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第二章
第80話 シヴィとの会話
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あの後、ゼムドはケリド君に連絡を取って、シヴィとエスカのアリバイを確認した。
シヴィは屋外にいたらしい。
一方、エスカはマンション内にいたということだ。
つまり、現段階ではシヴィには毒を混入させる時間があったが、エスカにはないことにはなる。
シヴィに会う場所は、郊外の公園だった。
そこにケリド君がテーブルと椅子を準備して、そこにシヴィを呼び出していた。
そして、既にシヴィは椅子に座っていた。ケリド君は既に魔法陣を展開していて、シヴィに魔法陣を向けている。 少しでもおかしな動きをしたら、即シヴィに魔法を発動するつもりのようだ。
ケリド君が話しかけてくる。
「キエティさん、こちらへ来てください。これから、私が結界魔法を掛けます。その上で、この椅子に座ってください」
あえて、ゼムドの結界魔法ではなく、ケリド君の結界魔法に張り直してもらった。
仮にシヴィが犯人であるなら、油断させるためにもその方がいいということだろう。
ケリド君に結界魔法を掛けてもらってから椅子に座ることにした。
シヴィが話しかけてきた。
「随分と物騒なことになっているようですね? 一体どういう事でしょうか? 私は一切魔力を使ってはいけないそうです。少しでも魔力を放出したら、その段階でケリドさんに殺されるということです。何かあったのでしょうか?」
シヴィは淡々と会話をしてきた。
「すみません。詳しいことは、まだ言えません。それよりも質問があります。宜しいでしょうか?」
「ええ、構いません。私としてもその方が、納得がいきそうです」
「シヴィさんは、どうしてあの場で鎧の魔法を解いたのでしょうか? ゼムド様を本当に慕っているとするなら、何も最初からその姿で現れれば良かったのではないでしょうか? ゼムド様は以前、あなたに不信感を持った点がありまして、その理由が〝鎧〟だと仰っていました。その理由を窺いたいのですが」
「嗚呼、その理由が知りたいのですか。驚きました。てっきり、ゼムド様はご存知だったと思っていたのですが……」
「どういうことでしょうか?」
「その前に、少し、昔話をします。私がゼムド様に初めてお会いした時のことです」
そう言って、シヴィは自分の腕を見せてきた。
「私の肌の色はかなり透明度が高いと思います。これは私の種族が氷の種族だからです。氷女種と呼ばれています。氷女種は女しか生まれません。男が生まれないのです。ですが、繁殖に際しては当然、男性が必要になります。そして、私たちは五十人ほどで、氷河の一角を根城にしていますが、そこへは男性の魔族が訪れます。大概は繁殖期になっている時に、氷女種を求めてやってきますが、中には単に殺すだけの目的や凌辱目的で侵入しようとする者もいます。ただ、私たちは女性しか生まれませんが、魔族の中でも相当強い部類に入ります。まず、負けることはありません。普段は、まず闘う前に、相手が勝てば、自分の身を捧げることを確認してから闘いを始めます。それで相手が勝つか、あるいはこちらが相手を認めればその男性を受け入れることになります」
キエティは聞いていたが、なんというか、自分にはよく理解できない話に思えた。
「ところが、ある日のことでした。一人の魔族の男が私たちの里に侵入してきました。通常は私たちの里には、結界が何重にも張ってあって、相当強い魔族でもこれを破ることはできません。あるいは、侵入者が結界を破っている最中に、私たちがその魔族を迎撃してしまいます。ところが、あっという間に結界が全て破られてしまいました。そして、その魔族は私たちの里へ攻め込んで来ました」
キエティはその話を聞いていたが、その人物が誰かはそれなりに想像がついた。シヴィが話を続ける。
「もう、お分かりだと思いますが、その侵入した魔族はゼムド様でした。侵入に気づいた私たちは、総出で迎撃に向かいましたが、全く歯が立ちませんでした、あっという間に全員、瀕死状態になってしまいました。当時、私は氷女種の女王をしていましたが、これは屈辱的なことでした。私達自体、相当の強さを誇っており、それは魔族の中でもそれなりに噂をされるレベルだったのです。ところが、いきなり侵入してきた魔族にあっという間に全滅してしまったのです。また、これは種としても大変危機的な状態でした。私は死を覚悟しました。最初に会話もせずにいきなり攻撃してくる以上、おそらく種自体を滅ぼす、あるいは私は凌辱されてから、殺されると思っていました」
そう言って、シヴィは紅茶を飲んだ。アイスティーで、ケリド君が準備したものだ。
「しかし、ゼムド様は何もせずに、私に言いました。〝報復に来い〟と。後は何もせずにその場を立ち去ってしまいました」
シヴィはここで笑う。
何が面白いのだろう?
