最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第51話 世界の均衡が変わる時 その2

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 グリフォン達が立ち上がると同時に、アザドムドがグリフォンを見下ろして喋りかけた。

「おい、そこの一番大きい鳥、おまえだおまえ、これまでの状況を説明しろ」

 ガルマハザードが怒鳴る。

「グリフォンに対して鳥だと――」

 ――瞬間。ボン、という強烈な炸裂音がした。

 ガルマハザードが一気に弾け飛んだ。
 アザドムドの魔力放出で肉片も残らない程バラバラされて、ガルマハザードは死んだ。

 殺そうと思っている相手の魔核に外部から魔力を送り込んで、強制的に魔核を暴走させて殺す方法は圧倒的な魔力差がないとできない。しかも、この方法は普通魔力を口から強制的に押し込む。本来、力の源であるはずの魔力は獣にとっても栄養素なわけで、注ぎ込まれた魔力は自らの魔核に余裕があれば吸収できるが、吸収しきれなければ体が破裂する。力の差を強烈に見せつけられる最も屈辱的な殺し方の一つだ。

 アザドムドは涼しい顔をして話を始めた。

「鳥ども。よく聞け。俺の嫌いなことを教えてやろう。俺が下位種を見ること、下位種と会話すること、下位種に触れること、下位種を殺すこと。俺は弱い者が嫌いなのだ」

 そう言いながら、アザドムドはニコニコして天を仰ぎながら、両手を上げる。
 何かを抱き留めようとする姿に見えるが、その表情や動作に対して喋っている内容は滅茶苦茶だ。

「そんな俺が、何万年ぶりに最下位の下位種に質問をたまわしたのだ。光栄なことだぞ。お前たちの種が未来永劫語り継ぐ程の価値のあることだ。そして、もう一度お前たちに幸福を与えてやろう」

 アザドムドは再び、グリフォン達を見下ろした。

「そこの鳥」

 そう言って、アザドムドはシェルドミルを指指さす。

「何があったのか、俺に敬意をもって説明していいぞ。もちろんお前が言い間違えてしまうこともあるだろう。チャンスは二度だ」

 そう言ってアザドムドが二本の指を立てて見せる。アザドムドの顔には血管のような模様が浮かび上がり、爬虫類と肉食獣を混ぜたような雰囲気を醸し出す。

 「お前が一度目に言い間違えれば、お前以外の鳥をこの世からすべて消す。二度目のチャンスの失敗で、お前も消える。さあ、答えろ」

 これほどの屈辱は無いほどの侮辱をされたが、シェルドミルはこれには素直に答えざるを得ないと思った。

 この魔族はおそらくかなり強い。

 その証拠にあの異常個体に全く臆せず話しかけている。もし、この魔族の機嫌を損ねたら都市を攻撃される可能性がある。

 ……。

 あれだけ気性の荒いグリフォン兵達が、ガルマハザードが一瞬で消し飛んだのを見て、黙り込んでしまっている。流石に末端兵でも、ここで騒ぐほど愚かではないか……。現在の状況では都市も王も守り切れない……。

「グリフォン軍の兵士八体が何者かに殺されました。そして、その犯人と思しき者が人族と結託してグリフォン国に攻め入ろうとしたのです。そのため、グリフォン国は自らの自衛のために、戦おうとしただけです」

 この瞬間、アザドムドは極大の魔法陣を瞬時に展開して、シェルドミルとその後ろにある都市に向けて魔法を発動した。
 シェルドミルはこの瞬間、目の前が真っ白になって〝あ、自分たちは滅ぶんだ〟という考えがゆっくり頭に流れた。走馬灯だった。

 が、シェルドミルは死んでいなかった。

 ゼムドがグリフォン達を結界魔法で護った。

 アザドムドは不思議そうな顔をする。

「おい、おい、ゼムド、おまえ一体どうしちまったんだ? なんでこんな鳥を庇ってやるんだ?」

 本当にアザドムドは不思議そうにしている。

 というか、ゼムドを除く他の魔族達も本当に不思議そうだ。

 古龍ファルデザードはここで〝場の主導権を握れる〟と判断して、画策し始めた。

「六人の優れた魔族たちよ。お前たちにいいことを教えてやろう。お前たちは今日ここでゼムドを倒せるぞ」

 この言葉を聞いた瞬間、六人の雰囲気が変わるのが分かった。

「お前たち個々では、ゼムドは倒せまい。が、今見た通り、ゼムドは自分以外のものも護ろうとしている。今から、我ら龍種が人族の国を全力で攻撃しよう。ゼムドは人族を護ろうと魔力を放出し続けるはずだ。その間にお前たちはゼムドに挑み続けよ。さすれば、お前たちのいずれか一人が、この世で最も強いものとして降臨することができるだろう」

