先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第十一章

第299話 応援

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 決戦の朝。
 洛王らくおう高校との選手権決勝を控え、咲麗しょうれいイレブンはホテルのラウンジで軽く食事をとりながら、試合への準備を整えていた。
  
 外は快晴。空の青さは、彼らの熱く燃える闘志を映し出しているようだった。

「ん……」

 テーブルに置いた携帯が軽く震えた。
 たくみが手に取り、画面を確認すると、三葉みわからのメッセージが届いていた。

 ——お前たちならやれる。試合が終わったら感想を聞かせてもらうつもりだから、勝ってこいよ。

 巧は思わず微笑んだ。どこまでも冷静で理知的な「らしい」メッセージに、彼なりの期待と応援が込められていることが伝わってきた。
 文面の最後には、白雪しらゆきにもよろしく、と書かれていた。

香奈かな、これ——」
「巧先輩、これ——」

 二人は同時に携帯を差し出した。

「「えっ?」」

 同時に顔を見合わせ、同時に吹き出す。

「もしかして、愛沢あいざわ先輩から?」
「はい。そっちは三葉先輩ですか?」
「そ」

 携帯を交換する。
 ——決勝戦、頑張れ! みんな応援してるから、絶対に最後まで諦めないこと! 如月きさらぎ君にもよろしくー。

 玲子れいこのメッセージには、うおおおお、と燃えている黒猫のスタンプも添えられていた。
 その明るく力強い言葉に、じんわりと胸が温かくなる。

「一週間後には共通テストで忙しいはずなのに、こうやって応援してくれるんですね」

 小さく息を吐き、香奈がふっと頬を緩めた。

「うん……なんか、グッときちゃった」
「私もです——って、巧先輩」
「ん?」
「他の応援メッセージ、女の子からばっかじゃないですか」

 香奈が巧の携帯から目を離し、じっとりとした目線を向けてきた。
 巧は苦笑しつつ、

「その下見てよ。ちゃんと男子からも来てるから」
「見ていいんですか?」
「もう見ちゃってる香奈がそれを言う?」
「うっ……すみません。つい癖で画面戻っちゃって」

 香奈がしゅんとうつむいた。見えないはずの耳が垂れ下がっている。
 巧はポンポンとその頭を撫でて、

「冗談だよ。別に見られても困るものなんてないし」
「じゃ、じゃあ、失礼して……本当だ。というか、たくさん来てますね」
「香奈も来てるでしょ」

 巧は机に置いた香奈の携帯に視線を向けた。

「まあ、みんな送ってくれてますけど、多分巧先輩ほどじゃないですよ。このさとるさんって、クラスの人ですよね?」
「そう。あの明るいやつ」
「はい、わかります……あっ、また女の子から来てる。あやさんもクラスメイトで……小春こはるさんって、あのおっぱい星人先輩ですよね?」
「非常に良くない言い方だけど、多分そうなんじゃない?」

 巧は返事を濁した。
 小春にも失礼だし、なんとなく香奈の前で、他の女の子——それも、一度告白を受けている子だ——を巨乳認定するのは躊躇われた。

「私の知らない人たちの中には、中学の人とかもいるんですか?」
「うん。このグループとかはまさにそうだね」
「すごいですねぇ……」

 香奈は感慨深そうにつぶやいた後、巧に携帯を返した。

「すみません、勝手に見ちゃって。お詫びに私のも見ていいですよ?」
「いや、やめておくよ。男の子からのメッセージなんて見たら、ブロ削しちゃうかもしれないし」
「あっ、その手があったか!」
「こらこら」

 サッと伸ばしてきた香奈の手を、巧はそっと制した。
 もちろん、彼女とて本気ではない。
 笑みを交わしあい、それぞれが返信作業に戻る。

 ——ブルルッ。
 巧の携帯が連続して震えた。

「……?」

 ふと、差出人を確認した瞬間、巧は思わず目を見開いた。

小太郎こたろう……正樹まさき……)

 そこには、かつて巧にいじめを行なっていた二人の名前があった。

 ——こんなこと言う権利はねえってのはわかってるけど……頑張れ。嫌だったらブロ削でもなんでもしてくれ。
 ——試合、見てるぜ。マジですげえんだな。決勝も頑張れよ。返事はいいし、俺なんかに応援されたくもないだろうけど、一応言わせてくれ。

 まこと親衛隊の元リーダーに脅され、彼女らに加担していた小太郎と正樹。
 悪口の書かれた紙が机に入れられていたり、ソックスやユニフォームを切り裂かれたり——そんな苦しい過去を思い出す名前だった。

 けれど、巧はそっと微笑んだ。
 しっかりと更生し、罪を悔いながらも、なおこうして自分にエールを送ってくれる二人。その想いを素直に嬉しく思った。

 先に一段落した香奈が、ポチポチと画面を操作する巧を見て、「みんな、すごく巧先輩のこと応援してくれてますね」と微笑んだ。  

「うん……そうだね」

 大切な仲間とともに戦う、この決勝の舞台に立てること。
 そして、こんなにも多くの人に支えられていること——そのことを改めて実感していた。

 そんなとき、近くに座っていた大介だいすけが、同じように携帯を見つめながら穏やかな表情を浮かべていた。
 すると、その瞳が見開かれ、ついで口角が上がった。

花梨かりんさんから?」

 巧が無邪気に尋ねると、大介は目を丸くした後、「むっ、よくわかったな」と笑みをこぼした。

「多分、誰でもわかるよ」

 巧は苦笑してみせた。隣で香奈もうんうんとうなずいている。
 大介は照れたように頬を掻いた。

「表情に出ていたか?」
「うん、めっちゃ出てた。撮ってあげよっか?」

 巧は携帯を構えた。

「いや、遠慮しておこう。恥ずかしいからな。ガハハハハ!」

 大介は豪快に笑った。
 その笑い声につられるように、巧も香奈も笑みをこぼす。

「気合い十分だね」
「もちろんだ。勝たねばならない理由が二つも三つもあるからな」

 ニヤリと笑う大介に、巧はちらりと香奈を見る。
 彼女もそれを察したように、頬を染めつつも、優しく微笑んだ。

 応援してくれる家族や友達のために。
 大切な仲間と、大好きなサッカーで優勝を勝ち取るために。
 ——そして、好きな女の子の前で、いい格好をするために。

 胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

「最終ライン、頼んだよ!」
「うむ! 頼むぞ監督!」

 二人はニヤリと笑い合い、拳をぶつけ合った。
 他の選手たちも談笑したり、携帯を眺めたりと、リラックスした様子を見せていた。

 その中で、巧の視界にふと、みんなから少し離れたところで柱に寄りかかるまことの姿が映った。
 馴れ合いとは無縁の彼が一人でいるのは何も珍しいことではなかったが、携帯を操作している姿は少し新鮮だった。
 ——わずかに微笑んでいるのなら、なおさら。おそらく無意識だろう。

から、メッセージでも来てるんだろうか)

 そうだったらいいな、と巧は思った。
 どんな形であれ、彼らが真の友人であったことに、変わりはないのだから。
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