「あなたには分からないかもしれませんが、あの場でのゼムド様の目は、私など目に映っていなかったのです。正直、私は女として、それなりに自分に魅力があるという自負がありました。が、あの時のゼムド様は私を全く女としては見ていませんでした。ただ、そこら辺に落ちている石程度にしか思っていない目をしていました。私としては、戦闘で負ける以上にショックでもありました」
シヴィは落ち着いた表情になって、遠くを見つめる。
「ただ、私としてはその場ですぐに女王として、仲間を守らねばいけませんでした。何せ、仲間も瀕死の状態ですし、魔族は弱っている気配を感じれば、その者を襲おうとします。ですから、仲間を私が護ってやらねばいけない状態でした。ところが、私も動けないほどに体が損傷していました。正直、種としてここで滅ぶのではないかと思いました。ですが、滅びませんでした。ゼムド様が、私たちが回復するまで三ヵ月ほど、里を護っていました。私は三日ほどして、立ち上がれる状態まで回復しました。それから、ゼムド様が護っている姿を毎日見に行っていたわけです。最初は、どう報復すべきかを考えていましたが、ある時期を過ぎてから報復をする気がなくなってしまいました。まぁ、はっきり言えば、惚れてしまったということになりますね」
そう言って、シヴィは手をヒラヒラさせた。ここで、気になったことを質問する。
「では、どうして、最初からその姿でゼムド様の下へ現れなかったのでしょうか? 鎧を着ていく必要が無いと思いますが?」
「それは、エスカさんのせいですね。彼女は当時、ゼムド様の近くに居ましたが、彼女はゼムド様に近づく女性を、全て殺していました。ひどい時にはゼムド様を見ただけの女性をも殺していたようです。そして、当時の私の力では、エスカさんに勝つことができませんでした。だから、鎧を着て、男のフリをしてゼムド様に近づいたのです。私の本来得意な魔法は氷魔法ですが、ただ、何か姿を隠す魔法が必要になったので、苦手な土魔法を覚えて、無理に鎧を着ていたわけです。ただ、それだけの話です」
キエティは驚いた。同時に気づいた。
犯人は〝エスカ〟だ。
最初に会った時、ゼムドの子を最初に産めるなら、その後のことは関係ないと発言したが、あれは嘘だ。
あの場でゼムドに挑発されて、エスカはキエティを殺そうとした。
おそらく、エスカは二年前にキエティがゼムドに抱きかかえられた時点で、既にキエティを殺すつもりだったのだろう。そして、ゼムドを油断させるために、あの場では、キエティに興味の無いフリをしたのだ。
……。
普通に考えればエスカを最初に疑うべきだった……。
ゼムドは助教授を疑っていて、確かに客観的にみるとその可能性はあり得なくはないが、エスカの方があの場でキエティを殺そうとした以上、もっと疑うべきだった。
これは、かなりまずいことになってきたかもしれない。
ケリド君が真剣な表情になって、シヴィに話しかけた。
「もう一度確認したいのですが、エスカさんがゼムド様に近づく女を全て殺してきた、というのは誰が知っている話ですか?」
「さぁ、私は四千年ほど前にその話を聞きましたが、その後はどうか分かりませんね。ゼムド様から人族の国へ行く条件を提示されてから、この二年は随分と大人しくなったような印象はありました。
