52 / 85
第51話 世界の均衡が変わる時 その2
しおりを挟む
グリフォン達が立ち上がると同時に、アザドムドがグリフォンを見下ろして喋りかけた。
「おい、そこの一番大きい鳥、おまえだおまえ、これまでの状況を説明しろ」
ガルマハザードが怒鳴る。
「グリフォンに対して鳥だと――」
――瞬間。ボン、という強烈な炸裂音がした。
ガルマハザードが一気に弾け飛んだ。
アザドムドの魔力放出で肉片も残らない程バラバラされて、ガルマハザードは死んだ。
殺そうと思っている相手の魔核に外部から魔力を送り込んで、強制的に魔核を暴走させて殺す方法は圧倒的な魔力差がないとできない。しかも、この方法は普通魔力を口から強制的に押し込む。本来、力の源であるはずの魔力は獣にとっても栄養素なわけで、注ぎ込まれた魔力は自らの魔核に余裕があれば吸収できるが、吸収しきれなければ体が破裂する。力の差を強烈に見せつけられる最も屈辱的な殺し方の一つだ。
アザドムドは涼しい顔をして話を始めた。
「鳥ども。よく聞け。俺の嫌いなことを教えてやろう。俺が下位種を見ること、下位種と会話すること、下位種に触れること、下位種を殺すこと。俺は弱い者が嫌いなのだ」
そう言いながら、アザドムドはニコニコして天を仰ぎながら、両手を上げる。
何かを抱き留めようとする姿に見えるが、その表情や動作に対して喋っている内容は滅茶苦茶だ。
「そんな俺が、何万年ぶりに最下位の下位種に質問を賜わしたのだ。光栄なことだぞ。お前たちの種が未来永劫語り継ぐ程の価値のあることだ。そして、もう一度お前たちに幸福を与えてやろう」
アザドムドは再び、グリフォン達を見下ろした。
「そこの鳥」
そう言って、アザドムドはシェルドミルを指指さす。
「何があったのか、俺に敬意をもって説明していいぞ。もちろんお前が言い間違えてしまうこともあるだろう。チャンスは二度だ」
そう言ってアザドムドが二本の指を立てて見せる。アザドムドの顔には血管のような模様が浮かび上がり、爬虫類と肉食獣を混ぜたような雰囲気を醸し出す。
「お前が一度目に言い間違えれば、お前以外の鳥をこの世からすべて消す。二度目のチャンスの失敗で、お前も消える。さあ、答えろ」
これほどの屈辱は無いほどの侮辱をされたが、シェルドミルはこれには素直に答えざるを得ないと思った。
この魔族はおそらくかなり強い。
その証拠にあの異常個体に全く臆せず話しかけている。もし、この魔族の機嫌を損ねたら都市を攻撃される可能性がある。
……。
あれだけ気性の荒いグリフォン兵達が、ガルマハザードが一瞬で消し飛んだのを見て、黙り込んでしまっている。流石に末端兵でも、ここで騒ぐほど愚かではないか……。現在の状況では都市も王も守り切れない……。
「グリフォン軍の兵士八体が何者かに殺されました。そして、その犯人と思しき者が人族と結託してグリフォン国に攻め入ろうとしたのです。そのため、グリフォン国は自らの自衛のために、戦おうとしただけです」
この瞬間、アザドムドは極大の魔法陣を瞬時に展開して、シェルドミルとその後ろにある都市に向けて魔法を発動した。
シェルドミルはこの瞬間、目の前が真っ白になって〝あ、自分たちは滅ぶんだ〟という考えがゆっくり頭に流れた。走馬灯だった。
が、シェルドミルは死んでいなかった。
ゼムドがグリフォン達を結界魔法で護った。
アザドムドは不思議そうな顔をする。
「おい、おい、ゼムド、おまえ一体どうしちまったんだ? なんでこんな鳥を庇ってやるんだ?」
本当にアザドムドは不思議そうにしている。
というか、ゼムドを除く他の魔族達も本当に不思議そうだ。
古龍ファルデザードはここで〝場の主導権を握れる〟と判断して、画策し始めた。
「六人の優れた魔族たちよ。お前たちにいいことを教えてやろう。お前たちは今日ここでゼムドを倒せるぞ」
この言葉を聞いた瞬間、六人の雰囲気が変わるのが分かった。
