最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第1話 闘神が人の街に下りた

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 一人の魔族が空を飛んでいた。

 服装は黒いコートを羽織っている。
 魔族が高速で飛行しているから、コートは風でたなびいていた。

 この世界で、魔族たちから〝闘神〟と呼ばれるほどに強くなった一人の魔族がいた。今、空を飛んでいる魔族だ。
 この世界の魔族は成長・進化して上位種になると知能を得る。
 魔族は生まれつきの強い闘争欲求のため、生涯絶えず強いものと戦い続けた。魔族が老衰で死ねることはない。年を取って自らの力が衰えたら、下からい上がってきた魔族に喰われて終わりだった。

 そんな中で、この魔族は他の魔族を引き付けない程に強かった。

 闘神も他の魔族たちと同じ様に、その生涯を通してただひたすらに戦い続けてきたが、知能を得ると同時に退屈を覚えるようになっていた。
 これまでのように戦っても何か満たされないのだ。

 そして人の国を訪れたくなった。

 なぜなら、人は生を受けてわずか数十年で、魔族が数千年掛けて到達するほどの知力レベルに達し、道具を作り、巨大な建物を建設し、法によって自らを律した秩序だった生活をしていく、というのは興味深かった。
 寿命は短く弱いが〝知能が高い生き物〟ということに興味を惹かれたのだ。

 闘神は人の国を訪れてみることにした。

〝知能が高い人という生き物は、俺を見てどういう反応をするだろう?逃げ出すのだろうか?〟
 
 空を飛んで人の国へ近づく。
 広い荒野の先に人の国はあった。
 人の国は、城壁のようなもので遠くまで囲まれていたが、その城壁の一部に門を見つけることが出来た。その門の前に、下りてみることにした。

 最初、国の警護をしているらしい五人は、こちらを見るなり戦おうとした。
 棒のようなものを闘神に向けている。そして戦闘体勢をとりながら、何か喋りかけてきた。
 闘神はもちろん言葉は分からない。が、その動作をジッと見ることにした。

 しかし、ちょうどその時だった。
 強い魔力を持った獣がこちらへ向かってくるのを感じた。

 この魔力の性質は、過去に戦った経験から、おそらくグリフォンに属する獣だと推測した。
 グリフォンは上半身にワシ、下半身はライオンといった形状をしており、その大きさには個体差があった。ただ、小さい個体でも縦横で五メートルの大きさはあるのが普通だった。

 グリフォンが、人の国でどのように扱われているのかは分からない。
 ただ、グリフォンからすると、おそらく自分の縄張りに魔族が侵入したのが気に入らないのだろうと思った。

 獣も魔族と同じように、魔力を感知することができる。そして自分が相手より強いか弱いかは すぐに察知することができる。相手の方が強いと判断していれば、もちろん戦いは挑まないだろう。

 だが、この時、闘神は自らの魔力の気配を完全に隠していた。
 グリフォンから見ると〝闘神〟は魔族の下位種に過ぎないものにしか見えなかったはずだ。
 グリフォンがこちらへ物凄い速度で向かっている。

 門番の五人の人間も、肉眼でグリフォンを判別できるような距離になって気づいたようだ。
〝闘神〟を見た時以上に慌てている。そして伝令役としてだろうか、警護していたうちの一人が急いで門を開いて街の中へ走っていく。
 残された兵士達は槍を構えている。おそらく闘神とグリフォンの両方に対して槍を向けているのだろう。足を見るとガクガクと震えている者もいる。

 グリフォンのあの巨躯とあの速度でここまで突っ込むとなると、この辺り一帯吹き飛ぶかもしれない。

〝あんな速度で人の街へ突っ込んだら人が死ぬ。人を観察しに来たのに、ここでグリフォンに荒らされるのは困る〟
 そう思った。

 魔力は使えない。
 使うことはできるが、おそらく人が死ぬ。〝闘神〟の戦うための魔力放出に耐えられるような人はいない。わずかに触れるだけで皮膚は溶けてしまう。加えて、この辺の動植物も死ぬし、土地も痩せてしまう。