ただ、今思うと、ゼムド様はエスカさんがそのようなことをしているとは知らないのではないでしょうか? あの方は、ここ数年、他人に興味を示すようにはなっていますが、それ以前は他人がどうなろうと、一切関心を持つ方ではなかったように思います。それは、ケリドさん、この千年、あの方と一緒に行動を共にしていた貴方なら分かるでしょう?」
ケリドが驚いた表情をしている。ケリドにとっても予想外の話であったのだろう。ケリドは考え込んでいたが、しばらくして、シヴィに話し始めた。
「実は、キエティさんが命を狙われました。おそらく犯人はエスカさんです」
シヴィが驚いた表情をした。
「どういうことでしょうか?」
「実は……」
ケリドが今日あったことを全て、シヴィに話した。ゼムドに許可は取っていないが、現段階で、もうシヴィを警戒する必要がないと判断したのだろう。シヴィが驚いた表情をしている。
ただ、マンション内にいたというアリバイの点が分からない。この点についてケリドに訊いてみる。
「エスカさんは今回の事件でマンション内から外出していないということです。その点だけが解せません」
しかし、ケリドは首を横に振った。
「いえ、ゼムド様が結界を張っていますが、それほど強力な封印にはなっていません。私も出入りすることがありますし、あの五人なら時間を掛ければかなり強力な結界でも気づかれずに外出できるような術式を作れる可能性はあります。
私が、エスカさんはマンション内にいたとゼムド様に報告していますが、実際はどうだったか分かりません。しかも、ここ最近、エスカさんからは、静かに小説が読みたいという理由であの部屋へは誰も立ち入ることが出来ないような状態になっていました。本当にマンションにいたかどうかは分からないでしょう」
それを聞いて、シヴィが話し始めた。
「そうですか。ということは、多分、キエティさんの次には、私も狙われていたでしょうね。
というか、あの人族の国を最初に訪れた日に、エスカさんが、ゼムド様の一番になれれば、後はどうでもいいと発言したから、私は鎧の魔法を解いたのですが、あれも嘘だった可能性が高いですね。となると、現状はかなり危険な状況でしょうか? キエティさんだけでなくて、私もかなり警戒しないとまずいですね」
キエティはシヴィに尋ねてみることにする。
「エスカさんは強いのですか?」
「ええ、かなり強いですね。私たちの中では、アザドムドとワダマルさんの次に強いでしょう。今の私では、エスカさんには勝てません。この数千年、氷魔法の修業をするわけにはいかなかったので。即死はしないでしょうが、それでも一対一では負けるでしょう」
ケリドが話を始める。
「私も今は腕が回復していませんし、仮に腕が万全であったとしても、エスカさんには勝てないでしょう。エスカさんに勝てるとしたら、アザドムドさんか、ワダマルさんになりますが、今、ワダマルさんは体調が万全ではありません。アザドムドさんは正直、ゼムド様に力添えするのかどうか、私からするとよく分からない面もあります。ミホさんも同様です。チャンスがあればゼムド様を襲う可能性があります」
キエティはアザドムドにその可能性はない、と思ったが、それをこの場で説明するよりは、もうゼムドに話をした方が良いと思った。
シヴィが立ち上がりながら、喋り始めた。
「ただ、エスカさんは感情のコントロールがうまくできない時があって、その時だけは、やや弱体化します。といっても魔法を使うのではなく、相手を、単に手で千切ろうとする感じでしょうか?