「お前たち個々では、ゼムドは倒せまい。が、今見た通り、ゼムドは自分以外のものも護ろうとしている。今から、我ら龍種が人族の国を全力で攻撃しよう。ゼムドは人族を護ろうと魔力を放出し続けるはずだ。その間にお前たちはゼムドに挑み続けよ。さすれば、お前たちのいずれか一人が、この世で最も強いものとして降臨することができるだろう」
この言葉を聞いた瞬間、アザドムドの表情が一瞬にして険しくなった。
そして、空中で向きを変え、龍の方を直視し――両手を握り締めた。
次の瞬間、アザドムドの魔力放出量が爆発的に増加した。
********************
ゼムドは驚いた。アザドムドを除く、六人の魔族も驚いている。
アザドムドはこの千年近く、ゼムドと戦ってもそれほど魔力の絶対量の増大はしなくなっていた。
ゼムドはアザドムドの普段の言動から、アザドムドは全力で戦っていると思っていたが、今放出している魔力量はそれを遥かに上回っていた。
よく分からないが、何かがきっかけでアザドムドの限界点が突破されたようだ。
アザドムドが空中から降りてくる。
そして、ゼムドの目の前に立った。
――好ましくない――
このレベルの魔力量を放出され続けたら、ゼムドが今大地を護っている魔力を突き破って、大陸に魔力汚染が広がる。
……。
魔が六……。
龍が十七…………。
それに、この地とそこに住まう者…………。
自分もこれ以上の力を出すと〝あの時〟のように力が暴発するかもしれない。
――いや、今なら問題はないだろう。
複数の理由からそう判断して慣行する。
ゼムドもまた魔力量の放出を上げ始めた。
********************
それを見て、古龍ファルデザードは驚いた。
ゼムドはまだ最大の魔力を放出していなかったのか。
信じられん。が、あの魔力量の上がった魔族がこれからゼムドにぶつかれば、何とかなるかもしれない。
もうこの段階なら、いいだろう。信号で龍種の住処に残った龍達にこちらへ来るように指示を出そうとした瞬間だった。何故かアザドムドが魔力を急に抑え始めた。
急速に、場の空気が変わっていく……。
この場にいるすべての種、龍・魔族・獣・人、それら大勢の視線がゼムドとアザドムドに向けられている。
少し時間が経った。
そして、アザドムドが言葉を発した。
「やめだ。つまらん」
ミホも一言。
「わたしもいーや。なんか面白くない」
魔力の放出を下げ始める。
「拙者も興味ないでござる」
ワダルマも魔力の放出を下げ始めていた。
古龍ファルデザードにとっては理解できない状況になっていた。
どういうことだ?
何故奴らは戦わない?
三千年前もゼムドの首を取るために、龍種との闘いのおこぼれを狙うためにあの戦いの立ち合いをしていたではないか……。
ゼムドが尋ねた。
『エスカ、お前はどうする?』
「私は最初からゼムド様と戦う気は全くありませんことよ。ただ、状況が未だに全く分からないのと、どこかに敵がいて奇襲を掛けてくるならゼムド様の盾になってでも守ろうと見張っていただけですよ」
そう言って、エスカも魔力の放出を解く。
これに合わせて、ケリドとガルドロストもその魔力の放出を下げていく。
ゼムドはゆっくりと古龍ファルデザードを見据える。
『龍の主よ。余は三千年前にお前達の仲間と戦った後、ずっと、大陸の端で過ごしていた。そのため世界情勢には疎かった。そして、今さっきお前がアザドムド達を誘導しようとした言葉と、余が人の里に下りて書物を読んだことで、この三千年間、お前たち龍種が何をしたかったのかを今になって完全に把握できる。
三千年前、お前たちは魔族の一部に、世界的な均衡を崩すほどの者が現れたことに脅威を抱いた。そして、それを危惧して獣族を統べ、龍種の配下に置き、魔力研究を加速させるようになった。万が一に備えるため世界を統べた。
お前たち龍種は長くは生きるが、個体数が少ない。たしかにそれなりの研究はできるが、研究内容に多様性が生まれない。だから他の種族を使って魔力コントロールの研究を加速させようとした。
お前たちの魔力量は確かに凄いが、その巨躯ゆえ、細かい魔力コントロールを苦手とする。
広範囲魔法を得意とはするが、それでは世界を滅ぼすだけだ。