 この言葉を聞いた瞬間、アザドムドの表情が一瞬にして険しくなった。

 そして、空中で向きを変え、龍の方を直視し――両手を握り締めた。

 次の瞬間、アザドムドの魔力放出量が爆発的に増加した。

********************

 ゼムドは驚いた。アザドムドを除く、六人の魔族も驚いている。

 アザドムドはこの千年近く、ゼムドと戦ってもそれほど魔力の絶対量の増大はしなくなっていた。

 ゼムドはアザドムドの普段の言動から、アザドムドは全力で戦っていると思っていたが、今放出している魔力量はそれを遥かに上回っていた。

 よく分からないが、何かがきっかけでアザドムドの限界点が突破されたようだ。

 アザドムドが空中から降りてくる。

 そして、ゼムドの目の前に立った。


 ――好ましくない――


 このレベルの魔力量を放出され続けたら、ゼムドが今大地を護っている魔力を突き破って、大陸に魔力汚染が広がる。

 ……。

 魔が六……。

 龍が十七…………。

 それに、この地とそこに住まう者…………。

 自分もこれ以上の力を出すと〝あの時〟のように力が暴発するかもしれない。

 ――いや、今なら問題はないだろう。

 複数の理由からそう判断して慣行する。
 
 ゼムドもまた魔力量の放出を上げ始めた。

********************

 それを見て、古龍ファルデザードは驚いた。

 ゼムドはまだ最大の魔力を放出していなかったのか。

 信じられん。が、あの魔力量の上がった魔族がこれからゼムドにぶつかれば、何とかなるかもしれない。

 もうこの段階なら、いいだろう。信号で龍種の住処に残った龍達にこちらへ来るように指示を出そうとした瞬間だった。何故かアザドムドが魔力を急に抑え始めた。

 急速に、場の空気が変わっていく……。

 この場にいるすべての種、龍・魔族・獣・人、それら大勢の視線がゼムドとアザドムドに向けられている。

 少し時間が経った。

 そして、アザドムドが言葉を発した。

「やめだ。つまらん」

 ミホも一言。

「わたしもいーや。なんか面白くない」

 魔力の放出を下げ始める。

「拙者も興味ないでござる」

 ワダルマも魔力の放出を下げ始めていた。

 古龍ファルデザードにとっては理解できない状況になっていた。

 どういうことだ?

 何故奴らは戦わない?

 三千年前もゼムドの首を取るために、龍種との闘いのおこぼれを狙うためにあの戦いの立ち合いをしていたではないか……。

 ゼムドが尋ねた。

『エスカ、お前はどうする?』

「私は最初からゼムド様と戦う気は全くありませんことよ。ただ、状況が未だに全く分からないのと、どこかに敵がいて奇襲を掛けてくるならゼムド様の盾になってでも守ろうと見張っていただけですよ」

 そう言って、エスカも魔力の放出を解く。

 これに合わせて、ケリドとガルドロストもその魔力の放出を下げていく。

 ゼムドはゆっくりと古龍ファルデザードを見据える。

『龍の主よ。余は三千年前にお前達の仲間と戦った後、ずっと、大陸の端で過ごしていた。そのため世界情勢にはうとかった。そして、今さっきお前がアザドムド達を誘導しようとした言葉と、余が人の里に下りて書物を読んだことで、この三千年間、お前たち龍種が何をしたかったのかを今になって完全に把握できる。
 三千年前、お前たちは魔族の一部に、世界的な均衡を崩すほどの者が現れたことに脅威を抱いた。そして、それを危惧して獣族を統べ、龍種の配下に置き、魔力研究を加速させるようになった。万が一に備えるため世界を統べた。
 お前たち龍種は長くは生きるが、個体数が少ない。たしかにそれなりの研究はできるが、研究内容に多様性が生まれない。だから他の種族を使って魔力コントロールの研究を加速させようとした。
 お前たちの魔力量は確かに凄いが、その巨躯ゆえ、細かい魔力コントロールを苦手とする。
 広範囲魔法を得意とはするが、それでは世界を滅ぼすだけだ。
 そして魔力コントロールの研究結果次第で、俺たちに対抗しようとした、違うか?』

 古龍ファルデザードはフン、と鼻を鳴らして答える。

「その通りよ。お前の持つその力は本来、我が龍族のような者が持つのが相応しい。何故、天がそのような力をお前達のような無法者に与えたのか、いや、〝お前〟に与えたのか理解に苦しむ。
 三千年前にお前が古龍に事実上勝利した後、我らはこの問題に対処する必要に迫られた。ただ、まさか一番力を持つお前が、ここにきて人の理を知るとは驚いた。たしかに三千年前のお前は、あの時点で既に、他の魔族上位種とは異なる価値観を持っていたようだが、あの時のお前は、我らから見るとあまりにも不安定すぎた。最終的にどう転ぶか予測できなかった」

 古龍ファルデザードは一度言葉を区切って、横にいるアザドムド達を一度見てから喋り続けた。

「それに、今ここにいる残りの魔族とお前たちの関係も以前とは変化しているようだな。まさか貴様に勝てる可能性のある局面で、お前に勝負を挑まないとは、これ誤算であったわ」

 ゼムドは黙って古龍の話をずっと聞いていた。

 聞いていたが、ここで最後の提案をする。

『龍のあるじよ。世界全体のバランスを強者による力の支配で為そうとすることが悪いとはは思わない。現在、この世に存在する種族はあまりにも力の差が大きいからだ。平等にはなりえない。しかし、一つ一つの命が生きるに際して、個としての尊厳を保てるような世界にしたい。どうかそのように協力してくれないだろうか?』

 古龍ファルデザードはしばらく黙っていた。

 しかし次のように答えた。

「いいだろう。龍種当代ファルデザードの名において、世界で最も力を持つ者、魔族ゼムドが提唱する〝個々の尊厳のある世界づくり〟に協力してやることを誓おう。」
 
 そう言ったのだった。
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