どちらにしてもゼムド様に合流した方がいいでしょう。キエティさんだけではなくて、私もケリドさんも合流しなければいけません。それくらい危険な相手でしょう」
ケリドもシヴィに付いていこうとした。そして、シヴィへの魔法陣の展開を止め、キエティとシヴィへ話し掛けてきた。
「魔道板でゼムド様に連絡しましょう。そして、ここへゼムド様に来てもらい。それから、エスカさんの捜索をしましょう。多分、それが一番いいと思います」
そう言った瞬間だった。
遠くから何かが物凄い勢いで飛んできて、キエティの胸を貫いた。
シヴィは屋外にいたらしい。
一方、エスカはマンション内にいたということだ。
つまり、現段階ではシヴィには毒を混入させる時間があったが、エスカにはないことにはなる。
シヴィに会う場所は、郊外の公園だった。
そこにケリド君がテーブルと椅子を準備して、そこにシヴィを呼び出していた。
そして、既にシヴィは椅子に座っていた。ケリド君は既に魔法陣を展開していて、シヴィに魔法陣を向けている。 少しでもおかしな動きをしたら、即シヴィに魔法を発動するつもりのようだ。
ケリド君が話しかけてくる。
「キエティさん、こちらへ来てください。これから、私が結界魔法を掛けます。その上で、この椅子に座ってください」
あえて、ゼムドの結界魔法ではなく、ケリド君の結界魔法に張り直してもらった。
仮にシヴィが犯人であるなら、油断させるためにもその方がいいということだろう。
ケリド君に結界魔法を掛けてもらってから椅子に座ることにした。
シヴィが話しかけてきた。
「随分と物騒なことになっているようですね? 一体どういう事でしょうか? 私は一切魔力を使ってはいけないそうです。少しでも魔力を放出したら、その段階でケリドさんに殺されるということです。何かあったのでしょうか?」
シヴィは淡々と会話をしてきた。
「すみません。詳しいことは、まだ言えません。それよりも質問があります。宜しいでしょうか?」
「ええ、構いません。私としてもその方が、納得がいきそうです」
「シヴィさんは、どうしてあの場で鎧の魔法を解いたのでしょうか? ゼムド様を本当に慕っているとするなら、何も最初からその姿で現れれば良かったのではないでしょうか? ゼムド様は以前、あなたに不信感を持った点がありまして、その理由が〝鎧〟だと仰っていました。その理由を窺いたいのですが」
「嗚呼、その理由が知りたいのですか。驚きました。てっきり、ゼムド様はご存知だったと思っていたのですが……」
「どういうことでしょうか?」
「その前に、少し、昔話をします。私がゼムド様に初めてお会いした時のことです」
そう言って、シヴィは自分の腕を見せてきた。
「私の肌の色はかなり透明度が高いと思います。これは私の種族が氷の種族だからです。氷女種と呼ばれています。氷女種は女しか生まれません。男が生まれないのです。ですが、繁殖に際しては当然、男性が必要になります。そして、私たちは五十人ほどで、氷河の一角を根城にしていますが、そこへは男性の魔族が訪れます。大概は繁殖期になっている時に、氷女種を求めてやってきますが、中には単に殺すだけの目的や凌辱目的で侵入しようとする者もいます。ただ、私たちは女性しか生まれませんが、魔族の中でも相当強い部類に入ります。まず、負けることはありません。普段は、まず闘う前に、相手が勝てば、自分の身を捧げることを確認してから闘いを始めます。それで相手が勝つか、あるいはこちらが相手を認めればその男性を受け入れることになります」
キエティは聞いていたが、なんというか、自分にはよく理解できない話に思えた。
「ところが、ある日のことでした。一人の魔族の男が私たちの里に侵入してきました。通常は私たちの里には、結界が何重にも張ってあって、相当強い魔族でもこれを破ることはできません。あるいは、侵入者が結界を破っている最中に、私たちがその魔族を迎撃してしまいます。ところが、あっという間に結界が全て破られてしまいました。そして、その魔族は私たちの里へ攻め込んで来ました」
キエティはその話を聞いていたが、その人物が誰かはそれなりに想像がついた。シヴィが話を続ける。
「もう、お分かりだと思いますが、その侵入した魔族はゼムド様でした。侵入に気づいた私たちは、総出で迎撃に向かいましたが、全く歯が立ちませんでした、あっという間に全員、瀕死状態になってしまいました。当時、私は氷女種の女王をしていましたが、これは屈辱的なことでした。私達自体、相当の強さを誇っており、それは魔族の中でもそれなりに噂をされるレベルだったのです。ところが、いきなり侵入してきた魔族にあっという間に全滅してしまったのです。また、これは種としても大変危機的な状態でした。私は死を覚悟しました。最初に会話もせずにいきなり攻撃してくる以上、おそらく種自体を滅ぼす、あるいは私は凌辱されてから、殺されると思っていました」
そう言って、シヴィは紅茶を飲んだ。アイスティーで、ケリド君が準備したものだ。
「しかし、ゼムド様は何もせずに、私に言いました。〝報復に来い〟と。後は何もせずにその場を立ち去ってしまいました」
シヴィはここで笑う。
何が面白いのだろう?