そして魔力コントロールの研究結果次第で、俺たちに対抗しようとした、違うか?』
古龍ファルデザードはフン、と鼻を鳴らして答える。
「その通りよ。お前の持つその力は本来、我が龍族のような者が持つのが相応しい。何故、天がそのような力をお前達のような無法者に与えたのか、いや、〝お前〟に与えたのか理解に苦しむ。
三千年前にお前が古龍に事実上勝利した後、我らはこの問題に対処する必要に迫られた。ただ、まさか一番力を持つお前が、ここにきて人の理を知るとは驚いた。たしかに三千年前のお前は、あの時点で既に、他の魔族上位種とは異なる価値観を持っていたようだが、あの時のお前は、我らから見るとあまりにも不安定すぎた。最終的にどう転ぶか予測できなかった」
古龍ファルデザードは一度言葉を区切って、横にいるアザドムド達を一度見てから喋り続けた。
「それに、今ここにいる残りの魔族とお前たちの関係も以前とは変化しているようだな。まさか貴様に勝てる可能性のある局面で、お前に勝負を挑まないとは、これ誤算であったわ」
ゼムドは黙って古龍の話をずっと聞いていた。
聞いていたが、ここで最後の提案をする。
『龍の主よ。世界全体のバランスを強者による力の支配で為そうとすることが悪いとは余は思わない。現在、この世に存在する種族はあまりにも力の差が大きいからだ。平等にはなりえない。しかし、一つ一つの命が生きるに際して、個としての尊厳を保てるような世界にしたい。どうかそのように協力してくれないだろうか?』
古龍ファルデザードはしばらく黙っていた。
しかし次のように答えた。
「いいだろう。龍種当代ファルデザードの名において、世界で最も力を持つ者、魔族ゼムドが提唱する〝個々の尊厳のある世界づくり〟に協力してやることを誓おう。」
そう言ったのだった。
「おい、そこの一番大きい鳥、おまえだおまえ、これまでの状況を説明しろ」
ガルマハザードが怒鳴る。
「グリフォンに対して鳥だと――」
――瞬間。ボン、という強烈な炸裂音がした。
ガルマハザードが一気に弾け飛んだ。
アザドムドの魔力放出で肉片も残らない程バラバラされて、ガルマハザードは死んだ。
殺そうと思っている相手の魔核に外部から魔力を送り込んで、強制的に魔核を暴走させて殺す方法は圧倒的な魔力差がないとできない。しかも、この方法は普通魔力を口から強制的に押し込む。本来、力の源であるはずの魔力は獣にとっても栄養素なわけで、注ぎ込まれた魔力は自らの魔核に余裕があれば吸収できるが、吸収しきれなければ体が破裂する。力の差を強烈に見せつけられる最も屈辱的な殺し方の一つだ。
アザドムドは涼しい顔をして話を始めた。
「鳥ども。よく聞け。俺の嫌いなことを教えてやろう。俺が下位種を見ること、下位種と会話すること、下位種に触れること、下位種を殺すこと。俺は弱い者が嫌いなのだ」
そう言いながら、アザドムドはニコニコして天を仰ぎながら、両手を上げる。
何かを抱き留めようとする姿に見えるが、その表情や動作に対して喋っている内容は滅茶苦茶だ。
「そんな俺が、何万年ぶりに最下位の下位種に質問を賜わしたのだ。光栄なことだぞ。お前たちの種が未来永劫語り継ぐ程の価値のあることだ。そして、もう一度お前たちに幸福を与えてやろう」
アザドムドは再び、グリフォン達を見下ろした。
「そこの鳥」
そう言って、アザドムドはシェルドミルを指指さす。
「何があったのか、俺に敬意をもって説明していいぞ。もちろんお前が言い間違えてしまうこともあるだろう。チャンスは二度だ」
そう言ってアザドムドが二本の指を立てて見せる。アザドムドの顔には血管のような模様が浮かび上がり、爬虫類と肉食獣を混ぜたような雰囲気を醸し出す。
「お前が一度目に言い間違えれば、お前以外の鳥をこの世からすべて消す。二度目のチャンスの失敗で、お前も消える。さあ、答えろ」
これほどの屈辱は無いほどの侮辱をされたが、シェルドミルはこれには素直に答えざるを得ないと思った。
この魔族はおそらくかなり強い。
その証拠にあの異常個体に全く臆せず話しかけている。もし、この魔族の機嫌を損ねたら都市を攻撃される可能性がある。