 それに、闘神には〝他にも〟魔力を使いたくない理由があった。

〝しょうがない、魔力を使わず、この周辺を傷つけないようにあれを潰すか〟

 少しだけ片足に力を入れる。五百メートル程だろうか前へ飛んで、そこでもう一度地面を強く蹴って、グリフォンへ突入する。五百メートル移動したのは、それをしないでいきなりグリフォンへ飛ぶと、槍を構えた兵士達四人が衝撃波で死ぬかもしれないからだった。

 ――ボン――

 闘神がグリフォンの体を楽々と突き破った。
 そして、グリフォンを突き破ると同時に、少し腕を動かし、今度は急激に自分の加速を止めた。
 肉片になったグリフォンも、闘神も一緒に落下していく。
 落ちながら、もう一度、人の国の入口の方を見てみる。
 槍の兵士たちの一部は驚いて座り込んでいるようだ。
 着地して、もう一度ゆっくり門へ向かって歩いていく。

 中に走りこんだ人間が闘神の存在を伝えたはずだし、それを受けて、人はどういう動きをするのだろうか?

********************
 
 人の国の入口へゆっくりと歩いて近づくと、街の内部から複数の人達がこちらへ向かっているのが見えた。一大事という報告を受けて、街の責任者が来たのだろう。街内部から来た複数の人達は槍を持った衛兵と何か喋っている。

 さて、相手と会話してみようか、と思う。

 魔力の使い方の大半は戦闘に区分されるが、他の使い道もある。
 相手の頭に手を直接触れてから、魔力を流すことで相手との意思疎通を図ることができたりもする。
 ただ、これは魔力を使った意思疎通手段としては、一番魔法技術の低い者が行うことであり、高い魔力コントロールのできる者――闘神なら、離れた距離からでも十分に相手に意思疎通をすることはできる。このレベルの魔力の影響で人が死ぬなら〝それはそれまで〟と思いながら、相手に意思疎通してみる。

「人の世界の様子を見に来た。殺すつもりはないから、お前たちの生活を俺に見せよ」

 人々はギョッとしたような表情をした。

 そんな中人たちの中で、やや身なりの綺麗な老人が返答してきた。

「初めまして。私はオリバ=クロスフルと申す者です。まず、確認させていただきたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

「良い、申せ」

「グリフォン様を倒したのはあなた様なのでしょうか? またグリフォン様とは何かお話をされたのでしょうか?」

「いや、何も話していない。グリフォンが飛んできて、このままだとこの辺一帯に影響が出ると思ったから殺した」

 オリバはポカーンとした表情をしている。
 少し何かを考えていたようだが、しばらくしてこう答えてきた。

「その……大変申し上げにくいことなのですが、グリフォン様と人の世界では取り決めがありまして、グリフォン様へ供物を捧げることで、我々人族は外敵から身を守って頂いていたのです。ですが、現状あなた様がグリフォン様を倒してしまったとなると、これは大変な状況なのです」

「何が大変なんだ?」

「あなた様が倒されたグリフォン様はおそらくまだ若い方で、強さとしてはグリフォン年長者にはとても及びません。グリフォン様の納める領地は広大になります故、人族が住む地域のように、重要でない領地を管理するようなグリフォンは、まだ若年の方が任されるのです。しかし、あなた様がその方を倒してしまったとなると、ここへもっと強力なグリフォンを送り込んで来ることになると思います。また、何かしら人にも罰が与えられるかもしれない状況なのです」

 なるほど、と思う。

 獣族において他種族同士が協力しあうこと、あるいは隷属することはよくある。

 また、獣族だけでなく、魔族の下位種と中位種でも、同じような関係をいくつも見たことがある。それらと同様に人は自らの身体的な弱さを受け入れ、強者に下ることで生き延びているのか。

 とすると人がグリフォンに何を見返りとして与えていたのか気になる。
 ただ、それにしては、グリフォンが人を守っているにしては少し様子がおかしい。突っ込んできたグリフォンは俺だけでなく、街ごと吹き飛ばそうとしていた。人を守っていないように見える。

 人族に質問してみた。
「グリフォンに守ってもらう代わりに、お前たちは奴らに何を与えているのだ?」

「人柱や酒等の物品、魔力の研究資料等になります」
 オリバは少し困ったような表情をしながらそう答えた。一方、こちらはさらに不思議に思ったことがあるので、質問してみた。