「あなたには分からないかもしれませんが、あの場でのゼムド様の目は、私など目に映っていなかったのです。正直、私は女として、それなりに自分に魅力があるという自負がありました。が、あの時のゼムド様は私を全く女としては見ていませんでした。ただ、そこら辺に落ちている石程度にしか思っていない目をしていました。私としては、戦闘で負ける以上にショックでもありました」
シヴィは落ち着いた表情になって、遠くを見つめる。
「ただ、私としてはその場ですぐに女王として、仲間を守らねばいけませんでした。何せ、仲間も瀕死の状態ですし、魔族は弱っている気配を感じれば、その者を襲おうとします。ですから、仲間を私が護ってやらねばいけない状態でした。ところが、私も動けないほどに体が損傷していました。正直、種としてここで滅ぶのではないかと思いました。ですが、滅びませんでした。ゼムド様が、私たちが回復するまで三ヵ月ほど、里を護っていました。私は三日ほどして、立ち上がれる状態まで回復しました。それから、ゼムド様が護っている姿を毎日見に行っていたわけです。最初は、どう報復すべきかを考えていましたが、ある時期を過ぎてから報復をする気がなくなってしまいました。まぁ、はっきり言えば、惚れてしまったということになりますね」
そう言って、シヴィは手をヒラヒラさせた。ここで、気になったことを質問する。
「では、どうして、最初からその姿でゼムド様の下へ現れなかったのでしょうか? 鎧を着ていく必要が無いと思いますが?」
「それは、エスカさんのせいですね。彼女は当時、ゼムド様の近くに居ましたが、彼女はゼムド様に近づく女性を、全て殺していました。ひどい時にはゼムド様を見ただけの女性をも殺していたようです。そして、当時の私の力では、エスカさんに勝つことができませんでした。だから、鎧を着て、男のフリをしてゼムド様に近づいたのです。私の本来得意な魔法は氷魔法ですが、ただ、何か姿を隠す魔法が必要になったので、苦手な土魔法を覚えて、無理に鎧を着ていたわけです。ただ、それだけの話です」
キエティは驚いた。同時に気づいた。
犯人は〝エスカ〟だ。
最初に会った時、ゼムドの子を最初に産めるなら、その後のことは関係ないと発言したが、あれは嘘だ。
あの場でゼムドに挑発されて、エスカはキエティを殺そうとした。
おそらく、エスカは二年前にキエティがゼムドに抱きかかえられた時点で、既にキエティを殺すつもりだったのだろう。そして、ゼムドを油断させるために、あの場では、キエティに興味の無いフリをしたのだ。
……。
普通に考えればエスカを最初に疑うべきだった……。
ゼムドは助教授を疑っていて、確かに客観的にみるとその可能性はあり得なくはないが、エスカの方があの場でキエティを殺そうとした以上、もっと疑うべきだった。
これは、かなりまずいことになってきたかもしれない。
ケリド君が真剣な表情になって、シヴィに話しかけた。
「もう一度確認したいのですが、エスカさんがゼムド様に近づく女を全て殺してきた、というのは誰が知っている話ですか?」
「さぁ、私は四千年ほど前にその話を聞きましたが、その後はどうか分かりませんね。ゼムド様から人族の国へ行く条件を提示されてから、この二年は随分と大人しくなったような印象はありました。
ただ、今思うと、ゼムド様はエスカさんがそのようなことをしているとは知らないのではないでしょうか? あの方は、ここ数年、他人に興味を示すようにはなっていますが、それ以前は他人がどうなろうと、一切関心を持つ方ではなかったように思います。それは、ケリドさん、この千年、あの方と一緒に行動を共にしていた貴方なら分かるでしょう?」
ケリドが驚いた表情をしている。ケリドにとっても予想外の話であったのだろう。ケリドは考え込んでいたが、しばらくして、シヴィに話し始めた。