……。
あれだけ気性の荒いグリフォン兵達が、ガルマハザードが一瞬で消し飛んだのを見て、黙り込んでしまっている。流石に末端兵でも、ここで騒ぐほど愚かではないか……。現在の状況では都市も王も守り切れない……。
「グリフォン軍の兵士八体が何者かに殺されました。そして、その犯人と思しき者が人族と結託してグリフォン国に攻め入ろうとしたのです。そのため、グリフォン国は自らの自衛のために、戦おうとしただけです」
この瞬間、アザドムドは極大の魔法陣を瞬時に展開して、シェルドミルとその後ろにある都市に向けて魔法を発動した。
シェルドミルはこの瞬間、目の前が真っ白になって〝あ、自分たちは滅ぶんだ〟という考えがゆっくり頭に流れた。走馬灯だった。
が、シェルドミルは死んでいなかった。
ゼムドがグリフォン達を結界魔法で護った。
アザドムドは不思議そうな顔をする。
「おい、おい、ゼムド、おまえ一体どうしちまったんだ? なんでこんな鳥を庇ってやるんだ?」
本当にアザドムドは不思議そうにしている。
というか、ゼムドを除く他の魔族達も本当に不思議そうだ。
古龍ファルデザードはここで〝場の主導権を握れる〟と判断して、画策し始めた。
「六人の優れた魔族たちよ。お前たちにいいことを教えてやろう。お前たちは今日ここでゼムドを倒せるぞ」
この言葉を聞いた瞬間、六人の雰囲気が変わるのが分かった。
「お前たち個々では、ゼムドは倒せまい。が、今見た通り、ゼムドは自分以外のものも護ろうとしている。今から、我ら龍種が人族の国を全力で攻撃しよう。ゼムドは人族を護ろうと魔力を放出し続けるはずだ。その間にお前たちはゼムドに挑み続けよ。さすれば、お前たちのいずれか一人が、この世で最も強いものとして降臨することができるだろう」
この言葉を聞いた瞬間、アザドムドの表情が一瞬にして険しくなった。
そして、空中で向きを変え、龍の方を直視し――両手を握り締めた。
次の瞬間、アザドムドの魔力放出量が爆発的に増加した。
********************
ゼムドは驚いた。アザドムドを除く、六人の魔族も驚いている。
アザドムドはこの千年近く、ゼムドと戦ってもそれほど魔力の絶対量の増大はしなくなっていた。
ゼムドはアザドムドの普段の言動から、アザドムドは全力で戦っていると思っていたが、今放出している魔力量はそれを遥かに上回っていた。
よく分からないが、何かがきっかけでアザドムドの限界点が突破されたようだ。
アザドムドが空中から降りてくる。
そして、ゼムドの目の前に立った。
――好ましくない――
このレベルの魔力量を放出され続けたら、ゼムドが今大地を護っている魔力を突き破って、大陸に魔力汚染が広がる。
……。
魔が六……。
龍が十七…………。
それに、この地とそこに住まう者…………。
自分もこれ以上の力を出すと〝あの時〟のように力が暴発するかもしれない。
――いや、今なら問題はないだろう。
複数の理由からそう判断して慣行する。
ゼムドもまた魔力量の放出を上げ始めた。
********************
それを見て、古龍ファルデザードは驚いた。
ゼムドはまだ最大の魔力を放出していなかったのか。
信じられん。が、あの魔力量の上がった魔族がこれからゼムドにぶつかれば、何とかなるかもしれない。
もうこの段階なら、いいだろう。信号で龍種の住処に残った龍達にこちらへ来るように指示を出そうとした瞬間だった。何故かアザドムドが魔力を急に抑え始めた。
急速に、場の空気が変わっていく……。
この場にいるすべての種、龍・魔族・獣・人、それら大勢の視線がゼムドとアザドムドに向けられている。
少し時間が経った。
そして、アザドムドが言葉を発した。
「やめだ。つまらん」
ミホも一言。
「わたしもいーや。なんか面白くない」
魔力の放出を下げ始める。
「拙者も興味ないでござる」
ワダルマも魔力の放出を下げ始めていた。
古龍ファルデザードにとっては理解できない状況になっていた。
どういうことだ?
