最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第二章

第72話 ダンジョンへ行く

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 キエティはキウェーン街のホテルの一室で目覚めた。

 昨夜はビアガーデンでダンジョンについて話を聞いたが、最後の方になるとなんだかダンジョンに潜るのが怖くなってしまった。ゼムドがいるから問題ないのは分かるのだが、それでも言い知れぬ不安がなんとなく湧いてきてしまう。
 自分が、かつては人族の代表で、色々と考えなければいけない局面があったが、昨日の話はそれを想起させるのに十分だった。正直、キエティにとっては、ダンジョンに潜るよりはゼムドが言う通り、ダンジョンを壊してしまった方が良いようにも思える。

 なんだか怖くなってしまったのだった。

 カーテンを開けて、外を見ると、天気は良さそうだ。快晴で空は青い。都市部よりは、なんとなく空が青い気がした。
 とにかく急いで服を着替えて、朝食のバイキングに向かわねばならない。

 一階の大広間にある部屋に入ると、もうたくさんの人が朝食を取り始めていた。
 キエティも適当に自分の好きなものを取っていった。そして、この時、遠くから声がした。

「おーい。キエティちゃん、こっちだ、こっち!!」

そう言われて、振り返ると、ゼムドとカルベルト、それにキリが既に朝食を取っている。
 何となくだが、明るい場所で知人に会うと、不安が吹き飛んで行く。必要なものを選んでから、カルベルトのいるテーブルへ向かう。

「おはようございます。皆さん、あれからどうされたのですか?」

キリが呆れた顔をして答えた。

「ゼムド様とギルマスは結局一晩中、喋っていたそうよ。私はキエティが部屋に戻ってしばらくしたら自宅へ帰ったけど、このお二方は、朝まで喋っていたそうよ」

 キエティは驚いた。

「カルベルトさんは大丈夫なんですか? 今日ダンジョンへ潜らないといけないのに体力的には問題ないのでしょうか?」

「ああ、俺は数日なら寝なくても大丈夫だぞ。一応、これでもそれなりの冒険者だからな。魔力が切れれば、流石に眠くなるが、それでも通常はそれくらい耐えられる。超一流の冒険者とはそんなものだよ」

 キリが恨めしそうな顔をしている。

「じゃあ、事務作業の時は、なんであんなにいつも寝ているんですか? 寝ないで仕事すればいいじゃないですか?」

「そ、それは仕方ないんだよ。人には向き不向きがある。俺は現場向きなんだよ……」

 とりあえず、皆でご飯を食べていく。

「この後、私たちはどうすればいいのですか?」

「それについてはゼムドの兄さんと、昨夜話してたんだけど、ゼムドさんがダンジョンまで俺達を運んでくれるってよ。魔道車である距離まで、移動しようと思っていたが、その必要は無さそうだ。それに、現場で採取できたアイテム等を引き上げる人員についてだが、それはもう昨日の段階で現地へ向かわせている。昨夜はそこでテントを張って宿泊したはずだ。今回は百五十名ほど集めてある。報酬は低かったが、冒険者の応募が多かったな。何せ、二千五百年誰も到達できなかったダンジョンがクリアできるなら、それが見たい、って連中も多いわけだ。そういう意味でもギルドは助かっている」

 キエティはゼムドを見て質問する。

「ゼムド様、本当に問題ないのでしょうか?百五十人も潜るとなると、相当結界を張る必要があると思いますが……」

「大丈夫だ。問題ない。お前は心配そうな顔をしているが、俺にとっては些細なことだ。それより、カルベルト、食べたらすぐに出発するのだろう?ここからは何人が向かうのだ?」

「それは、昨日の五人だな。俺と、ゼムドさん、キエティちゃん、キシャーンちゃんに、キリちゃんだ」

キエティは驚いてキリの顔をみた。

「キリも行くの? でも、ギルドの仕事があるんじゃないの?」

「……ええ、まぁ、そうなんだけど、流石に私でも二千五百年到達できなかったダンジョンってのは潜ってみたくて……」

「ああ、なるほどね。たしかにそれはそうだわ」

「普段なら絶対行きたいとは思わないけど、今回に限ってはケガの心配もないわけで、なら一度くらいは潜ってみたいなー、と思ったわけよ」

「そっか、じゃあ私と同じだね」

「食べたら、すぐに出かけましょう。キシャーンさんは、もう出国手続きをしているかもしれないわね」

 そう言って、キリは残りの食事を急いで食べていくのだった。

****************

 五人はキウェーン街の入口で出国手続きを取って、荒野へ出た。
 人族の街の周囲は何もない荒野だ。しかも、この入り口は以前、ゼムドが入国した場所であった。ゼムドが話し始めた。