「実は、キエティさんが命を狙われました。おそらく犯人はエスカさんです」
シヴィが驚いた表情をした。
「どういうことでしょうか?」
「実は……」
ケリドが今日あったことを全て、シヴィに話した。ゼムドに許可は取っていないが、現段階で、もうシヴィを警戒する必要がないと判断したのだろう。シヴィが驚いた表情をしている。
ただ、マンション内にいたというアリバイの点が分からない。この点についてケリドに訊いてみる。
「エスカさんは今回の事件でマンション内から外出していないということです。その点だけが解せません」
しかし、ケリドは首を横に振った。
「いえ、ゼムド様が結界を張っていますが、それほど強力な封印にはなっていません。私も出入りすることがありますし、あの五人なら時間を掛ければかなり強力な結界でも気づかれずに外出できるような術式を作れる可能性はあります。
私が、エスカさんはマンション内にいたとゼムド様に報告していますが、実際はどうだったか分かりません。しかも、ここ最近、エスカさんからは、静かに小説が読みたいという理由であの部屋へは誰も立ち入ることが出来ないような状態になっていました。本当にマンションにいたかどうかは分からないでしょう」
それを聞いて、シヴィが話し始めた。
「そうですか。ということは、多分、キエティさんの次には、私も狙われていたでしょうね。
というか、あの人族の国を最初に訪れた日に、エスカさんが、ゼムド様の一番になれれば、後はどうでもいいと発言したから、私は鎧の魔法を解いたのですが、あれも嘘だった可能性が高いですね。となると、現状はかなり危険な状況でしょうか? キエティさんだけでなくて、私もかなり警戒しないとまずいですね」
キエティはシヴィに尋ねてみることにする。
「エスカさんは強いのですか?」
「ええ、かなり強いですね。私たちの中では、アザドムドとワダマルさんの次に強いでしょう。今の私では、エスカさんには勝てません。この数千年、氷魔法の修業をするわけにはいかなかったので。即死はしないでしょうが、それでも一対一では負けるでしょう」
ケリドが話を始める。
「私も今は腕が回復していませんし、仮に腕が万全であったとしても、エスカさんには勝てないでしょう。エスカさんに勝てるとしたら、アザドムドさんか、ワダマルさんになりますが、今、ワダマルさんは体調が万全ではありません。アザドムドさんは正直、ゼムド様に力添えするのかどうか、私からするとよく分からない面もあります。ミホさんも同様です。チャンスがあればゼムド様を襲う可能性があります」
キエティはアザドムドにその可能性はない、と思ったが、それをこの場で説明するよりは、もうゼムドに話をした方が良いと思った。
シヴィが立ち上がりながら、喋り始めた。
「ただ、エスカさんは感情のコントロールがうまくできない時があって、その時だけは、やや弱体化します。といっても魔法を使うのではなく、相手を、単に手で千切ろうとする感じでしょうか?
どちらにしてもゼムド様に合流した方がいいでしょう。キエティさんだけではなくて、私もケリドさんも合流しなければいけません。それくらい危険な相手でしょう」
ケリドもシヴィに付いていこうとした。そして、シヴィへの魔法陣の展開を止め、キエティとシヴィへ話し掛けてきた。
「魔道板でゼムド様に連絡しましょう。そして、ここへゼムド様に来てもらい。それから、エスカさんの捜索をしましょう。多分、それが一番いいと思います」
そう言った瞬間だった。
遠くから何かが物凄い勢いで飛んできて、キエティの胸を貫いた。
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