「酒はグリフォンには作れまい。お前たちに頼るのは分かる。しかし、人柱の意味が分からぬ。お前たちなど食べたところで、あのレベルの獣にとっては腹の足しにもならないだろう」

「そうなのですが、グリフォン様の納める領地は先ほども話しましたが広大です。その領地の一部に人の肉を好む種がありまして、その食用のために定期的に若い男女の一定数をグリフォン様に献上することになっております」

 そういうことか、と思っていると、かなり遠くの方で、複数の魔力が動き始めたのに気づいた。こちらに対して強い魔力を放っている。殺意、怒気が強烈に混じっているのを感じる。

 話からするとグリフォンの本拠地から、こちらへ〝複数の個体〟が向かっている、ということか。

 グリフォンのような獣族は〝独自の信号〟を使う。これは獣族のみに宿った能力であり、お互いの位置情報や生命の確認を行っている。
 そして、この獣同士の信号を〝魔族は聴くことができない〟
 また、グリフォンの信号はグリフォン同士でしか、理解できなかった。例えばケルベロスでは、グリフォンの信号を受信しても意味は分からない。
 遠くで、こちらへ殺意のある魔力を放っているということは、闘神が倒したグリフォンからの信号が途絶えたことで、何かしらの異変に気付いたのだろう。

「人の世界を観察するにはグリフォンを殺すしかないか」

 そう魔力で伝えると人一同はぎょっとしたような表情をした。

 オリバはとても困惑した表情で話しかけてきた。

「その、あなた様が大変お強いのはここにいる者たちの証言で分かっているのですが、それでもグリフォン年長者と対峙しては敵わないと存じ上げます。もう、ここから離れた方がよいのではないでしょうか? おそらくグリフォン様達は仲間が殺されたことに気付いているはずで、それなりの討伐隊が組まれて来ると思いますが……」

「ああ、既にこちらへ向かってきているな。七体ほどか。先ほど倒した個体の力を〝1〟とすると、一番強い個体の力が〝5〟残りの三体の力が〝2〟さらに残りの三体の力が〝1〟といったところか。」
 一同は一気に青ざめた顔をし始めた。
 オリバの後ろの方にいた連中は〝大変なことになった〟〝どうしたらいい〟とパニックになっている。

 さて、これまでの経緯は体験としては新鮮だ。
 魔族の下位種と違い、極端に強い力を見せつけられてもここにいる兵士等は、ここから我先に逃げようともしないのに驚く。魔族なら好戦的な個体は勝てないと分かっていても、戦いを挑んでくることも多いが、それでも闘神ほどの力を見せつけられれば、流石に逃げ出す。どこか遠くへ逃げて新しく生活しようとするが、人はそれをしない。普通に俺と話をしようとするのにも驚く。

 いや、何かできる程の力もないのか。
 考えてみれば、グリフォンに身を守ってもらうことで安住しているのだから。
 もう今の環境を守るだけで精一杯なのか。移動しようにも下位魔族ほどの移動能力もないわけで、そもそも魔族等の価値観でこいつらを見てもしょうがないのか。
 ただ、知能が高いという点だけはやはり興味深い。全く力が無い代わりに、酒を造り、自分たちの一部を捧げることで生きながらえようと判断しているわけだ。

「おい、今日から俺が人の領地を統べる。お前たちはすぐに全領地にそのことを伝えよ」

 オリバ達は何が何だか分からないといった表情をしている。
「しかし……」

「今からグリフォンを七体狩ってくる。奴らの首をここに持ってきてやろう。それを見て、俺に従うか、今日、俺が人を滅ぼすか選べ」

 そう言い残して、グリフォン達が向かってくる方角に高速で飛んでいくことにした。

 あれらは弱い。

 倒すことなど造作もない。

 グリフォンよりも、むしろ地形を壊さないように戦う事の方が大事だろう。

 いつもの感覚で戦うと大地を壊してしまう。

 ――手加減しなければ――

 そう思って、高速でグリフォンの下へ向かっていく――。
 

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