最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

文字の大きさ
27 / 85

第26話 魔族と一緒に街を歩く その1

しおりを挟む
 昨日は各方面に対して、自分はゼムドとは男女の関係にない、また、ゼムドも私に興味はない、と説明して回ることになった。皆は割と大目に見てくれたようだ。

 ただ、どうやら皆は、私とゼムドが男女の仲にあるように誤解している気がする。
 初日のハイスクールの出来事をマスコミが報じたのが効いているようだ。

 だが、私としてはその手の嫌疑を掛けられてもゼムドに付き添わねばならないだろう。今から新規の案内人を見つけても、ゼムドとの相性が悪く、機嫌を損ねられてしまっては何が起こるか分からない。自分に自信があるわけではないが、確かに人族のためには私が動かざるを得ないはずだ。

 そして、今日はゼムドが街中を見学したいと言い出した。

 大学からはゼムドに各学科を回ってもらいたいという打診が昨日の段階であった。
 ゼムドが大学内で少し研究を弄ると、解決に繋がるわけではないが、ヒントになるようなことも多かった。
 大学、いや、民間も含めた研究機関の競争は厳しい。少しでも有利になるなら鬼の手、悪魔の手でも借りたい、と言うのが本音だろう。

 私も助教授から、魔力コントロール向上の伝授を求められた。
 ゼムドにキスをして舌を舐めてもらえ、と言った。すると、助教授はしばらく悩んでいたが、それを実行しようとした。彼に男色の気はない。が、少しでも研究面で有利に立ちたいのだろう。
 助教授はゼムドに願い出たが、ゼムドはこれを拒否した。〝俺にメリットはない〟で一蹴されたそうだ。
 
 ゼムドが街中へ行きたいと希望しているので、今日はそちらを優先するしかない。そこで、いつものように魔道車でホテルへゼムドを迎えに行き、その後一緒に街へ行くことにした。

 ホテルに到着すると、ゼムドは一瞬で表に出てきた。
 どうも、ゼムドは魔力探査能力が極端に優れているらしく、私が来たことを一瞬で察知できるようだ。もちろん、人族でも魔力探査を行うことは出来るが、ゼムド程に高精度な探査することはできない。何か、あっちの方に魔力っぽいものがあるな~、程度の話だ。
 だが、ゼムドはほぼ正確に誰の魔力か分かるそうだ。まぁ、昨日の実験室の様子からすると、事実なのだと思う。

 そして、今日は目の前に現れたゼムドを車に招き入れる前に、ゼムドにお願いすることにした。

「あの、ゼムド様一つお願いがあります」

「なんだ?」

「ゼムド様のそのお姿は目立ってしまいます。服を着替えて戴きたいのですが、ダメでしょうか? 服を着替えれば人族からはゼムド様だと分かりにくくなります。見学しやすいと思えます」

 一応理由を付けて申し出をしてみた。

「いいだろう。ただ、どういう服にすればいい?」

「こちらにあります」

 そう言って、準備した服をゼムドに渡した。普通の若者が着ているような服だ。ゼムドも若い。着替えればそこら辺にいる若者と同じに見えるはずだ。
 ゼムドは服を上から下まで見ている。
 あれ、ダメなのだろうか? 気に入らないのかな?
 そう思った次の瞬間だった。ゼムドが着ていたコートのような服が全て一瞬で分解して、ゼムドが全裸になった。同時にゼムドはキエティが持ってきた服と同じものを何かの魔法を使って作り出し、それを瞬時に身に纏った。
 キエティは初めて男性の全裸を見てしまった……。
 声が出ない……。思わず両手で目を隠したが、時既に遅しだった。

「これでいいのか? お前の持ってきた服を俺の魔力で再合成した。キエティが持ってきた服ではただの布切れに過ぎないから、防御力が弱い。だから、同じ外見であっても魔力で編んだ服の方がいい。これで問題ないはずだ」