何故奴らは戦わない?
三千年前もゼムドの首を取るために、龍種との闘いのおこぼれを狙うためにあの戦いの立ち合いをしていたではないか……。
ゼムドが尋ねた。
『エスカ、お前はどうする?』
「私は最初からゼムド様と戦う気は全くありませんことよ。ただ、状況が未だに全く分からないのと、どこかに敵がいて奇襲を掛けてくるならゼムド様の盾になってでも守ろうと見張っていただけですよ」
そう言って、エスカも魔力の放出を解く。
これに合わせて、ケリドとガルドロストもその魔力の放出を下げていく。
ゼムドはゆっくりと古龍ファルデザードを見据える。
『龍の主よ。余は三千年前にお前達の仲間と戦った後、ずっと、大陸の端で過ごしていた。そのため世界情勢には疎かった。そして、今さっきお前がアザドムド達を誘導しようとした言葉と、余が人の里に下りて書物を読んだことで、この三千年間、お前たち龍種が何をしたかったのかを今になって完全に把握できる。
三千年前、お前たちは魔族の一部に、世界的な均衡を崩すほどの者が現れたことに脅威を抱いた。そして、それを危惧して獣族を統べ、龍種の配下に置き、魔力研究を加速させるようになった。万が一に備えるため世界を統べた。
お前たち龍種は長くは生きるが、個体数が少ない。たしかにそれなりの研究はできるが、研究内容に多様性が生まれない。だから他の種族を使って魔力コントロールの研究を加速させようとした。
お前たちの魔力量は確かに凄いが、その巨躯ゆえ、細かい魔力コントロールを苦手とする。
広範囲魔法を得意とはするが、それでは世界を滅ぼすだけだ。
そして魔力コントロールの研究結果次第で、俺たちに対抗しようとした、違うか?』
古龍ファルデザードはフン、と鼻を鳴らして答える。
「その通りよ。お前の持つその力は本来、我が龍族のような者が持つのが相応しい。何故、天がそのような力をお前達のような無法者に与えたのか、いや、〝お前〟に与えたのか理解に苦しむ。
三千年前にお前が古龍に事実上勝利した後、我らはこの問題に対処する必要に迫られた。ただ、まさか一番力を持つお前が、ここにきて人の理を知るとは驚いた。たしかに三千年前のお前は、あの時点で既に、他の魔族上位種とは異なる価値観を持っていたようだが、あの時のお前は、我らから見るとあまりにも不安定すぎた。最終的にどう転ぶか予測できなかった」
古龍ファルデザードは一度言葉を区切って、横にいるアザドムド達を一度見てから喋り続けた。
「それに、今ここにいる残りの魔族とお前たちの関係も以前とは変化しているようだな。まさか貴様に勝てる可能性のある局面で、お前に勝負を挑まないとは、これ誤算であったわ」
ゼムドは黙って古龍の話をずっと聞いていた。
聞いていたが、ここで最後の提案をする。
『龍の主よ。世界全体のバランスを強者による力の支配で為そうとすることが悪いとは余は思わない。現在、この世に存在する種族はあまりにも力の差が大きいからだ。平等にはなりえない。しかし、一つ一つの命が生きるに際して、個としての尊厳を保てるような世界にしたい。どうかそのように協力してくれないだろうか?』
古龍ファルデザードはしばらく黙っていた。
しかし次のように答えた。
「いいだろう。龍種当代ファルデザードの名において、世界で最も力を持つ者、魔族ゼムドが提唱する〝個々の尊厳のある世界づくり〟に協力してやることを誓おう。」
そう言ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる