最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第8話 魔族を騙そうとしたが……

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 キエティはキリとオリバから、通信板マジックフォンで魔族の報告を受けていた。

 キリの声が、通信板マジックフォンから聞こえてくる。

「話をしてみた感じでは、力づくで街を支配しようとしたり、何かを傷つけたりする様子は見られません」

 次にオリバの声が聞こえてくる。

「私との会話でも、こちらが虚偽の説明していた時や、やや非礼的な言葉を掛けてしまったとしてもそれほど気に留めていないように見えます」

 そして、次にまたキリの声が聞こえてきた。

「それに驚いたのが、魔道板マジックタブレットに対して直に魔力で接触して、情報を吸収していることです。通常の私たちが言葉を指定して、単語を検索するのとは違い、魔道板マジックタブレットに組み込まれた魔石に直にアクセスしてそこから情報を吸い上げているのです。このようなことができるのは相当繊細な魔力コントロールが必要なはずで、戦闘に特化しているはずの上位魔族が、このような細かいことができるのに驚きました」

 こちらから気になったことを聞いてみる。

「現在は、その魔族はどうしていますか?」

「現在は最初に滞在した宿に戻って魔道板で辞書を読んでいるようです。与えてある辞書はもちろん重要な機密事項にはアクセスできない、一般的な知識に関する情報しかありません」

 オリバからの返答だった。

「そうですか。ご報告ありがとうございます」

 そう答えて通信板の通信を切った。

 キエティは驚いていた。
 魔族が銀行に行ってみたいなどと言い出すとは思っていなかったし、どこへ行きたいと言い出してもギルドへ連れて行って、そこが目的の場所であると思わせようと画策していた。
 ところが、訪れた魔族は会話の途中では、既にそこが銀行でないと気づいていたにも関わらず、指摘もせず、怒りもしないというのに驚いた。エルフの資料によれば上位種の魔族ですらそんな知能のある行動を取るとは聞いたことが無かったからだ。

 このことが世界にどのような影響を与えるのだろう? と考える。

 このような魔族の上位種が世界にいい意味で協力的であれば、高い魔力コントロールは、極めて緻密・精巧な魔道具を作るのに役に立つかもしれない。あるいは、従来の技術では生成することができなかったような医薬品の開発にも使えるはずだ。
 ただ、一方、悪い点で考えれば、このレベルの知能のある魔族が集まって、世界を支配しようとすれば世界全体の不均衡さに直結する可能性があると思った。

 現在、全ての生物の中で頂点に位置するのは龍族だ。圧倒的な戦闘能力と長い寿命、高い知能を持ち合わせることで世界全体のバランスを取っている。一方で魔族はそうではない。群れることなく、各地に点在して生きている。現在、魔族が何か他種族に害を与えるということはほとんどない。強いものと戦うことに興味がある程度で、他種族を支配し、蹂躙したりとかはしない。

 極まれに獣族の上位種に対して戦いを挑むことはあるようだが、大半の魔族は殺される。
 単体でいくら強いと言っても獣族の連携に勝てるほどの魔族はそうそういない。
 むしろ、この近年厄介なのは獣族の方だ。高い知能を持ち、闘争欲求に自尊心を持ち合わせている。

 獣族の上位種は龍種以外にも複数存在するが、いずれも尊大だ。従来、獣族も長い年月をかけて互いに覇権を争っていたが、三千年ほど前に龍種が世界の頂点に立ってからは、表立って争いを禁止された。ただ、一方で獣族が本来持った有り余る闘争心は、他種族に対して理不尽さを強要することが目立つようになっていた。

 現在、人族は定期的に人族をグリフォンに一定数供物として捧げているが、これは本来する必要が無い行為である。名目上〝他の地域の獣族に対して人の肉を好む連中がいる、そいつらは本来お前たちを生かしておく気がないが、私たちが間に入って仲裁案を提示した〟と言い出したが、要は獣族の方が人族よりは上であり、優越性に浸ってみたく、弱いものを嬲ってみたい、その提案をされて困る人族を見たいだけなのだ。

 一定数の供物として献上される人間の選別には苦労している。以前は犯罪者を供物として献上していたが、それではダメだと言われ、最終的には健康で犯罪歴のない若い人族の男女を一定数提供することになっている。
 小さい子供が悪いことをすると〝そんなことをしていると供物送りにされちまうぞ〟と叱る言葉があったくらいだ。このことは人族の中でも暗い歴史として語り継がれている。

 キエティは今後について考えていた。
 人の首領は、グリフォン達が、あの魔族のしたことの連帯責任として人族に賠償を求め、人口の九割等の供物を強要されるかもしれない、などと言っていたが、キエティはこの可能性は無いと思っていた。
 理由は龍種が世界を統べてからは、龍種は魔力コントロールの研究を極めて重要視しているからだ。この魔力コントロールの研究で、現在、人族は他種族に比べて明らかに貢献しているはずで、このような人族の人口を大きく減らすような罰は龍種が許さないはずだ。

 ただ、それでもグリフォンは今回の事件について人間にもそれなりの賠償を求めるだろう。魔族に脅されていようがいまいが、グリフォンが殺されたこと自体が不名誉なことであるし、おそらく人族だけでなくて、関係のない支配地域の種族でさえ何らかの罰を背負わされるとさえ思う。高い戦闘能力を持ちながら、それでも龍種に及ばないという理由で、龍に仕えるのはグリフォンにとっては屈辱的なことだ。そして、そのはけ口に使われるのがその支配されている他種族なのだ。

 正直、あの魔族がグリフォンを倒したと聞いた時は若干すっきりしたのは事実だった。
 この二千年間人族を献上し続けてきた、そんなシステムを作らざるを得なかった自分たちにも腹が立つし、その理不尽を強要してきた連中が一泡吹かせられた、というのはちょっとすっきりしたのだ。
 あの会議場でドワーフの漏らした感想は大半の人族なら誰しも思うことだ。

 あの魔族は一体何をするつもりなのだろうか?

 オリバの話によると〝自分の領地にするから従え〟と最初に言ったらしいが、行動からすると本気で支配を目論んでいるとは思えない。本気で支配する気ならば、人の国の辺境地ではなく、すぐに首都へ来るはずだろう。
 あの魔族に早い段階で接触して、何かしらの情報を得ておいた方がいい気もするが、しかし、後でエルフ種の代表が、自分からグリフォン殺害犯に接近していたことがグリフォンにバレたら、相応の責任が生じる。自分から会いに行くことはできない。

 次に、グリフォンはどうするつもりなのだろうか?

 最終的に、あの魔族に対して討伐隊を差し向けることにはなるだろうが、現在はとにかく情報収集をしているのだろう。グリフォンにとっても異常事態すぎて、対処に困っているのは想像に容易い。

 キエティは考え続ける。
 夜は更けていくが、キエティの考えは止まらなくなっていった。

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