 そうゼムドは言ってきた。が、キエティは答えられない。まだ目を隠している。
 ゼムドがキエティの額をぺちぺちと叩いてきた。

「おい、聞いているのか?」

 キエティに意識が戻る

「……はい。ご立派様でした」

「何を言っている?」

「あっ、いえ、何でもありません」

 そう言って、二人で魔道車に乗って、街へ繰り出していくことにした。
 同時に、裸体を忘れるか、それとも永久保存するか、脳内で闊達な議論をしていく。

 駅前の道路で魔道車から二人で下りた。
 駅には大勢の人がいて、皆が歩き回っている。今日は平日だったが、それでも駅の大通りには人が溢れ返っていた。ここは人の国の首都でも有数の繁華街だ。若いカップルなども沢山歩いている。

 キエティは大学に飛び級していた。エルフ種は寿命が長いが、その代わり子供の期間も長い。周りの友達は皆、遊んでいたが、キエティはある時から勉強をするようになった。
 そして、気づいた時には大学へ飛び級して、重力科の教授になっていた。
 そんな自分の人生が嫌ではなかったが、ただ、自分と同じ年頃の女の子は、こういう所へ来て週末を楽しんでいるんだろうなぁ、と思ってしまう。

 ただ、今日は遊びに来たわけではない、と思い直してゼムドに質問してみることにする。

「今日は、街のどこを見学されたいのですか?」

「人がどういう活動をしているか見たい。また、人族に特有の慣習に興味がある」

「それは食事ですか?」

「いや、そういう生命維持のため行われる行為ではない。合理的に考えれば行う必要がないのに、人が継続的に行っているような活動に興味がある。意味のないこと、無駄なことが見たい」

 キティはそう言われたが、具体的に何を見学させればいいのか分からない。
 キエティが悩んでいると、ゼムドから話しかけてきた。

「街を眺めているだけでいい。何か興味があればお前に聞く」
 そう言ってきた。

 キエティは周囲をキョロキョロ見てみるが、誰もこちらを見てこない。
 ゼムドについては、ここ最近報道されまくっているようだが、まだ誰も気づいていないようだ。これまではどこへ行っても、マスコミがゼムドを報じたせいで、ゼムドだと一目で分かってしまう状況だったが、着替えたのが効いたのだろう。ただ、ゼムドは目を引く外見をしているので、長時間同じ場所にいると、誰だか分かってしまうだろう。なるべくなら、小まめに動き回った方がいいのかもしれない。

 とりあえず二人でブラブラと街を歩いてみる。
 すると一つの店がキエティの目に留まった。ウェディングドレスの販売店だった。ショールームかもしれない。
 ショーウィンドウを見て、思わず声が出る。

「あ、いいな~。私もいつかこんなの着てみたいな~」

 そう言うと、ゼムドがショーウィンドウをチラッと見てから質問してきた。

「それは何だ? 何がいい?」

「これは人族が結婚式に着るための服を売っている場所ですよ」

「それは結婚式のためだけに服を着るということか?」

「そうです。人族は記念的な行事がある時に、服飾を変えるということをよく行いますね」

「では、お前が着てみろ」

「え?」

「お前は今それを着てみたいと言ったではないか。着てみればいい」

「いや、でもゼムド様は街を見学したいのではないのですか?」

「最初に言ったが、俺は人族が必要に差し迫っていないこと、意味のないこと、無駄なことをすることに興味がある。俺からするとこんなものを着ることに意味を感じない。だが、俺は何故、人がそのようなことをするのか知りたい。おまえがこれを着れば何か分かるかもしれない。」

 ゼムドはよく分からないことを言う。
 ただ、確かにウェディングドレスを着ることは食べることに比べれば実用的な点では意味が無い。ゼムドからすると不思議なのだろう。

「分かりました。では、私が着てみます」

 そう言って、キエティは店内に入っていった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

処理中です...