表示されていた。
 彼らの言う通り、メッセージは何気ないやりとりのみだった。

 最後は広川とのチャットでは映画、内村とのチャットでは本の感想を尋ねてきている。
 気に入ったかそうでないかの返事が、巧襲撃の成功の可否を知らせる合図になっていたそうだ。

 巧は内村に携帯を返した。同時に武岡も広川に突き返して、

「確かにこれだけじゃ証拠にはならねえな。でも、他にもあんだろ?」
「あ、あぁ。実際に会ったときの録音ならある。映像はねえけど、声だけでも十分な証拠にはなる……と思う。これだ——」
「待ちなさいっ!」

 再生ボタンを押そうとした広川を、冬美が慌てたように制した。広川と内村の肩が大きく跳ねた。
 冬美は視線を少し伏せ、巧の様子をそっと伺うように見た。その意図は明白だった。

 相変わらず優しいな——。
 巧は口元に微笑をたたえながら、緩やかに首を振った。

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 きゅっと腕が引かれた。
 香奈が指先で服の袖を握りしめ、不安げな瞳で巧を見上げていた。硬い声で、

「巧先輩。無理、してないですか?」
「うん、大丈夫だよ」

 巧が柔らかくも力強い口調で答えると、香奈はようやく安心したように肩の力を抜いた。
 小さな手を伸ばして巧のそれを包み込み、上目遣いで小さく微笑んだ。

 私が付いてますから——。
 そんな声が聞こえてくるようだった。

 巧は感謝の念を込めるように握り返してから、表情を引きしめた。

「それじゃあ流してください」
「あ、あぁ」

 巧に促され、広川は判決が下されるのを待っている犯罪者のような青白い顔で、指先を震わせながら再生ボタンを押した。
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