「今思うと、グリフォンの連中にも悪いことをしたな。今なら殺さないだろう」

「あー、そういうことは考えなくていいんじゃないか。あんたは前に会った時に比べると、感情豊かになっている気はするが、そこまでいちいち考えていると、逆に弱くなるぞ」

「そうかもしれない。俺の知り合いにも忠告を受けた」

「人族だって、相当の人数グリフォンに捧げているからな。俺としては、グリフォンが八体くらいじゃ割に合わないくらいだ。別に細かく考える必要なないさ。それにグリフォン達はどっちにしても他種族を蹂躙するだろう」

「そうなのか?」

「あれはそういう種族だと思うぞ。結局、絶えず戦争してたいんだよ。戦争していればストレス解消になるから、他種族にちょっかいを出さないだろうが、それをする機会がなければ、結局、配下の下位種でもいじめるだろうな。皮肉だが、自分達の支配領土が増えて、敵がいなくなると、それはそれであの手の種族には問題が生まれるんだよ」

「その点については問題ないだろう」

「どういうことだ?」

「俺達と龍達で闘技大会を開くことになる予定だ。そこで、獣族の上位種に関しては競争させる。それで解決だ」

「そうなのか。それは確かにいい案かもな」

「ああ、現在もその準備を進めている。ただ、リングや各種族にそれを通達して、それぞれの種族に準備させる必要があるからそれなりに先になるだろうが。それより、そろそろ行くか。じゃあ、全員浮かすぞ」

 そう言って、ゼムドはその場にいた五人に、まず結界を張ってから空中に浮かせ、その場から飛び立った。
 五人が高速で移動している。

「おお、こりゃすげぇな。結界もあるから、風の影響も受けない。自由に喋れるし、しかも早いな。人族では絶対にできないことだ」

 キリやキシャーンもキョロキョロしながら、景色を見下ろしていた。あっという間に景色が移動していく。

「カルベルト、あの人族が密集している場所でいいんだな?」

「人族の気配が分かるのか?」

「分かる。俺の索敵範囲はかなり広い。加えて、厳密にはいろいろな箇所に魔法陣を残して定期的に俺へ届くようにしている。世界中の大半の地域で大きな魔力変動があった時に、すぐに対処できるようにはしてある。おそらくそれは俺の義務だろうからな」

「おまえさんすげぇな。それって相当魔力を使うだろうに」

「そうでもない。俺にとってはほとんど気にならない程度だ。ただ、同じことは龍でも、また俺と一緒にいる魔族達でもできない。俺ほど細かく魔力をコントロールして、情報を処理できる奴には会ったことがない。それは俺の強みでもある。少し速度を上げる。時間の無駄だな」

そう言うと、一瞬で大勢のテントが張ってある場所へ到着した。いきなり五人が現れたので、その場にいた人たちが驚いていた。カルベルトが前に出る。

「みんな聞いてくれ。今回ダンジョンを攻略できる人に来てもらった。今回でこのダンジョンの最下層まで到達する。すぐに出発するから、準備を整えてくれ」

 そう言って、カルベルトはゼムドを見た。

「ゼムドさん、今回全員を30層まで送り届けることはできるか?」

「可能だな。数分で行けるだろう。ただ、45層ではないのか?」

「ああ、30層で頼む。それで、あんたには悪いが、できれば30層から下の魔物を全て倒してもらいたい。各階層のモンスターを人が倒そうとすると、それなりに手間が掛かる。一回倒してしまえば、新たに野生動物が内部に侵入して、進化するまで時間が掛かる。人族にとっては内部のアイテムを確保しやすい」

「いいだろう。そもそもこの人員は必要なかったな。俺一人で、全てのアイテムを地上へ引き上げた方が効率が良さそうだ」

「いやいや、みんな見たいんだよ。ダンジョンが攻略されるところを。あんたには分からないだろうが、皆人生を掛けて、ダンジョンに潜ってるんだよ。十代のころからこの仕事に憧れて冒険者になった奴が大半だ。単にアイテムを手に入れたいだけじゃない」

 カルベルトは集まった人々に向かって声を掛ける。

「よし、じゃあ、行くか。みんな、準備はいいか? 一気に30層まで行く」 

 百五十人ほどの冒険者と炭鉱労働者が立ち上がった。ゼムドが全員に、それぞれ結界を張っていく。

 そして――数分後には、ダンジョンの30層へ全員が移動していた。

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